行動科学1グループ研究要約

-日本人のHIV/AIDS関連知識、性行動、性意識についての全国調査
(HIV&SEX in Japan Survey)

-日本人のHIV/STD関連知識、性行動、性意識に関する性・年齢別分析‐



代表研究者: 木原正博(神奈川県立がんセンター)
研 究 者:

木原雅子(カリフォルニア大学サンフランシスコ校エイズ予防研究センター)
内野英幸(長野県大町保健所)
石塚智一(大学入試センター研究開発部)
尾崎米厚(国立公衆衛生員疫学部)
島崎継雄(性科学情報センター)
杉森信吉(東京家政大学文学部心理教育学科)
土田昭司(関西大学社会学部)
中畝菜穂子(大学入試センター研究開発部)
簑輪眞澄(国立公衆衛生員疫学部)
山本太郎(長崎大学熱帯医学研究所県境医学部門国際社会環境)



【 研究要旨 】

 日本国民の性行動の変化と特徴を把握するために、無作為抽出による全国調査を実施し、71.2%の回収率を得た。その結果、若者でセックスの早年化、パートナーの多数化、性行為の多様化が進んでおり、特に女性で変化が大きいこと、男性の買春率は欧米に比しかなり高率で、特に若者で高いことなどを示し、日本人の性行動に先進国の影響とのアジア性が混在することを初めて明らかにした。

【 緒言と研究目的 】

 HIV/STDの主要な感染経路が性行動であることはよく知られており、流行の特徴や将来的動向を推し測る上で、また、有効なHIV/STD予防対策を立案実施していく上で、性行動の実態把握が不可欠であることは言うまでもない。性行動は、社会や文化のコンテクストの中で特徴づけられるため、国際的にもそれぞれの地域における固有の調査の必要性が強く認識され、諸外国においては、HIV流行を契機として、大規模な国レベルでの性行動調査が実施されてきた。しかし、わが国においては、極めて回収率の低い郵送法調査が都市住民を対象になされたことがあるのみで、統計学的に偏りのない代表サンプルを用いた信頼性の高いデータは未だ存在していない。本研究は、こうした状況に鑑み、性行動調査の方法論的基礎検討を行い、また全国レベルでの性行動調査を実施することによって、わが国の性行動や性意識の特徴を科学的に明らかにし、今後の有効なHIV/STD予防対策の計画立案に役立つエビデンスを提供することを目的とする。また、調査のタイミングについては、ピル解禁を想定し、ピル解禁直前の日本人の性行動の様子を捉えることを特に意識して実施した。

【 研究方法 】

  我々は、2年間に3回の予備調査を実施して方法論(調査票、報酬、調査マニュアル等)を検討し、1999年6−7月に、全国5000人の確率サンプル(層化2段階無作為抽出)を用いて個別訪問・面前自記式による調査を実施した。71.2%(n=3,562)の回収率を得られ、本年度は、わが国HIV/STD関連知識、性行動、性意識について性別・年齢別の分析を行った。

【 研究結果 】

  結果の要点は以下の通りである。

  1. 日常生活でのHIV感染に関する知識は普及しているが、STDの種類や感染の仕方、HIVとSTDの相互作用、HIV検査のタイミングや保健所での検査などに関する情報の欠落が大きい。(表1)。
  2. 若者、特に若い女性で急速に初交年齢の低下が進み、18-24歳では男女差が消失した(図1)。学校で出会った同年程度の相手と初交を経験する傾向が強まっている。
  3. 過去1年間に不定期の相手、あるいは金銭の授受を介した(以下売買春)相手とセックスをした人は、男で約1割、女では数%以下であった。複数の相手がいた人は、男約2割、女約1割で、男女とも18-24歳で特に高い割合を示した。
  4. 過去1年間にフェラチオ、クンニリングスは6割近くで行われ、若い世代ほど割合が高く、性行為の多様化が進んでいる傾向が伺われた。肛門性交は5-6%と少ない。
  5. コンドーム不使用者の割合は、決まった相手、不定期の相手いずれの場合でも、男女とも約50%程度で、若い世代ほど低い。売買春の相手では不使用者は1/2以下に低下する。
  6. これまでに同性/両性を性的相手としたことがある人は、男性1.2%、女性2.0%であった。
  7. 過去1年間にHIV感染不安のあった人は、全体で4%、若いほど高く、18-24歳では男8.3%、女性で4.4%にのぼる。この内HIV検査を受けた人は、約1/6程度であった。
  8. ピルがHIV/STDを予防しないことへの正答率は、男約70%、女約60%と、女性で低い。また、コンドーム使用の目的は、ほとんどが避妊で、HIV/STD予防は、男15-16%、女5-6%であった。
  9. 未婚男女のセックスへの認容が、急速に進み、18-34歳では、80-90%が認容しているが、既婚男女の婚外セックスへの認容は低く、特に女性で低い(男約10%、女約3%)。
  10. 同性の性行為に関する認容が女性で急速に進み、18-24歳で約30%に達した。
  11. 売買春の認容は、男性の25-44歳層で高く、20-30%に及ぶ。女性では、10%以下と低い。
  12. 日本人の売買春率は欧米諸国に比して著しく高い。(表2)

 

【 結 論 】

  以上の結果より、現代の日本国民においては、HIV/STD予防上重要な知識の普及が遅れていること、その性行動には、先進国の影響(若者における性の開放)とアジア性(買春)が混在することが明らかになった。今後は、これらの事実を踏まえたHIV/STD予防対策の展開が望まれる。