世界経済の混乱、賃金の低下、そこに止めを刺すかのように消費税増税議論……、2012年、オレたちの生活はどう変わっていくのか? 第一生命経済研究所の主席エコノミスト、永濱利廣(ながはま・としひろ)氏に聞いてみた。
2012年、第2リーマン・ショックが起きる可能性は4割くらい。鍵を握るのはヨーロッパの財政問題でしょう。
イタリアが2月、ギリシャが3月、スペインが4月に国債の大量償還を控えていますが、その間にヨーロッパの大きな銀行が潰れるようなことになると、08年のリーマン・ショックの後みたいにマーケットに大きな衝撃を与えます。
そうなれば、世界中の人が物を買わなくなる。最初に節約されるのは、今すぐ買わなくてもいい車や家電。つまり、日本の輸出産業の業績が一気に落ち込みます。
リーマン・ショック後のように大きな信用収縮が起きると、世界の当局は量的緩和をして、お金をどんどん刷ります。世界にお金があふれ、行き場を失ったお金が原油や先物に流れ、原油高に拍車がかかることが考えられますね。
海外でエネルギーや穀物の値段が上がれば、日本は高くても輸入するしかない。当然、所得が海外に流れます。そうして国民生活にも悪影響が出てきます。
来年は家計の負担も増えるので大変ですよ。年金保険料は毎年段階的に引き上げられますし、子ども手当も来年から縮減。再来年には復興増税が始まり、14年度から消費税も引き上げられるでしょう。
今後、日本企業はグローバル競争で生き残っていくために、安い賃金で生産する製造分野は全部海外に持っていくことになると思います。国内でそうした仕事が減ると、海外に出稼ぎに行かざるを得ないケースも考えられる。日本の一流企業に就職しても、働く場所は国内ではなく海外という可能性はどんどん高くなるのではないでしょうか。
優秀な人にとっては年収を増やすチャンスが広がる一方、仕事に就くための競争は一段と厳しくなります。そういう状況だから、先進国における収入格差が拡大していくと予想されますね。
デフレは進み、1ドル=70円台前半まで円高が進む可能性も。経常黒字もジワジワ減っていくでしょう。どのタイミングで何が引き金になるかわかりませんが、一気にキャピタルフライトが起きる可能性が高まると思います。そうなると今度は円が暴落して、国内から海外に資産流出します。
最悪のシナリオでは財政危機が起きるわけですが、今のヨーロッパみたいにはならないはず。日本の大企業は競争力があるので、円が安くなれば、輸出産業を中心に競争力を増してV字回復できます。そこで起きるのはリタイア世代からの大規模な所得移転。IMF(国際通貨基金)の指導により、強制的に年金が削減されるかもしれません。その一方で円安にもなるので、国内に雇用が創出されるわけです。
若年層は財政危機で一度リセットしたほうがいいと思うかもしれませんが、国民全体にとっては失うものも大きい。12年以降はそんなシナリオも想定されます。
●永濱利廣(第一生命経済研究所・主席エコノミスト)
専門は経済統計、マクロ経済分析。一橋大学と跡見学園女子大学で非常勤講師も務める。著書に『日本経済のほんとうの見方、考え方』(PHP研究所)など。ゲーリー・E・クレイトンの『アメリカ経済がわかる「経済指標」の読み方』(日本経済新聞出版社)では解説を担当
(取材・文/宮崎俊哉、中島大輔 撮影/山形健司)