前回までのあらすじ
隼樹「プレシアさんのメイド姿、マジ半端無かったです」
素晴らしい企画だ、と隼樹は思うのだった。
場所は、友達である恭介の家のリビングである。集まってるのは、隼樹、恭介、静香の三人だ。影地家に同居しているリインフォースは、プレシア達と外に出て街を見学しに行っている。今回の集まりは、他の人に聞かれる訳にはいかなかったのだ。
テーブルを囲む三人の顔は、真剣そのものだ。こうして三人で集まるのは久しぶりだが、こんな張り詰めた感じの空気は初めてだった。しかし、居心地は悪くない。
何故なら、今回集まった目的が三人にとって実に楽しみな事だからである。
「じゃあ、今週の日曜日にプレシアさん達を連れてくれば、いいんですね?」
自然と押し殺したような低い声で、隼樹は尋ねた。
彼の問いに対して、向かいに座ってる静香は無言で頷いた。隣に座ってる恭介にも目で訊き、同じく頷きが返ってきた。
三人の意見が、一つにまとまった。
密かに隼樹は、内心でガッツポーズをした。今日ほど、影地家と知り合いで良かったと思った事はないだろう。
そして今週の日曜日は、間違いなく楽しい日になるだろう。
日曜日に行われる事を想像しながら、隼樹は気持ちを堪えきれずに笑みを浮かべた。
*
そして、あっという間に日曜日となった。
隼樹はプレシアとアリシアを連れて、影地家に向かっていた。二人には、影地家に行く目的を伝えていない。着いてからのお楽しみ、と言うヤツだ。見た目は平静を装っている隼樹だが、内心では期待に胸を膨らませていた。
秘めた野望を悟られないよう、いつも通りの振る舞いで隼樹は影地家に足を踏み入れた。プレシアとアリシアも、続いて部屋に入る。
「おお、来たか隼樹」
「ああ、来たぞ」
「こんにちは」
「お邪魔します」
最初に訪れた時と同じく、恭介が三人を迎えた。
挨拶を交わして、靴を脱いで室内に上がる。短い廊下を通って、リビングに出た。
姉の静香の姿が見当たらず、プレシアは尋ねた。
「お姉さんは、今日も仕事なのかしら?」
「いえ、姉貴は今日は休みっすよ」
答えながら恭介は、一つの扉の前で足を止めた。
その扉には、見覚えがあった。以前訪れた時に、静香が入った部屋だ。つまり、ココは静香の部屋と言う事になる。
「姉貴ー。プレシアさんとアリシアちゃんが来たぞー」
恭介が扉に向かって声を投げると、コンコンと返事するようにノックの音が鳴った。
すると恭介は、ドアノブを回して扉を開けた。
「えっ!?」
その瞬間、プレシアとアリシアは目を見開いた。開かれた扉の向こう側の光景に、驚きを隠せなかった。
「おおおおっ!」
逆に男性陣は、驚嘆の声を上げた。今まで抑えていた気持ちを、ココで解放させたのだ。
部屋の中には、静香が正座で一同を迎えた。
そして、静香の周りには、沢山の衣装があった。チャイナドレス、メイド服、フリルの付いた可愛らしいピンク色のドレス等々、様々な種類の衣装が壁にかかっていたり、床に綺麗に畳まれてある。
しかし、プレシア達が一番驚いたのは、別にあった。
「お……おぉ、お帰りなさいませ、ご主人様……!」
黒と白を基調としたメイド服に身を包み、恥ずかしそうに顔を赤くさせたリインフォースの姿があった。胸の谷間や生足を見せたメイド服は、露出度の高いエロい格好だ。
「スゲー!」
「マジパねぇ!」
メイド服姿のリインフォースを、馬鹿な男二人は興奮を隠さず、いやらしい目で見つめる。
バイトで同じくメイド服を着るプレシアも、顔を赤くさせた。
「リ、リインフォース! あ、貴女、その格好は……!?」
「彼女に着させられました……」
リインフォースの言う彼女とは、他でもない静香である。
「わあああ! メイドさんだ!」
秋葉の一件でメイドを気に入ったアリシアは、穢れ無き眼でリインフォースに駆け寄った。無邪気って、可愛いですね。
一方、母親のプレシアは、ジロリと隼樹に鋭い視線を向けた。目が合った隼樹は、プレッシャーを受けてビクッと体が震えた。
「隼樹……コレは、どういう事なの?」
「いや……ちょっと僕達三人で企画を立てまして……」
「企画……?」
プレシアの目が、更に細くなる。
すると代わりに、恭介が答えた。
「ウチの姉貴さ、コスプレが趣味なんすよ」
「コスプレ? コスプレって、確かアニメの格好をしたりする事よね?」
「そうっす。普通は、自分でコスプレして楽しむんですけど、姉貴の場合はちょっと違うんです。姉貴は、『可愛かったり綺麗な女にコスプレさせて見るのが好き』なんです。そういう訳で、プレシアさん達にコスプレさせようって事になったんです」
「あ、相手にコスプレさせるのが好きなの……?」
オタクな弟を持つ姉も、そっちの世界の住人だった。
静香の趣味は、恭介の言った通り可愛い女にコスプレさせて眺める事なのだ。部屋にある衣装は、全て自分用ではなく、相手に着せる為の物である。今まで、衣装を集めては同僚の女社員にコスプレさせる姿を想像して、我慢してきた。流石に、ノーマルな同僚にコスプレを頼む勇気は、静香には無かった。
そんな時、プレシア達魔導師が現れ、しかもプレシアがメイド喫茶で働いてる事を知って、やるしかないと決意したのだ。
メイド姿のリインフォースに、静香は頬を赤くさせて、ソワソワと落ち着かない様子をしている。
そして彼女の興奮は高まり、立ち上がって行動を開始した。ポケットからデジカメを取り出し、素早く構えてフラッシュを焚きまくる。撮影の対象は、勿論リインフォースだ。
突然、撮影を始めた静香に、プレシアは驚いて目を丸くした。最初に会った時の印象は、大人しそうな感じだったので、今の静香とのギャップに心底驚く。
「え? ええっ!?」
「おおっ! 姉貴の奴、マジで興奮してるぜ!」
「こんな軽快な動きでシャッターを押しまくる影地さんを、初めて見たぞ!」
恭介と隼樹も、静香の動きに声を上げた。一緒に暮らしてきた弟も、今のような姉の姿は久しぶりに見た。
しばらくリインフォースを撮影していた静香は、一旦デジカメを近くの机に置き、壁にかけてある衣装を一つ手に取った。部屋の出入口に向くと、ソコで立っているプレシアに歩み寄り、衣装を突き出した。
いきなり衣装を突き出され、困惑するプレシアだが、すぐに相手の意図を察して顔が赤くなる。
「えっと……私に着て欲しいって事かしら……?」
プレシアの言葉に、静香は無言でコクコクと頷いた。心なしか、鼻息が荒い気がする。
「ほ、他の衣装ならともかく……コ、コレはちょっと……」
苦笑いを浮かべ、プレシアは戸惑う。
プレシアが躊躇するのも無理はない。何故なら、静香が突き出してる衣装は、『セーラー服』なのだ。完璧な熟女であるプレシアが、セーラー服なんて着れるハズが無い。
しかし、静香も引き下がらない。是が非でも、プレシアにセーラー服を着せる気だ。
静香の妙な執念に圧され、一歩後退るプレシアは、隼樹に助けを求めた。
「じゅ、隼樹! 貴方は、私なんかのセーラー服姿なんて、見たくないわよね?」
「いや〜、正直見てみたいです」
即答でプレシアの願いは裏切られた。
恭介に言っても、返ってくる答えは隼樹と同じだろう。アリシアは、既にコスプレに興味津々で目をキラキラと輝かせている。リインフォースは、もう諦めた感じだ。
味方を失い、退路を断たれたプレシアは、仕方なくコスプレする事にした。
熟女・プレシア、四十を過ぎて初めてセーラー服にチャレンジする。
あっ、着替えの間、男子共はちゃんとリビングで待機してるからね。
「い、いいわよ」
ややあって、静香の部屋からプレシアの声が聞こえてきた。か細い感じで、声だけで恥ずかしがってるのが解る。
声を聞いた瞬間、隼樹は勢いよく椅子から立ち上がった。
「ついに来たな……!」
「なんか、俺までドキドキしてきたぜ……!」
メイド喫茶の件で、隼樹と恭介はプレシアの魅力を目の当たりにしている。熟女好きでないノーマルの恭介ですら、興奮した程だ。
逸る気持ちを抑えるように、隼樹はゆっくりと扉の前に歩み寄り、立ち止まった。隣では、恭介もスタンバっている。
意を決して、隼樹は扉を開けた。
室内には、顔を真っ赤にさせたプレシアが居た。ちゃんとセーラー服を着ている。紺と白を基調とした定番のデザインで、胸元には赤いリボンが付いている。彼女の大きな胸は、はち切れんばかりにセーラー服を押し上げている。スカートの丈はやはり短く、プレシアの美脚が晒されていた。
母親のセーラー服姿を見て、アリシアが笑顔で感想を口にする。
「お母さん、可愛いよ!」
「うぅ……。あ、あまり、ジロジロ見ないで頂戴……」
皆に見つめられ、プレシアは自分の体を抱くようにして恥じらう。
──か、可愛いィィィィ!
そんなプレシアを見て、隼樹と恭介の心は一つになった。
──何コレ? もうとっくに四十過ぎてるのに、普通の女子高生とは違うベクトルの可愛さなんですけど! ヤベッ、超抱きたい!
プレシアのセーラー服姿に興奮して、隼樹は獣の本能を掻き立てられる。
だが、隼樹以上に興奮してる人物が居た。
「あ、姉貴っ!?」
突然、恭介が驚愕の声を上げた。
一同の視線が、一斉に静香に集まる。
注目を浴びる静香は、コスプレしたプレシアを見つめて大量の鼻血を垂れ流していた。足元には、小さな血の池が出来上がっている。
「いや、どれだけ興奮してるんですか!?」
思わずリインフォースがツッコんだ。
鼻血を流す程に興奮してる静香を見て、隼樹と恭介も声を上げた。
「か、影地さんが、ここまで興奮してるのを初めて見た……!」
「俺も、今まで一緒に暮らしてきたけど、姉貴のあんな姿は初めてだ……! それだけ、プレシアさんのコスプレを気に入ったって事だぜ!」
当のプレシアは、女性に鼻血を流す程に興奮されて、複雑な心境だった。
その時、半ば放心状態で見惚れてた静香が、ハッと我に返って、早足でプレシアに近付いた。
一気に距離を詰められ、プレシアは驚いて体が固まる。無言で見つめられ、どうしたらよいか困惑する。
一同が見守る中、静香の口が僅かに、いや、ホントに僅かに動いた。
「お……」
「お……?」
次の瞬間、静香はプレシアの手を両手で握り、大きな声を出した。
「お姉様と呼ばせて下さい!」
「はあ!?」
静香のとんでも発言に、彼女を除く全員が驚愕の声を揃えた。
「あ、姉貴が喋った……! 弟の俺ですら、ここ数年全く声を聞いた事が無いのに……! それほど、プレシアさんのコスプレは衝撃的で感動モノだったのか……!」
「いや、それにしても『お姉様』は無くね? プレシアさんが綺麗なのは確かだけど、姉と呼ばれるには年取りすぎゃああああああああ!」
台詞の途中で、隼樹は電撃を受けた。バリバリと激しい音が鳴り響き、室内は紫色に包まれる。
電撃を撃ったのは、他でもないプレシアだ。女性は、年に関して敏感で気にする生き物なのです。
「フンッ……!」
そっぽを向くと同時に、プレシアは電撃を止めた。
電撃を受けた隼樹は真っ黒焦げとなり、床に倒れた。
「隼樹!」
「お兄さん!」
「林! しっかりしろ!」
倒れた隼樹にリインフォース、アリシア、恭介の三人が駆け寄り、必死に介抱する。
一方、プレシアは静香に抱きつかれていた。主人にじゃれる猫のように、プレシアの胸の谷間に頬擦りするように顔を左右に動かしている。無下に扱う訳にもいかず、プレシアは困惑の表情で立ち尽くしていた。
その後、衣装をチェンジしてコスプレする度に、プレシアは恥ずかしがり、静香は鼻血を出してデジカメ撮影をした。あまりに血を出しすぎた為、静香は倒れ、救急車で病院に運ばれた。
今回のコスプレ企画で、プレシア達は静香の意外な一面を知った。
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