この3つの構造をひとつの大屋根として構成するためには、それらを統合する完璧なジオメトリーが必要だ。
右図はこの大屋根の曲面を決める幾何学的な定義図であるが、この図の中にこの大屋根の曲面のすべて、構造的な整合性、屋根仕上げの秩序、天井面の構成、部材の取り合う詳細、鉄骨加工の難易度などが決定づけられてくる。数十回の検討の結果、実施設計の最終段階で決定したジオメトリー図である。
トラスの上弦材と下弦材のジオメトリーが同心円でなはなく、それらが取り合う位置での詳細寸法の決定が作業を困難なものにしたが、結果的にはなめらかな構造の変化を実現できたと思う。なお、このジオメトリー図の中の最大曲率半径1,200mは、偶然ではあるが、J期工事の時の国際展示場の大屋根の緩やかなアーチ構造の曲率半径と同一である。
僕は、こういった曲面構造を実現するためには、その建築のあらゆる構成要素を考えたうえでのジオメトリーの決定がもっとも重要なことであると実感している。だから、ジオメトリーは誰かが最初に決めるのではなく、諸々の設計条件を組み込んだうえで設計の最終段階で決定するものだ。
しかも、技術的条件を組み込んだうえでのジオメトリーによって実現する空間形態は、ダイナミックで刺激的で、斬新なものでなければならないから、一番難しい問題でもある。図は大屋根の短辺96m方向について表したものだが、長手216m方向にも違う意味でのジオメトリーが必要であった。
いま、屋根構造の支点の位置を12mピッチで設定すると、屋根トラスも12mごとに架けたのでは、トラスの成も高くなるし、その間をつなぐ部材が大きくなりすぎてしまう。構造材が3mピッチ程度であれば母屋材も適切に設計でき、構造そのものも繊細に構成できる。そこで、支点の12m間隔を2分するトラスを割り込ませて主構造は6mピッチになるようにした。この中間のトラスは、支点に近づくと2分されて12mピッチの元のトラスに収斂される。さらに、トラスそのものを三角組みトラスにすることで水平面の剛性も獲得でき、屋根仕上げ材と取り合う上弦材の位置では、約3mピッチにすることができる。逆にいえば、3mから6m、12mと構造材が展開されていく過程で、複雑な部材の接合が発生することになる。
支点に近づくにしたがって、部材が立体的に接合される箇所が増加してくるが、こういった接合位置では鋳鋼品を利用した。力学的な力のやりとりが完全にできて、しかも、コンパクトな接合部は、必要な形状に一体成型できる鋳造の技術が適しているからだ。右写真はこの構造で設計した鋳鋼部品の一例であるが、大屋根からの3つの部材、バックステイの2本のセミパラレルワイヤケーブル、下からの支柱、合計6つの部材を一挙に接合する場合である。ここでの力のやりとりは軸力系であるから、ただ、1本のピンでそれらを接合できれば簡便である。その媒体として鋳造した鋳鋼品を用意するわけである。
鉄鋼橋梁では古来からよく利用されてきた技術を、建築に応用したものである。こういった考え方の部品をこの建物に多用して接合部を簡潔にしており、その設計が先のジオメトリーと関連してくるから、大屋根全体の構成と接合部というきわめて部分的な問題とを同時に解き明かしていくことが重要になってくる。