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クリスマス:デート前の女性研修医、電車内で急病人救う

木通辰丸さん(右)に言葉を掛ける研修医の山室裕香さん=大阪府枚方市の関西医科大付属枚方病院で2012年1月12日午前11時10分、長谷川直亮撮影
木通辰丸さん(右)に言葉を掛ける研修医の山室裕香さん=大阪府枚方市の関西医科大付属枚方病院で2012年1月12日午前11時10分、長谷川直亮撮影

 京阪本線の電車内で先月25日、デートに向かう途中だった研修医の女性(24)が急性心筋梗塞(こうそく)で心肺停止状態に陥った男性に蘇生措置を施し、命を救った。電車を自動体外式除細動器(AED)のある駅に向かわせた機転が奏功。男性は快方に向かっており、12日午前に女性の見舞いを受けて「感謝感激です」と涙を流した。全身汗だくになり、デートに遅刻したクリスマス。だが、女性は喜びをかみしめている。「医師になって本当によかった」【牧野宏美】

 関西医科大付属枚方病院(大阪府枚方市)の研修医、山室裕香さん。当直明けの午後1時45分ごろ、同市内の光善寺駅に停車中の大阪市内方面行き準急車内で急病人のアナウンスを聞いた。駆け付けると、木通(きずし)辰丸さん(71)=同府寝屋川市=があおむけに倒れていたため、すぐ心肺蘇生を始めた。

 11月までの3カ月間、救命救急の研修を受けたばかり。ワンピースにロングブーツ姿だったが、自然と体が動いた。

 京阪電鉄では光善寺駅への救急車出動を要請していたが、山室さんは「一刻も早くAEDを」と判断。事情を乗務員に伝え、AEDを備えている一つ先の香里園駅に電車を向かわせた。通常1分程度で交代する心臓マッサージを車内で5分以上続け、同駅に到着するやAEDを操作。呼吸が戻った木通さんを救急車に引き継いだ。

 山室さんが医師を志したのは、中学時代に恩師が心臓発作で急死したのがきっかけ。悲しむことしかできずもどかしかった思い出から、緊急事態に備えようと心掛けたことが今回の救命につながった。

 同病院心臓外科で緊急冠動脈バイパス手術を受けた木通さんは順調に回復。「恩人」の見舞いに感動した様子で「当時のことは全然覚えていない。ありがたかった」と語った。山室さんは「元気そうでよかった。焦らずゆっくり治してください」と声を掛けた。

 医師である交際相手からも「よかったな」と褒められた山室さん。同病院の北沢康秀・救命救急センター長も「行動にちゅうちょがなく、判断も的確だった」と評価している。

 枚方寝屋川消防組合は山室さんらに感謝状を贈る予定だ。

 ◇使用した場合、生存率4倍

 AEDは強い電流を流してショックを与え、心臓の状態を正常に戻す器具。電源を入れ、音声ガイドに従って操作を行う。粘着式の電極パッド2枚を倒れた人の右胸の上と左横腹に張り、電気ショックの指示が出ればボタンを押す。並行して心臓マッサージを続けることも重要という。

 消防庁のまとめでは、09年の1年間に、心臓が原因で心肺機能が停止した瞬間を一般の人が目撃した症例は2万1112件に上る。このうち一般市民がAEDを使ったケースは583件で1カ月後の生存率は44.3%。これに対し、AEDによる処置ができなかったケースでの生存率は10.5%だった。昨年8月、サッカー元日本代表の松田直樹さんが練習中の急性心筋梗塞で急逝したが、練習場にAEDがあれば助かった可能性があるとの指摘もある。

2012年1月12日

 
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