「民主党は消費税(増税)は必要ないとのマニフェストで政権を取った。けじめをつけないと進めない」。税と社会保障の一体改革に関する与野党協議を拒否する理由を、自民党の谷垣禎一総裁はこう話している。「けじめ」とはもちろん、衆院を解散し、総選挙で信を問い直せという意味だ。
ごもっともではある。正確にいうと09年の衆院選で民主党が掲げたマニフェストには消費増税するとも、しないとも書いていない。ただし、新規政策に必要な財源は無駄の削減などでひねり出すと明記し、当時の鳩山由紀夫代表は選挙中、「消費増税はしない」と繰り返した。約束違反の罪は重い。
でも、いささかご都合主義ではないかとも思うのだ。何しろ政権交代して以来、ひたすら「マニフェストを見直せ」と迫ってきたのは自民党だ。「消費税率を10%に」も自民党がいち早く言ってきた。ところがその主張ものんで見直そうとすると、今度は「元々、見直す資格がない。もう一度選挙だ」という。これでは今後、どこが政権を取ってもやっていけない。
民主党を離党した9人が新党を作ったのも消費増税など「公約違反は許せない」が理由だった。民主党にとどまっている小沢一郎元代表や、そのグループも「マニフェストを守れ!」という。私からすれば、こちらはもっとご都合主義だ。この人たちは一体どれだけ約束を守るために努力したのだろうかと思うからである。
そもそも民主党内の一部に「本当に大丈夫だろうか」という心配があったにもかかわらず、「選挙で増税を掲げるのは愚かなこと」「政権交代し政治が変われば、いくらでも財源は出てくる」と財源話をおろそかにしたのは鳩山氏や小沢元代表らだ。その人たちが政権と距離を置いて批判ばかりするのは野党以上に無責任だというほかない。
「あれもやります、これもやります」という従来型公約から脱皮して、財源をきちんと担保し、必要と思えば国民の負担増になる政策も提示する、というのがマニフェストの原点だった。政治を取り巻く情勢は刻々と変わるのだから、見直すのも当然、「あり」だけれど、その時は、ちゃんと理由を説明し、次の選挙で有権者の審判を受ける。それがマニフェストのルールではなかったのか。
その基本を理解していない人ほど「マニフェストが大事」と口にしているといっていい。(論説副委員長)
毎日新聞 2012年1月11日 東京夕刊
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