きょうの社説 2012年1月11日

◎「平家」で地域振興 ふるさとの遺産再認識を
 石川県内で「平家」ゆかりの地を発信して地域おこしにつなげる動きが広がっている。 ことしのNHK大河ドラマ「平清盛」に合わせて、輪島、珠洲両市が連携して「平家の里」を全国にアピールする取り組みや平家にちなんだ商品開発などが進んでいる。

 県内には平家や源氏にまつわる土地が多い。ことしは各地で名所旧跡や伝承などを活用 した地域振興策を進める好機であるが、観光誘客にとどまらず、地元の人々が郷土の歴史や文化伝統に理解を深め、現在や将来のふるさとの姿について考える機会にしてもらいたい。

 2002年放映の大河ドラマ「利家とまつ」の場合は、日銀金沢支店によると県内で7 86億円に上る経済効果をもたらしたが、何よりも郷土を学ぶ「ふるさと教育」の機運が盛り上がったことに大きな意義があった。05年からは「金沢検定」が実施され、幅広い層の金沢に対する関心の高まりが、「歴史都市」金沢のまちづくりを支える力になっているといえる。

 今回の「平家」に関連する地域振興策も一過性のブームに終わることのない取り組みが 求められている。それによって北陸新幹線金沢開業に向けても、観光業界だけでなく、県全体の「もてなし力」が向上するだろう。

 平時忠(ときただ)の配流(はいる)の地である能登では輪島、珠洲両市が平家ゆかり の地を巡る誘客策などに力を入れている。「食」もテーマになっており、大河ドラマと「能登の里山里海」の世界農業遺産認定の追い風を生かして地域おこしにつなげていきたい。

 小松市では、ことし5月のお旅まつりの曳山(ひきやま)子供歌舞伎で平清盛が寵愛( ちょうあい)した「仏御前(ほとけごぜん)」の物語が上演される。各地の源平にまつわる魅力を掘り起こすことは、地元の歴史遺産を再認識するきっかけにもなる。

 源平の物語に関しては、木曽義仲、巴(ともえ)御前を主人公とした大河ドラマの誘致 運動も行われている。津幡町などのゆかりの自治体が連携して活動しているが、これも郷土を学ぶ取り組みとともに推進してほしい。

◎小沢氏被告人質問 「秘書任せ」では疑惑晴れず
 「全国民に開かれた法廷で真実を述べる」。国会や会見での詳細な説明を拒み続けてき た際の言葉を思い起こせば、東京地裁で始まった小沢一郎民主党元代表の被告人質問は、真実を明らかにしたとは到底思えない。「(秘書に)一切任せていた」と繰り返すその姿からは、むしろ責任逃れの印象がぬぐえなかった。

 資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる虚偽記載事件で強制起訴された小沢氏の公 判は、被告人質問で最大のヤマ場を迎えた。元秘書3人は昨年9月、一審で有罪判決(控訴中)を受けた。判決では、小沢氏公判の前提となる虚偽記載が認定され、ゼネコンから裏献金を受け取り、小沢事務所が談合で「天の声」を出していたことにも踏み込んだ。

 元秘書の判決で一層深まった疑惑に小沢氏はどう答えるのか。公判では秘書との共謀の 有無が最大の争点となったが、小沢氏は「担当に任せていた」「すべては秘書の裁量内」などと繰り返し、仮に不手際があっても、それは秘書の責任と言わんばかりだった。

 刑事裁判である以上、無罪を得るための法廷戦術は被告人としては当然だろう。だが、 そのことだけに終始し、土地購入資金となった4億円の原資をめぐる供述の変遷など、肝心な点に触れようとしないのは極めて残念である。

 法廷戦術が功を奏し、仮にシロと認定されても、小沢事務所の巨額資金の背後にある数 々の疑惑は果たして晴れるだろうか。小沢氏の法廷での供述を聞く限り、司法の限界も思わざるを得ない。

 陸山会事件のほか、小沢氏には旧新生党の資金をプールしていた政治団体「改革フォー ラム21」の不透明な資金移動など、政治資金処理をめぐる疑惑は他にもある。

 収支報告書の管理を秘書に委ねる理由として、小沢氏は「私の関心事は天下国家のこと 」と語った。だが、国民の間で高まった「政治とカネ」をめぐる不信感を自らの手で取り除かない限り、どれだけ天下国家を論じても、その言葉には信頼が伴わないだろうし、言葉を実行するための政治基盤も取り戻せないだろう。