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2012年1月14日(土)付

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岡田氏入閣―一体改革の先頭に立て

野田首相がきのう、内閣を改造した。発足から4カ月で顔ぶれを入れ替えたのは、参院で問責決議を受けた2閣僚を抱えたままでは、政権が立ちゆかなくなると判断したからだ。通常国会[記事全文]

官僚の株取引―政策官庁の自殺行為だ

経営危機に陥った企業を救済する異例の政策の裏で、こともあろうに、担当する経済産業省の幹部官僚がその企業の株取引で利殖にいそしんでいた。耳を疑うようなインサイダー疑惑は、[記事全文]

岡田氏入閣―一体改革の先頭に立て

 野田首相がきのう、内閣を改造した。

 発足から4カ月で顔ぶれを入れ替えたのは、参院で問責決議を受けた2閣僚を抱えたままでは、政権が立ちゆかなくなると判断したからだ。通常国会の重要性を見すえれば、この人事は避けられなかった。

 もともと党内融和を優先し、不適任な閣僚を選んだ首相がいけない。一方で、問責を決議したら「交代させないと審議に応じない」と迫った野党も無責任すぎる。

 どちらにも猛省を求める。お粗末な政治を象徴するドタバタ劇は、もう見たくない。

 首相はこの改造人事に、消費増税を含む税制と社会保障の一体改革をすすめる態勢強化の狙いも込めた。きのうの記者会見で「やらなければならない、逃げることのできない課題」だと宣言した改革の司令塔として、岡田克也副総理を起用した。

 消費増税が持論の岡田氏に、行政改革、公務員制度改革、少子化対策など幅広い職務を担わせた。政府全体をみすえ、省益にとらわれがちな各閣僚の背中を押し、改革を前進させる役割を期待したようだ。

 岡田氏がそれに応えて、改革の先頭に立てるかどうかが改造内閣の命運を左右する。

 まずは早急に、政と官の身を削る道筋をつけなければならない。国家公務員の給与カット、独立行政法人の整理統合、特別会計の見直しなどは、消費増税に向けて待ったなしの課題だ。野党との溝をどう埋めるのか。

 ここは首相とともに、岡田氏の正念場である。

 ほかの新閣僚の顔ぶれには、民主党内の融和に配慮する首相の思いがにじむ。小沢一郎元代表に近い田中直紀、松原仁両氏らの起用がそれである。

 消費増税法案の提出や採決時に、小沢グループなどから造反議員が出る可能性もささやかれている。小沢氏と距離を置く岡田氏を重用する以上、なるべく波風を立てたくないのだろう。意図はわからないではない。

 ただ、松原消費者相は「デフレ下での消費増税反対」を明言してきた。田中防衛相はこれまで、普天間問題などで目立った発言はない。

 国会対策委員長として職責を果たせなかった平野博文氏の文科相登用も融和策だろう。

 党内バランスへの配慮でつまずいた二の舞いにならないか。不安材料は尽きない。

 まずは、全閣僚が一丸となって改革に全力投球できるかどうかだ。改造内閣の実力を問う通常国会は、24日から始まる。

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官僚の株取引―政策官庁の自殺行為だ

 経営危機に陥った企業を救済する異例の政策の裏で、こともあろうに、担当する経済産業省の幹部官僚がその企業の株取引で利殖にいそしんでいた。

 耳を疑うようなインサイダー疑惑は、浮上して半年で刑事事件へと発展した。

 東京地検特捜部に逮捕されたのは、商務情報政策局を担当していた53歳の元審議官。半導体大手エルピーダメモリの支援策を進めていた09年5月、公表前の政策決定の情報を利用して同社株を買ったほか、別の半導体大手の合併でも公表前に情報を知って株取引した疑いがもたれている。合わせて200万円を超す利益をあげたとされる。

 元審議官は「公表された情報をもとに妻の指示で取引していた」と容疑を否定している。特捜部は事実関係を徹底して解明してほしい。

 日本経済の低迷が長引くなかで、経産省は企業の再生や産業界の再編支援を新たな政策の柱と位置づけている。

 エルピーダ救済は、その典型例だ。産業活力再生特別措置法を改正し、事業会社に公的資金を入れる「異例中の異例」の救済網を設けたのも、半導体メモリーで国内唯一の専業メーカーであるエルピーダ存続のためといわれていた。

 経産省は、時には経営者以上に会社の運命を決める立場にもなるわけだ。企業の重要情報が集まるのは言うまでもない。

 そんな現場のど真ん中で「李下(りか)に冠を正さず」の言葉もどこ吹く風と、株が売買されていたことにあぜんとするほかない。元審議官が公務用に貸与された携帯電話で勤務時間中、証券会社とやりとりした記録が残っているという。刑事責任をうんぬんする以前の問題である。

 政策の推進役である官僚が関係企業の株を持つことで、政策がゆがめられなかったか、疑念を持たれても仕方ない。政策官庁として自殺行為に等しい。

 経産省では05年にも、デジタルカメラ会社の事業再構築計画の審査を担当していた職員がインサイダー取引で有罪判決を受けた。所管する業界の株取引を禁止する内規が無視された。

 このため、株取引の報告対象を全職員に広げるなど、対応を強化した。それでも、今回の事態を招き、同省の昨年の調査では特許庁に所属する2人の職員が担当企業の株取引で利益を上げていることもわかった。

 職員の意識改革がまったく進んでいないことは明白だ。経産省は信頼回復に向け、今度こそ制裁の強化など実効ある再発防止策を講じなければならない。

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