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高裁準備書面 _住民 / [西日本殖産]


 
_住民『準備書面』 大阪高裁民事第九部ハ係御中(1998.7.6)


平成10年(ネ)第663号 建物収去土地明渡請求控訴事件 
準備書面 
控訴人 松村宰一こと李宰一 外9名 
被控訴人 有限会社西日本殖産 
右当事者間の御庁頭書事件につき控訴人らは左記のとおり弁論を準備する。 
1998年(平成10年)7月6日 
右控訴人ら訴訟代理人 
弁護士 金川琢郎 
同   河本光平 
同   堀和幸  
同   中田政義 
大阪高等裁判所民事第九部ハ係御中 




一 「登記の欠陥を主張するについて正当な利益を有しない背信的悪意者」について

民法177条の「第三者」の範囲については、「実体上物件変動があった事実を知る者について右物件変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって、民法177条にいう第三者に当たらない」(最判1996年8月2日、民集22巻8号1571項)とする判例法理が確立している。
本件では、控訴人らは、原審において、控訴人らが取得時効により本件土地の所有権を取得したことを前提に、控訴人らが登記を備えていないことは事実であるが、右時効完成後に登記を取得した被控訴人は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない背信的悪意者であるから、控訴人らは被控訴人に対し、登記なくして取得時効による所有権取得を対抗できる旨主張してきた。
これに対し、原判決は、「第四 争点に関する判断 二 所有権の取得時効に基づく占有正権限の有無について(争点2)について」(41ないし60頁)において、「原告は、被告らの登記欠缺を主張するについて、正当な利益を有しない背信的悪意者であると認めることはできない。」(60頁)と判断した。
しかしながら、原判決は、以下のとおり、被控訴人の背信的悪意者性の評価を根拠づける諸事実の認定を謝ったものであるとともに、右判定法理の解釈適用を誤ったものであり判例違反の違法を免れない。



二 原判決の被控訴人の背信的悪意者性に関する事実認定及び判例法理適用上の誤り

  1. 平山は被控訴人らが時効取得したことを認識していなかったか

    原判決は、平山が「被告らの各占有が時効取得要件を満たして、既に所有権に基づくものになっていることの認識を有していたと認めることはできない」と認定している(58頁)。
    しかしながら、平山が戦前からウトロ地区に居住し、当時自治会長を務めていたこと、ウトロ地区という親密な空間で被控訴人らと日常生活を共にすることにより、各占有取得経緯や占有状況についても把握していたこと、本件売買当時、周辺地区の更地価格は坪単価約50万円であったのに、総額3億円、即ち、坪単価5万円以下という格安価格で本件土地を日産車体から購入したこと等に鑑みれば、むしろ平山は、被控訴人らが本件土地を時効取得したことを認識していたと言うべきである。
    なお、原判決は、49頁において、「日産車体は、平山との間で、同年3月9日、ウトロ地区土地を一括して3億円ないし4億円で売却する旨の本件売買契約を締結」した旨認定している。しかしながら、日産車体の1987年(昭和62年)当時の担当者松本課長の証言によれば、右売却価額が3億円であったことは明らかであり、4億円はあくまで契約上のものであり、平山が融資者らを欺いてまでも利鞘を稼ぐために虚偽記載したものである。従って、原判決の右認定には明らかな誤りがある。

  2. 平山は控訴人らの占有が無権限によるものであると認識していたか

    また、原判決は、「平山は、日産車体から所有権の譲渡を受けて、被告らに分譲することを意図していたものであって、被告らの占有が無権限によるものであることを認識していたということができる。」と認定している。(59頁)。
    しかしながら、時効取得していないことと占有が無権限であることは論理的に別個の問題であり、右認定は、原判決の前記1の認定を前提としても、余りに短絡的で偏見に満ちた認定と言うべきである。
    真実には、平山は、控訴人らが本件土地を時効取得したこと、にもかかわらず登記が未了であり、そのため不安定な権利状態にあることを認識していたものである。平山の当時の関心が登記名義の移転にあったことは、「平山の指定する他の第三者の登記名義にすること」という本件売買契約書7条の文言からも明らかであり、同9条3項にいう「住民への分譲」とは登記名義の移転に他ならない。

  3. 被控訴人は住民に対する分譲を意図して設立されたか(原判決59頁)

    以上の事情に加え、平山が1987年(昭和62年)4月30日、被控訴人会社を設立し、同年5月9日付で本件土地を被控訴人会社に4億5000万円で転売したこと、平山はこの間の事情を住民に対しては一切秘匿していたこと等によれば、平山が、一方で日産車体との交渉では、控訴人らの時効取得が成立していることを前提に登記名義移転料程度に安く買い付け、他方で住民に対しては登記がないことに乗じて高く売りつけようとして、被控訴人会社を設立したことは明らかである。
    平山は、長年不動産業を営んでおり、売買当事者の権利関係から利鞘を稼ぐこの種手法に長けていたものである。

  4. 被控訴人会社は、利益を除外した分譲条件を示したか(原判決59頁)

    被控訴人会社は住民に対し、1988年(昭和63年)9月1日ころ、「日産車体からの購入価格に登記料、利息及び付帯経費を加えた金額」での早期買取りを通告してきた(54頁)が、その金額は、具体的には4億5000万であった。
    なるほど、4億5000万円で買い受けたものを4億5000万円で転売申し入れすることは、一見、被控訴人会社の利益を除外したもののように見受けられる。
    しかしながら、当時、平山は前記のとおり、わずか2ヶ月(3月9日から5月9日)の間で1億4500万円もの利鞘を確保していた。
    また、被控訴人会社は、当時、事実上、平山の一人会社であり、その設立経緯、組織構成、活動実態に鑑みて、平山が住民に真相が判明した場合の隠れ蓑として利用する目的で設立されたものに他ならず、有限会社制度を濫用したものであるから、独立の法人格を否認されるべきものである。
    従って、右通告は、平山が、有限会社制度を濫用して、1億5000万円もの利鞘を確実にするためになされたものである。
    これが、どうして「原告の利益を除外した条件」と評価できようか。

  5. 被控訴人会社は不当な利益を得る目的を有していなかったか(原判決60頁)

    以上、平山の日産車体からの買取り価格が3億円であったこと、平山はこれを4億円と欺き、わずか2ヶ月の間に1億4500万円もの利鞘を上乗せしたこと、被控訴人会社は有限会社制度を利用して設立されたものであり独立の法人格を否認されるべきものであることに加え、被控訴人会社の設立(1987年4月30日)とほぼ同時期(同年8月9日)に三栄地所が設立され、被控訴人会社、金澤土建及び三栄地所の間で同年11月22日に住民を排除して本件土地を地上げするための業務委託契約が締結されていることに鑑みれば、被控訴人会社が一貫して不当な利益を得る目的を有していたことは明らかである。

  6. その他、控訴人らは、控訴審において、被控訴人の背信的悪意者性を評価根拠づける事実を補充して主張立証する予定であるが、これは、追って主張補充予定の権利濫用論と重複する部分が多いので、追って詳細に主張することとする。

以上



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