偽装請負摘発で経営実態が暴かれつつあるクリスタルがCMを流す意味
2006年10月12日
日経BPコンサルティングが毎年実施している「コーポレート・メッセージ調査」の本年度の結果が発表されました。今年で5回目となる本調査の結果を見た限りでは、消費者の抱く企業イメージには大きな変化はありません。 情報源は、『コーポレート・メッセージ調査、ロッテ、イメージ息長く「お口の恋人」5年連続首位』(日経流通新聞MJ 2006年10月6日)です。
メッセージの好感度を5段階評価してもらい、指数化した「好感度ランキング」をみても簡潔なものが多く、長年慣れ親しんだものが上位に入っている。「お口の恋人」「ココロも満タンに」に続き、昨年13位だった「味ひとすじ 永谷園」が33位に入った。永谷園は昨年10月からテレビCMで「サウンドロゴ」を導入。お茶づけ海苔の小袋からメッセージが「ササッ」と飛び出す内容が、消費者の印象に残ったようだ。
順位 | メッセージ | 企業名 | 好感度指数 |
---|---|---|---|
1(2) | お口の恋人 | ロッテ | 50.6 |
2(3) | ココロも満タンに | コスモ石油 | 44.5 |
3(13) | 味ひとすじ 永谷園 | 永谷園 | 43.3 |
4(1) | マチのほっとステーション | ローソン | 43.1 |
5(5) | おはようからおやすみまで くらしに夢をひろげるLION | ライオン | 39.5 |
6(6) | “あったらいいな”をカタチにする | 小林製薬 | 38.9 |
7(8) | 目の付けどころが、シャープでしょ。 | シャープ | 38.5 |
8(11) | うまい、やすい、はやい | 吉野家ディー・アンド・シー | 38.2 |
9(16) | 自然と健康を科学する | ツムラ | 37.6 |
10(17) | おいしくたのしくすこやかに | 森永製菓 | 36.4 |
やはり日常生活に密着した商品を提供している企業の好感度が高いようです。また、業界のリーダーである新日本石油やセブンイレブンよりも、コスモ石油やローソンの方が好感度が高いのも、面白い現象です。新日本石油に関しては、その企業メッセージ「Major Quality, ENEOS」に問題があるのかもしれません。
また英語を使ったメッセージは好感度ランキングでは少数派だ。50位までの中で英語のメッセージは2つしかない。ホンダの「The Power of Dreams」が37位で最高だった。企業名想起率で12位に順位を上げたマツダは昨年、「ZOOM―ZOOM(ズーム・ズーム)」だけのメッセージに、日本語の「もっと乗りたくなる。」を追加している。
日経BPコンサルティングの吉田健一氏は「分かりにくいメッセージは『訳の分からないことを言っている企業』という意図せぬ負のイメージを受け手に記憶させてしまいかねない。格好良さを意識して英語を使うのも逆効果な場合も多い」と指摘する。
分かりにくいメッセージは『訳の分からないことを言っている企業』という言葉から思い出したのは、昔見たエレベーターの中で大勢の人間が「クリスタル」と合唱しているだけのCMです。クリスタルスタッフのCMに関する分析については、過去の投稿『アピオス、クリスタルなど、ブランド名しか訴求しないテレビCMの効果』をご覧ください。
その時は「クリスタル」でググって、クリスタルスタッフという会社のホームページを見つけて、やっと同社が人材派遣会社であることを知った次第です。ところで、現在のクリスタルスタッフの、会社案内のページは、こんな具合になっています。
会社概要のページだけが「メンテナンス中」とはおかしな話です。実はクリスタルスタッフには、こんな事情があるのです。情報源は、『製造業の歪みが育てたクリスタルの“実像”』(週刊東洋経済 2006年10月14日 16~18ページ)です。
とうとう「知られざる最大手」の“心臓部”に、行政のメスが入った。
大阪労働局は10月3日、偽装請負を繰り返していたとして、人材サービス国内最大手、クリスタルグループの中核子会社「コラボレート」(大阪市)に対し、労働者派遣法に基づく事業停止命令と事業改善命令を出した。
コラボレートは、メーカーから製造ライン業務を受託する製造請負の大手。今年8月時点で違反行為が発覚した姫路営業所は10月4日から1カ月、残りの全国83営業所についても同2週間、新たに労働者を派遣できなくなる。
業務停止を命じられたので、会社概要のページも停止しているのでしょうか? 世間を騒がせているわけですから、会社の代表者が謝罪のメッセージを載せるのが、本来のあるべき姿のはずです。
以前に、廃棄物処理法(焼却禁止)違反を起こした男前豆腐のホームページでの謝罪のやり方について、投稿したことがあります(事件への対応を見る限り男前豆腐には男前と呼ぶに相応しい潔さがない)。同社の伊藤信吾社長のコメントの出し方を疑問視する内容でした。しかし、クリスタルとは違って、代表者自らがいち早く謝罪を公式に表明した男前豆腐は、褒められるべきであったと思い直しました。
話をクリスタルグループに戻します。当初はよくわからなかったクリスタルグループの企業実態が、相次ぐ不祥事によって徐々に明らかに成りつつあります。週刊東洋経済によれば、その正体はかなり怪しいもののようです。
1974年に前身の「綜合サービス」が京都市で設立されている。創業事業は自動車車体工場内の清掃業務。以来30年強で業績は急成長を遂げ、グループ従業員数は112万人を超える。創業オーナーである林純一氏は、裸一貫で5,000億円企業を生み出した“立志伝中の人物”だが、これまでマスコミにはいっさい登場していない。業務請負業界、派遣業界の業界団体にも非加盟。
クリスタルは昨春まで200社以上の子会社を擁してきた。「業務を細分化してのアメーバ方式という形態」(西山邦也クリスタル取締役)、つまりは同業種の子会社同士を競わせ、急成長を遂げてきた。グループ年商は1990年度の約540億円から、04年度には5,120億円へと10倍弱に成長した。
子会社はスクラップアンドビルドの繰り返しだ。京都本社ビルに入る子会社名も3年半前とは様変わりしていた。クリスタルのこうした方針には、同業他社の一部や労働行政から「是正指導・処分逃れ」との批判があったのは事実だ。
処分を逃れるために問題となった会社を潰して新しい会社を作る方法を、「アメーバ方式」と言い張るとは、「元祖アメーバ経営」で知られる京セラの稲盛和夫名誉会長が聞いたとしたら、激昂するのは間違いないでしょう。
京都のオーナー企業という点では京セラと同じですが、クリスタルの創業者林純一氏は今どき珍しい専制君主という点では、稲盛氏とは大きく異なります。ちなみに男前豆腐も京都のオーナー企業です。
自認するとおり、クリスタルグループは徹底した上意下達と、信賞必罰をもって運営されている。グループ全社は事実上クリスタル社が一人株主で、かつ創業者の林純一氏は事実上クリスタルの圧倒的支配株主だ。
クリスタルは「林純一氏の意思が全社で貫徹されるように、グループ企業の企業統治が行われるのは理の当然で何らの問題もなく、実質的にグループの人事決裁権を有している」と認める。
子会社社長の存在の軽さは言うまでもない。クリスタルグループでは「営業は日・週・月単位で新規契約の成果を追求される」(幹部)。社内通達によると昨年4月16日からの1カ月で新規契約がゼロだった4社の社長は、株主であるクリスタルの権限で解任された。業績不振のグループ会社社長には「業況を判断し、クリスタルの権限で即刻解任、降格・大幅減棒とする」との通達も出されている。
クリスタルという社名には程遠い不透明な実態の会社が、テレビCMを流して企業イメージの向上を図ろうと目論んだことが、そもそも大きな間違いでしょう。
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