きょうの社説 2012年1月13日

◎「幸せ度」1位 自己満足で終わらせずに
 石川県が独自に集計した「幸せ度」調査で全国トップに立った。昨年12月、法政大大 学院の坂本光司教授らが行って話題となった「幸福度ランキング」では、福井、富山に次ぐ3位だったが、「石川100の指標」を用いて対象項目を増やしたところ、順位が上がったという。

 手前みそのようで、いささか面はゆい気もする。それでも客観的な数値で示された順位 であり、石川県の住みやすさ、暮らしやすさを映し出す「診断書」である。単なる自己満足で終わらせず、企業誘致や観光政策などで「幸せ度」全国1位を、積極的にアピールしていきたい。

 また、評価の高さと住民の実感が必ずしも一致しないとすれば、どこにギャップがある のか、改善の手だてはないか、点検する必要もある。8分野100の項目別に、まだまだ不足している点を分析し、対策を講じるなどして改善していく努力が求められる。

 昨年11月、ブータン・ワンチュク国王夫妻が国賓として来日し、ブータン王国で実施 されている国民総幸福度(GNH)が話題を集めた。GNHは国内総生産(GDP)に代表される物質面の豊かさではなく、心の豊かさを重視した指標で、同国政府は「心の安定」や「自然環境」「地域コミュニティの活力」など9つの分野で、国民の充足度を高める政策に取り組んでいる。経済力は小さくとも、ブータンのように国民の9割が幸福を実感できる国は、一つの理想だろう。

 「幸せ度」調査で、石川は8分野のうち「教育と文化」で1位、「福祉と医療」が2位 、「生活」「安全」で3位に入り、「自然と人口」「財政」以外の6分野で上位5県に入った。2位は富山、3位は福井で、法大大学院の調査とちょうど逆になった。北陸3県はいずれも人口、経済規模ともに全国の1%にすぎないが、豊かな自然、生活文化の質の高さ、粘り強い県民性などの共通点がある。

 日本が成熟した国家へと移行していくなかで、ブータンのように、住民の幸福度や満足 度の向上を目指し、国策として取り組んでいく手法は、大いに参考になるのではないか。

◎アラブの春1年 「イスラム回帰」に懸念も
 中東の民主化運動「アラブの春」の先駆けとなったチュニジアのジャスミン革命から1 年を迎える。この間、民主体制へ移行する議会選挙が同国とエジプトで行われ、独裁政権下で抑え込まれていたイスラム主義政党が政治の主役に躍り出た。イスラム勢力の台頭は、国民の選挙に基づく民主化プロセスの進展を示すものであるが、厳格なイスラム原理主義者の主張は民主化と相容れない面があり、中東の新たな秩序形成の懸念材料ともいえる。

 昨年10月に行われたチュニジアの制憲議会選挙で第1党になったのは、ベンアリ前政 権時代に非合法化されたイスラム政党アンナハダで、世俗派政党との連立で新政府がつくられた。

 中東民主化運動の成否の鍵を握る地域大国エジプトでは、昨年11月末から足かけ3カ 月をかけて人民議会選挙が行われており、これまで穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団系の政党や厳格なイスラム原理主義の政党が躍進し、リベラル、世俗派は伸び悩んでいる。イスラム勢力の台頭はリビアでもみられる。

 独裁の全体主義からイスラム主義への回帰ともいえるこうした動きは、欧米や他のアラ ブ諸国の世俗派との間に摩擦を生む懸念も否定できない。実際、エジプトのムスリム同胞団系政党は、イスラエルとの平和条約を破棄する動きもみせている。ムバラク前政権時代のエジプトは、イスラエルにとって数少ない友好国であったが、エジプト新政府の判断次第で、これまでの安定した関係が一気に流動化する恐れもある。また、イスラム主義による政治は、「開かれた自由」を求めて民主化運動の先頭に立ってきた若者たちと対立する可能性も指摘されている。

 中東ではシリアも動乱が続いており、米国が外交・安保の軸足を中東からアジア太平洋 地域に移すという大きな変化もある。中東の民主化運動がどう落ち着き、地域秩序がどう形成されるか、石油エネルギーを頼る日本はむろん、国際社会にとって「中東リスク」に神経をとがらせなければならない状況がなお続く。