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司法解剖されると、本当に死因についての情報は得られないのだろうか?

峻くんの命(7)司法解剖 遅すぎる報告 (2011年12月27日 読売新聞)

 麻酔事故で脳障害を負った峻平(しゅんぺい)(当時2歳)が亡くなった2006年12月、病院から届け出を受けた警察は、その後、捜査を始めた。遺体は司法解剖された。

 「事故原因が公正に解明されるのではないかと、警察の捜査には期待を持っていました。でも……」

 父・清川仁(39)は表情を曇らせる。事故から5年が過ぎた今も、遺族にとって事態はほとんど動いていない。

 峻平の死後、捜査の状況について警察からこれといった情報はなく、遺族のほうから説明を求めて出向いたり、捜査に対する要望書を提出したりした。警察ではその度に担当者が代わっており、事故の概要を十分把握していない人もいた。「捜査は続けています」とはいうものの、方向性は見えてこなかった。

 「捜査状況についてお話ししたいので、署に来てください」。警察から呼び出しがあったのは10年6月になってから。両親が赴くと、刑事から司法解剖の結果について説明された。

 死因は、先天性複雑心奇形に基づく低酸素脳症による多臓器不全。麻酔事故から亡くなるまで3か月以上たっているため事故の影響はわからず、「解剖時点では、医療行為に不適切な点は見いだせない」という。

 峻平の死から3年半という歳月が流れて、初めて知らされたことだった。解剖は死亡後まもなく行われている。分析に時間がかかったとしても、あまりに長すぎる期間といえる。

 「日本の現状では、これが当たり前なのです」。東大法医学教授の吉田謙一はそう話す。

 司法解剖は犯罪捜査を目的に行うもので、法的な制約があり、鑑定書は刑事裁判の前には遺族にさえ開示されない。吉田が、訴訟を起こした患者遺族らを対象に調査したところ、病理解剖を経験したすべての遺族が半年以内に結果を知ったのに対し、司法解剖を経験した遺族は、「2〜4年」かかったとの回答が半数を超え、最も多かった。

 東大法医学教室では08年12月から、司法解剖の後、遺族に求められた場合には、捜査に支障ない範囲で執刀医が解剖結果を説明している。これは独自の取り組みで、一般的には医師からの説明はない。

 吉田は「結果を知らされないままでは、遺族は長いこと疑問を引きずることになります。わかったこともわからないことも、早く伝えてあげることが大事。実際に説明すると、多くの遺族は納得した様子で帰って行く。それは、鑑定した内容を生かすことにもつながるのです」と話す。(敬称略)

>>>>>>>>>
司法解剖の結果の開示が遅いとの記事だ。病理解剖との比較がされているが、基本的に比較は困難ではなかろうか。

司法解剖される事例は、解剖前に死因がはっきりしていないことが多い(というかだからこそ解剖するのだが)。死因は、病死であるとは限らないので、薬物検査や組織検査など全部の検査が出揃った後で、総合的に死因を判断しなければならない。大体、全ての検査結果がそろうまで一ヶ月から数ヶ月程度かかるのが通常で、その後、死因などが鑑定書として報告される。司法解剖されるような事例では、解剖した直後に死因がかくかくしかじかですから、医療過誤ではありませんでした、と説明したとしても、遺族が納得するとも思えない。

一方、病理解剖は、末期がんなど明らかに病死した方について解剖を行うので、解剖前に判定されている死因(病名)と解剖後に判断される死因が食い違うことはまずない。死ぬ前から、ある程度遺族は死因が何になるであろうかを理解しているし、解剖直後から、もともと想定されていた死因を説明するだけで、遺族は納得もするだろう。

また、病理解剖の結果、知らされる内容についても、組織検査の写真や、解剖写真、解剖所見までを見せるというレベルでの告知のことを意味しているとは思えない。おそらく、そこまでの説明をされる遺族は殆どいないのではないだろうか。そうした情報開示と、解剖写真や薬物検査の結果などの記載もされた司法解剖の鑑定書の開示とを比較されても、比較の対象として適切とはいえないような気もする。


また司法解剖の解剖結果を知らせるのが遅いといっても、どこまでを知らせるかで話は大きく異なってくる。

司法解剖では鑑定書の全開示は確かに難しいかもしれないが、死体検案書での結果開示は、比較的早期に可能である。一ヶ月から数ヶ月程度で各種検査結果が出揃い、死因が判定された時点で、死体検案書の発行を求められれば、検案書発行は医師の義務であるので、ある程度解剖結果を記載した死体検案書を遺族は得ることができる。おそらくは、病理解剖で知らされる解剖結果とそん色ない程度に、司法解剖の結果を検案書で得ることができる場合も多いだろう。むしろ、遺族にそのようなアドバイスを行うものがそばにいないということが問題なのかもしれない。

また、この記事では、司法解剖の結果が2から4年で知らされるとされていて、司法解剖の結果が開示されないことが問題というより、時間がかかることが問題であるようにも感じられる。そうだとすれば、もっと早い段階で遺族によりそって、死体検案書の発行要請をするように、アドバイスを送る存在を作るべきなのではないかと思うが、どうなのだろうか。

刑法で医療過誤を業務上過失致死罪として罰することが変わらない限り、医療関連死が司法解剖に回ることは変えようがない。そうであるにも関わらず、問題の多い司法解剖はやめ、第三者機関による別の解剖をすべきだと主張したとしても、司法解剖を完全に撲滅させることはできないし、有益な議論とは思えない。そのようなことより、司法解剖の結果開示を促進させたり、遺族によりそう担当者を置くなどの措置を考えたほうが有益だし、そうした措置は、医療関連死以外で起きている問題においても、有益であると思うが、なぜかそのような議論がされないのが、不思議である。

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最近は医師の説明に納得できない遺族が警察に相談して司法解剖となる事例が増えています。したがって、医師の異状死の届出義務や異状死の定義で議論していても、刑法が変わらない限り臨床医の望むような状況にはならないような気がします。経験では司法解剖の結果(諸検査実施、専門医への相談などで時間がかかる場合もありますが)によって、かなりの割合で医師に過失がないことが証明できる場合が多いと思います。司法解剖の結果を迅速に出せるような体制を作ることが一番早い解決方法だと思います。 削除

2011/12/30(金) 午前 11:34 [ kain ]

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単心室で動脈血酸素濃度もギリギリの患児の心臓カテーテルはいつでもリスキーです.100%の安全は望めません.しかし検査しなければ手術が必要かどうかも決められませんし,検査のためには鎮静(麻酔)が必要です.医療側は当然そのリスクを説明しているのでしょうけど,患者側からはそのリスクの程度がなかなか推し量れません.
結局結果がうまく行かなければ医療側に不満を持ってしまいます.
現在のところはまだ,こういった疾患を抱えながらも成人を超えて生きられるのはラッキー以外の何者でもないのです.それが現実です.解剖うんぬん以前の問題じゃないでしょうか... 削除

2012/1/3(火) 午後 9:31 [ Level3 ]

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