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またまた長らくお待たせして、すみませんでした。
これからは、今までのような長い間を空けないよう努力します。
第三十六話:雑魚がどれだけ吠えようが雑魚は雑魚
 思わぬ乱入者に、隼樹達は動揺した。
 闘いの場に現れたのは、隼樹との死闘の末に敗れたガルマだった。頭を指でポリポリと掻き、周りを見回して戦況を確認している。たまに頭で指を掻くのは、彼の癖のようだ。

「ナンバーズハ、二人ダケカ。シカモ一人ハ負傷シテイテ、アマリイイ状況デハナイナ」

 暢気なカタコトで、ガルマは状況を口にした。

「おま……何で、ここに……?」

 一方、隼樹は突然現れたガルマを指差していまだ動揺が収まっていなかった。
 脱獄の件を知らないのだから、驚くのも無理無い話である。

「ああ、そういえば隼樹にはまだ言ってなかったな。アイツ、数日前に拘置所を脱獄したんだよ」
「脱獄!? マジで!?」

 セインの口から驚きの情報を聞いて、隼樹は声を上げた。
 管理局の一部隊であるナンバーズは、当然ガルマの脱獄の件を知っていた。だが、その事を隼樹には知らせなかった。ガルマの脱獄が、編み笠の男と何か関係があると考えたからだ。

「サテ、無駄話ハコレクライニシテ、ソロソロ今アル問題ヲ何トカスルカ」

 ガルマの言葉で、隼樹達も編み笠の男に注意を戻す。
 編み笠の男は、不意打ちをする様子も無く、腕を組んで不敵な笑みで隼樹達の様子を見ていた。まるで、こちらの闘いの準備が整うのを待っているようだった。その様子は、編み笠の男の高い自信をそのまま表しているようにも見える。
 隼樹は、編み笠の男と目が合い、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「セイン。チンクを頼む」
「いや、あたしも一緒に闘うよ!」
「姉も、まだ闘える……!」

 セインは首を横に振るい、チンクは負傷した右腕を庇い、闘う意思を見せる。
 そこへ、意外にもガルマの声が差し込まれた。

「イヤ、オ前等ハ、隼樹ノ言ウ通リ、ジットシテイロ」
「えっ!?」

 セインとチンクは、驚いてガルマへ顔を向けた。
 ポリポリと頭を掻き、ガルマは淡々と話す。

「片腕デ相手ヲ出来ル程、奴ハ甘クハ無イ。ソレト、セイン、ト言ッタカ。オ前ハ強化サレテイルヨウダガ、完全ナ戦闘タイプデハ無イナ。一発ノ威力ガ小サイオ前モ、奴ノ相手ハ務マラン」

 ガルマの話を聞き、チンクとセインは悔しそうに歪めた顔を伏せた。
 事実、ガルマの指摘した事は間違っていない。編み笠の男の強さを身をもって体験したチンクは、片腕では闘いにすらならない事は彼女自身が解っていた。セインも、決定打になるような威力の攻撃を持ち合わせていない。それでも隼樹を護ろうと二人は闘おうとしたが、負け戦になる闘いをしても護れないと悟った。
 二人が引き下がったのを確認して、ガルマは隼樹に声をかけた。

「ソレジャア、ヤルカ隼樹?」
「ああ。それと、二人の事……ありがとう」
「気ニスルナ」

 チンク達を説得してくれた事に隼樹が礼を言うと、ガルマはそっぽを向いた。

『おいおい、いいのかよ隼樹?』

 珍しく口を挟まず様子をうかがっていた無名刀が、ここで声を出した。

『その蟻面の真っ黒クロスケ、お前の敵だったんだろ?』
「ああ。確かに、ゆりかごの中で闘った。……だから断言出来る……コイツは信用出来る……!」

 不思議と隼樹は、ガルマを信用していた。
 昨日の敵は今日の友。拳を交わして友情を深めたような、まるで熱い少年漫画の主人公のような気分だった。ガルマは、相手を騙して襲うような卑怯で小さな事はやらない。そんな確信が、隼樹にはあった。
 隼樹の言葉を聞いて、無名刀は溜め息をつく真似をした。

『そうかい。なら、お前の好きにしな』

 無名刀も引き下がり、隼樹はガルマの横に立った。
 すると、ガルマが耳元で囁いた。

「隼樹、私ニ考エガアル」

 隼樹は無言で耳を傾け、ガルマの作戦を聞いた。小さく頷き、無名刀を構えて再び編み笠の男と対峙する。
 待ちくたびれたと言った様子で、編み笠の男は組んでいた腕を解いた。

「ようやくか。さあ、殺し合いを再開しようじゃないか」

 以前の仲間であるガルマに対して、非難も質問の言葉も言わず、ただ殺し合いをする事を考えていた。
 編み笠の男にとって、ガルマが隼樹側についてる事は別に怒る事でも驚く事でも無かった。殺し合いが出来るなら、何でもいいのだ。実際に、この世界に来るまでは二人で殺し合いをしていたのだから、ソレが再開されただけの事である。最初から、ガルマと編み笠の男の間に仲間意識など無いのだ。
 公園は静まり返り、先に動いたのはガルマだった。地を蹴り、全速力で編み笠の男に向かって突っ込む。

「ぬぅううううん!」

 ガルマの突進とも呼べる突っ込みに対して、編み笠の男は魔力で強化した拳を突く。
 しかし、チンクの腕すら一撃で粉砕した編み笠の男の拳は、ガルマには届かなかった。当たる寸前で、編み笠の男の拳は止まった。例によって、障壁を張って編み笠の男の突きを防いだのだ。
 ガルマの障壁は、魔法を含んだあらゆる物理攻撃を完全に防ぐ事が出来るのだ。術者のガルマを囲むような円形なので、死角が無い。しかも、魔法に限れば魔力を吸収して障壁の強度を上げる特性を持っている。魔法を操る者にとって、ガルマはまさに天敵とも呼べる存在なのだ。この結界内に入れたのも、障壁で弾丸のように突進して破り、侵入したのだ。破れた結界は、すぐに修復したが。
 編み笠の男の強化された拳も、例外なく止められた。
 拳を止められた編み笠の男は、しかし楽しそうに笑う。

「フハハハハハ! 相変わらず、お前の障壁は鉄壁だな!」
「ソウ言ウ貴様ノ拳モ、全ク衰エテナイナ」

 互いに一歩も引く様子も無い。
 編み笠の男は、力任せに強引に障壁を破ろうとするが、魔力を吸われるだけで破れる気配が無い。
 その時、編み笠の男を一つの影が覆った。影の正体は、無名刀を上段に構えている隼樹だった。正面からガルマがぶつかり、その隙に頭上から編み笠の男を討つという作戦だった。
 だが、

「そう来る事は──」

 ニヤリと口元を釣り上げ、編み笠の男は顔を上げた。

「分かっていたァァァァ!」

 頭上の隼樹目掛けて、声と共に空いている左の突きを放つ。
 完全に捉えたと思われた編み笠の男の突きは、隼樹の体を外した。振り下ろした無名刀を編み笠の男の腕に当て、強引に宙で体を動かし、そのまま編み笠の男の太い腕の上をボールのように転がって避けた。

「おほっ!?」

 思わぬ回避行動に、初めて編み笠の男は驚いた。
 隼樹の回避に驚いてる隙に、ガルマは口をガパッと開き、ガラ空きになっている編み笠の男の腹部目掛けて砲撃を放つ。黄色い光線は編み笠の男に直撃して、公園の端まで押し飛ばした。後方へ押された編み笠の男は、砂煙に包まれて姿が見えなくなる。
 隼樹はガルマの隣に立って、砂煙を注意深く見つめた。

「やって……ないよな?」
「コノ程度デ倒セル相手ナラ、オ前等ダケデモ充分ダ」

 短い会話を終えたと同時に、砂煙の中から編み笠の男が見えてきた。ガルマの光線は貫通しておらず、打撃を受けたような痕だけが残っていた。余裕の笑みからは、あまりダメージを受けていない事が容易に分かった。
 手で服についた砂を払い、編み笠の男は笑う。

「いやいや、この俺が裏をかかれるとはなぁ。頭上からの襲撃は囮で、本当の狙いはその後のガルマの魔砲とはねぇ」

 まるで堪えていない編み笠の男の耐久力に、隼樹は精神的に少し圧された。

「いや、しかし……お前の障壁は相変わらず厄介だなぁ……」

 何か思案するように、編み笠の男は顎に手を当てている。

「さてさて……それじゃあ、まずお前から崩すか」

 そう言うと、編み笠の男は驚きの行動に出た。

「なっ……!?」
「ニッ……!?」

 あまりの衝撃な光景に、隼樹だけでなくガルマも目を見開いた。
 後ろで闘いを見守っているチンク達も、自分の目を疑っていた。
 一同の前で、編み笠の男は自分の体に腕を突いたのだ。太い右腕が、深々と胸部の辺りに突き刺さっている。狂気の沙汰としか思えない光景だが、妙な事に出血が起こっていない。普通なら致命傷にもなりかねないが、編み笠の男は立っている。息もある。生きている。
 青ざめた一同の中で、編み笠の男は腕を引っこ抜いた。その手には、何かが握られていた。どす黒い光を放つ物は、丸い形状をしていた。
 ソレを見た瞬間、チンクはハッとなる。

「リンカーコア……か……?」

 呟きのようなチンクの声を拾った編み笠の男は、不気味に口元を歪めた。

「正解……! コレは俺のリンカーコアさ……! コイツを体内から取り出すって事は、どういう事か解るよなぁ、ガルマ……?」

 編み笠の男に問われ、ガルマもハッとして息を呑んだ。
 しかし、気付いた時には遅かった。
 編み笠の男は、リンカーコアを失い、魔法の力を失くしたにも関わらず素早い動きでガルマとの距離を詰める。そして動揺してるガルマの腹部目掛け、右拳の突きを放つ。その突きは、簡単にガルマの腹にめり込んだ。突きの衝撃は、内臓にまで届いて大きなダメージを与えた。

「グェェボッ!」

 防御をする暇もなく、まともに突きを受けたガルマは口から嘔吐物を吐き出す。べちゃべちゃと不快な音を立て、地面に嘔吐物が広がる。

「ガ、ガルマ……!?」

 全く予想外の展開に、隼樹は動揺して動けなかった。
 ガルマの障壁は、編み笠の男の拳を止められなかったのだ。
 腹を抱えて悶えるガルマを見下ろし、編み笠の男は説明した。

「ガルマ……お前の障壁は、魔法等の物理攻撃を防ぐ……。だが、完璧では無い……致命的な穴がある……。ソレは、隼樹が教えてくれた……魔法無しの生身の攻撃は防げない、という致命的弱点だ……!」

 隼樹とガルマは、驚愕の表情で固まった。
 編み笠の男も、二人の闘いからガルマの障壁の弱点に気付いたのだ、そこで編み笠の男が思い付いたのは、体内にあるリンカーコアを抜き取り、魔法の力を一時的に失う事で生身の攻撃を通すという策だった。その証拠に、さっきまで公園を覆っていた結界は消えている。魔法無しでも、編み笠の戦闘能力はガルマを軽く超える。今までガルマが編み笠の男と闘り合えたのは、障壁で攻撃を完璧に防いできたからだ。その最終防衛線を破られては、ガルマに勝ちは無い。
 リンカーコア摘出という荒技で、編み笠の男は一気に優勢に立つ。
 残虐非道な笑みを浮かべ、目が不気味に光る。

「さて、名残惜しいが、お前とはこれでお別れだな……!」

 編み笠の男は空いてる右手を伸ばし、ガルマの首を掴んだ。

「やめ……!」

 隼樹が止める間もなく、鈍い音が公園に響いた。
 ガルマの首があり得ない方向に曲がり、ダランと力無く垂れている。黒い体が、小刻みに痙攣していた。
 あっけなく、実にあっけなくガルマの命は奪われた。
 ガルマは、死んだ。
 動かなくなったガルマの死体を見て、編み笠の男は愉快そうに笑った。

「クフフ……! 命を奪うこの感触……何度味わっても最高だねぇ……!」

 悪魔。
 世界中の悪党が尻尾を巻いて逃げだしてしまう程に、編み笠の男は悪魔的存在だった。
 その悪魔の側に居る隼樹は、初めて『殺し』という行為を目の当たりして震えていた。漫画やゲームとはまるで違う、現実(リアル)で感じた殺しに完全に体が竦み、動く事が出来ずにいる。

「さぁて、次はお前だな」

 震える隼樹に目を移し、編み笠の男は物足りなさそうに言う。

「つまらないなぁ。魔法が使えないとは言え、あのガルマを倒したってんで少し期待してたんだが……」

 編み笠の男の言葉は、隼樹の耳には入っていなかった。
 恐怖心が心の底に根付いて、隼樹の顔面は血が引いて蒼白になり、ガタガタと口が震えている。

『オイッ、隼樹っ! しっかりしやがれっ!』

 無名刀が声をかけるも、隼樹の耳にはまるで届いていなかった。
 確かに隼樹は、ガルマと命懸けの死闘を演じた。だが、そのガルマが目の前であっけなく殺され、頭の中で一つのイメージが浮かぶ。ガルマのようにあっけなく殺され、死体となった自分の姿が拭えない。振り払えない恐怖に襲われ、隼樹は半ば正気を失っていた。
 編み笠の男は、動けない隼樹を見つめながら、取り出したリンカーコアを体内に戻した。

「じゃあな、坊主。短い間だったが、退屈しのぎにはなったよ」

 編み笠の男は右腕を振りかぶり、トドメの突きを放った。
 ビビる隼樹は、目を硬く閉じた。死を拒絶しながら、視界を閉じた。
 次の瞬間には、隼樹の命は刈り取られていた。
 そのハズだった。
 死ぬハズだった隼樹の前で、鈍く嫌な音が聞こえた。生暖かい物が、頬についたのを感じた。何が起こったのか解らず、恐る恐る隼樹は目を開く。
 視界が広がった瞬間、隼樹は愕然とした。

「チンク……?」

 隼樹の前には、小さな背中があった。見覚えのある背中には、太い腕が生えていた。
 銀色の髪を伸ばした背中は、隼樹を護るように立ちはだかっていた。いや、実際に隼樹を護っていた。
 隼樹を庇ったのは、チンクだった。編み笠の男の拳が、チンクの小さな体を貫いている。

「おやおや」

 少々驚いた様子で、編み笠の男は呟いた。

「チンク……?」

 チンクの背中を見つめ、隼樹はもう一度呟いた。
 その呟きが聞こえたのか、チンクは首だけ振り返って隼樹を見た。

「じゅ……んき……無事、か……?」

 口元から一筋の血を流し、チンクは安否を聞いてきた。自分の身を犠牲にしてでも、大切な人を護るという意思がハッキリと伝わってくる。

「チンク姉ェェェ!」

 涙目で叫び、セインが走ってくる。
 隼樹が殺されると思い、チンクは急いで助けに向かった。セインも駆けつけようとしたが、基本的な身体能力はチンクの方が上で遅れをとってしまったのだ。
 自分の弱さを悔やみきれず、セインは涙を流した。
 目の前の惨劇に、隼樹は混乱状態に陥っていた。最初にガルマと遭遇した時も、チンクが身を挺して護ってくれた。あの時と違うのは、チンクが受けた傷の重さだった。素人目にも明らかに、チンクの傷は致命傷だ。
 一気に編み笠の男は腕を引き抜き、チンクの体に丸い風穴が出来る。力が入らずバランスを崩し、チンクの体は後ろに傾く。混乱しながらも隼樹は、何とかチンクを受け止めた。体の中央辺りに空いた穴から、鮮血が流れて青いスーツを赤色に染めていく。

「チンク……」
「チンク姉!」

 隼樹は力無く、セインは大声で名を呼んだ。
 しかし、荒い息遣いだけで反応が返ってこない。顔色もどんどん悪くなっていき、危険な状態である事は一目瞭然だった。
 苦しむチンクを見下ろし、編み笠の男は溜め息をついた。

「戦闘機人との遊びは、後にとっておくつもりだったんだが……まあ、いいだろう。壊れた人形の相手など、やるだけつまらんだけかもしれんからな」

 何気なく言った編み笠の男の言葉に、隼樹の中で何が切れた。決定的な何が、プツンと切れたのだ。

「ぁぁぁぁ……ぁぁぁああああああああっ!」

 胸の底からマグマのような熱い感情が込み上げ、爆発した。
 無名刀を握る手に、これ以上無い力を込め、怒りの形相で編み笠の男を睨む。
 そして、今までと一変する素早い動作で、編み笠の男の顔面に刃を叩き込んだ。

「う゛ぷっ!」

 鈍い音と共に、編み笠の男の口から声が漏れた。
 強化魔法で固くなった皮膚に刃は通らず、打撃として編み笠の男に決まった。折れてはいないが、鼻からはタラリと血が流れている。

「隼樹っ!?」

 手放されたチンクを慌てて受け止めたセインが、隼樹の豹変ぶりに目を剥いた。

「死ねっ!」

 セインの驚きに構わず、隼樹はもう一発、無名刀を編み笠の男の頭部に食らわせる。打撃の瞬間に、無名刀を伝わって腕に衝撃が走った。

「死ねっ!」

 更にもう一発、顔面に叩き込む。
 大きく体を反らして、編み笠の男は後ずさる。

「死ねよっ!」

 容赦無く、隼樹は攻撃を続ける。

『オイ隼樹! 落ち着きやがれっ!』
「死ねよっ!」

 無名刀が声を上げるが、怒り狂った隼樹の耳には届かない。聞く耳を持たない。

「お前が死ねよっ! チンクじゃなくて、お前が死ねよっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ!」

 まるで呪いの呪文のように叫び、隼樹は無名刀を振るい、編み笠の男に攻撃を続ける。憎悪と殺意に支配された無名刀は、固有武装の意思に関わらず凶刃と化していた。斬る事が叶わない代わりに、撲殺する勢いで殴り続ける。
 殺意に憑りつかれた隼樹を、セインは悲痛な想いで見つめる事しか出来なかった。

「かあっ!」

 いつまでも続くかと思われた隼樹の攻撃は、編み笠の男の一打で止まった。平手打ちのように横から繰り出した拳は、隼樹の頬に当たり、殴り飛ばした。
 地べたに倒れ、隼樹は顔も服も砂まみれになる。
 殴り倒した隼樹を見下ろし、編み笠の男は不気味な笑みを浮かべた。

「うほっ! おほっ! ふはっ! フハハハハッ! いいぞぉ……! 今のはなかなか良かった……最初の腑抜けていた攻撃とは、重さが違ってた……!」

 殴られた箇所を手で擦り、口内で出血した血を吐き出す。

「怒りかっ……! 爆発的な感情が、人間をここまで変えるのか……! 成る程成る程……面白い! いい収穫だ! やり方次第じゃあ、もっと面白い事になりそうだ……! フハハハハッ!」

 謎の高笑いを上げ、編み笠の男は転移魔法で姿を消した。
 公園には、殴り続けて力を使い果たした隼樹、瀕死の重態のチンクを泣いて抱えるセイン、物言わぬ骸と化したガルマが残された。
 地面に顔を伏せ、隼樹は歯を食いしばった。ギリギリと音が鳴るほど、歯が砕けそうなほど食いしばった。

「ああああああああああああああああああああああ!」

 吠えた。
 クラナガン中に響き渡るのではないか、という程の大声で隼樹は吠えた。
 胸中で渦巻くどうにもならない感情を吐くように、情けない自分を一喝するように吠え続ける。
 セインと隼樹の手に握られてる無名刀は、そんな悲痛な負け犬の遠吠えを黙って聞いてるしかなかった。


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