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2012-01-14

大企業で働くということ

というエントリをいつか書きたいなと思っていたのだが、奇しくも同題のエントリ


に、3年半の大企業生活を通じてわかってきたことが全部書いてあった。しかもすごくよくまとめられている。なのでわざわざ自分で書かなくてもいいかなと思ったけれど、一度自分でまとめないといつまでもスッキリしないだろうし、時が経つと忘れてしまいそうなので、やっぱり書いてみる。外からのイメージと中の実態との乖離が結構あるような気がしていて、そのギャップを埋める一助になれば幸い。


はじめに

同じ会社でも部署によって雰囲気とか働き方とかぜんっぜん違う。部署異動すると「ここは別会社か!?」と思うほど文化が違う。「社風」ってよく言うけど、何それって感じ。

大学だって、そうでしょう。「あなたの大学ってどういう雰囲気?」って聞かれても、自分の身の回りや、すごく目立つ一部の人達のことくらいしかわからないわけで。東大は真面目、京大は変わった人が多い、というイメージを持たれている(かどうかはよく知らない)けど、実際そんな人は一握りで他の大学と同じようにいろんな人がいるわけで。

なので、とにかくあらゆることが「部署による」としか言えない。大企業中小企業の集まり」という言葉を聞いたことがあるけど、これは結構的を得ているかな。

とある会社での体験談とかはほんの一例でしかないので、参考にしつつもそれがその会社の全てだと思わないほうがいいし、そもそも(ほとんどの人がそうであるように)ひとつの大企業でしか働いたことがないので、他の大企業のことは知らない。というのを差し引いて、あくまで一例としてお読みください。


組織

業務範囲

大企業は部署が細かく分割されていて、仕事の範囲が狭い」は、細かく部分割されているのはそうだけど、仕事の範囲が狭いことはないんじゃないかな。

例えば、部署が製品毎にカテゴライズされている会社だと、ずっと同じ製品に専門的に携わることにはなる。でも、その製品に関わることだったら企画もマーケティングも開発も設計も管理もやったりするので、むしろこの方がいろいろ経験できることもあると思う。


ビジネスモデル

大企業は、それなりに社員数を抱えているのでかなり大きなビジネスモデルじゃないと収益をあげられない。なので、ドーンと大きいビジネスモデルつくって、それをできるだけ長く回すという方向に行きやすい。そして、そういうビジネスモデルを確立している企業は魅力的で、故に優秀(高学歴)な学生を集めやすいのは当然。

既得権益って言葉自体にネガティブなイメージがついているけれど、別に既得権益を守ることが悪いわけではない。じゃないと、頑張り損になってしまってインセンティブが働かないので。既得権益を不当に守ることが悪いのである。

実際は、なかなか大きいビジネスモデル生み出せずに、イノベーションのジレンマに陥ることも多いのだが。それでも日本の家電メーカーが4Kテレビをつくる理由 - yumulog | 社会人博士の日記


大企業病

大企業病」っていう言葉はあまり的確ではなくて、あえて言うなら「大企業の特徴」じゃないかと思っている。「病気」というと、「かかったりかからなかったりする」「治せる」というイメージだけど、いわゆる大企業病というのは組織が大きい故の特徴だからだ。

社内ルール

「社内ルールが非合理的」はその通りかな。RDB でもマルチコアプロセッサでもそうだと思うけど、数が増えると管理コストは爆発的に増える。で、どうするかというと、問題がなるべく起こらないようにルールを「安全側に倒す」。管理に関わるプレイヤーが多くなり、ルールは厳しく、手続きは煩雑になる。

大企業というところを簡単に言うと、空母のようなものです。空母には大将とか中佐とか、そーゆー偉い人がいて下々に命令に近似した指示を出します。兵隊はその指示に従って各々の責務をこなして行きます。ここで重要なのは、空母の外の世界など誰も知らないこと、兵隊は上の命令に従わなくてはいけないこと、空母の中で独自の組織文化が形成されていくこと、などです。異なる立場の人間が連携を取り合って仕事をしていくためには、「ルール」の策定が必要になります。そうしなければ、大きな会社は売り上げが上がるまでのプロセスが長いので、潤滑に回すことが出来ません。


とはいえ、100年以上の歴史ある企業に21世紀の若者がポンと放り込まれるとどうしてこうなった」的ルールがあることも否めない。例えば

 ___        ♪  ∩∧__,∧
/ || ̄ ̄||         _ ヽ( ^ω^ )7  どうしてこうなった!
|.....||__||         /`ヽJ   ,‐┘   どうしてこうなった! 
| ̄ ̄\三  / ̄ ̄ ̄/  ´`ヽ、_  ノ    
|    | ( ./     /      `) ) ♪

歴史ある大企業には「どうしてこうなった」が溢れているので、思考停止せずにどうしてそうなったのか突き詰めて考えてみると面白いのかもしれない*1


危機意識

「『大企業は潰れない』と思っている」は、そんなことない。「いつか潰れるかもしれない」という危機意識は結構みんな持ってる。少なくとも、同年代の若い世代では。リーマンや JAL の件があったり、IBM が PC 部門を Lenovo に売ったりしてる中で、さすがにそこまで無頓着ではないよ。


制度

研修体制

大企業は研修がしっかりしている」は、そうでもないかも。4月に新人は1ヶ月間研修センターでまとめて研修を受けたのだけれど、内容は「ビジネスマナーをしっかり叩き込まれる」とかではない。実際ビジネスマナーの研修は1日くらいしかなくて、「電話の応対」を練習したけど実際に部署に配属されてからの応対とはちょっと違うし(かかってくる電話の大半が迷惑電話だし)、「名刺交換」の練習もしたけどそもそも名刺交換の機会が全然なかったり。その他の研修の内容は、労働関係の法律(のすごく基礎的なところ)とか、会社の沿革とか、ビジネスパーソンの心構え的なものとか、いろいろ。で、座学ばかりだと眠くなるからか、それらのほとんどはグループワーク形式。ディスカッション方法を学ぶことも兼ねているのかな。ビジネス書の名著をいくつか全員に配って「読め、以上。」でいい気はしないでもないが、まあ研修自体は楽しかったです。

以上が全体研修で、あとは工場実習やって(これも楽しかった)、そのまま配属。なので、ガッツリ研修やったなーという印象はあまりない。でも、配属後も半年くらいかけてソフトウェア開発の研修をみっちりやっているところもあるようだし、やっぱりこれも部署によるかな。


特許教育

特許についてきちんと学べるのは、大企業のメリットの1つだと思う。特許をちゃんと知らない人の「あ、これ、特許になるかも」の99.999%は特許にならない。きちんと学べたのは教育体制が整っていたというよりも、自分の周囲や知財部に特許に対する深い知識と熱い情熱を持った方々がいたことが大きかったのかもしれない。


福利厚生

福利厚生ってよくわからないんだけど、給料以外に支給される補助手当とか、社員のみの特典のことでいいのかな。

住宅補助は、会社によってかなり違いそう。自分は最初社員寮に入ったけれど、職場から遠かったのですぐ出た。職場の近くの寮に入れる人もいるし、結婚してると社宅に入れる人もいるのだけれど、結婚のタイミングとか、異動のタイミングとか距離とかで入れたり入れなかったりして、結構運ゲー

その他は、社製品購入補助とか保養所とかフィットネスクラブの割引とかいろいろあるっちゃあるけど、金額に換算すると全部足しても給料の1%にも満たない屁みたいものなので、そんなの気にしなくていいよ!


ボーナス

毎年ボーナス時期になって金額がニュースで流れると『業績悪いのにもらいすぎだ!』『なんで不祥事起こしたのにボーナス出るんだ!』と叩かれるのがテンプレ化してるけど、ボーナス支給額にはきちんと計算式があって、労働組合との協議の上で決められている(そのために春闘やってるでしょ)。叩かれるのは、「ボーナス」という「もらえたらラッキー」的な名前が原因だと思う。もういっそのことボーナス制度はやめて年俸制にしてしまえばいいのではないか、と思うのだけれど。この「もらえたらラッキー」的な名前のおかげで消費が喚起されている面もありそうなので、うーん。。。


評価

だけど、日本の大企業に入るということは、私の感じで言えば、「時折とんでもなくできる人がいて、大企業のコアポジションですごい働きをする人」になれる可能性があるということでもあろうかと。どちらの人生を歩むかは、本人の意識によると言うならばカッコいいのですが、実際にはまあ、大半の新卒学生に意識的にそんなことをやろうよって言っても無理だし、企業はさっき書いたように一人ひとりをきちんと育てる体制ができてないところも多いので、結局は運なのですが。


成果主義評価が導入されたというものの、成果の評価の基準がきちんと確立されているかどうかはわからない*2。上手く行ったあるプロジェクトのリーダーを務めていた人の評価が高かったとして、そのリーダーの役職はたまたまお鉢が回ってきただけかもしれない。それにやっぱり年功序列が残ってる面もあると思う。人を評価するのって、ものすごーーくコストかかるし、正当に行うのは難しい。人生自体が運まかせのような部分がある気もするので、そんなものかもしれないけれど。

じゃあ、正当に評価されないかもしれない運まかせな大企業に優秀な人達がなぜ残るかというと、

だが、大企業だってあって給与水準は悪くない。特筆した成果を挙げたとしても、大企業利益吸引システムによりかなりの額がさっぴかれるが、残った金額が「そこそこ良い」ことであることが多い。それに、設備投資などはバシバシやってくれるので、私自身もハードやソフトの環境面で困ったことは一度も無い。総額100万ぐらいかかる研修に行かせてもらったこともあれば、海外に行かせてもらったこともある。


に尽きるのかな、と。転職活動を通じてわかったけど、やっぱり給与水準はかなりいい。あと、研究開発に高額な設備が必要な分野だと、選択肢が大企業しかなかったりするだろうし。


魅力

大企業を辞めてベンチャーに転職しました - yumulog | 社会人博士の日記 に書いたとおり自分は大企業が嫌になって出ていったわけではないし、ネガティブな面や消去法的な面ばかり書いていてもフェアじゃないので、最後に大企業で働く魅力も書いておこう。


意義

とても尊敬している某先輩が言っていた、入社理由について語った言葉がある。

その中で東芝を選んだのは、何より事業フィールドの大きさに惹かれたから。私達が作っているネットワーク技術というのは、単体では何もできないんです。その上で「踊ってくれる」人がいないと役に立たない。そうなると踊ってもらえるステージがたくさんある会社がいいんじゃないかと思ったわけです。

実際、入社してみると期待どおりでした。一つの研究の着目点があった時に、数多くのフィールドがあるので、例えば交通ならどうか、原子力ならどうか、システムインテグレーションならどうか、といろいろな活用先が考えられる。多様な事業部門を動かすことはとても大変だと実感していますが、数多くのフィールドで自分の能力を展開し伸ばしていくことが可能です。


これは大企業で働く意義をすごくよく表していると思っていて、とても印象に残っている。メーカーの研究開発の場合、自分の携わった技術が製品化されて市場にでていくことが、最も達成感を得られる瞬間のひとつだ*3。技術の適用先を「出口」とよく言っていたが、技術が製品化されるためには出口は多いほうがいい。出口が違う事業部だったとしても、いくら縦割りといってもそこは同じ社内なので他社と業務提携するよりは遥かにやりやすい。


サンプルを増やす

やりたいことを実現するためには、言い方悪いかもしれないけど、会社・組織を「うまく使えるか」にかかっている。

ドラクエのつもりで楽しむことだと思うんです。

例えば部長にまず相談しに行きますよね、するとテキストファイルみたいな企画書だったのが、この方がいいぞと新しいフォーマットをもらえるとか、いい資料をくれたりとか、どんどん武器が強くなっていく。

ある程度の権限と裁量のある役職であればいいのだが、そうでなければ、そこの壁を突破するには、「既成事実化する」ことが重要かな。具体的には、例えば、半ば勝手にものをつくってしまい、それを宣伝しまくって役職のより高い人に認めてもらう。幸い、大企業の中では尖った発想をできる人材がものすごく渇望されていて、既成事実化するチャンスは転がっているし、真っ当なチャンスをただ待っているだけじゃなくて、組織の枠組みにとらわれずに行動すればチャンスはさらに増やせる。要はやり方しだいなのかと。サンプル(チャンス)が少なければエラーバー(運要素)は大きいけれど、エラーバーを小さくするにはサンプルを増やせばいいのだから。

それに、

サラリーマンドラクエなので、最終的に失敗しても教会に帰れる。独立してドラクエやってると本当に死んじゃうので、サラリーマンのうちにやるといいと思います。

のだし。実はこれが最大の魅力なのかな。

などと、3年半しかいなかった若造が偉そうに言ってすいません本当にすいません。


おわりに

自分は大企業が嫌で出ていったわけではないし、blogtwitter でいろいろ書いてきたことも大企業disってるつもりでは全くない。けどもう中の人じゃなくなっちゃったので、今まで自虐で通用してたネタがdisりに見えてもしょうがないのかも。なので大企業関連のエントリはもうこのくらいにしておこうかな。気が向いたらまた何か書くかもしれません。


参考


関連エントリ

*1:投げやりな感じですいません

*2:下っ端なのでこの辺は詳しく知りません

*3:すべての技術が製品化されるとは限らない

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