2012年元日から本紙朝刊やWeb刊で連載してきた「C世代駆ける」。取材班の記者たちは20年後の日本の姿を探ろうと、そして、そのときの主役であるC世代の可能性をみつけだそうと、様々な人と会い、様々な体験を重ねてきた。記事には盛り込みきれなかったエピソードの数々。記者たちの思いをお届けしたい。
残念ながら、生まれてこの方、ボランティアをやったことがない。震災で全国から被災地に人が集まっている。「C世代駆ける」の連載にあわせて、ボランティアに身を投じる世代の思いを感じてみようと心を決めた。行き先は、収穫したコメから国の暫定規制値を超す放射性物質が検出された福島市・大波地区。昨年12月中旬、福島市が募集した民家の除染ボランティア活動に手を挙げた――。
防寒と放射性物質から身を守るために帽子やマフラー、長靴などの装備は欠かせない。現地の放射線量が分からなかったので念のため、使い古しのコートとジーンズを着用して早朝7時すぎ、東京駅から集合場所のJR福島駅に向かった。
参加したのは全国から集まった約80人。男性が8割以上を占め、20代や30代とみられる若い人たちの姿も目立った。受付で担当者から防じんマスクと軍手、線量計を渡された。
「一度吸った放射線は体からは取り出せませんので、十分に気をつけてください」。「それでもここで生活しているんです。これが現実です」。参加者全員を集めた事前説明会で福島市の担当者の言葉に何度も緊張が走る。ただ、3月11日にそこに住んでいただけの福島の人たちが“見えない敵”と一緒に暮らさなければならないことに心が痛くなった。
この日の福島市の最低気温は氷点下1.6度。配属されたのはD班だった。午前10時過ぎ、粉雪の降りしきる中、4班に分かれて老夫婦が住む民家の除染作業を始めた。空間線量を確認すると毎時0.65マイクロシーベルト。想定していたより高くない。それでもこのまま浴び続ければ年間の被曝(ひばく)量が3ミリシーベルトに達する水準という。平常時の被曝線量の年間限度、1ミリシーベルトを超える値だ。
考えてみれば、大波地区は東京電力福島第1原子力発電所から約80キロ離れている。しかも屋根の洗浄や汚染土を削り取る作業は既に民間の業者が終えている。「これだけ遠い場所でも限度値を超えるのか……」。静岡県から来たという男性参加者(28)は気の遠くなるような今後の作業を思い、思わずため息をついた。
D班の約20人のメンバーは午前中は竹ほうきなどを使って民家の庭の落ち葉をかき集め、ゴミ袋に入れる地道な作業を続けた。落ち葉を除去するだけで空間線量が下がるが、ちょっとした風が吹いただけでも高い放射線を含んだ葉っぱが空から次々と舞い降りてくる。最終的にメンバーで数十袋分の落ち葉を集めたが、作業は根気との戦いだ。
途中で15分の休憩をはさんで、正午になると食事の時間。数年前に廃校になったという近くの小学校に移動すると、地元の方が温かいお味噌汁を用意してくれていた。地元住民の気遣いに心まで温かくなり、午後の作業にも力が入る。
午後は庭に新しい土を敷き直す「客土」という作業。スコップを渡され、2カ所の盛り土場所から庭全体に新しい土を5センチほど埋め直す。作業自体は単純な作業だが、30分もするとだんだんと汗ばんでくる。線量計をみると累積の被曝線量は1マイクロシーベルトだった。健康には全く影響がないレベルだが、被曝線量が具体的に数字に示されると、放射線が目に見えないだけにやはり恐ろしい。
「予定していた作業は終わったようですね」。福島市の担当者がボランティアに声をかけたのが午後2時すぎ。D班の約20人は30代以下とみられる若い人が大半で作業は予想より早く進んだ。線量を改めて測ると毎時0.51マイクロシーベルトを指し示していた。
作業前(同0.65マイクロシーベルト)からの改善幅はわずかだったが「ちょっとでも役に立ててよかった。解決できることは我々の世代で決着をつけなければ」(参加した50代の男性)。「原発が本当に必要なのか改めて考えてしまった」(同20代女性)。
事前説明会の会場にマイクロバスで移動。参加者全員にそれぞれの名前が記された「除染ボランティア参加証明書」が渡される。裏面を見ると「本日分の線量」として2マイクロシーベルトが手書きで記された。
A班は毎時0.53マイクロシーベルトから毎時0.33マイクロシーベルトに――。福島市の担当者は参加者約80人の前で4グループが実施した民家での線量改善幅を発表。周りを見渡すと、その日の参加者の平均被曝線量は2~3マイクロシーベルトだった。
「本日、2マイクロシーベルトの人はあと500回はボランティアに来てもらっても大丈夫です」。年間限度の1ミリシーベルトに達するまでの累計線量について福島市の担当者は軽口をたたいた。会場は張り詰めた緊張感から解き放たれ、笑いに包まれた。
福島市の計画では将来的に福島市民が生活する地域における年間被曝線量を1ミリシーベルト以下に抑える方針を打ち出している。ただ、現在一定の除染作業が完了した世帯数はわずか150。福島市の全世帯数(11万世帯)の8割程度の除染が必要と推定されていることを考えると、果てしない時間と膨大なコストがかかる。「(線量が高くても)ここで生活しているんです」。そこに実際の生活現場がある厳しい現実。自分たちに何ができるか。重い言葉を胸に福島を後にした。(大西智也)
東京電力、ボランティア
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