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温泉旅館へ行く事になったナンバーズ

それを知った隼樹は邪悪な計画を立てる!
第三十一話:温泉旅館を楽しもうぜ! 前編
 新部隊『ナンバーズ』が設立されて一週間。
 ナンバーズは、訓練と任務で忙しい毎日を送っていた。彼女達の主な任務は、管理局の魔導師がてこずっている凶悪な違法魔導師の逮捕等である。たまに管理局からの要請を受けて、何人か出動している。
 ナンバーズが任務に出ている間も、塚本隼樹は訓練を受けていた。
 訓練の内容は、ギンガとノーヴェとの近接格闘、セッテとの模擬戦、それと新しくディードによる剣の稽古が加わった。隼樹が要望した武器は刀なので、ナンバーズの中で双剣を扱うディードが選ばれたのだ。
 場所は訓練場。
 隼樹とディードの姿があった。
 手に持っているのは木刀。
 隼樹は両手で木刀を持って正眼に構え、ディードは両手に一本ずつ木刀を持って構える。
 木刀を構えたまま、隼樹はピクリとも動かない。否、動けないのだ。剣術の経験が全くないので、迂濶に動く事ができないでいた。緊張感が増していって、額から汗が流れてくる。
 隼樹の方から動く事はないと判断して、ディードが動いた。
 地を蹴って、一気に隼樹との距離を詰めて、左手の木刀を横薙ぎに振るう。隼樹は木刀で右からの一撃を防ぐが、すぐに左から木刀が迫る。かわそうとして、咄嗟に後ろへ跳んで、隼樹の顔の目の前でディードの木刀が空振りした。
 下がってすぐに前に踏み込み、隼樹も上段から木刀を振り下ろして反撃する。だが、ディードは左手の木刀を頭上に構えて、上からの一撃を防いだ。そして無防備となった隼樹の腹に、右手の木刀の突きを繰り出す。

「がっ!!」

 隼樹は数メートル後ろへ飛ばされて、地面に倒れる。その時に、木刀を手放してしまう。
 腹を押さえながら起き上がろうとして、顔の前に木刀を突き付けられた。
 目の前には、木刀を突き付けてるディードがいた。

「……まいった」

 隼樹は両手を上げて、降参した。

「解っちゃいるけど、やっぱりディードは強いな。歯が立たない」
「ありがとうございます。けど、隼樹兄様も最初の時に比べれば良くなってます」
「そうかな? はは。ありがとう、ディード」
「いえ」

 ディードに褒められて隼樹は照れながら頭を掻き、隼樹に礼を言われてディードもうっすら頬を赤くした。
 そこへ、

「パパー!」

 ヴィヴィオが走ってやってきた。ヴィヴィオの後ろにはウーノもいる。

「パパ、お疲れ様!」
「うん。ありがとう、ヴィヴィオ」

 言って隼樹は、ヴィヴィオの頭を撫でた。ちなみに、まだ『パパ』と呼ばれる事に慣れていない。
 隼樹に頭を撫でられて、ヴィヴィオは嬉しそうに笑っている。
 ディードは、隼樹に頭を撫でられているヴィヴィオを、羨ましそうに見ていた。

「隼樹、お疲れ様」

 ウーノが持ってきたタオルを、隼樹に差し出す。

「ありがとう、ウーノ」

 タオルを受け取って、隼樹は汗を拭いた。

「隼樹。実は明日から二日間、部隊を休みにして、みんなで温泉に行く事になったの」
「え? 温泉?」

 温泉という言葉を聞いて、隼樹は目を見開いた。

「あるの温泉? 温泉旅館があるの?」
「ええ、あるわよ」

 この世界にも温泉がある事に、隼樹は驚く。
 すると、ヴィヴィオがクイックイッと隼樹の服を引っ張った。

「ねぇ、パパ。温泉って何?」
「温泉ってのはね、大きな風呂の事だ。中には外の景色を楽しみながら入れる、露天風呂ってのもあるんだぞ」
「凄ーい!」

 ヴィヴィオは興奮して、目をキラキラと輝かせる。
 隼樹も、久しぶりに温泉に入れる事に嬉しくなっていた。
 同時に、ある野望を抱いて口元を歪ませた。


*


 明日は温泉に行くという事で、今日の訓練は早めに終わった。
 訓練が終わった後、隼樹は皆に見つからないように、コッソリとスカリエッティの研究室に向かった。周りに誰も居ないのを確認して、扉を開けて研究室に入る。
 中にはスカリエッティがいて、隼樹の武器を造ってる最中だった。

「ん? ああ、隼樹か。キミの武器なら、まだ出来上がってはいないよ」

 隼樹に気付いて、スカリエッティは作業を中断して振り返った。

「いや、今回はちょっと別の頼みがあって」
「頼み?」
「実は、スカリエッティに作って欲しい物があるんだ」
「キミの方から頼み事とは、珍しいね。それで、何を作って欲しいんだい?」

 スカリエッティが尋ねると、隼樹は耳打ちして伝える。

「なるほど。構わないよ。しかし、キミも懲りないね」
「いいだろ、別に。んじゃ、頼んだよ」

 用件を済ませて、隼樹は研究室を出ていった。


 そして夜が明けて、ナンバーズ一行は温泉旅館へと向かう。


*


 ミッドチルダから少し離れた山の中に、温泉旅館があった。温泉旅館らしい和風な建物で、周りは緑に囲まれている。
 隼樹達は、温泉旅館の前に立って見上げていた。

「本当にあったよ、温泉旅館」

 温泉旅館を目にして、改めて驚く隼樹。
 初めて温泉旅館を見るナンバーズも、驚きの声を上げた。

「うひょ〜! これが温泉旅館っスか〜!」
「おおっ! デカい! 建物の形も何か違う!」

 温泉旅館を見上げて、ウェンディとセインがテンションを高くする。
 ちなみに、ナンバーズはみんな私服姿だからね。
 テンションを高くして、一行は温泉旅館の中に入っていった。

「ようこそ、ナンバーズ御一行様!!」

 中に入ると、旅館の従業員全員が拍手をして盛大に迎えてくれた。
 隼樹達は、今や世界を救った英雄的存在なので、この世界の人々に大人気なのだ。

「おおっ! やっぱり生で見る方が綺麗だ!」
「トーレさん、美しい!」

 ナンバーズを見て、男性従業員が興奮する。
 男性従業員に囲まれて、ナンバーズは欝陶しそうに顔を顰める。

「見て、塚本隼樹さんよ! サイン貰いましょう!」
「握手お願いします!」

 女性従業員が、ハイテンションで隼樹を取り囲む。

「え? あっ、はい」

 照れながらも、隼樹は女性従業員の要望に応える。
 そこへ嫉妬心を燃やしたナンバーズが割って入って、女性従業員を追い払う。
 一人、誰にも構われていないスカリエッティが言った。

「私には何もないのかい?」
「いや、アンタ事件起こした元凶だろ」

 隼樹がキツい意見を言った。
 騒ぎも治まり、一行はチェックインをして部屋へ向かう。
 途中で隼樹は、みんなから離れて一人の従業員に声をかけた。

「あの〜」
「はい、何でしょうか?」
「此処って……混浴ってあるんですか?」

 抑えた声で、隼樹は従業員に聞いた。

「申し訳ありません。当旅館には、混浴はありません」
「えっ!? ないんですか?」
「はい」
「あ〜、そうですか。分かりました。ありがとうございます」

 従業員に礼を言って、隼樹はみんなの所に急いで戻った。
 混浴無し。ナンバーズと混浴してウハウハな時間を過ごす、という隼樹の野望は早くも崩れた。だが、隼樹は諦めてはいなかった。むしろ、これは想定内。
 まだ手はある。
 心中で呟き、隼樹は不敵な笑みを浮かべた。


*


 部屋の前に辿り着いて、さぁ入ろうとしたところでナンバーズが急に輪を作った。

「あの、何してんの? ていうか、何しようとしてんの?」

 隼樹は目を細めて、ナンバーズを見る。
 ナンバーズは、何やら真剣な表情をして互いの顔を見据えていた。

「部屋は二つ取ってあります。一部屋、八人まで。ヴィヴィオは隼樹と同室決定だから、一緒の部屋になれるのは、残り六人」

 ウーノが確認するように、メンバーに言った。
 すると、ナンバーズはただならぬ気迫を放って、拳を構える。廊下の空気が、一気に張り詰めたモノへと変わった。

「ちょっ……タイム! タイム! まさか、此処で暴れる気じゃねーだろうな!?」

 隼樹が止めようとした時、

「ジャンケン・ポン!!」

 ナンバーズはジャンケンを始めた。
 てっきり乱闘を開始すると思った隼樹は、ズッコケて顔を床にぶつけた。

「いてて。じゃ……ジャンケンかよ。まぁ、平和的な勝負だからいいか」

 鼻を押さえながら、隼樹は立ち上がってナンバーズのジャンケンを見守る。
 彼の後ろでは、ギンガが苦笑していた。

「私は隼樹とは別室決定か」

 フッ、と少し寂しそうにスカリエッティは短く笑った。

「あいこでしょっ!」

 ナンバーズは、まだジャンケンを続けている。人数が多いので、なかなか勝負が決まらないのだ。
 やれやれ、と隼樹は溜め息をついた。

「あのー、ちょっといいですか?」

 隼樹が声をかけると、ナンバーズは一旦勝負を止めて、振り返った。

「こんな大人数でいっぺんにジャンケンしてたら、埒があかない。ここは人数を二人ずつに分けて、ジャンケンをした方が効率がいい」

 隼樹が提案すると、ナンバーズは「その手があったか!」という顔になった。

「いや、こんだけ人がいて誰も思いつかなかったのかよ」

 隼樹は少し呆れて、軽く溜め息をつく。
 すぐにナンバーズは、二人一組となってジャンケンを再開した。
 その結果、

「やったわ! 隼樹とヴィヴィオと一緒だわ!」
「ふふふ。今夜が楽しみだわ」
「久しぶりに、隼ちゃんを弄るわよぉ〜」
「隼樹と同室か。そういえば初めてだな」
「イエ〜イ! 勝ったよー、隼樹ー!」
「やったっス! 隼樹と一緒に寝れるっスよ!」

 ウーノ、ドゥーエ、クアットロ、チンク、セイン、ウェンディが隼樹達と一緒の部屋に泊まる事になった。
 敗者は、血涙を流さんばかりの形相で、ウーノ達を睨んでいる。その中でオットーは比較的冷静というか、おとなしくしていた。

「じゃ……じゃあ、部屋入ろうっか?」

 ジャンケン敗者組からの威圧感に耐えられなくなった隼樹は、一刻も早く部屋に入ろうとする。
 隼樹達が部屋に入ると、廊下にはジャンケンに負けたトーレ達とスカリエッティとギンガが残された。
 嫉妬と殺意が混ざった異様な雰囲気の中に取り残されて、スカリエッティとギンガは青ざめて冷汗を流した。


*


「おお〜!」

 部屋に入った隼樹は、室内を見回して感嘆の声を出した。
 室内は、完璧な和風だった。襖、畳、障子、日本人の隼樹にとって懐かしさを感じる内装だった。

「畳だよ! 畳があるよ!」

 嬉しさのあまり、隼樹は床に横になって、敷かれている畳の感触を確かめる。
 畳独特の匂いがして、隼樹は安らぐ。

「懐かしい。これ絶対畳だ。また会えるとは思わなかったぞ〜!」

 隼樹は、久しぶりの畳の感触を味わう。
 後ろでナンバーズは、その様子を見ていて、ウェンディが口を開いた。

「隼樹、嬉しそうっスね〜」
「そりゃあ、隼樹は地球の日本出身だからな。此処、日本の文化を使ってるらしいから、隼樹には懐かしく感じるんだろう」

 隣にいるセインが言った。

「畳、いい匂い」

 ヴィヴィオも隼樹の真似をして、床に横になって畳の匂いを嗅ぐ。

「ふふふ。ヴィヴィオも畳が気に入ったみたいね」

 ウーノは、すっかり畳が気に入ったヴィヴィオを見て、微笑んだ。
 ドゥーエ、クアットロ、チンクも、初めて見る和室を興味深そうに眺めていた。


*


 隣の部屋。
 ジャンケンに負けて、隼樹と同室になれなかったトーレ達は、物凄〜く悔しがっていた。

「くっ! 私とした事が……一生の不覚だ」

 何気に隼樹と一緒になる事を狙っていたトーレは、歯を食いしばり、拳を強く握って悔しがっていた。

「胸がモヤモヤとします。この感情は一体……」

 セッテは、胸の中に黒いモノが生まれていた。

「……」

 オットーは、相変わらず無言。でも、ちびっと表情が暗くて、少し落ち込んでる様子。

「ちくしょう! 何であそこでパーを出しちまったんだ!?」

 なんやかんやで、ノーヴェも隼樹と同室したかったらしく、負けてかなり悔しがっている。

「隼樹と一緒に……はぁ」

 ディエチも落ち込んで、深い溜め息をついた。

「隼樹兄様は私の兄様。私だけの兄様です! 絶対に姉様達には渡しません」

 ディードは小声でブツブツと呟いて、危ない雰囲気を漂わせている。
 そんな彼女達と同室となったスカリエッティとギンガは、少し離れた所で静かに正座していた。

「やれやれ……我が娘達ながら恐ろしいね」
「は……はあ」

 二人は、トーレ達の怒りが早く鎮まる事を、心から願った。


*


 部屋に荷物を置いて、一行は早速温泉に入りに行こうとした。
 タオル等を用意して、隼樹達は部屋を出て廊下に集合する。トーレ達の雰囲気も、先ほどよりは和らいでいた。
 温泉に入って機嫌が完全に直る事を、隼樹は切に願った。
 んでもって一行は、女湯、男湯に別れた。
 では、まずは女湯から見てみましょう。


*


 女湯。

「ひゃっほーう! 広いお風呂っスー!」

 ハイテンションのウェンディが、周りにいる他のお客の事もお構いなしに、勢いよく湯舟に飛び込んだ。

「コラッ! ウェンディ! 他の者に迷惑だろ!」

 トーレがウェンディの頭に、ゲンコツを食らわせる。

「痛っ!」

 ウェンディはジンジン痛む頭を押さえて、涙を流す。

「すみません! すみません!」

 ウーノが、風呂場にいる他の宿泊客に、頭を下げて謝った。
 そんなこんなで、騒がしく風呂場にやってきたナンバーズ一行。

「わ〜、温泉!」
「ヴィヴィオ。まずは体を洗いましょうね」
「うん、ママ!」

 ウーノが、ヴィヴィオの体を洗ってあげる。
 近くでは、ウェンディがトーレに説教されている。床に正座させられ、頭痛を覚えながらトーレの説教を聞く。
 他のメンバーも、体を洗っている。

「ノーヴェ、背中洗ってあげるわ」
「じ……自分でやるから、いい!」
「遠慮しないの」

 言って、ギンガはノーヴェの背中を洗い始めた。楽しそうな笑みを浮かべて、タオルでノーヴェの背中を洗う。
 ノーヴェは、恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
 体を洗い終えて、ナンバーズ一行は温泉に浸かった。

「あ〜、気持ちいいな〜」
「普通のお風呂とは、違いますね」

 セインとディードが、それぞれ感想を口にした。

「ほあ〜」

 ヴィヴィオも初めての温泉に、ご満悦の様子だ。

「はぁ〜。できる事なら、隼樹とも一緒に入りたかったわね」
「そうね」

 ドゥーエの言葉に、ウーノが頷く。
 ふとウーノは、裸な隼樹を想像する。その瞬間、ウーノは顔を真っ赤にさせて湯気を立てた。

「ディード、ちょっと胸大きくなったんじゃないっスか?」

 言いながら、ウェンディはディードの胸を揉み出した。

「やめろ、お前等! 他の者が見ているぞ!」

 またトーレが、ウェンディを注意した。

「まぁまぁ。そう言うトーレお姉様だって、いい物持ってますわよ〜?」
「な……!? クアットロ!」

 背後からクアットロが忍び寄って、トーレの胸を掴んだ。

「止せ! クアットロ! くっ……!」

 クアットロに胸をもみもみ揉まれて、トーレは体を小さく震わせた。

「あ〜ん。トーレお姉様、可愛いですわ〜♪」

 調子に乗って、クアットロはトーレの胸を揉み続ける。

「……私だって」
「……」

 チンクとオットーは、両手で自分の“小さな胸”を隠して、目を細めてクアットロ達を見ている。というか、睨んでいる。
 幼い小さな体がコンプレックスなチンクにとって、クアットロ達の行為はあまり愉快な光景ではなかった。
 そんな時に、オットーがポツリと呟いた。

「……隼樹って、大きな胸と小さな胸、どっちが好きなんだろ?」
「え?」

 オットーの疑問を聞いて、ナンバーズはピクリと反応した。


*


 男湯。
 隼樹とスカリエッティは、二人で温泉を満喫している。

「あ〜! やっぱり温泉はいいな〜!」

 頭にタオルを乗せて、隼樹は気持ちよさそうに湯に浸かっている。訓練で疲れ切った体が、温泉によって癒されていくのを感じていた。

「たまには、男同士で風呂に入るのもいいモノだね」
「たまにならな」

 たまに、という部分を強調して、スカリエッティの意見に同意した。
 騒がしいナンバーズとは対照的に、隼樹とスカリエッティは静かに温泉を楽しんだ。


*


「いや〜、いい湯だった〜!」
「温泉がこれほど素晴らしいモノだったとは、知らなかったよ」

 温泉に大満足して、湯から上がった隼樹とスカリエッティは、浴衣に着替えて脱衣所を出た。

「さて、ウーノ達は上がったかな?」

 廊下に出て、隼樹は女湯の入口の方を見る。
 そこには、

「おっ、カワイイねぇ」
「色っぽいねぇ〜」
「ねぇねぇ、俺等と一緒に遊ばね?」

 浴衣姿の三人組が、ナンパをしていた。
 ナンパされてるのは、ドゥーエとトーレとセッテ。
 ──いや、自殺行為ィィィィィ!!
 隼樹は目を見開いて、内心でシャウトした。
 暗殺得意なドゥーエに、バリバリ武闘派のトーレとセッテをナンパするなんて、何て命知らずな三人なんだ! マズイ! このままでは三人の命が危ない!
 助けに行かなければ、と走り出そうとして、隼樹はすぐに踏みとどまった。
 待てよ。此処で止めに入って、あの三人組は素直に引くだろうか? おそらく引かないだろう。なら、どっちにしろ三人はドゥーエ達に痛い目に遭うだろう。だが、赤の他人とはいえ、酷い目に遭うと解ってて見捨てるのは、良心が痛む。
 隼樹が葛藤を続けていると、

「ヒィィィィィ!!」

 ナンパ三人組は、悲鳴を上げてドゥーエ達から逃げ出した。
 隼樹は思考を中断して、こちらに走ってくる三人を見た。三人とも、片方の頬を赤く腫らしている。どうやら隼樹が葛藤してる間に、ドゥーエ達にビンタされたようだ。グーという可能性もあるが、その程度で済んでナンパ三人は幸運である。

「お大事に〜」
「彼等も災難だね」

 隼樹とスカリエッティは、逃げ去っていくナンパ三人に同情した。
 ナンパ三人の背中を見送って、隼樹達はドゥーエ達に近寄った。

「まぁ、何と言うか……お疲れ様です」
「ホント、欝陶しかったわ」
「くだらん連中だ」
「彼等は何がしたかったのですか?」

 ドゥーエとトーレは不機嫌そうに顔を顰める。セッテは、ナンパという行為を知らないので、何をされたのか解っていない。

「何かあったの?」

 浴衣に着替え終わったウーノ達が、廊下に出てきた。
 トーレ達は、先ほど絡んできたナンパトリオの事をウーノ達に話した。
 その間、隼樹は浴衣姿のナンバーズに見惚れていた。
 美人揃いのナンバーズは、和服も見事に着こなしていて綺麗だった。

「隼樹。どうしたんですか?」

 見惚れていると、ウーノに声をかけられた。

「え? ああ、いや……みんな浴衣も似合ってるな、と思って」

 頬を赤くして、照れながら隼樹は感想を口にした。
 隼樹の感想を聞いて、ナンバーズは嬉しくて笑顔になったり、照れて顔を赤くしたりしている。
 すると、トーレが頬をうっすら赤くして言った。

「か……からかうな、隼樹」
「からかってなんか、いないよ。本当にみんな似合ってるよ」
「……そ……そうか」

 隼樹から目をそらして、トーレは指で赤く染まった頬をぽりぽりと掻いた。
 そこへ、セインが顔を覗き込んだ。

「あれ? トーレ姉、ひょっとして照れてるの?」
「て……照れてなどいない!」

 トーレは大声で否定した。

「トーレ姉も女の子っスね〜♪」
「ウェンディ!」

 トーレはインパルスブレードを出して、ウェンディに襲い掛かる。二人に弄られて、トーレは顔を真っ赤にしていた。
 ウェンディは慌てて逃げて、セインも巻き込まれて一緒に廊下を走って逃げる。

「オイィィィィィ! 館内で騒ぐなァァァァ!!」

 額に青筋を立てて、隼樹が怒鳴った。
 その直後、隼樹の浴衣の裾が下から引っ張られた。隼樹は顔を下に向けると、浴衣姿のヴィヴィオが見上げている。

「パパ、ヴィヴィオも似合ってる?」

 ヴィヴィオは、小さく首を傾げる可愛い仕草をして、隼樹に聞いた。

「もちろん、ヴィヴィオも浴衣似合ってるよ」

 先ほどのヴィヴィオの仕草にドキッとしながら、隼樹は答えた。

「ありがとう! パパ!!」

 ヴィヴィオは嬉しそうに笑って、隼樹に抱き付いた。

「止まれ、セイン! ウェンディ!」
「ディープダイバー!!」
「あっ! 一人だけズルイっスよ、セイン!!」

 トーレ、セイン、ウェンディは、まだ騒いでいた。

「いや、お前等いい加減にしろォォォォ!!」

 何気に、隼樹の怒鳴り声が一番うるさかった。



 後編へ続く。
隼樹「どうも。続きがすご〜く気になるかもしれませんが、それは次回のお楽しみという事で」

スカリエッティ「次回、『温泉旅館を楽しもうぜ! 後編』。見逃さないでくれたまえ」

次回、隼樹の邪悪な計画が発動!?

っていうか、温泉で邪悪な計画って言ったら一つしかないよね?


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