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前回までのあらすじ

隼樹「プレシアさんの水着姿が、もうたまらなかったです」

プレシア「それより、新しくなった小説のタイトルだけど……何とかならないのかしら? 正直恥ずかしいわ」

隼樹「……じゃあ、『リリカルプレシア』にしますか?」

プレシア「そういう問題じゃないわよ」
平凡世界編
第13話:夏祭
 時刻は夜の六時を回ろうとしていた。
 家の玄関前で、隼樹は一人何をするでもなく突っ立っていた。中で着替えをしてるテスタロッサ親子を待っているのだ。
 今夜は町で夏祭りが開かれ、隼樹が二人に誘ったのである。祭りの誘いを受けると、プレシアは「着替えるから少し待ってもらえるかしら?」と隼樹を待たせて現在に至る。
 夏祭りで着替えると言ったら、一つしかない。浴衣だ。
 果たして、プレシアの浴衣姿はどんなものだろうか、と隼樹は想像しながら待っていた。ちなみに、隼樹は普段通りの恰好だ。
 すると、後ろの玄関が開いた。

「お待たせ」

 声をかけられた隼樹は、待ってましたと言わんばかりに振りかえり、テスタロッサ親子を見た。
 その瞬間、隼樹は呆けた顔になった。

「ど、どうかしら?」

 照れくさそうに頬を赤くさせる、浴衣姿のプレシアが立っていた。
 白い生地に鮮やかな紫色の花が所々に縫われた浴衣を見事に着こなし、普段は下ろしている黒髪は後ろで結い上げている。異世界人であるハズのプレシアは、今この時は完全な和風美人になっていた。
 隼樹は完全に見惚れ、感想を言う事を忘れていた。
 沈黙する隼樹に、再度プレシアが声をかける。

「隼樹?」
「え……? ああ、すみません。その、似合ってます。とっても」
「ありがとう」

 隼樹の感想に、プレシアは嬉しそうに微笑んだ。

「お兄さん、私は?」

 続いて、プレシアの横に立つアリシアが尋ねてきた。
 青色の生地の浴衣には、色んな種類の花で彩られており、子供のアリシアにピッタリな明るいデザインをしている。金髪もいつものツインテールでは無く、ストレートに下げている。色鮮やかな容姿は、大人とはまた違った魅力を纏っていた。

「うん。アリシアも、似合ってるよ」
「えへへー! ありがとう!」

 褒められたアリシアも、嬉しそうに満面の笑顔を見せる。
 本当に二人は、浴衣がよく似合っている。もしかしたら、日本人以上に着こなしてるかもしれない。
 そんな事を思いながら隼樹は、二人を促した。

「それじゃあ、行きましょうか」
「ええ」
「うん!」

 三人は手を繋いで、祭りに向かった。


     *


 祭りが開かれてる通りは、既に大勢の人で賑わっていた。
 通りの両端には屋台の列が並んでおり、賑やかな喧噪に混じって香ばしい匂いを漂わせている。いかにも祭りと言った雰囲気が出来上がっていた。

「わああああ! 凄い!」

 初めての祭りを目にして、アリシアは目をキラキラと輝かせていた。
 プレシアも、人混みの多さと夜の中での活気に、驚いて目を丸くしている。彼女も、祭りと言う文化を目の当たりにするのは初めてなのだ。

「物凄い人の数ね」
「ビックリしました?」
「ええ」

 日本に来てそれなりに経つが、まだまだプレシアの知らない事で満ち溢れているのだ。

「じゃあ、早速出店を回りましょうか」
「ええ。アリシア、手を放しちゃダメよ?」
「はーい!」

 はぐれないように繋ぎ、三人は人混みの中に入っていった。
 賑わう通りには、様々な出店があって目移りしてどれにしようか迷ってしまう。それに、予想以上の人混みに圧巻していた。二人が祭り初体験と言う事もあって、隼樹が選択する事にした。

「アレ食べましょうか」

 隼樹が選んだのは、チョコバナナだった。
 剥き出しのバナナに、甘いチョコをコーティングした祭りの名物の一つだ。
 隣の親子も目を引かれ、屋台の前までやってきた。

「すみませ~ん。チョコバナナ三本お願いします」
「はいよ!」

 周囲の喧騒に負けない声を上げ、屋台のオヤジが応えた。
 目の前の台に刺してある出来上がってる中から三本抜き取り、隼樹達に手渡す。受け取った隼樹が代金を支払うと、屋台のオヤジが何気なく言った。

「それにしても、その年で家族連れで祭りに来るなんて珍しいな」
「え?」

 屋台のオヤジの勘違いに、隼樹とプレシアは同時に声を上げた。
 互いに顔を見合わせ、複雑な笑みを浮かべる。正直に言うべきか、適当に話を合わせるべきか迷っている時だった。
 二人の間に立つアリシアが、可愛らしい声で言った。

「違うよ。お母さんとお兄さんは、付き合ってるんだよ」
「え?」
「ア、アリシアっ!?」

 アリシアの口から事実が告げられ、屋台のオヤジは目を見開き、プレシアは動揺して顔を赤くさせる。
 隣に居る隼樹も、言葉を失っていた。
 そんな二人を交互に見て、屋台のオヤジは豪快に笑い出した。

「ははははは! そうか、そうか! ソイツは悪かった、お嬢ちゃん! しかし、兄ちゃんもやるねぇ! 粋だねぇ!」
「あ、あははは……!」

 隼樹は恥ずかしさで赤くなった顔で、笑い返すだけだった。
 プレシアはと言うと、真っ赤になった顔を俯けて黙り込んでいた。


 チョコバナナの屋台を後にしたプレシアと隼樹は、妙な気恥ずかしさを感じていた。赤の他人に付き合っている事を知られるのが、こんなに恥ずかしい事だとは思わなかった。年の差が離れ過ぎてると言うのもあるのだろうが、とにかく恥ずかしい。
 いまだに顔を赤くさせてる二人の間で、アリシアは美味しそうにチョコバナナを食べている。
 プレシアと隼樹は、チョコバナナをかじりながら、互いにチラチラと黙って視線を交わしていた。
 気まずい沈黙を破ったのは、プレシアだった。

「じゅ、隼樹……その、ごめんなさいね」
「え? いやいや、プレシアさんが謝る事無いですよ! それに、別に何か悪い事した訳じゃないですし……! まあ、ちょっと恥ずかしかったですけど……。いいじゃないですか。だって、その……こ、恋人同士なんだし……」
「そ、そうね……そうよね」

 気を取り直して、一行は祭りを楽しむ事にした。
 たこ焼き、林檎飴、わたあめと屋台を回って祭りを楽しんでいった。屋台を回る度に荷物が増えていき、アリシアなんかは、頭にキャラクターのお面、右手にフランクフルト、左手に風船人形とお祭りの完全武装を完成させていた。
 隼樹も焼きそばを食べ、プレシアはかき氷を食べつつアリシアが迷子にならぬよう注意して見ている。
 テンションを高くして、子供らしくはしゃぐアリシアは次の屋台を発見した。

「お母さん、お兄さん! 次アレやろう!」

 アリシアが指差したのは、射的屋だった。
 屋台の中には、ぬいぐるみや飴の入った缶等の景品が並べられた棚が置かれてある。
 お金を払い、五発のコルク弾が渡された。射つ位置が高いので、プレシアがアリシアの体を持ち上げて調節した。隼樹が台に置かれてる射的銃に玉を詰めて、アリシアに手渡す。狙いを定めて、引き金を引く。パンッと音を立てて放たれたコルク弾は、狙ったぬいぐるみを大きく外れてしまった。

「あ~、外れちゃった」

 残念そうに呟くアリシア。

「まだ弾は四つ残ってるから、今度はもっとよく狙って」
「うん」

 母親に励まされ、アリシアは再チャレンジした。
 しかし、結局ぬいぐるみはゲット出来なかった。当たりこそしたが、景品を倒す事が出来なかったのだ。アリシアは、落ち込んで少し表情を暗くしてしまう。

「よし、次は俺がやるよ」

 隼樹がリベンジに名乗りを上げた。
 射的は久しぶりだが、的であるぬいぐるみは結構大きめなので当てる事くらいは出来る。構えて狙いを定め、コルク弾を発射する。コルク弾は頭に当たったが、あまり位置はズレなかった。続けて二発、三発と射ったが、隼樹もぬいぐるみを倒す事が出来ずに終えた。

「くぅ~! もう一回!」

 悔しくて再チャレンジしようとした時、後ろから肩を掴まれた。

「え?」

 プレシアかと思い、振り向いた先には予想外の人物が居た。

「か、影地さん!?」

 隼樹の肩を掴んだのは、浴衣姿の影地静香だった。
 その後ろに、もう一人女性が居るのに気付いて、プレシアも意外そうな声を上げた。

「リインフォース! 貴女まで……」
「どうも」

 軽く頭を下げ、リインフォースは挨拶した。
 彼女も浴衣を着て、祭りに参加していた。黒の浴衣を着て、長い銀髪がよく映えている。

「貴女達も来ていたの?」とプレシア。
「はい。その……静香が、プレシア女史達が祭りに出掛けると知って、一緒に連れて来られたんです」
「えっ!? じゃあ、まさか、ずっと俺達の事つけてたんですか?」

 驚く隼樹の問い掛けに、静香は無言で頷いた。
 今まで何度もプレシアが居る所に出没してきたので、この遭遇も当然と言えば当然の事だった。
 しかしプレシアは、別の意味で驚いていた。元は技術者であるが、プレシアは高ランクの魔導師でもある。その自分が、近くに潜んでいたであろう静香の気配に全く気付かなかったのだ。
 この()何者? とプレシアが疑問を抱く中、静香は射的にチャレンジした。
 プロのスナイパーのような構えをして、アリシアと隼樹が狙ったぬいぐるみに銃口を向けた。そして、引き金を引いてコルク弾を発射した。ぬいぐるみに命中して、少し後ろにズレた。続けてコルク弾を射ち続け、最後の五発目で見事にぬいぐるみを倒した。

「おおおお! 倒したァァァ!」
「影地お姉さん凄い!」

 隼樹は驚きの声を上げ、アリシアは飛び跳ねて感激している。
 大きな標的を倒すのには狙うべき箇所があり、静香は完璧にその特定の箇所を射っていた。
 射的屋のオヤジから景品であるぬいぐるみを受け取った静香は、流れ作業のような動作でアリシアに差し出した。

「いいの?」

 相変わらず無言で縦に頷く静香。

「ありがとう、影地お姉さん!」

 嬉しそうにぬいぐるみを受け取り、アリシアは笑顔でお礼を言った。ちなみに、貰った景品は赤い目が可愛らしい兎のぬいぐるみだった。

「私からもお礼を言うわ。静香、ありがとう」

 母親のプレシアも、感謝の意を伝えた。
 すると、静香は頬を赤くさせて頷いた。そして彼女に背中を向けて、拳を固めて密かにガッツポーズをした。
 ああ、なるほど、と隼樹は納得した。要するに、娘の欲しがってる景品を取ってあげて、プレシアから礼を言われたかったのだ。

「ホントにプレシアさんが好きだな、影地さん」
「そうですね」

 リインフォースも同意する。
 そんな中、ふとプレシアはある事に気付いた。

「そう言えば、弟さんの恭介君は一緒じゃないのかしら?」
「恭介なら、家に残ってます」と答えたのはリインフォース。
「どうして?」
「人混みが嫌いなんですよ」

 代わりに答えたのは、隼樹だった。
 しかし、プレシアは腑に落ちなかった。

「でも、人の多い秋葉原には来てるじゃない」
「アイツにとって、秋葉と普通の祭りは別物なんですよ」
「そういうモノなの?」
「そういうモノです」

 隼樹の答えにプレシアは、納得したようなしないような、とりあえず頷いてみせた。
 一名を家に残して、ある意味必然的に揃った五人で祭りを回った。


     *


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、静香達と別れた隼樹とプレシアは帰路についていた。アリシアは遊び疲れたようで、母親の背中で静かな寝息を立てて眠っている。
 静かな夜道を歩きながら、隼樹は訊いた。

「プレシアさん、初めての夏祭りはどうでした?」
「ええ、私もアリシアもとっても楽しかったわ。誘ってくれて、ありがとう」
「いえ」

 プレシアの笑顔を見て、隼樹も嬉しそうに笑った。
 家に着き、玄関を開けて中に入る。今夜は遅く、アリシアは疲れて眠っているので風呂は明日にする事にした。隼樹の家族は、先に寝ていた。静かに階段を上がり、部屋に入ってアリシアをベッドに寝かせた。

「私はお風呂に入るけど、貴方はどうする? 先に入る?」
「あぁ……」

 訊かれた隼樹は、何故か恥ずかしそうに返事の言葉を詰まらせた。
 何だかソワソワした様子の隼樹を、プレシアは不審に思って首を傾げる。
 ややあって、意を決したように隼樹は赤くした顔で言った。

「その……プレシアさん、お願い聞いてくれますか?」
「何かしら?」
「あの……」

 しかし、恥ずかしい内容なので、なかなか言葉を口に出せない。
 ──ああ、もう言え! 早く言っちまえ!
 言いそびれてしまうと、時間が経つにつれて余計に言い辛くなってしまう。今しかチャンスは無いと自分に言い聞かせ、思い切って要求した。

「ゆ、浴衣姿のプレシアさんと、その、抱きたいです!」
「えっ!?」

 聞いた途端に、プレシアの顔は熱くなり、真っ赤になった。

「ま、また貴方はそんな事を……!」
「う……す、すいません」

 プレシアに軽く叱られ、隼樹は項垂れた。
 しかし、叱ったプレシアだったが、実はまんざらでもなかった。普通なら、こんなオバサンを相手にする男はそうは居ない。けど、目の前に居る男は自分を求めている。内心では、その事がたまらなく嬉しく思っていた。
 プレシアは歩み寄り、項垂れてる隼樹の頬に両手を添えて顔を上げた。
 そして、

「んっ……!」

 隼樹の口に、自分の唇を押し当てた。

「ふぅ……ちゅう……んふぅ……」

 身体を抱き締めて、胸を押し当てる形になり、ディープなキスをする。舌を滑り込ませ、彼の口内を舐め回す。
 赤くなった顔だけでなく、キスを続ける二人の重なる身体も火照っていた。
 淫らな音を部屋に鳴らして、口内で刺激を求めあって舌を絡ませる。抱き合う手も動いて、プレシアの浴衣もはだけて素肌を晒していく。
 口を離して、両者の間に唾液の橋を作る。重力に従って下がっていき、やがて切れた。
 二人は、恍惚とした表情で見つめ合う。

「ふふ、今夜も可愛がってあげるわ、隼樹……!」

 愛しい者を見つめ、プレシアは幸せそうに微笑んだ。
 二人にとって、一番アツい夜となった。
アンケート的な物。
もしよろしければ、感想などで答えていただけるとありがたいです。

1.プレシア達とフェイトを逢わせる。

2.このまま再会させずに話を続ける。


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