半年近く放置して、すみませんでした。
遅くなりましたが、更新しました。
それでは、どうぞ。
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前回までのあらすじ
隼樹「電撃を受けて、意識飛びそうになりました」
さすがにキツいな、と隼樹は思うのだった。
場所は二階にある自分の部屋で、椅子に腰かけ、ダルさ全開で机に頬杖をついていた。仕事帰りで、疲れてすぐにでも眠りたい。だが、今は眠る訳にはいかなかった。寝る前に、解決しなければならない問題があるからだ。
悩みの種は、仕事では無く同室で寝ている親子の事である。
抱き合う形で、金髪の少女と黒髪の女性が眠っていた。金髪の少女は、アリシア・テスタロッサ。黒髪の女性は、母親のプレシア・テスタロッサ。ジュエルシードという不思議な石の力で、別の世界からやってきた魔導師である。住む所が無いという事で、隼樹が家に泊めている。但し、家族には内緒にしているのだが、コレがなかなか精神にキツイのだ。子持ちとは言え、年上の美人と一緒に居られるのは良いのだが、いつ親にバレるか心配でしょうがないのである。
プレシアとアリシアが、家にやってきて五日目になる。よく今日まで家族にバレなかったな、と呆れ半分感心半分な気持ちだった。しかし、この先も上手くいくとは限らない。
ここは家族にバレる前に、いっそこちらから正直に話した方がいいのかもしれない。
しかし、話したら話したでまた面倒な事になってしまう。プレシア達の事を打ち明ければ、警察に連絡されてしまう。身元が不明なのだから、当然の対処である。更に、二人を黙って家に泊めていたのだから、両親から説教を受けるだろう。
アホな弟はともかく、両親を説得しなければプレシア親子を家から追い出す事になってしまう。ソレだけは、どうしても避けたい。
だが、身元不明の人間を家に泊めるよう説得するのは、容易い事ではない。
どうしたものか、と隼樹は頭を抱えた。溜め息を一つつき、チラリとベッドを見た。
ベッドの上で、親子は幸せそうな寝顔で眠っていた。
隼樹は、また溜め息をついた。
──しょうがない……。何とかするか……。
隣で寝てる親子の為に、隼樹は力になる事を決意して眠った。
*
翌日の夜。
仕事から帰ってきた隼樹は、門の前で自宅を見上げていた。上下黒のスーツを身に付け、ネクタイを締めて社会人の格好をしている。
カバンを握る手に力を入れ、険しい顔で自宅の二階を見上げていた。今、自分の部屋に居る親子の為に、これから自分の両親と対決するのだ。大袈裟ではなく、本当に対決という表現が正しい。今まで、親に意見した事が無い隼樹にとって、説得と試みる行為は闘いを挑むに等しいのだ。
家に入る前が緊張して、心臓が高鳴ってきた。平静を装って、隼樹は玄関を開けて中に入った。
「ただいま〜」
「おかえりなさい」
玄関で靴を脱ぐと、左側のドアが開き、母親が迎えた。
荷物を置きに、隼樹は階段を上って二階へ向かう。母親が出てきたドアの隙間を一瞥して、自分以外の家族が居間に集まってる事を確認した。
二階に着き、隼樹は自室に入った。
「あっ、おかえりなさい」
「お兄さん、おかえりなさーい!」
今度は、プレシアとアリシアが迎えられた。
「ただいま」
挨拶を返し、隼樹はカバンを床に置いた。
ネクタイを緩め、第一ボタンも外して気道を良くする。ふう、と息を一つ吐き、意を決したように「よし」と呟いた。
「プレシアさん、アリシア。ちょっと来てくれませんか?」
「え? 何処へ?」
首を傾げるプレシアに、隼樹は緊張を帯びた顔で言った。
「下に居る家族に、二人の事を話します」
「ええっ!?」
プレシアは目を見開き、驚きの声を上げた。
隣に居るアリシアは、状況が解らず、可愛く小首を傾げていた。
*
不安な気持ちを抱くプレシアとアリシアを連れて、隼樹は階段を降りた。居間に続くドアの前で立ち止まり、ノブに手を伸ばす。
ドアの前で、ゴクリと唾を飲み込んだ。このドアを開けてしまえば、もう引き返せない。
──ええい、もう開けちまえっ!
覚悟を決めて、隼樹はドアを開けた。
居間では、既に三人の家族で夕食を食べていた。帰宅時間は隼樹が一番遅いので、普通の光景である。正方形でそれなりの大きさのテーブルを囲んで、三人はご飯を食べている。
「おかえり」
父親が気付き、挨拶してきた。コップにビールを注いで、一口飲む。
「ただいま」
家族を見回して、隼樹は緊張が高まった。
──あー、ちくしょう……ヤバいよ、超帰りたくなってきた……。いや、ここが俺の帰る家なんだけど……。何て言うか、引き返したい……。でも、そうもいかないんだよなぁ……。
覚悟も新たに、隼樹はドアを閉めて居間に入った。まだプレシア達は、家族には見せない。
「あ、あのさ……ちょっと、話があるんだけど……」
「ん?」
食事の手が止まり、家族の注目が一気に隼樹に集まった。
視線を受け、隼樹の体が固まった。
「実は……皆に黙ってた事があるんだ……」
「黙ってたこと?」
怪訝そうに父親が、片眉を上げた。
頷いた後、隼樹は振り返って後ろのドアに声をかけた。
「入ってきて下さい」
ノブが動き、開かれたドアから二人の女が居間に入ってきた。
二人を見た瞬間、家族は唖然とした顔で固まった。ビデオの一時停止のように、ピクリとも動かない。それほど驚いてるのだろう。まあ、突然知らない人が家に現れたら、誰だって驚くだろう。しかも、アリシアの方は金髪だから普通よりも驚きが大きい。
固まってる家族に向かって、隼樹は言った。
「黒髪の女性がプレシア・テスタロッサさん。金髪の女の子は、娘のアリシア・テスタロッサさん。二人共、ちょっと前から俺の部屋に泊めてるんだ……皆に黙ってて……」
「マジで?」
一番最初に反応したのは、弟だった。困惑よりも、好奇心が勝ってるようだ。
次に口を開いたのは、父親だった。
「え……? 隼樹の部屋に泊めてたの……?」
「うん……」
隼樹の答えを聞き、父親は苦笑した。子供にとって、父親が怖い存在である事は全国の家族共通の事のハズだ。
「本当に?」
今度は母親が聞いてきた。
「うん……」
さっきと同じように、隼樹は頷いた。
父親はビールを飲み、空になったコップをテーブルに置いた。
「どうして、そんな事を……? 隼樹は、その二人を知ってるの? 知り合いなの?」
「いや、知り合いじゃなくて……五日か六日くらい前に会ったばかりで……」
父親は、隼樹から顔をそらして、後ろに立っているプレシア達に目を向けた。
プレシアはそうでもないが、アリシアは怯えて彼女の後ろに隠れた。こんな時の小さな女の子の反応など、こんなものだろう。
笑みを消した真剣な顔で、父親は尋ねた。
「貴方達は、何処から来たんですか? アメリカですか?」
二人の名前から、日本人では無いと察したようだ。
「それは……」
口ごもり、プレシアは答えに窮した。
ここで嘘をつくのは簡単だが、後が続かない。例えば、仮に出身国はアメリカと答えたら、次にアメリカの何処に住んでいたか聞かれる。その他にも出身国の事を色々と聞かれれば、アメリカの事を知らないプレシアは答える事が出来ず、すぐに嘘だと見破られてしまう。
自分の首を絞めるだけだ。
正直に話す訳にもいかないので、答える事が出来ない。
答えを口にしないプレシアに、父親は不審に思う。
「答えられませんか?」
「……」
返す言葉が見つからず、プレシアは完全に沈黙してしまった。足にしがみついてるアリシアが、心配そうに見上げている。
そこへ、隼樹が助け舟を出した。
「あ、あの……実は、二人とも記憶を失ってて……名前や親子って事は覚えてるんだけど、他の事は覚えてなくて……」
「記憶喪失? スゲー、初めて見た」
隼樹がついた嘘を、弟は簡単に信じた。
両親の方は、互いの顔を見合わせている。
ややあって、父親が言った。
「それじゃあ、病院に行った方が」
「あー……身分を証明する物が何も無かったり、色々事情があって……」
「じゃあ、警察に行こう。ソレが当然の事でしょ? どうして始めからそうしなかったんだ?」
「ソレは……」
答えに窮していると、ここで初めて母親が口を開いた。
「ウチは保護施設でも何でもないから、ちゃんとした所に連れて行かないと……」
全くもって、両親の意見は正しい。身元不明の人物を、快く家に迎える人間など居ない。
けれど、ここで隼樹は引く訳にはいかなかった。
「そうだよね……うん……。でも……何とか、二人を家に泊めてくれないかな……?」
「何だって?」
父親の表情が険しくなった。
怒る父親は、どこでも怖い。怒りと不機嫌を露にする父親にビビるも、隼樹は引かなかった。全く頼りない勇気を振り絞って、声を出した。
「確かに二人は、名前以外身元が解らないよ……。でも、悪い人達じゃないんだよ。短い間だったけど、一緒に過ごしてて解った……」
「でもさ、隼樹……もし、皆が寝てる間に何かあったら、どうする気だったんだ……?」
「何も無かったでしょう?」
父親の意見に、隼樹は少し声を荒げて答えた。
初めて反論してきた隼樹に、父親は驚いて少し目を見張った。
「何か物が失くなったりしました? 家の中で、何か問題が起きた? 何も無かったでしょう? 今の状況が、二人は無害だって言う何よりの証拠じゃないかな?」
一歩前に出て、隼樹は続けた。
「この二人は悪人なんかじゃない! 良い人達なんだよっ! 二人が悪い事しない事は、俺が保証するから……だから、これからも二人を家に泊める事を認めて欲しいんだ!」
精一杯の小さな勇気を振り絞って、隼樹は自分の意見を親にぶつけた。
進路の時も就職の時も、隼樹は親に言われる通りにやってきた。親の言葉には逆らわず、流されるように生きてきた。
そんな隼樹が、今日、親の意見に逆らった。正論を跳ね除け、強引にプレシアとアリシアの宿泊を認めさせようとしている。
初めて親に反論している兄の姿を見て、弟は心底驚いた顔をしていた。
母親も同様の顔で、固まって隼樹を見ていた。
険しい表情を浮かべたまま、父親は口を開いた。
「どうして、そこまでその親子を家に泊めたがるんだ?」
うっ、と隼樹は困惑の表情を浮かべた。
来るだろうとは思っていたが、いざこの質問をぶつけられると答えに困ってしまう。
二人を見放したくない理由はあるが、人に教えるには恥ずかしい理由だ。正直、まだ親には話したくなかった。と言うか、出来れば誰にも話したくないし、知られたくなかった。
「どうしたの? 言えないの?」
しかし、事ここまで及んでは、話さない訳にはいかない。
答えを求めてくる父親の前で、隼樹の顔が赤くなっていく。
──ちくしょう! こりゃ何の拷問だ……? ええい、もうどうにでもなれっ!
意を決したと言うより、半ばヤケクソになり、隼樹は理由を言った。
「俺は……俺は、プレシアさんが好きなんだよォォォ!」
「はあっ!?」
目の前で驚く父親と母親、斜め横に座ってる弟、後ろに立っているプレシアの驚きの声が重なった。
特に、隼樹が訴えた好意の対象のプレシアは、顔を真っ赤になっている。以前に裸を見られた事故が起こったが、その時以上の衝撃と恥ずかしさだった。
しかし、熱の上がった隼樹は一同の反応も意に介さず、隼樹は告白を続けた。
「俺はプレシアさんが好きなんだよっ! 大好きなんだっ! だから、俺は二人を家に泊めてあげたいんだよっ! だからお願いしますっ! 二人を家に泊めさせて下さいっ!」
屈んで両手と頭を床につけ、隼樹は土下座して魂の叫びで訴えた。
普段大人しい隼樹が、これ程までに声を上げて、自分の意見や想いを訴えたのは初めてだった。声と熱い想いに圧倒されて、面食らった家族一同は茫然となっている。勿論、プレシアの顔全体は、完熟したトマトのように真っ赤だった。
隼樹の叫びの後、部屋は静寂に包まれた。
正気に戻った父親は、隼樹と後ろに立っているプレシアを交互に見比べた。頭痛を堪えるように眉間を押さえ、振り絞るように声を出した。
「そこまで言うんなら、隼樹が責任を持ってやりなさい……。それなら、私はもう何も言いません。お母さんは?」
「まあ……お父さんと同じです……」
根負けしたような感じで、両親はプレシアとアリシアの同居を認めた。
土下座の姿勢のまま、隼樹は目的を達成出来たと喜び、同時に恥ずかしい気持ちで胸が一杯だった。しばらくは、顔を上げる事は出来なかった。
*
何とか両親の許可を得る事が出来て、隼樹は一安心していた。
夕食を食べ終えた隼樹は、自分の部屋で椅子に座り、緊張が解けて脱力する。
──もう、嫌だ……。
プレシア達を家に泊まらせる事には成功したが、その代償として胸の内に秘めてた想いを暴露する事になってしまった。こんな形で、告白するなど予想外だったので、プレシアに会わせる顔が無い。
恥ずかしさで、今にも死にたいと思っていた時だった。
「隼樹? 入るわよ?」
ノックと共に、プレシアの声が聞こえてきた。
反射的に跳び起きて、隼樹は高速でドアに振り向いた。
ドアが開かれ、プレシアが入ってきた。部屋に訪れたプレシアは、先ほどの一階での件があって、まだ頬を赤くしている。
隼樹の方も、一気に体温が上昇して顔が赤くなった。
「ちょっといいかしら……?」
「は、はい……どうぞ……」
奇妙な空気の中で、二人は向かい合う。
恥ずかしそうに両手をモジモジさせて、プレシアは口を開いた。
「あの、ありがとう……。貴方のお蔭で、私もアリシアも寝床を失わずに済んだわ」
「い、いえ……どういたしまして……」
隼樹も照れくさそうに答えた。
プレシアが聞いた。
「それで……あの事なんだけど……本当なの……?」
「え……?」
「だから、その……私の事が、好きって事よ……。アレは、本当なの……?」
やはりプレシアは、一階での隼樹の告白の真偽が気になるようだ。
不安と他の気持ちが混ざり合って、プレシアは落ち着かない様子をしている。頬を赤くし、両手の指を絡ませてモジモジして、まるで乙女のような仕草をしていた。普通のオバサンであったら、気色悪いだけだが、プレシアがやると可愛らしく見えるのが不思議だ。
プレシアの仕草に胸が高鳴り、隼樹は席を立った。落ち着かない気持ちは、隼樹も一緒だった。
そして、胸の底から湧き上がる感情に任せて、隼樹はプレシアに抱きついた。
「きゃっ……! じゅ、隼樹……!?」
いきなり抱きつかれ、プレシアは顔を真っ赤にさせて困惑する。
プレシアの熟された体と豊満な胸の感触を味わいながら、隼樹は告げた。
「好きです……! 俺、プレシアさんが好きです……!」
恥ずかしさで面と向かって言えないので、コレが隼樹の精一杯の行動だった。
再び告白を受けて、プレシアは困り顔で聞いた。
「で、でも……私、もうオバサンなのよ……?」
「それでも好きです……!」
「隼樹……」
殆ど間を開けず答えてくれた隼樹に、プレシアは嬉しくて目に涙を浮かべた。
誰かに愛されるなど、もう無いと思っていた。
人の温かみに触れる事など、出来ないと思っていた。
しかし、今、プレシアは確かに好意と温かみを感じていた。
「ありがとう、隼樹……」
心からの感謝の言葉を述べ、プレシアは隼樹の顔に自分の顔を近づけた。
そして、互いの唇を重ねた。
「ん……んんっ……ちゅぴ……んあっ……はふっ……むふっ……!」
口の隙間から、プレシアは淫らな音と声を漏らす。
互いの舌を口内で絡ませ、刺激し合う。抱き合ってる体は、密着して体温を重ねている。
「んふっ……愛してる……私も、はふっ……愛してるわ……!」
皆が寝静まった夜に、二人は互いに愛し合った。
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