■日本俳優連合30年史■ 本編 1996年〜2001年 |
声優のための国際会議 |
1998(平成10)年9月5日、イタリア中央部の小都市、アレッツォでFIA(国際俳優連盟)の拡大理事会が開催され、声の実演(Dubbing Performance)に関する権利問題が主テーマとして取り上げられました。折しも、WIPO(世界知的所有権機関)では視聴覚実演の権利問題を討議する専門家会議の中で、アメリカからは「実演家の定義をする際、エキストラとバックグラウンド・パフォーマーは定義の中からはずすべきだ」との意見が出され、さらに「バックグラウンド・パフォーマー」の意味付けを巡って「いわゆる端役だ」とする意見や「声だけの出演も含めるべきだ」との意見が錯綜したため、FIAでは「きちんと意見を統一しよう」と拡大理事会の開催となったのでした。
「声優」という仕事が職業として確立しているかいないか、は国によって違いがあります。アメリカの場合は、声優は職業として確立してなく、劇場用映画としてアニメーションを製作する場合には著名な映像関係の俳優がアテレコを務めます。だから、会議に出席したアメリカ代表によると「ディズニーのアニメなどに声をを入れるのは俳優の仕事であり、俳優の統一労働組合であるSAG(スクリーン・アクターズ・ギルド)が出演条件をちゃんと決めている。アメリカでは外国向けの吹き替えとしてメキシコ向けのスペイン語版が作られる場合もあるが、できばえは劣悪である」などという意見になってしまうのです。他国とはっきり事情が違っているのに、自国の実態だけを披露して世界全体を律してしまおうとするアメリカの態度にはイタリア、フランス、韓国のように声優が立派に独立した職業になっているところは激しく反発します。とくに、イタリア、フランス、スペインなどでは外国映画を、劇場でもテレビでも、放映する場合自国語の吹き替えを原則とし、字幕は滅多に使わないというところもあるのです。
こうした中で開催された拡大理事会でしたから、ヨーロッパ各国からのアメリカに対する風当たりは非常に激しいものになりました。会議中の公式発言ではさすがに控えられましたが、フランスから参加した声優の代表は食事時間中に「この問題の討議ではアメリカをボイコットする決議を採択しようじゃないか」とか、「アメリカのプロデューサーを困らすために世界規模のストライキを実現しよう」と話しかけてくるほどでした。
この拡大理事会では、取り立てて「声優の権利」や「声優の吹き替えを実演と認める」などの決議は取りませんでしたが、参加者の多数の合意は出来たことがはっきりしました。アメリカからの参加者は意気消沈し、逆にヨーロッパ、日本は意気揚々となった会議でした。日俳連からは理事の池水通洋氏と古川和事務局長が参加し、日本における声優の実情、日俳連への結集状況などをつぶさに報告しました。
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