PSVita、買っていい人、買ってはいけない人・・平林久和「ゲームの未来を語る」第27回
2012年1月11日(水) 16:06
Text by 平林久和(Hisakazu Hirabayashi)
地域だけではありません。知識や経験や生活スタイル、価値観の違いによってPSVitaは顧客を選びます。以下のチェックボックスのレ点がたくさんつくほど、PSVitaに満足をし、少ない人にとっては単なる高額なゲーム機になってしまうでしょう。
□自宅にWi-Fi環境が整っている
□インターネット接続が独力でできる
□USB、WEPキー、MP4などの最低限のコンピュータ用語が理解できる
□プレイステーション3を持っている
□トルネを持っている
□インターネット接続されたPCを持っている
□PSNのアカウントを持っている
□自分で決済できるクレジットカードを持っている
□PSNのクレジットカード以外の決済方法も知っている
□スマートフォン、またはタブレット型PCの利用経験がある
□ポケットWi-Fiを持っている
□人口密集地帯に住んでいるか、通勤・通学をしていてNearの機能を楽しめる
□無料アプリ、Twitterのアカウントを持っている
□無料アプリ、ニコニコ動画のアカウントを持っている
私はすべてチェックマークがつけられるので、PSVitaを使い倒しています。
今回のタイトル、PSVita、買っていい人とは、このチェックボックスにレ点を多くつけられる人のことです。代表例が大月の食堂のおかみさんですが、レ点がつけられない人は買ってはいけない人です。
■PC臭の体質改善
PSVitaがこれから売れていくためには、コンピュータに対する基礎知識(リテラシー)によって、評価が変わってしまう「満足度格差」を埋めるのが急務でしょう。
初期設定から、実際にPSVitaを使えるまでのフローチャート、ならびに表示メッセージは改善すべき点がいくつもあります。
PSVitaを買った。インターネット接続などは、後回しでいい。
購入者はすぐに遊びたい。その気持ちをくみ取ってあげなくてはいけない。
PSVitaを起動させると同時に、「ゲームを差し込んで遊んでみますか?」。
せっかくよくできた内蔵アプリケーションがあるのですから、「ウェルカムパークに行ってみますか?」。
そんな導線が敷かれているのが自然です。
月並みな手法ですが、PSVitaでどんなことができるか、ツアーと称した動画解説が流れるだけでも、初対面の印象は格段と変わってくるはずです。
スクロールして長い利用規約を読んで、「同意」のボタンを押すのは、PSVitaと購入者がある程度仲良しになってからでも遅くはないでしょう。
あと、これはセットアップ終了後、つまりすべてのユーザーが、いつも見る画面なのですが、ロゴ表示のあとの「ご注意:取扱説明書に書かれている健康と安全についての注意事項をよく読んで‥‥」の表示は、必要なのでしょうか。PSVitaは人間に害悪を与える機器であるかのようです。
百歩譲って、どうしてもこの類の警告文が必要だとしたら、黒背景に白文字、しかも起動時ではなく、ウェルカムメッセージの後に、さりげなく言うような演出にならないものなのか。
米国、訴訟社会で生まれたあのWindowsでさえ「ようこそ」と言ってくれるのに、エンタテインメント機のPSVitaの「ご注意」は、いかにも無粋です。
細かいことを言っているようですが、これはPSVitaと利用者の関係がどうありたいのかを示す、重要な問題です。もし、PSVitaにかかわる事故が起きても、メーカーは警告文を表示している。訴訟を起こされても負けないための物言い、に見えます。
インターネット接続。
アクセスポイントのパスワードを入力してください。
わかる人にとっては何の苦もないことですが、「そのパスワードとやらはどこに書いてあるの?」と右往左往する購入者は、きっといるはずです。SSID(Service Set Identifier)の下に、「無線を識別するための記号です」と書いてあれば、それが何のことか戸惑う人が、少しは減るでしょう。
私が冒頭で「スマートフォン、またはタブレット型PCの利用経験がある」という項目を入れたのは、3G回線のオン・オフが、利用シーンによって使い分けることができるか? の意味が込められています。[設定]→[ネットワーク]→[モバイルネットワーク設定]→[モバイルネットワーク?]の右のボタンをタップすれば、ムダに3G回線を使った接続をしないですみます。これもわかる人にとってはわかる概念であり、見慣れた画面です。ですが、四国に住んでいる98.3%の人は理解に苦しむでしょう。
例を挙げればきりがないのですが、PSVita。
ようは、ソニーのVAIOやXperiaとは違うお客さんが使うのだ、というポリシーをはっきりと示した、次期システムバージョンアップに期待します。
ここで終わるのが文章のキレはいいのですが、まだ書きたいことがあります。
改良すべき点のきわめつけは、コンテンツ管理ソフトのダウンロードの手順です。
画面にはこう表示されます。
パソコンにコンテンツ管理アシスタントを必ずインストールしてから、USBケーブルでPSVitaを接続してください。コンテンツ管理アシスタントは以下のサイトからダウンロードできます。
http://cma.dl.playstation.net/cma/
ダウンロードサイトがブラウザでURLを手入力する仕様になっています。
これでは大月市の食堂のおかみさんは、一生、PSVitaでビデオや音楽を楽しめないでしょう。
コンテンツ管理アシスタントは、PSVitaではなくPCにインストールするソフトです。
たとえば、PSVitaの公式サイトに、わかりやすくダウンロードサイトへのリンクが貼られていればサイトアクセスが増え、購入者の手間は省けます。
PSVitaの発売時、フリーズ問題が起きました。
他メディア、インターネット掲示板等では、大騒ぎになりました。
もちろん、好ましからざることですが、初期不良は人の病気の診断に似ています。指摘箇所=患部を手術すれば治癒できます。
病気の診断は他の方たちに任せるとして、私は体質の話をしました。
私はPSVitaに、そこはかとなく漂うPC臭(「ぴーしーしゅう」と読んでください)が消されていく、体質改善を望んでいます。
■著者紹介
平林久和(ひらばやし・ひさかず)
株式会社インターラクト(代表取締役/ゲームアナリスト)
1962年・神奈川県生まれ。青山学院大学卒。85年・出版社(現・宝島社)入社後、ゲーム専門誌の創刊編集者となる。91年に独立、現在にいたる。著書・共著に『ゲームの大學』『ゲーム業界就職読本』『ゲームの時事問題』など。現在、本連載と連動して「ゲームの未来」について分析・予測する本を執筆中。詳しくは公式サイト 、公式ブログ もご参照ください。Twitterアカウントは@HisakazuH です。
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