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2003年4月〜2006年3月の放送記録 
木曜日 ともに生きよう

障害者も狙われる
悪質商法トラブルQ&A
2005年9月8日(木)

VTR画像:町永アナ、小谷さん 高齢者を狙ったリフォームなどの悪質商法が社会問題となっていますが、実は、精神障害者や知的障害者も同様の被害を受けている例が多くあるのです。

 きょうは専門家をゲストに迎え、この問題について視聴者の皆さんからいただいた質問にお答えします。

VTR画像:岩崎香さん
岩崎香さん

ゲスト:
順天堂大学講師 岩崎香さん

日本精神保健福祉士協会
権利擁護委員長

岩崎: こちらが「それは、悪質商法に引っかかったのでは?」と言っても、本人は「否定する」ということがよくあります。本人も意識していないところで被害にあっているので、その実態がなかなか見えにくいというのが現状です。

VTR画像:池田桂子さん
池田桂子さん

ゲスト:
弁護士 池田桂子さん

知的障害者、精神障害者、認知症高齢者の消費者被害救済活動に取り組んでいる。

池田: 最近懸念されていることとして、ことし4月から個人情報保護法が民間事業者にも適用されるようになりました。被害者救済のためには、被害にあわれた方のいろいろな情報をこちらも得たいのですが、「個人情報だから」ということで、アクセスを拒まれてしまうというケースが増えています。

 

33歳 知的障害の女性(母親から)

娘は軽度の知的障害で、週末買い物に出かけるのを楽しみにしています。最近路上で展示会に誘われ、25万円の絵画をローンで購入しました。娘が喜んでいるので支払いは私が手伝っていたところ、ローンを組んだ業者は娘が知的障害であることを知っているのか、くりかえしエステや健康食品の展示会に誘い出して高額の商品を売りつけてきます。娘にだまされている自覚がないのが問題なのですが、注意の仕方次第では、自立の意欲に水を差してしまうのではないかと不安です。傷つけずに自覚させるにはどうしたらよいでしょうか。

自分の情報は自分で守る

池田: 被害金額も比較的少額なこのような場合では、この方の能力にも寄りますが、明らかな詐欺だ、違法な商法だと決めつけるのは難しいケースが多いです。
 ただし、業者は自分の集めた個人情報を、集めた目的以外に利用してはいけないのですが、くりかえし誘い出されるということは、この方の個人情報が流出している恐れがあります。流出してしまったものを個人の側で何かする手だてというのは、なかなか難しいものです。まずは、「自分の情報は自分で守る」ということを徹底すること。必要最小限の情報に限って業者に提供することです。


どうして契約してしまったのかをいっしょに考える

岩崎: ただ頭ごなしに「障害があるからだまされた」と言われると、本人は傷つく場合がありますので、「どうして契約をしてしまったのか」ということを考えてみることです。親切にされたことで、「断るのが悪い」と思ってしまったり、「お客さま」として扱われることに対する満足感、感謝されたことで自分もうれしかった、などの背景があったのではないかと思います。
 そして、結果としてほんとうは必要ないものだったとすれば、「これは、必要なかったね」という振り返りをいっしょにして、くりかえしそういった被害にあうのを防ぐことができればいいなと思います。

 

27歳 知的障害の男性(母親から)

息子は知的障害があり、今も自宅で一緒に生活しています。先日、私が留守の間に布団を扱う業者が訪ねてきて、本人もよくわからないまま高額な契約をしてしまいました。ずいぶん前のことだったんですが、どうしたら解約できるでしょうか。

クーリングオフ

池田: 訪問販売の場合、理由を言うことなく解約できるクーリングオフ制度は8日間と定められています。
 しかし、クーリングオフの期間を仮に過ぎていたとしても、知的障害者の場合は「判断能力が不十分」ということで、療育手帳(障害者手帳)や、医師の診断書などを業者に示すことによって、解約に応じてもらうことが可能です。

<法律相談窓口>

VTR画像:法律相談窓口
  • 消費生活センター
    専門の相談員が商品やサービスなどに関する相談に応じる
  • 法律扶助協会
    弁護士や裁判所の費用の支払いが困難な人を援助(相談は無料)
  • 弁護士会、司法書士会

まずは身近な人に相談を

岩崎: 法律的な相談機関だと敷居が高いと感じてしまったり、お金がかかるのではと心配な方は、身近な市町村の福祉担当の方、ふだん利用している医療機関や、福祉施設の職員などに相談するといいでしょう。

 

50歳 知的障害の男性(おいから)

私の叔父は今、親の残した家で一人暮らしをしています。最近話をしていたところ、リフォーム業者が来て屋根を点検され、「このままでは地震が来た時、隣近所の家に屋根がくずれ迷惑がかかるから」と修理を勧められたことがわかりました。不安に感じた叔父はすぐ、業者に120万を支払い、屋根を工事したようです。本人に問いただしたのですが、「人に迷惑をかけず、自分も安心する。良い工事をしてもらった」と、なかなか詳しい事情は話してくれません。同じような業者がまた訪ねてくるのではと、不安に感じております。簡単に契約してしまうことを防ぐにはどうしたらよいでしょうか。

「周囲に迷惑をかけないように」と思ってしまう

岩崎: 障害をお持ちの方は、わたしたちが思っている以上に周囲に気を使って暮らしている方が多いものです。ですから、「周囲に迷惑がかかる」と説得されると、「そうか」と思ってしまうのです。


リフォーム業者 500万以下の事業には届出義務がない

池田: 高齢者や障害のある人にかかわらず、われわれが「金額に見合った工事がなされているか」を判断するのは難しいことです。500万円以下の事業の場合、リフォーム業者には届出義務がありません。このあたりも問題かなと思います。
 自分で判断する能力が十分でない方のためには、成年後見制度と地域福祉権利擁護事業というものがあります。

<成年後見制度>

VTR画像:成年後見制度
  • 制度内容
    財産の管理(預金の解約、不動産の売買など)、福祉サービスの契約など
  • 手続き
    家庭裁判所
  • 申し立てができる人
    本人・四親等内の親族、市町村長(全体の3%は市町村長から)など
  • 費用
    申し立て(1万円弱)、判断能力の鑑定(5〜10万円)、職業後見人へ(報酬が必要な場合も)

<地域福祉権利擁護事業>

VTR画像:地域福祉権利擁護事業
  • 制度内容
    日常の金銭管理(通帳、権利証等の預りなど)、福祉サービスの利用援助(手続き代行、サービス実施状況の確認など)
  • 手続き
    社会福祉協議会
  • 費用
    日常の金銭管理(1,000円前後)、預りサービス(数百円程度)

地域福祉権利擁護事業は自立を軸にしたサポート

岩崎: 地域福祉権利擁護事業ではいろいろなことを手伝ってくれるのですが、ただ単に代行してもらうのではなく、「いっしょに金融機関に行ってお金をおろす」といったように、本人もかかわれるように支援をしてもらうことのできるサービスです。

 

48歳 統合失調症の男性(兄から)

私の48歳になる弟は統合失調症を患い、先日まで入院生活をしていましたが、だいぶ回復をしたので退院し、自宅療養に切り替わりました。しばらく社会生活と離れておりましたので、最近ニュースなどで聞く悪徳業者にだまされないか心配です。悪徳商法の危険について本人にどうやって教えていけばいいでしょうか?

出前講座

消費生活専門相談員が全国各地に出向き、悪質商法について開く講座。


SST(社会生活技能訓練)

精神障害者のためにコミュニケーションの取り方などを訓練。悪質商法をターゲットにしているわけではないが、しつこい勧誘の断り方などを勉強したりできる。医療機関、福祉施設に問い合わせを。

 

30歳 精神障害の男性(父親から)

私の息子は精神障害を患い、会社を辞め自宅療養をしています。インターネットのホームページで見た「自宅で高収入が得られる」というキャッチフレーズにひかれ、95万円の教材とパソコンをクレジットカードで購入しました。しかし、仕事の依頼はきませんでした。本人が落ち込んでいることに気付き、話を聞いて被害がわかりましたが、何か月かたっており、解約するにはどうしたらいいのかわかりません。教えてください。

「自宅で高収入」というキャッチフレーズ

VTR画像:岩崎さん岩崎: 障害をお持ちの方でも、「働きたい」という気持を持っている方はたくさんいらっしゃいます。しかし、なかなか仕事に結びつくことができないというという現状。また、働いていないのですから、経済的に困っているという現実。そして、対人的なコミュニケーションが苦手でも、「自宅で、パソコンで、それがお金につながるのだったら……」と心ひかれる方も多いでしょう。
 本人が悪質商法にひっかかったと気付いても、「責められるかもしれない」とう不安や、「恥ずかしい」という思いがあると、なかなか家族に打ち明けようとはしないものです。ふだんから、いいコミュニケーションをとっておくことはとても大切です。


通信販売などの場合クーリングオフができない

VTR画像:池田さん池田: 注意していただきたいことは、消費者のほうから業者にアプローチする通信販売などの場合は、クーリングオフ制度の適用はないということ。しかし、この方の場合は判断能力不十分ということで、医師に診断書を書いていただくか、障害者手帳を示すことによって、解約に応じてもらうことは可能です。


カード会社に支払いしないことを通知 引き落とし口座を解約

池田: クレジットを組んだ場合では、販売業者だけでなく、クレジット会社にも支払いしないことを通知することが必要です。場合によっては、引き落とし口座の解約を考えなければならないこともあるかもしれません。

障害をお持ちの方にもプライバシーや権利はある

岩崎: 障害をお持ちの方にもプライバシーや権利はあります。お金というデリケートな問題に強く介入してしまうことは権利侵害につながってしまう可能性もあるので、非常に難しい問題です。
 「経験する機会を奪わない」ということを肝に銘じて、わたしたちは皆さんに安心してもらえる相談者になれればいいなと思っています。


制度的な整備がこれからの課題

池田: 見守りという制度的な整備が十分に与えられていないと、今のシステム自体にはまだ問題がありますね。


● 出演

町永 俊雄アナウンサー
小谷 あゆみさん
池田 桂子さん(弁護士)
岩崎 香さん(順天堂大学 講師)



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