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量子力学:不確定性原理に欠陥 名古屋大教授ら実証

 約80年前に提唱されたミクロな世界を説明する量子力学の基本法則「不確定性原理」に欠陥があることを、小澤正直・名古屋大教授と長谷川祐司ウィーン工科大准教授のチームが世界で初めて実験で発見した。高速の暗号通信技術への応用や教科書の書き換えを迫る成果といい、15日付の英科学誌ネイチャー・フィジックス(電子版)に発表した。

 髪の毛の太さの10万分の1以下の原子の世界では、粒子が波としても振る舞うといった両面性があるなど、不思議な現象が起きる。こうした現象を説明するために提唱された基本法則が「位置と速度のように二つの物理量は、同時に精密測定できない」と定めた不確定性原理だ。

 例えば、電子などの位置を測るには光を当てる必要があるが、エネルギーで速度(運動量)が変わる。エネルギーを小さくすれば影響は小さくなるが、位置の精度は落ちる。逆に速度を知ろうとすると位置が変わってしまうため、ミクロの世界には測定限界があると考えられてきた。

 しかし技術の進歩に伴い、1980年代ごろから、この理論ではすべて説明できないとの指摘が出始めた。

 小澤教授は2003年、不確定性原理には理論的に欠陥がありうるとした「小澤の不等式」を発表した。チームはそれを実証するため、原子を構成する中性子の「スピン(自転)」の向きに関連した二つの値を精密に測定。測定限界を超えた精度で二つの値を測ることに成功し、小澤の不等式が成り立つ一方で、不確定性原理とは矛盾のあることを確認した。

 今回の発見を応用すれば、解読するとその情報が変化して分からなくなる「先端暗号技術」の通信速度向上などに役立つ可能性があり、小澤教授は「成果は、広範に応用できるのではないか」と話す。【野田武】

 【ことば】不確定性原理

ドイツの物理学者ハイゼンベルクが1927年に提唱した理論。電子など極微の世界では、位置と速度を同時に正確に測ることはできないことを示した。量子力学を否定したアインシュタインとの議論を経て考案したとされる。決められないことがあるとの考え方は、哲学など他分野にも大きな影響を与えた。ハイゼンベルクは量子力学の発展への貢献で、1932年に31歳でノーベル賞を受賞した。

毎日新聞 2012年1月16日 3時00分(最終更新 1月16日 9時04分)

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