前回までのあらすじ
隼樹「リインフォースさんの住まいが決まりました」
凡人はやっぱり凡人だな、と林隼樹は思った。
魔法という特別な力には、勿論、隼樹も興味を抱いていた。もしかしたら、自分も使えるんじゃないだろうか、と思ってプレシアに聞いてみた。しかし、プレシアは苦笑いを浮かべ、隼樹に魔法は使えないと言われた。
プレシアが言うには、魔法を使うには『リンカーコア』と呼ばれる魔力の源が必要不可欠で、隼樹にはソレが無いのである。魔法の技術が発展していない世界の住人なので、無理も無い事である。
申し訳なさそうなプレシアに対して、隼樹はさほど落ち込まなかった。確かに、魔法は凡人な自分には無い、魅力的な力だ。子供の頃には、大好きなバトルアニメの必殺技に憧れて、よく構えを真似したものだ。しかし、どんなに強く憧れても、構えを真似ても、使えないモノは使えない。けど、ソレでいいのだ。
憧れる位が丁度いい。魔法が使えるのも良いが、その力に憧れてる方が楽しいのである。使えないよりは使えた方がいい、という軽い気持ちなのだ。
「ったくよ~。何で俺には魔法の才能がねぇんだよ」
しかし、隼樹とは対照的に非常に残念で悔しがっている男が居た。
影地恭介だ。恭介も、リインフォースに自分が魔法を使えるか尋ねたらしい。それで返ってきた答えが、隼樹がプレシアから受けたのと同じだった。ちなみに、姉の静香もリンカーコアが無く、魔法の才能は無いのだと言う。しかし、静香の場合、魔法の力が無くても凄いので、本人にとってはどうでもいい事だろう。その“凄さ”は、のちのち明かされる日が来ると思う。
隣で落ち込む友達を、隼樹は仕方なく励ましてやる。
「そんなに落ち込むなよ、恭介君。別に魔法が使えなくても、生きていけるんだからさ」
「そうは言うけどよぉ、やっぱショックだぜ林。普通、漫画や小説だと、魔法の力を持った奴と出会った主人公や周りの連中は、眠っていた魔法の力が目覚めるんだぜ? それなのに、俺達に何の力も無いっておかしいだろう?」
「いや、お前の考えがおかしいよ。二次元と三次元を一緒にするな」
重度のオタクな恭介に、呆れて隼樹は溜め息をついた。
現在、二人は秋葉原に来ている。恭介にどうしても来てほしいと頼まれ、仕方なく隼樹は来てやったのだ。
「わああっ! 色んな物が沢山ある!」
「電気街と言うだけあって、電気製品が多いですね」
隼樹の隣で、二つの声を上げた。
プレシアの娘のアリシアと、恭介の家で居候してるリインフォースだ。隼樹が出掛けると聞いて、一緒についてきたのだ。
母親のプレシアは、家には居ない。なんでも、仕事を始めたようなのだ。林家に世話になりっぱなしなのも悪いと考え、最近仕事を探し始めて、今日からバイトを始めたらしい。何の仕事かは、誰にも教えていない。娘のアリシアにも教えていないので、逆にどんな仕事なのか気になるところだ。
今は本人が居ないので、帰ったら聞いてみようと隼樹は思った。
隼樹と手を繋いでるアリシアは、初めて訪れた秋葉原に子供らしくはしゃいでいる。
リインフォースも、物珍しそうに周りを眺めている。
「ねぇお兄さん、あのお姉さんは何してるの?」
「ん?」
アリシアが指し示す方向を見ると、ソコにはチラシを配っているメイドさんが居た。通行人に笑顔を振り撒いて、店の宣伝チラシを捌いている。
「ああ、メイド喫茶って店の従業員さんだよ。ああやって働いてるお店のチラシを配って、宣伝してるんだ」
「ふーん」
「ほう」
初めて見るメイドに、アリシアは興味津々のようだ。ジッとメイドさんを見つめている。リインフォースもメイド服に興味を持ったのか、ジッと眺めていた。
キラキラと穢れ無き眼で秋葉原を見回すアリシアと、純粋な好奇心で視線を移すリンフォースを見てから、隼樹はしかめっ面を恭介に向けた。
「なあ、やっぱ二人を連れてきたのはマズくない?」
「何で? 別にいいじゃねーか。本人達も気に入ってるみたいだしよ」
「だからだよ」
「は?」
言いたい事が解らず、恭介は片眉を上げた。
「つまりだな、このまま二人がアキバを気に入って、万が一にもオタクになっちまったら……俺はプレシアさんに会わす顔がねぇんだよ……。俺は、アリシアには普通の可愛い女の子でいて欲しいんだよ! リインフォースさんにも、綺麗な心のままでいて欲しいんだよ! 穢れて欲しくないんだよ! ただでさえリインフォースさんは、アニメ服的な格好してるんだから……!」
「まあ、気持ちは解らんでもないよ……」
ノーマルなアリシアとリインフォースを、隼樹はオタク色に染めたくないのだ。まるで、二人の保護者のようである。
「だが安心しろ、林。これから行く場所は、アニメショップでも、ましてやアダルトショップなんて所でもねぇからよ」
「子供の前でアダルトショップなんて言葉を使うなっ!」
すっかり保護者代わりとなった隼樹は、恭介の言葉に声を上げた。
「悪かったよ。それによ、今から二人を家に帰すのも可哀そうだろ?」
「まあ、そりゃそうだけど……本当にまともな場所なんだろうな?」
「ああ。安心しろ」
爽やかな笑顔を浮かべ、恭介は歯をキラッと光らせた。
そんな恭介に、隼樹は一抹の不安を抱いていた。なんせ相手は、エロゲーをほぼ毎日やっているエロゲーマーの鑑のような男なのだから。いかがわしい店だったら、即アリシアとリインフォースを連れて帰ろうと隼樹は決意した。
先導する恭介に従って、隼樹達は後をついて行く。人が多い大通りを抜け、店が立ち並ぶ細い道に入る。細いと言っても、車一台分は通れる広さはあった。道を少し進んだ所で、先頭の恭介が足を止めた。
「ここだ」
店を見上げ、恭介は言った。
隼樹も顔を上げて、店を見る。
ソコは、メイド喫茶だった。
「帰ろうアリシア、リインフォースさん」
「待てや、コラッ!」
店を見た瞬間にUターンを始めた隼樹の肩を掴み、恭介は必死に引き止めようとする。
「ええい、放せ! お前を信じた俺が馬鹿だった! こんな店に、二人を入れられるか!」
「何でだよ! 別にいやらしくもいかがわしくもねーだろうが!」
「無理無理無理! 小さな子供と女の子を連れて入るような場所じゃねーだろうが! 超恥ずかしいし!」
恭介と隼樹は、建物の前で口論する。
「一人で入ればいいだろう!」
「一人で楽しむのもいいけど、たまには皆で楽しみたいじゃん! 頼むよ、今回は俺が奢るから!」
「知るか! 放せっ!」
食い下がってくる恭介を、突き放すように拒絶する。
よりにもよって、目的の場所をメイド喫茶に選んだ事に動揺を隠せなかった。オタク文化に汚染させたくないのに、秋葉原のオタク名所のメイド喫茶に入るなど論外だ。ただでさえ、さっき宣伝のメイドに興味を持ってる現状で、メイド喫茶に入るのは危険だった。来るんじゃなかった、と隼樹の心中は早くも後悔で一杯だった。
何とかして、この場から去ろうと隼樹は奮闘する。
「一人でメイドに癒してもらえ!」
「テメェ! リインフォースさんの件で、俺に恩を感じないのか?」
「影地さんになら恩を感じてるよ! あの人、仕事で相当稼いでるし、リインフォースさんの面倒見るのも実際は影地さんだろ?」
「ぐっ……!」
言い返す言葉も無く、恭介は顔を顰めた。ニートな恭介に、リインフォースの生活の面倒を見る財力は無い。
隼樹の指摘通り、実際にリインフォースを養ってるのは静香なのだ。
言葉を詰まらせる恭介に、隼樹が口論を制したと思った時だった。
「お兄さん。お腹空いちゃった」
「え?」
視線を落とすと、アリシアがお腹を擦っていた。
ソレを好機と見た恭介は、反撃に転じた。
「なあ、アリシア。良かったら、ここでご飯食べていかないか? メイドさんも居るよ?」
「ちょっ──」
「うん! メイドさんにも会ってみたい!」
隼樹が止めるよりも先に、アリシアは笑顔で頷いてしまった。
してやったりの笑みを浮かべ、恭介は隼樹に顔を向けた。
「どうするよ、林? アリシアはここで飯を食いたいってよ」
「ぐっ……! いや、まだだ……! まだ、リインフォースさんが残ってる……!」
リインフォースが拒めば、まだ逆転の可能性はある。最後の希望を胸に、頼みの綱のリインフォースを見やる。
しかし、リインフォースの口から出たのは、隼樹の期待とは逆な答えだった。
「えっと……私は全然構いませんが」
──しまったァァァァァァ! リインフォースもメイドに興味を持ってたの、忘れてたァァァァァ!
頭を抱え、隼樹は内心にシャウトした。
二人の意見を聞いて、恭介は憎たらしい笑みを浮かべる。
「この通り、本人達はメイド喫茶に入ってもいいみたいだぜ。林、無理しねーでお前も素直になれよ。お前だって、メイドに興味あるだろ?」
「ぐぐ……!」
忌々しげに恭介を睨み、隼樹は歯をギリッと食いしばった。ぶっちゃけると、恭介の言う通り隼樹もメイドに興味がある。しかし、そう言った趣味は大抵、世間からは白い目で見られる。アリシアの為だとか、リインフォースを穢したくないとか言っていたが、理由の大半は自分の趣味が知られて二人に軽蔑されたり、嫌われる事を恐れてる方にあった。
顔を俯いて唸っていると、リインフォースが声をかけてきた。
「隼樹。あの、あまり深く悩まないで下さい。私とアリシアは、自分の意思でメイド喫茶に入りたいと言ってるのですから。それに、隼樹もメイドと言うモノが好きなら、一緒に楽しまなければ損ですよ?」
優しく語りかけてくるリインフォースに、隼樹の心の荷が少し軽くなった。好きなモノを無理に我慢するのは、辛いモノだ。リインフォース達の手前、恥ずかしさもあって抑えていたが、今ので何か吹っ切れた。
「そ、そうですよね……。うん……分かった。じゃあ、二人が良ければ入ろっか、メイド喫茶に」
何度か頷き、隼樹もメイド喫茶に入る事を決めた。
「よーし、んじゃ行くぞ!」
隼樹も行く気になり、恭介は快活な声を上げた。
扉を開き、鈴の音が鳴り響いた。
「お帰りなさいませ! ご主人様!」
エプロンドレスを着飾った数人のメイドが、笑顔で隼樹達を迎えた。
挨拶された瞬間、隼樹は言い知れぬ緊張感を抱いた。初めて訪れたメイド喫茶は、異様な空間だった。メイドもやたら可愛い娘ばかりで、凄く居辛かった。
──やっぱ、二人を連れて帰ればよかった……。
早くも隼樹は、帰りたくなった。これが恭介と男二人だけで入っていれば素直に楽しめたかもしれないが、やはりアリシアとリインフォースの事が気になってしょうがない。明らかに、女の子を連れて入る店では無いからだ。正直、別の意味で落ち着かない。
可愛らしい挙動で、一人のメイドさんがやってきた。
「四名様ですか、ご主人様?」
「はい」
緊張して固まってる隼樹と違い、慣れた様子で恭介が答えた。おそらく、何度も来てるのだろう。
「はぁい! それでは、こちらへどうぞ~!」
明るく元気のいい声で、メイドさんが席まで案内する。
内装は、普通の飲食店とそう変わりない感じだった。その点に、隼樹は自然と安堵の息を吐く。これで内装まで、こう、変わった趣向の感じだったら、アリシアとリインフォースを連れて決死の逃亡を図ってたかもしれない。
アリシアはというと、初めてのメイド喫茶に興味津々で、店内のあちこちを見ている。時折メイドさんが手を振ってくれて、アリシアも笑顔で振り返す。
一方、リインフォースは今まで体験した事の無い空間に、少し戸惑った様子をしていた。
メイドさんに案内された席は、日当たりのいい窓際だった。
「こちらがメニューになります。ご主人様、呼び方のオーダーはございますか?」
「え……? よ、呼び方のオーダーって、何ですか……?」
恐る恐ると言った感じで、隼樹はメイドさんに尋ねた。
すると、メイドさんはとてもいい笑顔で答えてくれた。
「はい。私どもがご主人様の事をどう呼ぶか、決めて下さい。『ご主人様』『旦那様』『○○くん』『○○ちゃん』『お兄ちゃん』など、各種取り揃えています。どれでもお好きな呼び方を選んでくださぁい」
──んだそりゃああああああ!? そんなのがあんの!? メイド喫茶って、そういう所なの!?
メイド喫茶の実態を知った隼樹は、心中で叫んだ。
「じゃあ、お兄ちゃんで」
メイド喫茶に戦慄を憶える隼樹の前で、恭介が呼び方をクールに注文した。
──お前、ここの常連だろう!? しかも、『お兄ちゃん』? 妹が欲しいのか? 妹が欲しいのか?
恭介の不敵な態度に、隼樹はそう確信した。
「そちらのお嬢様方は、どうなさいますか?」
「えっと~」
「むむ……」
メイドに聞かれて、アリシアは口元に指を当てて、リインフォースは渋面で考える。
ややあって、二人は少し照れた感じに答えた。
「じゃあ、お姫様で……」とアリシア。
「私は、その……お嬢様で結構です」
「かしこまりました、お姫様、お嬢様」
──あんの!? 『お姫様』って呼び方も、メニューにあるの!? 普通、アリシア位の年齢の客って来ないだろ? それなのに全く動揺しないで、ちゃんと対応して、お姫様なんて呼び方まで……プロ根性? マジパねぇ、メイド喫茶!
隼樹のメイド喫茶に対する驚きは、増すばかりだった。
動揺する隼樹に、メイドさんは笑顔を向けた。
「ご主人様は、どうなさいますか?」
「え? えっと……あの、ご主人様で」
「はい、かしこまりました。ご主人様」
結局、隼樹は無難な『ご主人様』を選んだ。
メイドさんが水を持って来てくれて、喉に流し、四人はようやくメニューを開いた。
その瞬間、隼樹は眉根を寄せて困惑の表情になった。隣と向かいの席に着いてるアリシアとリインフォースも、不思議そうな顔で首を傾げている。
メニューには、『ギャラクティカレー』『妹の手作りスペシャル』『メイド特製ケーキ』『愛情たっぷりラーメン』等々が表記されていた。
──な、何だ……この痛いメニュー項目は……? メイド喫茶ってのは、どこもこんな感じなのか……?
帰りたい気持ちが、更に強くなった。こんな名前、口に出して言えない。
「隼樹……コレは、何かの暗号ですか?」
「ごめんなさい。俺にも分かりません……」
知識の浅い俺では、リインフォースの問いに答える事が出来ない。
もう何が何やらで、注文を常連の恭介に任せた。実に慣れた様子で、恭介はメイドさんに料理を注文した。
来ただけで、既に隼樹は疲れてしまった。主に精神的に辛い。メイド喫茶を甘く見ていた。
もう二度と来ない、と隼樹は誓った。
前に座っている恭介は、天国に居るかのような緩い顔をして、くつろいでいる。
アリシアも、今のところはメイド喫茶の雰囲気を満喫しているようで、水を飲みながら視線をあちこちに移している。
隣の少女の適応力に、隼樹は素直に感心し、羨ましがった。
リインフォースはと言うと、訪れた時から落ち着かない様子をしている。こう言う特殊な空間以前に、飲食店その物に来た経験が無いのもあるだろう。今まで危険物として指定され、追われ続けてきた自分が接待を受けるなど夢にも思ってなかったのだろう、と隼樹は思った。
しばらくして、別のメイドさんが料理を運んできた。
「お、お待たせしました。ご注文の料理です、ご主人様」
「あ、ども」
テーブルに料理を運んでくれたメイドに、隼樹が顔を上げて礼を言った。
「あ……」
メイドさんと目が合った瞬間、二人は声を漏らした。
料理を運んできたメイドは、隼樹達もよく知る人物だった。
「プ……プレシアさんっ!?」
「じゅ……じゅじゅ、隼樹っ!?」
顔を真っ赤にして動揺するメイドさんは、プレシアだった。白いエプロンの下に胸元を大きく開けた黒い服、やたらと短いスカート、長い黒のソックスを履いて、メイドに扮している。とても、四十過ぎのオバサンが着る服では無いのだが、その常人離れした美貌の為か自然と似合っていた。オドオドとした様子から、可愛ささえ感じる。
娘のアリシアと友人のリインフォースも、メイドさんが母親だと気付いた。
「あっ、お母さん」
「プレシア女史!?」
「ア、アリシアとリインフォース!? 貴女達まで、どうして……!? それに恭介君まで……!」
娘や知り合いと遭遇して、明らかにプレシアは動揺していた。
メイド姿のプレシアに興奮しながら、隼樹は尋ねた。
「プレシアさん、どうしてメイド喫茶でメイドの格好を……?」
「まさか……プレシアさんのバイト先って……」と恭介。
「え、ええ……そうよ……」
観念した様子で、プレシアは言った。
「喫茶店の従業員募集と書いてあったから、応募して面接を受けたんだけど……まさか、メイド喫茶だったなんて……。面接合格するまで、私も知らなかったのよ! 本当よ! 信じて、隼樹!」
「わ、分かった! 分かりましたから……落ち着いて……!」
必死に訴えて来るプレシアを落ち着かせ、隼樹は内心で納得した。
プレシアが、バイト先を誰にも教えなかったのは、仕事の内容が恥ずかしかったからだ。
「うぅ……隼樹やアリシア達には、見られたくなかった……」
少し顔を俯けるプレシアは、恥ずかしさで涙目になり、頬も赤く染まっていた。
そんなプレシアを励ますように、しかし本心からの感想を隼樹は言った。
「そ、そんな気にしなくても……。それに、メイド姿のプレシアさん、凄く似合ってますよ! 凄く可愛いです!」
「うん! お母さん、綺麗だよ!」
「はい。見事に着こなしています!」
続いてアリシアとリインフォースも、素直な感想を告げた。
「そ……そう……?」
二人の感想に、照れながらもプレシアは顔を上げた。
隼樹は頷いた。
「勿論ですよ。ねぇ、恭介君?」
「ああ。似合ってますよ、マジで」
恭介も、プレシアのメイド姿に釘付けになっていた。
他のメイドさんは若い娘ばかりなので、プレシアのような年上の女性は存在感があり、大人の色香を周囲に放っている。メイドと言えば普通可愛い、というイメージがあるが、プレシアの場合は大人の魅力もあって妖艶な印象を受ける。現に、他の男性客もプレシアに目を奪われている。
そんな周りの視線が気に喰わなかったので、隼樹は睨みをきかせた。自分など怒っても大した迫力は無いと思っていたが、予想外にも効果はあり、男性客は視線をそらしていった。
「あの、プレシアさん。メイドサービスで、『にゃんにゃん♪』してくれませんか?」
「ぶっ殺すぞ、コラァァァァァ!」
恭介の要望に、隼樹は怒りの形相で詰め寄り、襟を掴んで締め上げる。
しかし、一応客である恭介の注文にプレシアは──。
「に……にゃんにゃん♪」
真っ赤になった顔で、客の注文に応えた。頭の上に両手を乗せて猫の耳のようにして、その場で小さく左右に跳ねた。跳んだ拍子に、豊満な胸が大きく上下に揺れたのを隼樹と恭介は見逃さなかった。
プレシアが跳んだ後、店内は沈黙した。
そして数秒後、
「ぐあっ!」
と店内のあちこちから悶絶したような馬鹿な男どもの声が上がり、全員がバタバタとテーブルに突っ伏した。
「えっ!? えええええええっ!?」
隼樹や客の反応に、プレシアはわたわたと慌てる。どう対応すればいいのか、分からず混乱していた。
顔をテーブルに置いたまま、隼樹は恭介に囁いた。
「ヤバい……! マジヤバい! プレシアさん、マジヤバいよ!」
「ヤバいっ! 俺は別に熟女好きじゃねーけど、プレシアさんはヤバい! マジで可愛過ぎる……!」
「マジパねぇよ、プレシアさん……! エロ可愛いよ! 俺の胸に、どストレートだよ! 惚れ直しちゃったよ!」
ヒソヒソと会話を交わす二人を、アリシアは不思議そうに眺めて、首を傾げた。
「メ、メイド服とは男性に対して、物凄い威力を発揮するのですね……」
目の前の事から、リインフォースはメイド服の凄さを知った。
この後も隼樹と恭介のエロ馬鹿コンビは、アリシアとリインフォースが居るのも構わず、メイドプレシアに色々なサービスを要望して、財布の中身を寒くさせた。
絶対また来よう、と隼樹は固く決心した。
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