2012年1月14日03時00分
「現役世代の活力を高める」。橋下徹市長の号令で、大阪市が子育て支援や教育分野に予算を手厚くする一方、お年寄りの負担を増やす方針を次々と打ち出している。財源が限られるなかでの政策転換だが、暮らしに与える影響は大きく、市民の評価も分かれそうだ。
■「現役世代の活力高める」
橋下氏は9日、新成人を集めたイベントでこう呼びかけた。「20、30代には少ししか税金が回らず、負担ばかり。政治に参加し、投票して権利を主張してください」。新成人から「公営施設を安く開放して」と要請されると、「学校などを若い人に開放できるようすぐに検討する」と応じた。
若者重視の姿勢は、昨秋の市長選から一貫している。投票率が上がれば、若者の海外留学奨学金制度を設けると公約。投票率は40年ぶりに60%を超え、実現を目指すことにした。
教育関連でも、普及が進んでいない市立中学校での給食実施や小中学校へのエアコン設置にも意欲を見せる。13日には24区長に対し、学校選択制導入のほか、給食と弁当の選択制について区民から意見を聞くよう指示した。低所得世帯向けの教育支援として、小中学生の学習塾代の補助も検討する。
若者や子どもと並んで力を入れるのは、子育て世代への支援だ。年末の施政方針演説では「選挙の票になりやすい高齢世代に直接お金をばらまかず、現役世代に重点投資をする」と宣言した。
選挙公約に掲げた保育所の待機児童ゼロの実現については昨年末、市の担当部局に「予算のことは気にしないで」「びっくりする案を」と指示。今年に入り、市が民間経営の無認可保育所などに助成する認証保育所制度の導入や、保育士が自宅で少人数の子どもを預かる保育ママ制度の拡充のほか、妊婦健診での自己負担を実質無料化する方針も決めた。
■高齢者には北風 敬老パス・補助見直し
現役世代が恩恵を受ける半面、高齢者には「北風」が吹きそうだ。
橋下氏がまず的を絞ったのは、70歳以上の市民が無料で市営地下鉄やバスに乗れる敬老パス。選挙公約では制度維持を掲げたが、5日には「維持するが変えていく。一部負担を求めるとか(利用額の)上限を設定する」との意向を示した。
市の敬老パスは対象者の所得制限や利用額の上限がなく、申告すればICカードが交付される。昨年10月時点では、70歳以上の市民約44万人のうち約37万4千人に交付。中には年80万円分を使った人もいる。予算額は年間約86億円に上り、現行制度を維持すれば6年後には100億円を突破するという。
公共交通がある他の自治体にも同様の制度があるが、いずれも所得制限や利用の上限がある。大阪市では過去に何度も見直しが検討されたが、議会や高齢者の反発で頓挫してきた。
橋下氏はほかにも、65歳以上や障害者の世帯に上下水道の基本料金を免除(年間予算約32億円)▽市老人クラブ連合会への補助金(同1億4100万円)▽老人憩(いこ)いの家の運営補助金(同1億6300万円)――などの支援策をいったん凍結。見直しを指示した。
高齢者が多い国民健康保険料も削減の検討対象。市は国保財政を支えるため、義務的に支出すべき額以外にも一般会計から年間約200億円を繰り入れているが、市は見直しを検討。繰り入れをやめれば、加入者1人当たりの平均保険料は年間7万3千円から9万8千円に増えるという。(宮崎勇作、南出拓平)
■高齢者の格差配慮を
広井良典・千葉大教授(社会保障論)の話 国際的に見ても日本の社会保障は高齢者への給付の比重が高く、「人生前半の社会保障」へシフトするという方向性は良い。しかし高齢者は所得や資産の格差が大きく、医療や介護など基礎的な社会保障の見直しにはより慎重に取り組むべきだ。子ども手当を公約に掲げた民主党政権も財源問題で行き詰まっており、若い世代向けに新たな公的支援をするにしても、財源確保に向けた具体策が欠かせない。独自の地方税を課すなど、自治体レベルで負担のあり方を議論する時代に来ている。