新春番外編 日本全国お雑煮図鑑で幕を開けた2012年の食べB。いよいよ本格稼動です。新年最初の本編は首都圏に位置する埼玉県のご当地グルメを探って行きます。
番外編は恒例のアンテナショップリポートです。デスクが埼玉県物産観光館「そぴあ」に行ってきました。合わせてご覧ください。
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日本全国お雑煮図鑑 |
それぞれの地、家庭で食べ継いできた雑煮はどれも個性的で、その土地の食の文化を無意識に反映している。
全国の雑煮の分類については奥村彪生氏の労作がある。氏は料理人として初めて博士号を取得した人。論文は「日本めん文化の一三〇〇年」(農文協)という大著に結実し、第3回辻静雄食文化賞を受賞した。
氏によると角餅と丸餅の境界は金沢―四日市―松坂―新宮を結んだラインで、それは同時にすまし文化圏と中京地区を中心とする赤味噌文化圏との境界線でもある。
丸餅の方が古いもので、角餅は江戸の文化。京は白味噌仕立てで、すまし以前の雑煮の姿を守っている。西日本で丸餅なのにすまし仕立てのところは、参勤交代や大名の転封などによる影響か。
| <写真を拡大> 京都のお雑煮(いけずな京女さん提供) |
アイヌ文化に雑煮がなかったので、北海道で現在食べられている雑煮は明治以降に入植した人々が各地から持ち込んだものなので激しく混在している。従って奥村氏の地図では北海道が除外されている。
また沖縄には現在も雑煮文化がない。
それでもって皆さんからいただいたメールと写真を見ていていくつかの興味深いことに気がついた。皆さんも同じような感想を持たれたかもしれないが、少し書いてみよう。
(1)出しを取る魚の種類が多い。
| <写真を拡大> 雑煮のスルメ(豆津橋渡さん提供) |
越後では塩鮭を用いる。これは何となく「そうだろうな」という気分になるが、石巻の「焼いたハゼ」には「ぜいたくだな」と羨ましく思った。水戸の「鮎の煮干し」には「もっとぜいたくだな」と思った。しかしながら海のハゼにせよ川の鮎にせよ、昔はたくさん獲れたのでそうでもなかったかも。
以前、長野県飯田市の山深い里を取材した折、地元の人から「鮎やカジカの煮干しで出しを取っていた」という話を聞いた。手に入る身近な素材を上手に使う知恵である。
宇和島では焼いた白身魚、博多や長崎のアゴ(トビウオ)と、実に多彩である。
魚といっていいのかどうかわからないが、豆津橋さんのメールを読んで思い出した。私の母がつくる雑煮には必ずスルメが入っていた。かしわ(鶏)とスルメで出しを取り、出しがらのスルメがお椀の下に沈んでいるのである。餅の上にのるのは刻んで甘辛く煮たかしわ。筑後から佐賀にかけての文化なのであろうか。
| <写真を拡大> 野瀬家のおせち、生たこ入り |
いや石川や岡山からもスルメを使うというリポートがあった。西日本各地に広がっているのかもしれない。
(2)(雑煮ではないが)正月の酢だこって何だ?
ござ引きさんからいただいた岩手県央部の正月に登場する酢だこ。東京のスーパーにも暮れになると大量の酢だこや生たこが並ぶ。私は結婚するまで正月と酢だこは結びつかなかった。東京では年取り魚の一種なのであろうか。いまでも不思議な光景である。我が家の正月にも生たこが登場するが、私が箸を伸ばすことはほとんどない。
(3)餅が入らない雑煮と具がない雑煮
| <写真を拡大> 福井県小浜市のお雑煮(山口さん提供) |
どちらも衝撃であった。横手市など秋田県南では雑煮といっても餅なしの納豆汁。逆に石川県から福井県、さらに兵庫県北部にかけての日本海側では餅のみで、具がない。日本海の海の幸がたくさん獲れる土地柄なのに、雑煮のシンプルさは意外の意外であった。
もっともデスクが書いたように、海の幸はおせちにたっぷり入っていて、それをおかずに白米のごとく餅を食べるのであろうか。
(4)海草入れる?
| <写真を拡大> 海苔は欠かせない(デスク) |
千葉県民のデスクがさりげなく「そうそう、海苔を忘れちゃいけませんね」と書いていたが、千葉の九十九里辺りで食べられている「はば海苔雑煮」、「はば雑煮」は海草と餅だけの珍しいもの。千葉県民は房総周辺に住んでいなくとも、無意識に雑煮に海草をのせてしまうのであろうか。
名古屋のす〜さんからのメールには嬉しくなった。花カツオがかかっているからであった。東三河以西から温かい麺類に花カツオをかける地帯になる。雑煮でも同じことをしていたんだ。
(5)雑煮専用野菜
それと中京地区の「餅菜(正月菜)」と関西の「正月大根」の存在が面白かった。筑後でも「かつお菜」がそれに当たる。雑煮に入れるための特別な野菜がいまも健在なのは嬉しい限り。もっとも大阪出身の同僚の話だと「正月大根は小さいのにごっつ高い」のだそうである。
香川県が抜けていませんか? あの、白味噌で丸いあんこ入りの餅を食べる独特のお雑煮。食べたことがありますが、餅をかんで中からあんこが出てきた時は何かの罰ゲームかと思ったくらいに衝撃でした。
全国のお雑煮を並べるならば、あれはのせていただきたかったです(クアラルンプールの京都人さん)
| <写真を拡大> 鳥取のお雑煮(河下さん提供) |
私ものせたかったがメールと写真が来なかったのでのせられなかったのである。
奥村氏の雑煮地図には高松と丸亀が「あん餅を煮る」地域として色分けされている。つまり香川県固有の文化である。
ついでに鳥取県沿岸部から「こちらの雑煮はぜんざい」とのメールをいただいた。奥村氏はこれを「小豆汁文化圏」としている。東は鳥取市、西は出雲市までにいたる地域で、鳥取県全域と島根県東部が含まれる。
丸餅に覆い尽くされた西日本の中で佐賀の鹿島市と鹿児島市だけに角餅マークがついている、なぜであろうか。
ここで我が家の雑煮に登場してもらおう。
| <写真を拡大> 野瀬家のお雑煮 |
「はい、こちらにいらっしゃい」
モチモチ。
「違うでしょ。それを言うならモジモジでしょ」
モジモジ。
「それでいいんだよ。上がってる?」
「揚がってません。焼かれています」
そうなのである。これまでは角餅をお湯で軟らかくして食べていたのだが、今年は突如として焼き餅になったのである。誰が言い出したんだろ。
それはそれで美味かったので問題なかったのだが、火鉢ではなくオーブントースターで焼くと餅の食感が少し違うような気がした。
| <写真を拡大> 野瀬家のおせちにがめ煮は不可欠 |
出しは昆布とアゴ。アゴは能登からの到来物で非常によい出しが出た。
具は花麩、エビ、カマボコ、三つ葉のみ。シンプルなものである。
それにおせちをおかずにする。お父さんはおせちで一杯やった後に雑煮を食べるのである。
全国餅工業協同組合のHPにある「お雑煮MAP」を見ていたら埼玉は「いも雑煮」となっており「里芋、にんじん、ごぼうなどをしょう油で味付け。焼きもちを入れたさっぱり風」となっていた。埼玉県、芋?
| <写真を拡大> 借金なし(いけずな京女さん提供) |
埼玉県に対する私の印象は「豆の国」なんです。なぜかというと、個性ある地大豆が存在し、守り続けられているから。
たとえば「借金なし」というとてもユニークな名前の大豆があります。埼玉県秩父地方で大正時代から栽培されてきた在来種。
借金がなくなるくらい沢山収穫できる、というのが名前の由来だそうです。写真は、その「借金なし」大豆から造ったお味噌のおやつです。
また「行田ゼリーフライ」のあの行田には「青大豆」という在来種があります。昔から自家消費用の「あぜ豆」として栽培されてきましたが、栽培種の台頭により昭和50年代には姿を消してしまいました。
| <写真を拡大> 行田青大豆入りおかき(いけずな京女さん提供) |
しかし、甘みが強く独特の香りや風味が特徴の「郷土の味」を惜しむ人々の声が多く、地元の方々の努力により、数年前から栽培が復活したそうでめでたいめでたい。
写真は、貴重な「行田青大豆」を入れたお煎餅です。
考えてみれば、ゼリーフライの原料は、おから。豆腐が大量に作られてこそ、おからが有効活用できるわけで。それが可能なのは大豆の産地だからこそ、ですよね。
このほか、鳩山町には「鳩豆」という黒大豆があり、町では特産品づくりを試行錯誤されているそうです。
正確な情報ではありませんが、現在確認されている埼玉県在来大豆は28種類とのこと。いずれも志ある農家の皆様の手で守られているそうですが、埼玉県民の皆様が「地元の宝」に注目され、大いに利用して栽培を再び盛り上げていってほしいなあと思う京都人でした(いけずな京女さん)
埼玉は少なくとも豆の国ではあるような。ただ、秩父周辺には里芋をつかった郷土料理がある。芋の国でもあるかもしれない。
| <写真を拡大> いがまんじゅうと塩あんびん(ミルフォードさん提供) |
実食編はぜひ、「境界線」や「連続線」を歩く旅をしてほしいです。例えば、山梨から雁坂峠を越えて秩父に入り、群馬方面に抜けながら、ほうとう、煮ぼうとう、おっきりこみをたどるルート。
ほうとう、煮ぼうとう、おっきりこみ。いずれも麺に塩を加えず、生麺から調理することで汁に打ち粉が溶けトロミがつくと覚えています。うどんとはちょっと異なる作り方ですよね。味噌味、醤油味、境界線はどこなのか(そもそもボーダーはあるのか?)も気になります。
同じ埼玉でも、わが故郷東村山に近い所沢や新座には、地粉で打つ「かてうどん」が広がっていますし、埼玉北東部には米の裏作で小麦を栽培した名残の「うどん」文化が根付いています。同じ小麦文化圏でも、一くくりにはできない何かがありそうです。
| <写真を拡大> いずみやのもつ煮込み(ミルフォードさん提供) |
ちょっと毛色が違いますが、小麦系の中から「いがまんじゅう」と「塩あんびん」を。
「いがまんじゅう」は埼玉北東部の穀倉地帯に伝わる縁起物のご馳走。もち米が高価だったため、赤飯の中に饅頭を入れてボリューム感を出した、赤飯と饅頭をいっぺんに作って手間を省いたなど由来は諸説あり。
赤飯の粒々を栗のイガに見立てて、その名が付いたとか。ほぼ同じ地域に根付く「塩あんびん」は、塩味あんこの大福と言ったらよいでしょうか。
あと、デスクにはぜひ、深谷の「ピザライス」を食べてきてほしいです。深谷近辺では何軒も出す店がある人気メニュー。色んなメニューがお待ちかね!
さびしいので、大宮の聖地「いずみや」のもつ煮込みと肉豆腐も付けときます(ミルフォードさん)
| <写真を拡大> いずみやの肉豆腐(ミルフォードさん提供) |
以前、どこかで書いたと思うが、東京西部から埼玉県北東部にいたる地帯は、ものすごいうどん文化圏である。東京では武蔵野うどん、村山うどんなどと呼ばれている。要するに関東ローム層なので米より小麦を栽培していた歴史を持ち、讃岐とはまた違ったうどん文化圏を形成している。
ミルフォードさんのメールに出てきた「かてうどん」。「かて」は「かて飯」の「かて」。つまり「糧」である。
私は東京都でありながら唯一鉄道の駅がない武蔵村山市でうどんの取材をしたことがある。埼玉県の所沢とは狭山湖を挟んだ反対側。狭山丘陵の南に位置する。
| <写真を拡大> 埼玉県北本のうどん |
ここでは地粉をつかった手打ちのうどんが主流。「かけ」はなく、ほぼつけ麺方式の「かてうどん」に覆われている。カツオ出しのつけ汁に豚肉や季節の野菜などを「かて」として加え、うどんをつけて食べる。男の大人は2玉スタートが常識であって、完全に主食の位置を占めている。
つけ汁に豚肉が入ると「肉汁」。何も入らないつけ汁だけのものを「かつお汁」と呼ぶ。
呼び方はともかく、埼玉でも同じスタイルのうどんが存在する。
これに加えて煮ぼうとう地帯がある。塩を加えない点では九州の「だんご汁」に似ているものの、長さが違う。
埼玉実食編では小麦粉まみれになること間違いなし。
ところで「ピザライス」とは何か。存じよりの方からのメールを待ちたい。
| <写真を拡大> なす入り(大阪の原さん提供) |
埼玉。この辺りは古くは小麦の産地なのでしょう? 粉モンの宝庫です。
最近「はまった」のが加須市の「加須うどん」。讃岐うどんとは対極の逸品で水分率が多く、プルプルした食感。ゆでたら30分以内に食べないと「ズルズルに融合」してしまうので、うどん玉として保存できないため、必ずゆでたてを出してくれるという面白いうどんです。
ここにはまったおかげで東村山〜武蔵野に分布する「黒っぽいうどん」などにも触れることができました。関東の小麦文化、侮れません。
卵あんかけ、ざるうどんの汁にナスが入ったもの、味噌だったか、ちょっと濁った汁のうどん、玉ねぎの天ぷら付きのざるうどんなど、結構バラエティーに富んでいます。
| <写真を拡大> 定休日?(大阪の原さん提供) |
続いては行田行脚の画像。某公園近くの店は運悪く定休日? 開店前? 早すぎた? 仕方ないので駅の近所の店に入ると…、ゼリーフライのほかに豆乳ゼリーの文字が…、良く見ると普通のゼリーの方でした。ああ、ややこしい。
行田のゼリーフライ、「おから」が主原料だそうで、非常に注目できます。環境問題から。というのも、近年「おから」の消費が減って余るため飼料にしたりして消費しているのですが、それでも余る(産業廃棄物扱い!)。でもでも、日本中でゼリーフライが流行すればおからが余ることにはならないでしょう。
| <写真を拡大> ゼリーフライとゼリー(大阪の原さん提供) |
おからの消費が落ち込んでいるのは、手間をかけないと美味しくないとか、昔と違って機械で絞るので豆乳成分が残っておらずうま味が乏しいとか、いろいろ聞きますが原因はいずこ??? 豆腐屋さん!教えて〜〜。
最後に某公園近所の駐車場の周りにある雑草の茂みの中に、野いちごを発見!(5月ごろです)
取って食べてみると「うまぁ〜〜〜」。甘酸っぱくて野生の味。思わず両手に一杯のイチゴを収穫して食べてしまいました。自然の宝庫。皆さんも埼玉へGo! (大阪の原さん)
| <写真を拡大> 野いちご(大阪の原さん提供) |
デスク 原さん、駒形屋さんは「不定休」なんです。僕も何度か「スカ」に遭ってます。でも、割り箸を串代わりにした駒形屋のゼリーフライ美味しいんですよね。
やっぱり実食編は粉まみれ確実。デスク、いまから覚悟してね。
それと行田ではゼリーフライとともにフライの方を探求してみたい。
正月を挟んだせいかメールが少ない。埼玉県には奥が深い食文化があるはず。ご関係の方々、振るってメールを。
では引き続き埼玉メールを待つ。マジで。
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