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前回までのあらすじ

隼樹「何か、一つの家族を救っちゃいました」
平凡世界編
第3話:休日
 机の上で突っ伏して寝てる隼樹の耳元で、ケータイのアラームが鳴り出した。
 隼樹は手だけ動かすと、ケータイを掴んで音を消した。上体をムクリと起こして、欠伸をしながら背伸びをする。時刻は朝の7時と休日に起きるには少し早いが、働き始めてからこの時間に起きるようになってしまったのだ。いつも通りにケータイのアラームで目を覚まし、いつも通りに雨戸を開けて、いつも通り窓から差し込む太陽の光を浴びる。
 だが、いつも通りなのはここまでだった。
 いつも使ってるベッドへ振り返ると、二人の女が寝ていた。
 昨夜、隼樹の部屋に突然現れたプレシアとアリシアだ。二人はジュエルシードと呼ばれる魔力の結晶体の力で、この世界へやってきた。隼樹の部屋に落ちたのは、偶然である。二人がやってきた直後、ジュエルシードの思念体という怪物と闘い、退治して、ジュエルシードの力で死んだアリシアを生き返らせた。その後、たまたま隼樹が拾った一個のジュエルシードの力でプレシアの病気を治した。この世界で行くアテの無い二人を、隼樹はとりあえず家に一晩泊めてあげる事にしたのだ。
 ベッドの上でプレシアとアリシアは、仲良く抱き合って気持ち良さそうに眠っている。

「……夢オチじゃなかったのね」

 二人の寝てる姿を見て、隼樹は悩み出す。
 家族にバレずに、二人を部屋に泊め続けるのは無理がある。かと言って、家族に打ち明けても話の大半は信じてもらえないだろうし、警察沙汰になるのは間違いない。
 いい案が全く思い浮かばないので、隼樹は考えるのをやめた。
 何気なく、視線を寝てるプレシアに向ける。娘を大事そうに抱え、スースーと静かな寝息を立てている。無防備で幸せそうに寝てる大人の女性の姿に、隼樹の心の中がムラムラしてきた。顔の熱が上がって、赤くなっていく。音を立てないように静かに近寄り、プレシアの寝顔を覗き込む。
 ──綺麗だな。
 プレシアの寝顔を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ時だった。

「ん……」

 うっすらとプレシアの目が開かれた。

「うわっ!」

 驚きながらも隼樹は、出来るだけ声を小さく抑えた。が、慌てて後ずさったので、バランスを崩して倒れ、本棚に頭をぶつけてしまった。

「いてっ!」

 ぶつけた後頭部を押さえて、隼樹は涙目でうずくまる。
 隼樹が痛がっている事に気づかず、プレシアは上体を起こして呑気に欠伸をしている。

「ふぁ〜。あら、隼樹。おはよう。何してるの?」

 眠い目を擦りながら、ようやくプレシアは隼樹に気付いた。
 ジンジン痛む頭を手で押さえながら、隼樹は顔を上げた。

「……いえ、何でもありません」

 まさか寝顔を覗き込んでたとは言えず、涙目で隼樹は適当にごまかした。
 苦笑いを浮かべる隼樹に、プレシアに首を傾げる。
 そんなプレシアの隣では、まだアリシアがスヤスヤと寝ていた。


    *


 一階で朝食を済ませた後、隼樹はプレシア達がいる自分の部屋へ戻った。
 今後の事は後で考えるとして、まずは目先の問題から解決する事にした。

「とりあえず、着替えませんか?」

 最初に隼樹が着目したのは、服だった。
 プレシアが着てるドレスは、他の人から見れば単なる派手なコスプレにしか見えない。アリシアも今は、隼樹の半袖のシャツに下はトランクスしか履いてないという、女の子にはあんまりな服装をしている。生憎、隼樹には姉妹が居ないので、自分の服を貸すしかなかった。こんな格好で街中を歩いたら、間違いなく警察に補導されてしまう。

「そうね。でも、どの服を着たら……」
「あっ、俺の服でよければ貸しますよ。それで着替え終わったら、ちゃんとした服を買いに行きましょう。アリシアの分も」
「わーい!」

 新しい服を買えると聞いて、アリシアは喜ぶ。

「ありがとう、隼樹」

 プレシアも柔らかい笑みを浮かべ、隼樹に礼を言う。
 一方の隼樹は、プレシアの礼に頬を赤くしていた。今のプレシアは、最初に会った時と随分印象が変わっている。鋭い目をして周囲の者を近づけない威圧感はスッカリ消え、今は穏やかな表情を浮かべた優しい母親の顔になっていた。プレシアの心の変化に、彼女にとってアリシアがいかに大切な存在か、隼樹は改めて知った。

「あの、服はそのタンスの中にありますから、俺は部屋の外に居るんで、着替え終わったら呼んで下さい」
「わかったわ」

 プレシアは頷いて、タンスに手をかける。
 隼樹は部屋を出て、扉に寄りかかってプレシアが着替え終わるのを待つ。扉の後ろから、ゴソゴソとプレシアが着替えてる音が聞こえてくる。隼樹は少しドキドキしながら、振り向いて扉を見た。この扉の向こうで、プレシアが着替えている。頭の中で着替えてるプレシアの姿を想像したら、興奮が増して隼樹の股間が反応した。
 覗きたい。しかし、覗きをする度胸が無いのが隼樹。アリシアも居るので、想像するだけで我慢する。
 しばらくして、コンコンと扉をノックする音がした。着替え終わったようだ。
 慌てて立ち上がった隼樹は、男の部分が戻ってるのを確認してから、ゆっくりと扉を開けた。
 部屋には、着替え終わったプレシアの姿があった。胸のところに英語が書かれた白い半袖のシャツに、下はジーンズというラフな格好をしている。若者的なファッションだが、プレシアもそれなりに似合っている。

「結構いいじゃないですか」
「ありがとう。けど……」

 プレシアは、頬を赤らめて恥ずかしそうにモジモジしている。

「胸がキツくて……」

 言いながらプレシアは、両手を自分の胸の上に添えた。
 確かにサイズが合っていないシャツは、プレシアの豊満な胸で伸びていた。そのせいで、ブラジャーがうっすらと透けて見え、より胸が強調された感じになっていた。
 すぐに隼樹の目は、プレシアの巨乳に釘付けとなった。しかも、胸が巨乳されてる事を恥じらうプレシアの様子が、更に隼樹の(ケダモノ)としての本能を掻き立てる。さっきまで露出の高い服を恥ずかしげもなく着ていたのに、今はソレと正反対の反応を見せている。明らかに最初に会った時と雰囲気が別人だった。
 すぐにでも、プレシアに抱きついて胸の谷間にダイブしたかったが、真っ昼間で、子供の居る前という事もあり、理性で必死に本能を抑えていた。

「じゃ、じゃあ早速行きましょうか。あっ、でもどうやって出るかな」

 外出するには、家の玄関を通らなければならない。窓から出るなど、目立つ上に怪しまれる。
 隼樹が悩んでいると、プレシアが解決策を挙げた。

「それなら大丈夫よ。転移魔法で外に出るから」
「はい?」

 プレシアの言葉に、隼樹は怪訝な顔になった。


    *


 先に外に出た隼樹は、家の裏側でプレシアを待っていた。周囲を見回して、人が居ない事をちゃんと確認してある。近所の人に魔法を使う場面を見られたら、えらい騒ぎになるからだ。
 プレシアが、どんな登場をするか隼樹は少しドキドキしながら待つ。
 すると隼樹のすぐ前の地面に、紫色の魔法陣が出現した。紫色の輝きを発する魔法陣の中心に、プレシアの姿が現れた。プレシアの足下の魔法陣は、消えた。

「お待たせ」
「……」

 隼樹は初めて見る転移魔法に、驚きすぎて声も出さず、固まっていた。人間驚きすぎると、声も出ない時があるようだ。

「隼樹?」

 唖然となってる隼樹の顔の前で、プレシアは手を振るう。
 ようやく隼樹は、ハッと正気に戻る。

「あっ。す、すいません。驚いて、ちょっとフリーズしてました」
「まぁ、この世界には魔法が存在しないから、無理もないわね」

 言いながらプレシアは、隼樹が用意してくれた靴を履く。隼樹の靴なのでサイズが少し合ってないが、履けない事は無い。
 アリシアは、部屋で待っててもらっている。かわいそうだが、あの格好で外に連れ出す訳にもいかないので、アリシアは留守番となった。一応、出かける前に家族に『絶対に部屋に入らないで』と言ってあるので、家族の誰かが部屋に入ってくる事は無い。万が一入ってきた場合は、すぐに机の下に隠れるようアリシアに言ってある。

「それじゃあ、行きましょう」
「はい」

 準備が整い、少し緊張しながら隼樹は、プレシアと買い物に出発した。


    *


 家を出た隼樹とプレシアは、デパートにある婦人服売り場にやってきた。
 ここでは服と一緒に下着も売っているので、まとめて買う事が出来る。

「買い物なんて久しぶりだわ。沢山あるから、どれにしようか迷うわね」

 一着一着、手に取ってプレシアは服を選ぶ。悩みながらも久しぶりの買い物で、少し楽しんでる様子だ。
 一方、隼樹は少し離れた所からプレシアの様子を見ていた。何というか、恥ずかしいのだ。場所が婦人服売り場なので、隼樹のような青年が来るような所ではない。店員も客もみんな女性ばかりで、隼樹の他に男の姿は無い。自分の居場所が無いといった感じで、あまりいい居心地はしない。

「隼樹」

 隼樹がそわそわしていると、プレシアが声を上げた。
 一通り見て選び終わったようで、プレシアの手には服が何着か握られていた。

「これから試着するから、隼樹、見てくれるかしら?」
「はい。いいですよ」

 隼樹が頷くと、プレシアは服を持って空いてる試着室に入った。
 ドキドキと胸を鳴らして、隼樹は着替え終わるのを待った。
 やがて着替えが終わり、試着室のカーテンが開かれた。

「どうかしら?」

 聞いてくるプレシアは、薄紫色のブラウスに白のロングスカートを履いていた。
 隼樹は見惚れていた。彼の私服を着ていた時と違い、目の前のプレシアは女性らしい印象と雰囲気を持っている。過度な露出は無いが、子持ちの母親とは思えない魅力を出していた。隼樹もテレビで色々なアイドルの姿を見るが、女性に見惚れるのは今回が初めてだった。
 見惚れて反応が無い隼樹に、プレシアは小首を傾げる。

「隼樹? 隼樹?」
「え? あっ、はい」

 プレシアの声で、ようやく隼樹は我に帰った。

「大丈夫? 何だか、ボーッとしてたみたいだけど」

 心配になったプレシアは、隼樹に近づいて覗き込むように顔を見る。
 プレシアの顔が近づき、目まで合って隼樹の体温が上がり、顔が赤くなっていく。心臓の鼓動も、さっきよりも早くなっていた。

「いや、その……プレシアさん、綺麗だなって思って、見惚れてて……」
「えっ!?」

 恥ずかしがりながら言った隼樹の言葉に、今度はプレシアが頬を赤くした。
 思わずプレシアは顔をそらし、二人の間で妙な空気が漂う。

「あ……ありがとう」
「い、いえ……」

 プレシアが礼を言って、隼樹も答えるが、二人とも顔を合わせない。
 その後も妙な空気が消えぬまま、プレシアは試着を続け、最終的に自分とアリシアの服と下着をそれぞれ四着ずつ買った。勿論、お代は隼樹が払った。店を出る時、財布の中身を見た隼樹は、プレシアに気づかれぬよう小さく溜め息をついた。ついでに、別の店で靴も買い、帰りの途中で飲食店にも寄って昼食を食べた。
 一緒に買い物をしたり、食事をしたり、コレってデートみたいじゃね? と隼樹は若干興奮していた。
 アリシアの分の昼食を買って、二人は帰路についた。


    *


 家族が寝静まった頃、隼樹とプレシア達は一階に居た。
 隼樹は居間でテレビを見、プレシアとアリシアは風呂に入っている。
 風呂場から二人の声、シャワーの音が聞こえてきて、隼樹の煩悩を刺激する。隼樹はテレビを見て、なるべく気にしないようにしているが、やはり男の部分は素直に反応していた。
 喉が渇いたので、隼樹は冷蔵庫にあるコーラを手にした。缶の蓋を開け、口につけて飲み始めた時だった。
 隼樹の前で突然、扉が開かれたのだ。
 ソコには、風呂から上がって着替え終わったアリシアと、まだ裸のプレシアの姿があった。
 冷蔵庫がある台所と浴室は、すぐ近く、隣なのだ。

「ぶっ!?」

 噴いた。
 衝撃のあまり隼樹は、思わず口の中のコーラを噴いた。まるで漫画の一コマのようだった。
 プレシアは、バスタオルを片手に持っているが、体は隠していない。一糸纏わぬ、生まれたままの姿で立っていた。
 隼樹とプレシアは目が合い、みるみる内に顔が真っ赤に染まっていく。

「あっ、いや、その……!」
「バカァ!」

 隼樹が弁明する前に、真っ赤な怒った顔でプレシアは、どこからともなく杖を取り出した。
 そしてさらけ出された両の大きな胸を激しく揺らし、隼樹に向けて杖を振り、紫色の魔法陣を展開させ、電撃を放った。

「ぎゃああああああ!」

 モロに電撃を受け、隼樹は悲鳴を上げる。
 プレシアは激しく呼吸を乱して、肩で息をしていた。

「隼樹お兄さん、大丈夫?」

 指でツンツンとつつきながら、アリシアが尋ねた。

「……無理」

 黒焦げの隼樹が、一言返した。
 興奮が収まり、プレシアは慌ててバスタオルを身に纏い、隼樹に駆け寄った。

「じゅ、隼樹? ああ、ごめんなさい! ビックリして、その……恥ずかしくて、つい……」
「いえ……大丈夫です……」

 あたふたして謝るプレシアに、隼樹は弱々しい声で返す。が、その顔がどこか満ちた表情をしていた。
 プレシアの裸が見れたのだから、電撃一撃受けるのは安いもの。隼樹は、プレシアの裸をシッカリと目に焼き付けていた。
 ちなみに、この日、隼樹が消費した金額は食事代も含め、四万七千九百円也──。


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