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2012年1月15日(日)付

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日本の指導者―政治の根幹変える覚悟を

 もし、ことしも首相が代われば7年連続である。

 消費税率の引き上げをめぐって、衆院解散・総選挙の機運が高まりつつあり、その可能性は決して低くない。

 この6年、毎年、首相が退陣した日本の政治は、すっかりタガが外れてしまった。

 民主党では昨年、菅首相に「辞めろ」の大合唱が起こり、不信任案へ同調する動きさえあった。次の野田首相は増税を訴えて党代表選に勝ったのに、年末の党内議論で反対論が蒸し返され、離党者まで出た。

 自民党には、もはや政権党の面影もない。財政赤字を積み上げてきた責任など知らん顔で、民主党のマニフェスト違反を責め立てる姿は滑稽ですらある。

 こんなありさまだから、衆院で9割に近い議席を占める民主党と自民党の支持率を合わせても、最近は40%に満たない。

 「支持政党なし」が圧倒的な最大勢力を占める現状は、果たして「2大政党」などと言えるものなのか。

■確かな時代認識を

 ことし9月、民主党の野田佳彦代表(首相)も、自民党の谷垣禎一総裁も党トップの任期が切れる。政治を立て直すきっかけにするためにも、指導者のあり方を考える好機である。

 「戦後の政治が決めたのは、反共と経済重視、日米安保の方向性だけ。あとは官僚が実行計画を書いてくれた」

 こんな自民党ベテラン議員の言葉が物語る「自動操縦」のような時代は、「膨らむ富の再分配」が政治の役割だった。

 だが、いまや世界に例のない超高齢化がすすむ。働く人の数が減る。グローバル化の荒波のなか、新たな経済成長のタネが見つからない。貧富や世代間の格差が広がり続ける。

 政治は「負担の配分」という厳しい仕事を迫られている。なのに国会議員たちは相も変わらず「自動操縦」の時代が続いているかのように官僚に寄りかかり、借金を重ねて、その場をしのぐ政治に精を出す。これでは後世にツケを回すだけだ。

 政党を率いる指導者は、まず確かな時代認識を持つことだ。それに従って、時代にふさわしい統治の仕組みに制度を根幹から変えていく覚悟が要る。

 社会をつくり直すためには、たとえば官僚主導から真の政治主導へ、中央集権から地方分権へといった大胆な転換が不可欠なはずだ。

 有権者はすでに時代とともに変わっている。都市部だけでなく、農村部でも業界団体などの集票力が激減しているのは、その証しだ。要望の多様化とともに、有権者は砂粒のようにばらばらになり、風が吹けば砂丘のように位置を変える。

 

■変化への対応を

 この変わりように、政治家がついていけない。

 衆院の小選挙区制もあいまって、より幅広い支持を得られそうな党首を据える傾向が強まっているが、それは気まぐれな世論を味方につけようとする、いわば糊塗策(ことさく)でしかない。

 有権者それぞれの思いを束ねて、くみあげる機能もないままに、支持だけ求めても無理だ。時代遅れの政党や政治家が、有権者に見限られるのは当たり前ではないか。

 これほど情けない国政を見せられれば、橋下徹大阪市長のような政治家が存在感を増すのもうなずける。

 大阪市役所という巨大な組織を批判する言説は、とにかくわかりやすい。大阪府と市の二重行政の無駄をなくす姿勢も、経済が縮んでいく時代の流れに沿うものといえる。

 敵をつくり、対立の摩擦熱ですすむような手法は、冷静な思考を妨げる危うさがつきまとう。だが、政治が確かに動いているという感覚を有権者に与えているのは間違いない。

 こんな橋下氏に、従来の主張や政策を省みずにすり寄る既成政党の姿は哀れみさえ誘う。

 野田首相が税と社会保障の一体改革で、国民に負担増を求めるのは、時代の変化に向き合う一歩だといえる。行革を断行しつつ、前へ進まねばならない。

 昨年末に民主党内の増税反対論を押し切った議論を、もっと国民に見える形でやればいい。首相が矢面に立って初めて、有権者は振り返る。

■組織を動かす力を

 自民党の谷垣総裁は、どう応じるのか。「税制改革の断行を堂々と掲げてきた」というのなら、早期解散への党内圧力を抑え、むしろ民主党をリードして改革を成し遂げるのが筋だろう。それができれば、歴史に名を残すに違いない。

 指導者は時代の変化を見極めて、わかりやすい目標を示し、その達成までの戦略を立て、実現のために縁の下で汗をかく人も含めて組織を動かす。こうした指導力を培うには、経験も欠かせない。

 指導者を使い捨てするような政治風土からは、有為な人材はなかなか生まれない。

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