前回までのあらすじ
隼樹「どえらい事になった後、更に黒い怪物が現れて、またどえらい事になりました」
黒い怪物を倒した隼樹とプレシアは、家の中に戻り、二階にある隼樹の部屋に居た。
椅子に座る隼樹の足は、小さく震えている。まだ先ほどの闘いの恐怖が残っているようだ。今まで平凡平和な人生を歩んできた者が、いきなり漫画のような非常識で激しい戦闘に割り込んだのだ。下手をしたら死んでいた。黒い怪物に襲われた時の記憶が頭の中に鮮明に浮かび、心臓の鼓動も早鐘のようで、気持ちが落ち着かない。ぶっちゃけた話、触手が顔のギリギリ横に刺さった時、怖くて涙が出た。まぁ隼樹が思い付いた囮作戦が上手くいき、こうして何とか無事に生き残る事が出来た。
そして、もう一つ。隼樹は、家族が眠っている事に安堵していた。もし起きてプレシア達の事や外での出来事を問い詰められたら、上手く説明する事など出来ない。きっと警察を呼んで、騒ぎになっていただろう。そんな事になったら、警察にも事情を聞かれ、貴重な睡眠時間を削る事になる。だから家族が目を覚まさなくて、隼樹は心底安心した。
しかし、まだ問題は解決していない。プレシア達が何者で、何処から来たのか、どうやって隼樹の部屋に現れたのか、さっきの黒い怪物と青い宝石は何なのか。それらを聞かなければならない。
プレシアは、隼樹の前にある椅子に座っている。出会ってから、それほど時間は経っていないが、最初の頃に漂わせていた刺々しい近寄り難い雰囲気が、少し薄れていた。隼樹と共闘した事で、警戒を緩めたのだろう。
プレシアと向かい合う隼樹は、顔が少し赤く、緊張した様子をしていた。こうして部屋で美女と二人っきりになるなど、彼の人生の中で一度も無かったので、かなりドキドキしている。プレシアは確実に隼樹より年上で三十路を超えているようだが、熟された肢体からは老いを感じさせない色気がある。腰の辺りまで届いてる軽くウェーブのかかった長い黒髪、露出の高い紫色のドレスから覗く美しい肌と大きな胸の谷間、大人の女性としての魅力を持つプレシアに、隼樹は見惚れていた。特に視線は、プレシアの二つの大きな膨らみに釘付けだ。
隼樹が視線を上げると、プレシアは呆れた顔をしていた。
「あっ! いや……その……す、すいません」
プレシアと目が合った隼樹は、慌てて顔をそらして謝った。
溜め息をついてから、プレシアが本題に入る。
「私達は、別の世界から来た人間なのよ」
「え? 別の世界?」
恥ずかしさを抑え、隼樹はプレシアと向き合う。
「ええ。この世に存在する世界は一つじゃないわ。次元空間と呼ばれる空間には、数多の世界が存在し、私達が住んでいた世界もその中の一つ。私達が住んでいたのは、ミッドチルダという魔法文明が発達した世界よ」
プレシアが語る内容は、まるで漫画のような話で隼樹は驚きを隠せなかった。
隼樹は頭は悪いが、異世界からやって来たなどという突拍子もない話を簡単に信じる程、馬鹿ではない。が、納得せざるを得ない部分もある。『魔法』の存在だ。足下に魔法陣を作って結界を張り、雷を出すところを自分の目で見た隼樹は、魔法の存在を認めるしかなかった。
「私は以前、ミッドチルダで次元航行のエネルギーの研究をしていた。その時、上からの命令で無茶な実験を行って……アシリアを死なせてしまった」
暗い悲しみの表情でプレシアは、振り返ってアシリアの亡骸に顔を向けた。
自分の研究の事故に巻き込んで、娘を死なせてしまったプレシアの苦悩と悲しみは、隼樹には想像も出来なかった。慰めの言葉をかけても気休めにもならない。だから隼樹は、何も言わなかった。
「アシリアの死に顔を見て、私は決心したわ。この手で必ず、アシリアを生き返らせると! その日から私は、『人造魔導師』の技術を調べたわ」
「『人造魔導師』?」
「私達の世界には、動物の肉体を素体とする“使い魔”と呼ぶ存在がいるわ。人造魔導師は、人の手で造り出された人──まさに使い魔を超えた存在なのよ」
「おおっ!」
話を聞いて興奮を隠せない隼樹は、思わず声を上げた。
「それで、上手くいったんですか?」
僅かに身を乗り出して、隼樹が聞く。
するとプレシアは、ゆっくりと首を横に振った。
「……ダメだったわ。どんなに姿がアリシアと同じでも、アリシアの記憶を与えても、あの子はアリシアではなかった! 私の大好きなアリシアじゃないのよ!」
過去の出来事が甦り、プレシアは声を荒げる。
急に感情を爆発させたプレシアに、隼樹は驚いて体を小さく震わせた。
プレシアが最初に気付いた違和感は、利き腕だった。アリシアは左利き、しかしアリシアのクローンであるフェイトは右利きだった。その他にも性格や仕草、様々な面でアリシアとの違いを見つけ、計画は失敗したとプレシアは絶望した。
プレシアは、いくぶんか気持ちを落ち着けてから、話を再開した。
「それから私は、次の計画を考えた。古の秘術が眠る約束の血『アルハザード』に辿り着き、アリシアを蘇らせる計画を立てたわ」
『アルハザード』。大昔に存在した世界で、そこには時を操り、死者さえも蘇らせる秘術があると伝えられている。が、次元断層に沈み、存在が確認されていない現在では伝説上の存在となっている。
頭の悪い隼樹は、『何でも有りの奇跡の場所』と超簡単に解釈した。まあ、間違いではないが。
「アルハザードを目指す為に、私はあの出来損ないの人形に魔法の知識と技術を覚えさせ、ジュエルシードを集めるよう指示を出したわ。けど、やっぱり出来損ないは出来損ないね。集めてきたジュエルシードは、21個の半分にも満たない9個だけ……。それでも私は、その9個のジュエルシードを使ってアルハザードへの旅立ちを決行したわ! けど、結局は失敗したわ……アルハザードへは辿り着けず、魔法も発達してないこの世界に流れ着いてしまった……」
プレシアの独白が終わり、部屋に沈黙が生まれた。
話を聞いた隼樹は、難しい顔で複雑な思いを抱いていた。娘を死なせてしまい、その娘を生き返らせようと必死になるプレシアの気持ちも分からなくもない。しかし今の話から推測すると、プレシアは自分で生み出したアリシアのクローンを見捨てた事になる。いくらなんでもそれは可哀想なのでは、と隼樹は思ったが、プレシアに意見する勇気など無いので口に出して言えなかった。ただ、フェイトに対して少し同情するだけで、それ以上の怒りの感情などはない。所詮、一度も会っていない顔も知らない赤の他人なのだ。
代わりに隼樹は、ある質問をした。
「あの……一つ、いいですか?」
「何かしら?」
「その、ジュエルシードってのは何なんですか?」
黒い怪物の力の源であり、プレシアの話にも出てきた不思議な青い宝石──ジュエルシード。プレシアがこの世界にやってきた原因であるし、かなり重要なアイテムだと隼樹は考える。
プレシアが答えた。
「ジュエルシードは、『ロストロギア』の一種よ。まず『ロストロギア』とは、次元世界に存在する数多の世界の中でも、高い技術を持った世界で造り出され、その世界を滅ぼした古代の危険な技術遺産。扱いを間違えば、世界を滅ぼす危険な道具。それが『ロストロギア』よ」
ハアと隼樹は頷く。隼樹にとってロストロギアとは、漫画やゲームに出てくる危険アイテム程度の認識しかなかった。
「それでジュエルシードだけど、コレは魔力の結晶体で、特性は周囲の生物の願望を叶える事よ」
「ド〇ゴン〇ール?」
「は?」
「あっ、いえ。こっちの話です」
ジュエルシードの説明を聞いて、七つの龍玉が頭に思い浮かんだ隼樹。
「あの……これから、どうするんですか?」
「……分からないわ」
力なく隼樹に答えると、プレシアは再びアリシアに振り返る。
娘の蘇生が全てだったプレシアは、計画が失敗して希望を失っていた。これからどうするかも、本当に分からない。いや、そもそもアリシアの居ない世界を生きても意味が無い。それに自分には、もう時間が無い。今までの無茶な行動で病は早く進行し、もう長くは生きられない体だ。
死ぬなら、せめてアリシアの傍で死のう。そう考えたプレシアは、アリシアが眠る生体ポットに近寄った。蓋を開け、緑色の液体で満たされた生体ポットの中からアリシアを引き揚げ、抱き締める。
「アリシア……」
娘の名を呼び、二度と離さぬよう力一杯、抱き締めた。
その時、隼樹はアリシア蘇生の“ある方法”を思いついていた。アルハザードへ行くなんて面倒な事よりも、ずっとシンプルで安全な方法。
だが隼樹は、その案をプレシアに言おうか迷っていた。言えない理由は、自分の考えに自信が無いからだ。迷う隼樹は、テスタロッサ親子を見る。このまま目の前にいる親子を見捨てたら、一生後悔するかもしれない。それに後味も悪い。そう思った隼樹は、意を決して「よし」と呟く。
「はい!」
まるで学校の授業で、答えを発言する生徒のように隼樹は手を上げた。
プレシアは、少しうんざりとした様子で振り向いた。
「何? まだ何かあるのかしら?」
「あの……ジュエルシードを使うってのは、ダメなんですか?」
「え?」
隼樹の言いたい事が解らず、プレシアは怪訝な顔になる。
たじたじになりながらも、隼樹は言った。
「その……ジュエルシードって、願いを叶える石なんですよね? だったら、わざわざアルハ何とかってトコに行かなくても、そのジュエルシードに直接、娘の蘇生を願えばいいんじゃないんですか?」
隼樹が言い終わった後、部屋は静まり返った。
両者、口を閉ざして沈黙する。
ややあってプレシアは、先ほど手に入れた三つのジュエルシードをポケットから取り出した。隼樹の言葉を頭の中で繰り返し、目を大きく見開いてハッとなる。明らかに動揺している。
プレシアは、気まずげに隼樹から顔をそらした。
「そ……そんな方法、私は前から知ってたわよ!」
──ああああっ! プレシアさん、今まで気づいてなかったァァ! 明らかに今気付いたよォォォ!
プレシアの分かりやすい反応を見て、隼樹は内心にシャウトした。プレシアほど頭のいい人間なら、この程度の方法は実証済みだと思っていたが、考えてすらいなかったようだ。頭の固い人間は、簡単な事に気づかないというのは本当らしい。アルハザードにこだわるあまり、最もシンプルで危険性が低い手段を見落としていた。
「い、言っておくけど、気付いてたのよ! 貴方に言われる前から、私はその可能性に気付いてたのよ!」
気付かなかった恥ずかしさで赤くなった顔で、プレシアは声を荒げて主張した。
「は、はい。わかりました」
プレシアの心中を察し、隼樹も口に出してツッコミはしなかった。
しかし、隼樹は思う。年齢的にはオバサンだが、恥ずかしくてあたふたしてるプレシアは可愛い。最初見た時は、結構キツそうな印象があったが、本当はもっと優しい人かもしれない。
隼樹の中で、プレシアの印象が変わった。
そのプレシアは、気持ちを切り替えてアリシア蘇生の準備をしていた。全裸のアリシアをベッドに寝かせ、プレシアは三つのジュエルシードを用意する。
一糸纏わぬアリシアの姿を見て、慌てて隼樹は自分の服を着せてあげた。半袖のシャツだが、小さな女の子であるアリシアの体を隠すには充分だった。いくら遺体でも、全裸でいるのは可哀想だし、母親の前でもある。それに、これから生き返るかもしれないというなら、尚更だ。
準備は整い、プレシアはアリシア蘇生を始める。
これが最後のチャンスとプレシアは、静かに目を閉じ、意識を集中させる。
隼樹は邪魔にならないように、後ろで黙って見守っている。
プレシアが娘の蘇生を強く願うと、手に握られてるジュエルシードが反応して光り出す。三つのジュエルシードが発動し、青い輝きを放って室内を青く照らす。ジュエルシードの膨大な魔力をコントロールしようと、プレシアは魔法陣を展開した。扱いを間違えないように、魔法で慎重に魔力の制御を行う。直接ジュエルシードを握る手は、煮えたぎるマグマに突っ込んでるような熱と痛みを感じ、病と魔力の負荷で体に激痛が走る。
しかし、それでもプレシアはやめない。決して願う事をやめない。
額から大量の汗を流す苦痛の顔で、プレシアは願う。
願う。
アリシアが生き返る事を。
願う。
穏やかで幸せだった、あの日々を取り戻す事を。
願う。
願う。
願う。
強く願う中で、プレシアはカッと目を見開いた。
「ジュエルシード……! 私の願いを叶えなさい! アリシアを生き返らせなさい!」
必死の形相で、プレシアは願う。
プレシアの強い想いに呼応するように、ジュエルシードは輝きを増していく。光は目を開けていられない程に強くなり、後ろで見守ってる隼樹は耐えられずに目を閉じた。ジュエルシードの強烈な青い光は三人の姿を包み、室内を青く染めた。
やがて光が収まり、隼樹はうっすらと目を開けた。目の前には、プレシアとアリシアの姿がある。二人の姿を確認して、隼樹は安心した。
プレシアも視界が回復し、目の前で眠っているアリシアに目を向けた。
「アリシア……」
娘が目覚めるのを信じて、プレシアは名前を呼ぶ。
「お願い……目を開けて、アリシア……!」
ジュエルシードを手放し、アリシアの頬に両手を添える。ベッドに転がるジュエルシードは、美しい青い輝きを失っていた。
「……アリシア。アリシア!」
目に涙を浮かべ、プレシアは呼び続けた。
その時だった。
プレシアの後ろに居る隼樹は、見逃さなかった。ベッドに眠っているアリシアの手が、ピクリと小さく動いたのを──。
アリシアの手が動いたのを見て、隼樹は我が目を疑った。
そして──。
「ん……」
アリシアの口から、聞こえるハズのない声が漏れた。
「アリシア!」
アリシアの声を聞き、プレシアは呼び掛ける声を大きくした。
プレシアの前で、アリシアはゆっくりと瞳を開いた。
「お……母さん……?」
昼寝から目覚めたように目を擦り、アリシアは起きた。
「アリシア!」
「生き返った……!」
プレシアは歓喜の声を上げ、隼樹は驚愕して目を見開く。
目から涙を溢れ出し、プレシアはアリシアを強く抱き締める。
「ア……アア、アリシア! 良かった……アリシアァァ!」
「お、お母さん! 痛いよ! どうしたの?」
どうして母親が泣いてるのか解らず、アリシアは戸惑う。
成り行きを見守っていた隼樹は、安堵して床に座り込んだ。正直、信じられない出来事の連続で、夢なのか現実なのか分からなくなっていた。けど、ただ一つ確かなのは、アリシアという女の子が生き返って良かったという事だ。涙を流しながら嬉しそうな顔をしてるプレシアを見て、隼樹はそう思った。
だが安心したのも束の間、悪い事態が起きた。
「うっ……! ゲホッゲホッ!」
プレシアが手で口を押さえ、激しく咳き込んだ。不治の病を抱えた体で無理をした結果、病状が悪化したのである。
「お母さん! お母さん!」
「プレシアさん!」
アリシアが声をかけ、隼樹も急いで駆け寄る。
隼樹はプレシアの背中を擦って落ち着かせようとするが、咳は激しくなる一方で、おさまる様子が全く無い。
「ゲホッ! ガハッ!」
そして遂に、プレシアの口から赤い液体が吐き出された。真っ赤な血は、床やベッドに飛び散り、赤いシミを作った。
「……ど……どうやら……もう、限界みたいね……」
「お母さん! 嫌だよ! 死んじゃ嫌だよ、お母さん!」
涙を流しながら、必死に叫ぶアリシア。
するとアリシアは、顔を上げて隼樹を見た。
「お願い、お兄さん! お母さんを助けて!」
「えっ!? 俺!?」
突然の頼みに、隼樹は戸惑いを隠せなかった。
「いや、助けてって言われても……俺、医者じゃないし……。って、そうだよ、医者だよ! 病院! 救急車!」
119番しようと隼樹は、近くに置いてあるケータイに手を伸ばすが、プレシアがソレを制した。
「無駄よ……私が患ってるのは、不治の病……この世界の文明レベルじゃ、とても治せないわ……」
「はあ!?」
手の動きを止めて、隼樹は愕然となる。
娘が生き返った途端、母親の死期が迫る。何とも皮肉な話である。
「お母さん……!」
大粒の涙を零すアリシアに、プレシアは優しく微笑む。そして、申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい、アリシア……こんなダメな母親で……。大切な娘を死なせてしまうような、最低な母親で……。これは、きっと罰なのよ……貴方を死なせた私への罰……。でも……最期に元気なアリシアの姿が、見れて……良かったわ……」
プレシアの声は震えていた。やっと娘が生き返ったのに、自分は死んでいく。一日だけでもよかった、アリシアと穏やかな時間を過ごしたかったのに、自分は死へと近づいていく。娘を生き返らせる為なら、自分の命など惜しくはなかった。けど今は違った。
生きたい。娘と一緒に、新しい人生を生きたい。
そう強く望んだプレシアの目から、再び涙が流れ出てきた。止まる事の無い涙は、頬を伝い、ポタポタと床に落ちていく。
目の前のアリシアも泣き続けている。母親と別れてしまう時に、悲しまない子供などいない。
アリシアは再び、隼樹に顔を向けた。
「お兄さん! お願い……! お母さんを助けて……!」
小さな肩を悲しみで震わせ、アリシアは救いを求める。
アリシアの必死な想いを無下にする事も出来ず、隼樹は頭をグシャグシャと掻きむしって悩む。
「どうすればいい……? どうすれば……」
普段使わない頭を働かせ、隼樹は必死に考える。
だが、そう都合よくいい案など浮かばない。
その間もプレシアは、苦しそうに咳き込み、喀血をする。
「くそっ!」
苛立ちが高まり、隼樹は自分の足を叩いた。
その時だった。
ズボンのポケットの中に、固い感触がした。
ポケットの中に手を突っ込み、隼樹はハッとなった。
「……助かる」
「え?」
隼樹の呟きを聞いて、プレシアは顔を上げた。口の周りは、血で赤く染まっている。
「コレを使って、病気を治すんです」
屈んだ隼樹は、プレシアにポケットの中にあった物を見せた。
それは、プレシアがもう必要ないと隼樹にあげたジュエルシードだった。
ジュエルシードを見て、プレシアは目を見開く。
「これは……」
「ジュエルシードは願いを叶える石。だったらコレで、プレシアさんの病気も治せるハズ」
プレシアが助かると知って、アリシアの顔に笑顔が戻る。
だがプレシアは、ゆっくりとかぶりを振った。
「無理よ。ジュエルシードは、ちゃんとした扱いをしないと……変な願いの叶える方をする、欠陥品のような物よ。魔導師でもない貴方に……ソレを使いこなす事なんて、出来ないわ」
「でも……でも、上手くいく可能性もあるでしょ?」
「限りなくゼロに近いわ」
食い下がる隼樹に、プレシアは厳しい意見を言う。
それでも、隼樹は諦めなかった。
「ゼロに近いって事は……可能性はゼロじゃないですよね」
「貴方……」
驚くプレシアの前で、隼樹はジュエルシードを片手に強く願う。
「ジュエルシード……プレシアさんの病気を治してくれ! プレシアさんを助けてくれ!」
青い輝きを放って、ジュエルシードが発動する。
「変な叶え方をしたら、ブッ殺すぞォォォォォ!」
隼樹の感情の爆発と共に、ジュエルシードの輝きも大きく、そして強くなった。
その時、プレシアの体がジュエルシードと同じ青い光に包まれた。戸惑うプレシアだが、何故か不安は無かった。
やがてジュエルシードの輝きが収まり、プレシアを包む光も消えた。
「こ……これは……!」
すぐにプレシアは、自分の体の変化に気付いた。
体を蝕む病が消えており、痛みも苦しみも感じない。
生きる事を諦めかけていたプレシアは、喜びに震えた。
「治った……治ったわ、アリシア!」
「お母さん!」
プレシアとアリシアは、涙を流して抱き合った。しかし、その顔は笑顔だった。
抱き合う親子の姿を見て、隼樹は安堵の溜め息をついて床に座り込む。光を失ったジュエルシードが、コロコロと床に転がった。
しばらく抱き合ったプレシアは、アリシアから離れて隼樹に抱きついた。
「隼樹!」
「どわっ!」
いきなりプレシアに抱きつかれ、隼樹はビックリする。
「ありがとう……! ありがとう、隼樹……! 本当にありがとう!」
心からの感謝の気持ちを込めて、プレシアはお礼の言葉を隼樹に伝える。
「あっ……いや……いや、そんな……!」
一方、隼樹は興奮していた。プレシアに抱きつかれて密着状態になり、彼女の豊満で弾力のある胸が隼樹に押し付けられる。女性の持つ独特の香りもあり、隼樹の興奮を高める。心臓が破れそうなほど高鳴り、真っ赤に染まった顔には大量の汗がかいていた。
「ありがとう、お兄さん!」
そこへアリシアも飛び付いてきて、お礼を言われた。
「いや、いや、その……お、俺はそんな……」
二人の女性に抱きつかれて、隼樹の興奮が収まる事は無かった。
誰も知らないところで、一つの奇跡が起きた。
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