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【2011年11月最新版】直近決算発表に基づくmixi、GREE、Mobage、Amebaの業績比較

 
国内4大ソーシャルアプリ・プラットフォーム、mixi、GREE、Mobage、Amebaを運営する4社の2011年7-9月期決算が出揃った。オープン化以降、独り勝ちの様相を呈していたモバゲーが停滞、急追したグリーが肉薄するという重要な四半期となった。今期は、特にその二社にフォーカスしてレポートしたい。

 

なお,この分析記事は,各社が投資家向けに公表している最新の決算報告,および広告代理店・クライアント向けに発行している媒体資料を主要な情報ソースとしている。また、ネットレイティングス社「Neilsen/NetRatings NetView」およびビデオリサーチインタラクティブ社「Mobile Media Mesurement」による視聴データ調査、さらに三菱UFJモルガン・スタンレー証券リサーチ資料「ソーシャルゲームの正体を探る3」も参考にさせていただいた。当記事では,それらの客観的な数値に基づき、できる限り公平な視点で、各社の業績やサービスを比較することを心がけている。
   
 
■ 各社の最新四半期(2011年7-9月期)、全社業績比較について

 

まず、各社の最新四半期決算資料に基づき、企業としての財務分析からはじめたい。

 

 【2011年7-9月期 全社売上および利益の比較チャート】

 

この中で「前期比」とは2011年4-6月期との比較、また「利益率」は営業利益率を示している。売上、利益ともDeNAがトップを維持したが、成長はついにストップし、前期比とほぼ同レベルとなった。一方でライバルのGREEは対前四半期ベースで売上を44%、営業利益を70%増加させ、圧倒的な成長力を見せつけた。特に営業利益ではDeNAを逆転、営業利益率にいたっては55%とDeNAを11%も上回り、GREE時代の再到来を予感させるパフォーマンスとなった。mixi、Cyber Agentはそれぞれ対前期比で見ると堅調に推移している。

 

ここ三年間の4社のSNS関連事業の売上成長を時系列で俯瞰すると次のようになる。

 

【2008年7-9月期 〜 2011年7-9月期までのSNS関連売上の時系列推移】 

 

なお、この図で1Qとは1-3月期、4Qとは10-12月期をあらわしている。グラフを見ておわかりの通り、MobageとGREEはこの三年間、壮絶な攻防を続けながら驚くべき急成長をとげてきた。2009年4-6月期、アバター不振などで苦しむMobageを携帯ゲームサイトとしては後発のGREEが一気に逆転する。それに対してMobageはオープン化で対抗、「怪盗ロワイヤル」などの内製ゲームを大ヒットさせて再度トップに浮上し、それ以降は圧勝状態となった。2010年10-12期には売上・利益ともGREEの2倍近くの差をつけMobageが独走していたが、それからわずか一年足らずでオープン化に成功したGREEがMobageをとらえつつある。

 
このSNS関連事業の売上を、課金売上と広告売上に分解して比較すると次のようになる。

 


【2011年7-9月期 SNS事業売上の比較チャート】
 
この四半期で最も成長したのは44%アップのGREE、続いて26%アップのAmebaだ。特に課金売上におけるGREEの成長は目覚しく、わずか半年で2倍近い伸びとなった。牽引したのは「ドラゴンコレクション」「ドリランド」に代表されるカードバトル型ソーシャルゲームの大ヒットだ。従来型ゲームと比較してそのARPPU(Average Revenue Per Payed Users、課金ユーザー1人あたりの月売上高)が50%ほど高いことに気づいたGREEは、内製ゲーム「ドリランド」を素早くカード型に対応させ、TOKIOを起用したテレビCMを大量に投入した。また同じくGREEのオープンゲーム・デベロッパーも素早くカード型ゲームシステムを採用、今やGREEゲームランキングのトップ10はすべてカード型が独占するに至っている。

 

なお、ソーシャルゲームは内製ゲーム(自社開発)、提携ゲーム(共同開発)、オープンゲーム(サードパーティ開発)の三種類に分類できる。Mobageを例にとると「怪盗ロワイヤル」が内製、「ガンダムロワイヤル」(DeNA + バンダイナムコゲームス) が提携、「戦国コレクション」(コナミエンタテインメント) がオープンとなる。Mobage、GREE課金売上のベースとなるコイン消費の内訳をゲーム種別に推定したのが下記のグラフだ。上図はMobage、下図はGREE、それぞれ2011年4-6月期までの時系列変化を示している。


【Mobage/GREE コイン消費の時系列推移 by 三菱東京モルガン・スタンレー証券】
  
情報元は三菱UFJモルガン・スタンレー証券、荒木正人氏の「ソーシャルゲームの正体を探る3」だ。GREE、Mobageのオープン化は順調にすすんでいる。特にGREEは開始1年でオープンゲーム比率48%にまで急成長。先行したモバゲーと同程度となった。mixiは100%オープンゲーム、Amebaは逆に100%内製ゲームで運営している。

 

なお、mixiはゲームに特化した「mixiゲーム」を開始する。現在、mixiアプリでトップのドリコム「陰陽師」は、GREE版よりもmixi版の方がARPUが高いとしている。mixiアプリは、Mobage、GREEと同じ Open Social アーキテクチャーを採用しており、先行ゲームの収益状況によってはMobage、GREEのゲームが大量に流れこむと予想され、その動向が注目される。11月14日、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、JPモルガン証券は「mixiゲーム」がmixiの課金売上高をアップさせる可能性が高いと見込み、投資判断を引き上げ、mixi株価が急騰する結果となった。(関連ニュース)

 

これらソーシャルゲーム・プラットフォーマーの成長に対して、ゲームデベロッパーの淘汰はさらにすすんでいる。開発力、ブランド力で大手ゲームメーカーの進出が目立つ他、ベンチャー系デベロッパーにおいても運用ノウハウ、自社ゲーム内広告、開発コストの効率化などで新規参入が困難になり、寡占化がすすみつつある。

 

 

■ 各サービスのARPU比較について

 

各社のマネタイズ特性を探るために,ARPU(Average Revenue Per Users、会員ひとりあたりの月売上高)を比較をしてみたい。次のグラフは、それぞれの売上高を登録会員数で割ったものだ。

 


【2010年10-12月期 〜 2011年7-9月期 ARPUの時系列比較】
 

ここ一年間のGREEのARPU向上が、そのまま業績につながっていることが一目瞭然だろう。ただしMobageの登録会員数には、PCベースでARPUの低いYahoo!モバゲーの会員を含んでいることに注意したい。特にカードバトル型ソーシャルゲームは、従来型ソーシャルゲームと比較してARPUが高く、GREEの急成長においてはその貢献が大きいだろう。

  

 

■ 各サービスのスマートフォン対応と海外展開について

 

各社とも積極的にスマートフォン対応をすすめている。4社のうち、機種別ページビューを公開しているmixiおよびAmebaの最新状況は以下のとおりだ。成長率は高いものの、ページビュー比率では7-8%程度に留まっている。Amebaはいまだに多機能電話のページビューも増加しており、堅調な成長が見受けられる。

 


 【2011年7-9月 機種別ページビュー比較】

 

 最後に海外展開の状況だが、積極的なMobage、GREEとも投資段階にあり、先行きを予測することは困難だ。GREEは買収したOpenFeintのユーザーをそのまま引き継ぎプラットフォームとして拡大する方針だが、Mobageは買収したngmocoの持つ「plus+Network」とは別の新プラットフォーム「Mobage」アプリをベースに、英語圏6ヶ国と中国での本格展開をする意向を発表した。この場合、ゼロからの会員獲得という高いハードルを乗り越える必要がある。参考まで、以下の図はGREE配下にあるOpenFeintの会員増加状況をグラフ化したものだ。

 

 

【2010年8月 〜 2011年6月 OpenFeintの累計会員数と月間純増数の推移】

 

スマートフォン上のゲーム開発についても両社のスタンスに相違が出はじめた。Mobageはスマートフォンにおける操作性やグラフィックを重視しアプリ版を積極展開しているのに対して、GREEはスマートフォンを多機能電話の延長上としてとらえ開発コストを低減する方針だ。歴史を振り返っても、Mobageが新市場・新技術を先行開拓する「ソニー型」だとすると、GREEは二番手参入する「松下型」戦略をとるケースが多く、スマートフォン展開においてもその傾向が見いだせるようだ。

 

 

記事執筆)  斉藤  徹 https://www.facebook.com/toru.saito

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斉藤徹

株式会社ループス・コミュニケーションズ代表。

1985年4月慶應義塾大学理工学部卒業後、日本IBM株式会社入社。1991年2月株式会社フレックスファームを創業、2004年4月全株式を売却。2005年7月株式会社ループス・コミュニケーションズを創業

現在、ループスはソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開している。「ソーシャルシフト」「新ソーシャルメディア完全読本」「ソーシャルメディア・ダイナミクス」「Twitterマーケティング」「Webコミュニティで一番大切なこと」「SNSビジネスガイド」など著書多数。講演も年間100回ほどこなしている。

掲載可能な講演実績(株式会社は省略、五十音順、2011年5月31日更新)は以下の通り。

・役員社員向け講演
アント・キャピタル・パートナーズ様、NHKエンタープライズ様、KDDI様、資生堂様、ディーツーコミュニケーションズ様、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム様、電通テック様、日本オラクル様、博報堂様、博報堂DYメディアパートナーズ様 他

・クライアント向け講演
IMJ様、アスキー総研様、ITマネジメントサポート協同組合様、ACフォーラム様、オプト様、グローバルコモンズ様、コミュニティデザイン様、ジークラウド様、情報通信研究所様、セールスフォース様、WBS2.0様、デジタルハリウッド大学様、ツイートアカデミー様、TechWave様、凸版印刷様、日経BP様、日本アドバタイザーズ協会様、日本カードビジネス様、日本システム開発様、保険サービスシステム様、マインドフリー様、丸の内ブランドフォーラム様、三菱UFJモルガン・スタンレー証券様、メンバーズ様 他 


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