新年明けましておめでとうございます!
隼樹「魔法熟女サンダープレシア」
プレシア「凡人のマジックライフ」
二人「今年もよろしくお願いします!」
隼樹「……言ってみて実感したけど、か~な~り、恥ずかしいタイトルですね」
プレシア「……そうでしょう?」
クリスマス、大晦日と時が過ぎて、年が明けて元日の朝を迎えた。
外を出れば、初詣に向かう人達の姿が見える。普段着だったり着物を着たりと、それぞれの恰好で新しく始まる一年を良き年にしようと神社にお参りするのだ。初詣が習慣化された歴史は実はそれ程古く無く、明治時代中期と言われている。
まあ、細かい歴史の事は置いておこう。家族連れ、友達同士、恋人同士で道を歩く中に、林隼樹の姿があった。
「うぅ~! 寒ぃ~! もう、帰りましょうよ」
「何言ってるのよ、隼樹。まだ家を出たばかりで、初詣とやらを済ませてないでしょう?」
白い息を吐いて寒さに震え、帰りを訴える隼樹の横を歩くのはプレシア・テスタロッサ。
今日の彼女は、いつもの洋服では無く、正月らしく着物を着ている。イメージカラーに合った淡い紫色で、長い黒髪を後ろに結いでいる。夏祭りの時に確認済みだが、本当にプレシアは着物もよく似合う。日本人も顔負けで、和風美人の魅力を醸し出している。
「いやだって、超寒いじゃないですか~! こんなの、人間が出歩いていい気温じゃないですって……」
「情けないわね。アリシアを見習いなさい。貴女より幼くても、元気で居るじゃない」
「寒いけど、お母さんとお兄さんとお出かけ出来て楽しいよ!」
元気に答えるのは、プレシアの娘のアリシア・テスタロッサである。
母親と違って長い金髪を後ろに下げて、妙に大人びた印象を受ける。着物はお気に入りの青色で、子供らしい可愛らしさも備えている。
ホントに、親子揃って抜群の魅力を発揮している。
お陰で、普段着で出てきた隼樹は、只でさえ地味なのに余計に見劣りしていた。まあ、だからと言って悲観する事は無い。自分がプレシア達と釣り合っていないのは、最初から解っている事だ。
それにプレシアのような美人と一緒に歩いて、周りの人達の注目も集まって、軽い優越感に浸れる。
しかし、調子に乗っていたのも、最初の頃だった。
外の凍るような寒さに、早くも隼樹は神社に向かう足をUターンしようとした。が、そのたびにプレシアに止められ、連れられている。
「アリシアが元気なのは、子供だからですよ。ミッドチルダでは言いません? 子供は風の子って」
「似たような言葉はあるけど、隼樹は男でしょう? これしきの寒さで根を上げないの」
母親臭く叱ってくるプレシアに、思わず隼樹は「お母さん?」と呟いた。
愚痴を混ぜた雑談をしながら、三人は道を歩き、目的地の神社に到着した。
訪れた地元神社には、沢山の参拝客で溢れていた。こんなクソ寒い中ご苦労な事だ、と隼樹は心中に呟く。もっとも、自分もその中の一人だが。
参拝客の列に並ぼうとして、見知った顔が目に入った。
「影地さん、リインフォースさん」
「どうも」
一行の前に居たのは、着物姿の影地静香とリインフォースだった。プレシア親子同様に、見事に着物を着こなしている。
両者は向かい合って、新年の挨拶をした。
「明けましておめでとうございます」
「おめでとうございます。今年も、よろしくお願いします」
綺麗な花柄模様が縫われた黒い着物姿で、リインフォースは挨拶を返した。
基本的に無口な静香は、丁寧に頭を下げて返事をする。
ふとプレシアは、静香の弟が居ない事に気付いた。どうして一緒じゃないのか尋ねようと思ったが、疑問の答えはすぐに察しがついた。おそらく、夏祭りの時と同じで、人混みを嫌って家に引き籠もっているのだろう。
「それじゃあ、皆でお参りしましょう」
リインフォースと静香の二人を加えて、参拝客の列に並んだ。
しかし、と隼樹は周りに居るプレシア達を見て改めて思う。気が付けば、自分は凄い事になっている。二十年以上彼女居ない歴を更新してきたが、突然、次元の壁を超えてやってきた親子との出逢いをキッカケに随分と賑やかに、そして美しく彩られている。正直、凡人で地味な自分には、勿体無い人達だ。でも、出逢えた事で彼女達の未来を変えて、自分自身も何かが変わった気がする。
平凡な日常も劇的に変わり、間違い無く幸せな日々を送っている。
そんな事を思ってると、自分達の番が回ってきた。
賽銭箱に小銭を入れて、参拝した。両手を合わせ、神社の前でお祈りする。
ややあって、一行は神社の前から離れた。
「隼樹、何をお願いしたの?」
帰り道の途中で、プレシアに神社の前でした参拝の内容を訊かれた。
「え? いや~」
隼樹は目を逸らして、恥ずかしそうに頬を掻く。とてもじゃないが、他人の前で言えるような事では無い。二人っきりの場合でも言い辛いのに。
「……言わなきゃダメですか?」
「ええ、教えてほしいわ」
微笑みを向けてくるプレシアに、悩む隼樹。
こうもプレシアに求められると、何だか断れないのである。コレも、惚れた弱味と言うヤツだろうか。観念した隼樹は、寒い中にも関わらず頬を赤くして内容を口にした。
「その……プレシアさん達と、これからもずっと居られますように……と」
「そう」
語られた内容に、プレシアは少し照れながらも、嬉しそうに笑った。
アリシアとリインフォースも、同様の願いを内に抱いていた。
静香は例の如くプレシアの眩しい笑顔を、カメラのレンズに収めようとしたが、今回は心の中に焼き付けるだけに思い止まり、カメラをしまった。
今度は、隼樹がプレシアに尋ねた。
「プレシアさんは、何を願ったんですか?」
「ん? 私?」
問われたプレシアは、顎に手を置いて考える仕草をする。
少し焦らされた後、プレシアは意地悪な笑みを浮かべて答えた。
「内緒よ」
「ええええっ!? そんな~! ズルいですよ、俺だけに答えさせといて……!」
自分だけ恥ずかしい思いをさせられ、隼樹は少しいじけた。
そんな彼の横を歩くプレシアは、初めて出逢った頃の事を思い出す。突然、部屋に現れた自分達を戸惑うつつも受け入れ、更には好きだと告白までしてきた男。過去に犯した罪を話しても、拒絶する事無く傍に置いて、幸せになって欲しいと願ってくれた。失われた都では無く、この世界に流れ着いて良かったと心の底から思う。今の幸せがあるのは、全て彼のお陰なのだから。
幸せと感謝の念を抱いてるのは、隼樹だけではない。
プレシアは、そっと隼樹の手を握った。不意を衝かれた隼樹は、赤い顔を向けた。
彼の隣には、同じく頬を朱に染めながらも、この上なく幸せそうな笑顔のプレシアの顔があった。
「隼樹……ありがとう!」
「え? 何すか、急に……?」
「ううん。何でも無いわ」
──家族皆で、いつまでも幸せに暮らせますように。
願いを胸に、プレシアは新しい家族との歩みを進めた。
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