野田改造内閣が発足した。消費税率引き上げに向けた態勢づくりという。しかし、くぎを刺しておきたい。増税の前にやるべきことがあるだろう、と。
昨年暮れの国会で問責決議が参院で可決された一川保夫前防衛相と山岡賢次前国家公安委員長を交代させる。消費税率引き上げを含む「社会保障と税の一体改革」実現のために、民主党内で行政の無駄削減に取り組んできた岡田克也前幹事長を副総理で起用する。
内閣発足からまだ四カ月。野田佳彦首相が二十四日召集の通常国会前のこの時期に、内閣改造に踏み切った意味はこの二点だ。
消費税増税に慎重な小沢一郎元代表に近い松原仁国家公安委員長や田中直紀防衛相を閣内に取り込むことで、小沢氏支持グループ内でくすぶる反対論を封じ込める狙いもあったのかもしれない。
すべては消費税増税のためなのだろうが、内閣改造でその展望が開けるわけではない。
通常国会では、一体改革法案の取り扱いが議論の中心となる。
消費税率を二〇一四年四月に8%、一五年十月に10%に引き上げる一体改革大綱の素案はすでに決まっている。首相は野党側との協議を経て、三月末までに法案として国会提出したい考えらしい。
野党側は一川、山岡両大臣が交代しなければ、国会審議に応じない姿勢を示していた。首相は二閣僚の交代で、審議の障害を取り除きたかったのだろう。
法的拘束力のない問責決議をきっかけとした閣僚交代は問題なしとは言えないが、国会審議を進め、国民生活に必要な法律を成立させるためなら致し方ない。
ただ、自民、公明両党などは国会審議には応じるものの、一体改革に関する与野党協議には難色を示している。内閣改造で協議入りが確定したとみるのは早計だ。
消費税増税はそもそも自民党の公約であり、協議に応じるべきだとの意見が党内にある。しかし、一体改革案には問題があまりにも多い。それを正さず、増税の「片棒」を担ぐだけなら、国会の責任を果たしたことにはならない。
本格的な高齢化社会の到来を迎え、年金、医療、介護などの社会保障費のさらなる増大は避けられない。その一方、国の借金は一千兆円に膨れ上がり、このままでは財政破綻を招きかねない。
社会保障制度と税金の在り方を一体的に見直し、社会保障財源の安定的な確保と財政健全化を同時に進める。それが一体改革の出発点だったはずだ。
改革の必要性は理解するが、素案は一体改革の名に値しない。
例えば年金。受給に必要な加入期間を二十五年から十年に短縮するなど「無年金・低年金」対策を強化するが、被用者年金の一元化などの抜本改革は手付かずだ。改革とは名ばかりで、現行制度の手直しに終わっているのが実情だ。
その結果、消費税率を5%引き上げても、所得の低い人の年金上積みや子育て支援など、社会保障制度の拡充に使われるのは1%分にすぎない、という。
岡田氏もせっかく副総理という立場で社会保障と税の一体改革を担当するのだから、まずは社会保障の大きな設計図を示し、国会と行政の無駄削減に努めてほしい。
予算が足りず、消費税率を引き上げると言われても、死力を尽くした後でなければ、納得がいかない。優先順位を無視するから、国民の反発を招くのだ。
野党側も増税に安易に協力する必要はないが、単に協議を拒否するのではなく、社会保障の全体像を描くための知恵を政府・与党とともに絞ってほしい。
国や地方自治体など公的部門とNPOや地域社会など民間部門がどう役割分担するのか。必要な負担をどう分かち合うのか。「国のかたち」ともいえる論点は多い。
消費税率引き上げまでに、国民の納得と信頼を得るため、衆院議員定数八〇削減や国家公務員給与の削減、独立行政法人や公益法人、特別会計などを改革する「行政構造改革実行法案」の成立を図るとしているが、必ずしも前提条件にはなっていないことだ。
官僚が既得権益死守のために改革案を骨抜きにするのは常套(じょうとう)手段だ。行政の無駄を残したまま増税だけが強いられてはたまらない。
さらに、取り組むべき行政改革から「天下り根絶」が完全に抜け落ちているのはどうしたことか。
天下り先の独立行政法人に多額の予算を投入し、その法人が仕事をさらに下請けに丸投げする。この「天下り・丸投げ」構造を改めない限り、行政の無駄はなくならない。天下り根絶こそまさに行革の本丸だ。民主党政権がすべての政治力を投入する価値はある。
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