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あれ?

何かサブタイトルが○魂っぽいんですけど、気のせいだよね?

それじゃあ、新章本格スタート!
第三十四話:不吉ってヤツは呼んでもいないのに向こうから勝手にやってくるものだ
 ナンバーズ隊舎にある訓練場。
 障害物が無い殺風景な訓練場に、一人の男が立っていた。地味な眼鏡に、白い長袖シャツにジーンズというラフな恰好をしている、塚本隼樹だ。右の頬には、絆創膏(ばんそうこう)が貼ってある。
 訓練場のほぼ中央辺りに立っている隼樹は、左側の腰に刀を差していた。
 訓練場に突っ立っている隼樹の前に、五つの人影が現れた。人の形をした訓練用の人型ガジェットだ。
 顔にある二つの黄色いレンズが隼樹の姿をとらえると、五体のガジェットは一斉に襲い掛かる。
 同時に、隼樹も動いた。
 腰の刀に手を伸ばし、素早く抜いて居合いを放ち、一体のガジェットのボディを斬る。損傷した部分がバチバチと音を鳴らして放電して、ガジェットは地面に倒れた。続いて正面から襲い掛かってきたガジェットの拳をかわし、ガラ空きの胴に横薙ぎの一閃を決める。が、最初の一撃のように上手く斬れず、打撃でガジェットを押してバランスを崩しただけだった。隼樹は僅かに顔を顰めながら、追撃を放って、今度こそガジェットを斬り倒した。残りの三体も返り討ちにして、地面には動かなくなった機械の塊が転がっていた。
 ガジェットを倒し終えて、隼樹がふうと息をついた時だった。

「ステージ2、いくっスよ〜!」

 横から声が上がり、隼樹はすぐに横を向いた。
 離れた所に、ウェンディがライディングボードを構えて立っている。彼女の周囲には、複数のスフィアが宙に佇んでいた。

「ショット!」

 ウェンディが合図したと同時に、複数のスフィアが一斉に隼樹に向かって放たれた。
 迫り来るスフィアを睨みながら、隼樹は刀を構えた。そして、素早く刀を振るってスフィアを弾く。歯を食いしばり、とにかく刀を振るってスフィアの雨を防ぎ続ける。途中、無駄に大振りをしてしまったりして、スフィアを全て捌き切れず、何発か体に当たったり、掠ったりしてしまった。だが、どれも大した怪我ではないので、動作に支障はない。
 隼樹が最後の一発を弾くと、ウェンディは嬉しそうな笑みを浮かべた。

「なかなかやるっスね〜。それじゃあ、ステージ3にいくっスよ!」

 ウェンディが言った後、隼樹の前に次の相手が現れた。
 赤いエネルギー刃の双剣を手にして、隼樹を見据えているのは、ディード。

「いや、ちょっと待てェェェェ!」

 ディードを見た瞬間、隼樹は大声で待ったをかけた。

「どうかしたっスか?」とウェンディは首を傾げる。
「どうかした? じゃねーよ! 次は人型ガジェット十体との戦闘のハズだろ? 何でディードが出てくるんだよ!?」
「いや〜、ガジェット十体は、もう隼樹には簡単過ぎるかな、と思って急遽変更したんス」
「変更すんなァァァァ!」

 笑って答えるウェンディに、隼樹は額に青筋を立てて怒鳴った。
 そんなやり取りをしていると、ディードは双剣を構えて、戦闘態勢に入る。

「いきます、隼樹兄様」
「いや、こないでェェェェ!」

 ビビる隼樹の願いも虚しく、ディードは地を蹴って隼樹との距離を縮める。
 半ばヤケクソになりながら、隼樹は刀を『非殺傷設定』にした。隼樹が使っている刀は、相手を死傷させぬようにする『非殺傷設定』という機能が付いているのだ。
 ディードは隼樹に迫り、右手の剣を横薙ぎに振るう。隼樹はすぐに反応して、バックステップをして剣撃をかわす。続けて左手の剣が迫り、隼樹はソレを刀で防ぐ。勢いを殺さず、ディードは双剣を振るって猛攻を仕掛ける。隼樹は防戦一方となり、どんどん後ろへ下がっていく。刀が交わる音が激しく響き、小競り合いが続いた。
 ウェンディは、真剣な表情で二人の闘いを見守っている。
 隼樹は額から大量の汗を流しながら、ディードの猛攻に耐え続けていた。本気でないとはいえ、ディードの猛攻は迫力があり、思わず目を閉じそうになった。ナンバーズと出会う前の隼樹だったら、5秒ももっていないだろう。だが、いくら訓練をしたと言っても、技術、経験、身体能力、どれも戦闘機人であるディードに劣る隼樹は、追い詰められていく。反撃の隙が見つからず、隼樹は強引な手に出た。ディードの剣を受けた瞬間、力いっぱい刀を振るって剣を弾き、ディードを後ろへ押し返したのだ。隼樹は全力で走って、ディードとの間合いを詰めて、両手で握っている刀を上段から振り下ろす。ディードの頭へ振り下ろされた刀は、しかし彼女には届かなかった。ディードは素早く横に跳んで、隼樹の刀は完全に空を切った。隼樹の横に移ったディードは、お返しとばかりに双剣を隼樹の頭目掛けて振り下ろす。
 その時、ディードはハッとなって目を見開いた。隼樹は、横にいるディード目掛けて横薙ぎに刀を振るっていたのだ。
 次の瞬間、両者の放った一撃が、ほぼ同時に決まった。
 結果は、引き分けとなった。
 闘いを見守っていたウェンディは、目を見開いて驚いていた。


*


「いや〜、驚いたっスね。手加減してたとはいえ、ディードと引き分けるなんて、隼樹も強くなったっスね〜」

 心底驚き、嬉しそうな様子でウェンディが感想を言った。

「そりゃ、イヤでも強くなるよ。ナンバーズによる地獄の訓練を、ほぼ毎日受けてんだから」

 タオルで顔や体の汗を拭いて、隼樹はウェンディに言う。訓練が終わったばかりで、息もまだ少し荒い。
 すると今度は、ディードが口を開いた。

「隼樹兄様の最後の一撃は、本当に驚きました。やはり私が前の攻撃を避けると分かっていて、狙ってやったのですか?」
「うん、まぁ一応ね。ディードなら絶対、俺の攻撃をかわすと思ってたから」

 上段からの大振りで隙を作り、相手を誘い込んで、仕留める。これが咄嗟に、隼樹が思いついた作戦だ。

「まぁ、あの時はたまたま上手くいっただけだから」

 相討ちになったし、と心中で隼樹は付け足した。

「それでも、隼樹兄様は確実に強くなっています。もっと自分に自信を持ってください」
「そうっスよ。隼樹の強さは、あたし等が保証するっス!」

 微笑みを浮かべてディードが言うと、ウェンディも笑顔で力強く言った。

「ありがとう」

 何だか少し照れ臭くなり、頭を掻きながら隼樹は二人に礼を言った。
 そこへ、

『んだよチクショー。何でお前みたいな地味男が、可愛い女の子にモテんだよ。世の中間違ってやがる』

 下から男の声が聞こえた。
 声を聞いた瞬間、隼樹は顔を顰めて下を向いた。地面に座ってる隼樹の前に、先ほど使っていた刀が鞘に収められて置かれてある。

『理解できねーな。こんなダメ男のどこがいいんだか』

 男の声は、刀から発せられていた。
 この刀は、スカリエッティが作った隼樹の固有武装なのだ。地球には、過去に侍というモノが存在していた。その侍の中でも凄腕の剣豪のデータを保存して、その剣豪の擬似人格を搭載させた刀──それが隼樹の固有武装『無名刀(むめいとう)』。見た目は普通の刀だが、AMFを発生させる装置も組み込まれていて、魔法対策も施されているのだ。ちなみに何処で侍のデータを入手したのかは、スカリエッティが秘密にしているので謎である。
 ド素人の隼樹に剣術を教えたり、師匠的存在でもあるのだ。まだ未熟だが、隼樹がここまで成長出来たのは、ナンバーズとの訓練と無名刀のお陰である。だが、無名刀は性格にちょっと問題があるらしく、剣の稽古の時や、その他の時でも隼樹と口喧嘩をしていたりする。
 隼樹は目を細めて、ジロリと無名刀を睨んだ。
 隣に座ってるディードも、隼樹を侮辱されて殺気を放ちながら無名刀を睨む。

「ダメ男って言うな。叩き折りますよ?」
「隼樹兄様を侮辱するモノは、八つ裂きにします」
『上等だよ。やれるもんならやってみろや。オメーに折られる程、俺はヤワじゃねーぞ。でも……ディードは、ちょっと怖いかな〜』

 無名刀は隼樹には強気な口調だが、異様な殺気を放つディードには弱気になっていた。

「まぁまぁ、二人共落ち着くっスよ。特にディード」

 間にウェンディが入り、喧嘩になるのを止めた。
 こんな感じで、とりあえず朝の訓練は終了した。


*


 訓練を終えると、隼樹は医務室に向かった。
 医務室に入ると、白衣を着たクアットロが彼を迎えた。傷の手当てを頼むと、「は〜い」と明るい声でクアットロは答えて、ニコニコ笑いながら手当てを始めた。訓練が終わった後、クアットロに手当てを頼むと、いつもこんな感じである。
 そんなに傷ついた俺の姿を見るのが嬉しいのか? と手当てを受ける度に隼樹は思った。同時に、女医なクアットロもいいなぁ、なんて思ったりもする。
 手当てが終わり、医務室を出ようとした時、

「あ、言い忘れるところだったわ。今日この後の隼ちゃんの訓練は、お休みだから」

 とクアットロに言われた。
 ああ、ありがとう、と返事をして、隼樹は医務室を出た。
 少し歩いて、医務室に無名刀を置き忘れてきたのを思い出して、引き返した。


*


 休みをもらった隼樹は、食堂で朝食を食べながら、今日一日どう過ごそうか考えていた。
 部屋でゴロゴロするのもいいが、たまには街に行ってみようかな。でも一人で行ってもつまらないからな。誰か誘ってみようか。

「ねぇ、今日、暇な人いる?」

 と同じ席に着いている、チンク、セイン、ウェンディ、ディードに聞いた。

「私は……まぁ、暇だな」

 食後のコーヒーを一口飲んでから、チンクが答えた。

「あたしも暇ー」

 手を挙げて答えたのは、セイン。

「あたしとディードは、この後、任務があるっス」

 ウェンディが言うと、ディードが頷いた。
 ちなみに、他のメンバーは、それぞれの任務に出ていて隊舎にはいない。
 ヴィヴィオも学校に行っていて、隊舎にはいない。ミッドチルダにある魔法学校に通っていて、そこにはルーテシアも一緒にいるのだ。クラスも同じで、他にも友達が出来て、楽しい学校生活を送っている。
 話は戻り、チンクとセインが暇である事が分かり、隼樹は二人と一緒に出掛ける事にした。

「チンク、セイン。よかったら、この後、俺と一緒に街に出掛けない? 一人で行ってもつまらないからさ」
「私は構わないぞ」
「イエーイ、隼樹とデートだ!」

 チンクはあっさりと了承し、セインも喜んで誘いを受けた。

『可愛い女の子二人とデートとは、羨ましいねぇ。チッ』

 チンク達の同行が決まると、空いてる近くのテーブルの上に置いてある無名刀が舌打ちの真似をした。声だけでも、物凄く悔しがっているのが分かる。
 隼樹が無名刀に何か言い返そうとした時、ガシャンと何かが割れる音が響いた。驚いて音がした方を見ると、ディードが持っていたコップが粉々に砕け散っていた。

「隼樹兄様とデート……。私も隼樹兄様とデートがしたかった。任務さえ無ければ任務さえ無ければ任務さえ無ければ任務さえ無ければ……」

 ブツブツと呟くディードは、ドス黒いオーラを放っていた。胸の中にあるドロドロとした黒い感情を増幅させてる上に、顔が無表情なので余計に恐い。

「ヒィィィィィ!」

 その場にいる全員が、顔を青くして一斉に悲鳴を上げた。

『ちょっ……恐っ! 何なんだよあの娘!? 何があの娘を、あそこまで黒くさせてるの!?』

 恐怖に駆られた声で、無名刀が叫んだが、その問いに答える者はいなかった。


*


 朝食を済ませ、準備をして、隼樹、チンク、セインの三人は街に出掛けた。
 あの後、ディードの機嫌を良くするのに苦労した。今度ディードが休みをとったら、その時はディードと街に出掛けてあげるから、と言ったら、ディードは「約束ですよ!」と力いっぱい手を握ってきた。
 最近になって、隼樹はこう思った。
 ──ハーレムってキツいなぁ、と。
 まぁ、何はともあれ、こうして無事に街に出掛ける事が出来た。
 服装は、隼樹はいつも通りの恰好で、セインは水色のTシャツにジーンズという、隼樹に似た恰好をしている。彼女のシャツの色を見て、セインは水色好きだな、と思った。髪の毛の色も水色だし。
 そんでチンクの恰好はというと、まぁ一言で言えば、ゴスロリ。

「何故、私が着る服はゴスロリばっかりなんだ?」

 顔を赤くさせて、自分が着ているゴスロリ服を睨むチンク。外に出掛ける度に、ゴスロリ服を着せられているのだが、いまだに慣れていない。

「いいじゃん、チンク姉。似合ってるよ」
「そうそう」

 言いながら隼樹は、ケータイを構えて、ゴスロリ服を着ているチンクをパシャッとカメラで撮った。

「って何を撮っているんだ!?」
「記念撮影」

 グッと親指を立てて、隼樹は言った。

「ふざけるな! っていうかお前、私がゴスロリ服を着ると、いつも写メとかいうヤツを撮っているだろう!」
「撮ってますよ。だって可愛いんだもん」
「消せ! 今すぐ全ての画像を消せ!」

 ウガーッと吠えながら、顔を真っ赤にさせて、チンクは隼樹の手からケータイを奪い取ろうとする。
 だが、隼樹はヒョイッヒョイッと軽く避けてしまう。日頃の訓練の成果が、妙なところで役に立っている。

「チンク姉、落ち着きなよ。周りの人達が見てるよ」

 セインの言葉に、チンクはハッとなって周りを見た。
 周囲の人達の視線が、三人に集中していた。
 チンクの顔は、恥ずかしさでリンゴ並に真っ赤になり、穴があったら入りたい衝動に駆られていた。

「い……行くぞ、二人とも!」

 顔を伏せて、チンクは隼樹とセインの手を握ると、逃げるように走り出した。

「速っ!」

 物凄い風圧を体全体で感じながら、隼樹は声を出した。

『隼樹。その画像のコピー、一枚俺によこせよ』

 隼樹の腰に差してある無名刀は、呑気にチンクの画像のコピーを要求した。


*


 アテもなく走り続けた三人は、人気の無い公園にやってきた。
 全速力で走り続けたチンクは、息切れを起こして、隼樹とチンクの手を離すと、小さな肩を揺らした。恥ずかしさと走ったせいで体温が上がり、額から汗が沢山流れている。
 だが、疲れているのはチンクだけではなく、隼樹とセインもだ。チンクの全速力の走りに無理矢理付き合わされたのだから、無理もない。

「チ……チンク姉……は、速すぎ……」
「す……すまない、セイン……」

 肩で息をして疲れ切っているセインに謝ると、チンクは隼樹に顔を向けた。

「隼樹、大丈夫か……?」
「も……もう、ダメ……」

 隼樹は地面に大の字になって倒れて、大きく呼吸をしていた。

「チンク……戦闘スーツは、平気なのに……何で、ゴスロリ服はダメなの……?」
「う、うるさい! こ、こんなヒラヒラした服を着るなど……」

 顔が赤いまま、チンクはブツブツと愚痴を零す。
 チンクの愚痴を聞き流して、隼樹は青空を見た。
 何で休日なのに、こんなに疲れなきゃいけないんだろう、とちぎれ雲を眺めながら思った。
 隣では、まだチンクが文句を言っている。
 セインは、やれやれといった感じで肩をすくめていた。
 平和だねぇ。
 静かに目を閉じながら、隼樹がそう思った時だった。

「ああ、平和だねぇ。平和は退屈でいけないねぇ」

 不意に声が聞こえた。
 声を聞いた瞬間、隼樹はカッと目を開いて、弾かれたように飛び起き、声がした方を向いた。
 チンクとセインも、同じく声がした方を見ている。
 三人の視線の先には、一人の男が立っていた。
 男は黒い編笠を被り、黒いマントを羽織った全身黒づくめの恰好をしていた。そして“黒い”のは見た目だけではなく、男が纏っている雰囲気も得体の知れないドス黒いモノだった。公園が黒一色に染まっていくようなイメージが、頭の中に浮かんだ。
 黒い編笠の男から、ただならぬ威圧感を感じて、隼樹、チンク、セインは身構えた。
 三人の反応を見て、黒い編笠の男は、ニヤリと口元を歪めた。
最後にして最強の敵が、隼樹達の前に現れた!

次回、戦闘開始!


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