きょうの社説 2012年1月14日

◎改造内閣発足 政権浮揚にはつながらぬ
 発足した野田改造内閣は、だれが見ても「問題閣僚」の交代が主眼だったのは明らかだ ろう。特に参院で問責決議を受けた一川保夫防衛相と山岡賢次国家公安委員長兼消費者担当相が交代しないと、与野党協議はもとより、国会召集すらままならなかった。野党対策を最優先にした「問責改造」で、低空飛行を続ける野田政権が浮揚するとは思えない。

 脱小沢派の筆頭格で、消費税増税の推進論者でもある岡田克也前幹事長の副総理兼一体 改革担当相の起用は、更迭人事の印象を薄めると同時に、「党内融和」の看板を捨ててでも増税を進める決意の表れである。野田佳彦首相は増税シフトを一層強め、あらゆる犠牲を払ってでも正面突破を図るつもりなのだろう。

 だが、消費税増税は「超超円高」を放置し、デフレを加速させる。いまの日本経済には 薬どころか、劇薬にしかならない。増税一直線の道を突き進む限り、野田政権は大方の国民から見放され、遠からず解散・総選挙に追い込まれるのではないか。

 新任の防衛相は、外交・安全保障分野に詳しい人物が予想されていたが、同分野に精通 しているとは言い難い田中直紀参院議員が起用された。小沢グループに近く、「参院枠」を確保するための人事に見える。野田政権発足当初からほころびが見えていた「適材適所」の看板は、完全に色あせてしまった。

 また、死刑執行を拒んでいる平岡秀夫法相、脱税事件で逮捕歴がある男性との関係が指 摘されている蓮舫行政刷新担当相の交代は、国会で野党の追及を避けるための予防策としか思えない。

 今回の人事は昨年1月、菅直人首相が行った内閣改造にそっくりだ。問責決議を受けた 仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通相を交代させ、たちあがれ日本を離党した与謝野馨元財務相を起用した。問題閣僚の事実上の更迭と消費税増税をにらんだ人事だったが、菅政権は再浮揚することなく、辞任に追い込まれた。東日本大震災がなければもっと早く寿命が尽きていたはずである。消費税増税に固執する野田政権も早晩、同じ運命をたどりそうな予感がする。

◎千枚田の保全 担い手確保へ工夫重ねて
 世界農業遺産「能登の里山里海」を代表する白米(しらよね)千枚田(輪島市)が直面 している耕作の担い手問題は、棚田の景観を維持する難しさを浮き彫りにしているといえる。輪島市はことし、千枚田のオーナー会員の登録期限を撤廃して、「オーナー田」の増加に対応できる会員確保を図ることにしている。

 千枚田の美しい景観は、長年農業に携わってきた人々の営みを通じて形成されてきた。 耕作によって維持される景観だからこそ、世界農業遺産としての価値がある。今冬の千枚田はイルミネーションで彩る新たなイベントが冬場の誘客につながり、アイデア次第で農業遺産効果を引き出せることも実証した。地域が一丸となり、千枚田の担い手確保へ工夫を重ねてもらいたい。

 白米千枚田のオーナー制度は全国から会員を募って耕作してもらい、地元との交流やP Rにもつなげる取り組み。制度がスタートした2007年時点で、地元農家は4軒しかなく、そのうち1軒が昨年耕作を断念したことで「オーナー田」は従来の倍近くの265枚に増えた。オーナー会員は11年度実績で80人おり、世界農業遺産認定で会員の増加も期待されるが、残る3軒の農家も高齢化が進んでいて、担い手づくりが大きな課題となっている。

 千枚田は能登振興の起爆剤として期待される「里山里海」のシンボルであり、今後も持 続的に景観を守っていける仕組みづくりを進める必要がある。地元側の支援に加えて、オーナー会員やボランティアの一層の活用が欠かせず、千枚田の価値を広く発信することで、より多くの人々の参加を促していきたい。ボランティアなどの受け入れの際には、農家民宿群「春蘭の里」(能登町)などと連携して、「里山里海」の魅力を広域的に体験してもらうこともできる。

 同じく世界農業遺産の資産である「あえのこと」や揚げ浜式製塩なども、保存継承や地 域おこしに知恵を絞っている。農業遺産認定の追い風を大いに生かしてもらいたい。