赤夜叉「読者から『隼樹って機動六課と浮気するんですか?』という質問が来てるので、本人に直接聞いてみようと思います。おーい、隼樹ー」
隼樹「ん? 何だ作者か」
赤夜叉「隼樹。ぶっちゃけた話、機動六課と浮気はするのか?」
隼樹「突然だな、オイ。まぁいいや。浮気はしないな」
赤夜叉「え? マジで?」
隼樹「マジで。何か……アイツ等は好きになれない。見た目美人だけど」
赤夜叉「ほほう」
隼樹「あ〜、でも、リインフォース・ツヴァイって娘は可愛いよね。何か癒される。あとシグナムの巨乳もいいよね」
赤夜叉「浮気の可能性あんじゃん」
隼樹「あ」
いよいよ新部隊『ナンバーズ』が本格始動!
傷を癒した隼樹もナンバーズ隊舎へ!
第二十九話:新しい我が家です
新部隊『ナンバーズ』。
スカリエッティが管理局と取引して設立した、新部隊だ。
その名の通り、メンバーは戦闘機人であるナンバーズで構成されている。
で、ナンバーズ隊舎。
とにかくデカい。四階ぐらいの高さで、敷地もかなり広い。隊舎の形等は、機動六課の隊舎と似たような感じである。何故こんなにデカく広いのか、という質問には『スカリエッティが派手好きだから』という答えでご勘弁いただきたい。
そのナンバーズ隊舎の前に、一人の男が立ち尽くしていた。白い無地の長袖シャツにジーンズというラフな恰好で、オシャレとは呼べない地味な眼鏡をかけており、片手に黒い鞄を持っている。
今日からナンバーズに入隊する塚本隼樹が、呆然と隊舎を見上げていた。
*
「デカい……」
隊舎を見上げて、隼樹は感想を口にした。
メンバーは、ナンバーズとスカリエッティとギンガと隼樹という少数人数だと聞いているので、大きすぎる隊舎に驚く。
「俺が入院してる間にアイツ等、こんなの建ててたのか。てか無駄にデカいな。税金の無駄遣いだろう」
と辛口な評価をする隼樹。
しかしまぁ、ここでジッとしてても仕方ないので、隼樹は隊舎に向かって歩を進めた。広い敷地を歩いて、隊舎の入口に着いた。
自動ドアが開いて、中に入る。
「おっ、隼樹やっと来た」
入って最初に隼樹を迎えたのは、セイン。
「いやぁ、寝坊しちゃって」
ハハハ、と笑いながら隼樹は頭を掻いた。
聖王病院を退院した日から、隼樹はミッドチルダにあるマンションで休養していたのだ。そして充分に体を休めて、今日初めてナンバーズ隊舎にやってきたのである。
「お帰りなさい、隼樹」
セインと話していると、ウーノがやってきた。
「ウーノ。え? おかえりって?」
「今日から、此処が私達の家ですから」
「あっ、そうか。ただいま」
挨拶すると、ウーノはニッコリ笑ってくれた。
「それでは、部屋へ案内します。部屋に荷物を置いて、それから隊舎の中を案内しますね」
「はい」
隼樹が返事をすると、ウーノは踵を返して歩き出した。
「隼樹ー、また後でなー」
「ああ」
セインに手を振って、隼樹はウーノの後を歩いていく。
廊下を歩いて、階段を上がって、隼樹の部屋へ向かう。隊舎の中は本当に広く、隼樹一人では迷子になる事間違いなしである。
廊下を歩いていくと、幾つかある扉の一つの前で立ち止まった。
「ここが貴方の部屋よ」
言ってウーノは、部屋の扉を開けた。
部屋の中は、一人用にしてはなかなか広く、ベッドと机が置かれてある。内装は、以前のアジトで使ってた部屋と似ているが、違う点を上げるとすれば窓がある事だ。太陽の光が差し込んでいて、外の景色がよく見える。まぁ、見えるのはミッドの街だけだが。
「おお。結構いい所かも」
鞄を机の上に置いて、隼樹はベッドに座ったり、窓を開けて外を眺めたりする。
隼樹の喜んでる様子を見て、ウーノも嬉しそうに微笑んでいた。
「それでは隼樹。隊舎の中を案内するわ」
「あっ、はい」
返事をして、隼樹はウーノと部屋を出た。
「そういえばヴィヴィオは?」
「ヴィヴィオは、訓練場で妹達の訓練を見学しているわ」
「ほ〜」
ヴィヴィオは戦闘等の刺激の強いモノは、見たがらないと思っていたので少々意外だった。
そんな会話をしながら、二人は廊下を歩いていった。
*
隊舎の中を歩いて、二人がやってきたのは、スカリエッティの研究室。
「早速、アイツに会うのか」
何故か隼樹は表情を険しくさせて、ゴクリと唾を飲み込んだ。
不審に思い、ウーノが尋ねた。
「あの……何故、そんな緊張した様子になるんですか?」
「いや、なんとなく……」
ウーノに答えて、隼樹は油断なく扉に近づく。
扉が自動的に開いた瞬間だった。
「ガルァァァァァ!!」
「ぎゃあああああ!!」
部屋の中から、得体の知れないモノが獣のような声を発して、隼樹に襲い掛かった。
襲われた隼樹は、床に倒れた。彼の上には、襲い掛かってきたモノが乗っかっている。
「隼樹!!」
ウーノは驚いて、両手で口を押さえて目を丸くした。
「えっ!? ちょっ……何コレ!? 犬っ!?」
自分の体に乗ってるモノを見て、隼樹は大声を出す。
隼樹の上に乗ってるモノは、銀色のメタルボディの犬だった。
「やあ、よく来たね隼樹」
「お帰りなさい、隼ちゃん」
研究室から、スカリエッティとクアットロが出て来た。
「スカリエッティ! クアットロ! コレ……コレ何!?」
噛み付いてくるメタルボディの犬を抑えながら、二人に聞いた。
「それは私達が作った、新型ガジェットだよ」
「ガジェット!? コレがガジェットなの!?」
「ああ。機動力を上げる為に、犬型を作ったんだよ」
隼樹が襲われてる光景を目の前にして、スカリエッティは冷静に教えた。
「ガジェットなのは分かったけど……何で俺を襲ってんの!?」
「とりあえず〜、隼ちゃんで性能を試そうと思ったのよねぇ〜」
隼樹の問いに、今度はクアットロが答えた。その表情は、とても楽しそうだ。
「お前……! これただ俺が襲われる所が見たいだけじゃ……ぎゃあああああああ!!」
言葉の途中で、隼樹が悲鳴を上げた。
体の上に乗っかっていた犬型ガジェットが、降りて後ろから隼樹の頭に噛み付いたのだ。鋭い銀色の牙が隼樹の頭に噛み付き、傷口から血が流れている。
「いや〜ん! 流血顔の隼ちゃん、可愛いわ〜♪」
流血状態の隼樹を見て、クアットロは興奮していた。
その時、二人の横からただならぬ威圧感が放たれた。スカリエッティとクアットロは、そ〜っと顔を横に向ける。そこには、威圧感を放ってるウーノがいた。
今まで黙っていたウーノが、威圧感を放ちながら、ゆらりと動き出した。目をギラリと鋭くして、犬型ガジェット目掛けて蹴りを放つ。ウーノの強烈な蹴りは、ボディをヘコませ、犬型ガジェットを廊下の奥まで吹っ飛ばした。蹴り飛ばされた犬型ガジェットは、動かなくなった。
スカリエッティとクアットロは、驚きのあまり白目になり、口をあんぐりと開けた。
ウーノは、ゆっくりと二人を見る。
「ドクター、クアットロ。いくらなんでも、コレはやり過ぎね」
ウーノはニッコリと笑う。だが、その笑顔には、凄まじい迫力があった。
その迫力に、スカリエッティとクアットロは顔色を青くして、ジリジリと後ずさる。
「ま……待ってくれ、ウーノ! 私は無実だ! 私は彼を襲うように命令していない!」
「そ……そんな!? ドクターだって、面白そうだって言ってたじゃないですか〜!」
「面白そうだとは言ったが、やれと命令した覚えは……!」
言い争いを始める、スカリエッティとクアットロ。
そんな二人に、凄まじい迫力を放つウーノが近づく。
「お二人には、お仕置きが必要ですね」
「ひっ……!」
ウーノの迫力を正面から受けて、二人は短い悲鳴を上げた。
スカリエッティは冷汗を流し、クアットロは目に涙を浮かべてガタガタ震えている。
そして次の瞬間、
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
二人の悲鳴が、隊舎全体に響いた。
*
「ん……?」
隼樹は目を覚ました。
犬型ガジェットに頭を噛まれて、気絶していたようだ。頭を触ると、包帯が巻かれてある。
傍にいるウーノが、隼樹に声をかけた。
「隼樹! 気がつきましたか? 大丈夫ですか?」
「ウーノ。あ、ああ。大丈夫だ」
頭を押さえながら、隼樹は立ち上がった。
「あれ? スカリエッティとクアットロは?」
隼樹は、キョロキョロと周りを見回す。
すると、研究室の中に、スカリエッティとクアットロの姿を見つけた。二人とも床に座り込んで、頭を抱えてガタガタと体を震わせている。
二人のただならぬ様子を見て、隼樹は顔を引きつらせた。
「……ウーノ。二人に何かした?」
「うふふ。少しお仕置きをしただけですよ」
とってもいい笑顔で、ウーノは答えた。
二人も『黒ウーノ』の餌食になったか。以前、黒ウーノの恐怖を味わった事がある隼樹は、そう悟った。
「そ……そうか。じ、じゃあ、次行こうか?」
「そうですね」
隼樹は二人に同情しながら、ウーノは何事もなかったかのように、その場を去っていく。
その後、二人は食堂、風呂等を見て回っていった。
*
綺麗な青空の下、訓練場から音が聞こえてくる。
金属同士がぶつかり合う音や、爆発音、拳がぶつかり合う音等が響いていた。
訓練場で訓練をしてるのは、ナンバーズ。新しくギンガも加わって、以前よりも活気が増している。
離れた所で地面にビニールシートを敷き、行儀よく正座して、ナンバーズの訓練を見学しているヴィヴィオの姿があった。激しい音等がすると、ビクッと体を震わせるが、決して目をそらさない。
ナンバーズが訓練を続けていると、隼樹とウーノがやってきた。
「相変わらず、激しい訓練してるなー。凡人の俺には、とても真似できんわ」
「パパ!」
ヴィヴィオは振り返ると、隼樹に向かって駆け出した。
「ヴィヴィオ。元気にしてた?」
「うん。パパ、おかえり!」
「ただいま」
少し照れながら、隼樹は挨拶した。
「隼樹。やっと来たか」
隼樹の姿を確認すると、ナンバーズは訓練を中断した。
「おお、みんな訓練お疲れー」
と隼樹は、右手を上げてナンバーズに声をかける。
訓練を中断したナンバーズが、隼樹の前に集まってきた。
メンバーを見回して、ふと隼樹はギンガに目を止めた。
「あれ? ギンガ、バリアジャケットのデザイン変わってない?」
隼樹はギンガを指差して、恰好の違いを指摘する。
ギンガのバリアジャケットは、ナンバーズの戦闘スーツと同じデザインになっていた。
「はい。一人だけ恰好が違うのが気になって、私も皆と同じデザインにしました」
初めて見る、ギンガの戦闘スーツ姿。
ギンガも美人でスタイルが良いので、すぐに隼樹は見惚れてしまった。ナンバーズが着てる戦闘スーツは、色々な部分がハッキリと見えてしまうので、ついついイヤらしい目で見てしまう。
隼樹のイヤらしい視線を受けて、ギンガは頬を赤くする。
「あ、あの……そんなにジロジロ見られると、恥ずかしいです……」
「えっ!? ああ、ごめん!」
慌てて隼樹は謝った。
周りにいるナンバーズは、殺気のこもった視線を隼樹に浴びせる。ヴィヴィオも頬を膨らませて、怒った顔をしていた。
「さて、話は後にして、訓練を再開するぞ」
トーレが言うと、メンバーは訓練場に戻っていく。
その時、隼樹はメンバーの中にドゥーエの姿がない事に気付いた。サボりだろうか、と考えたが、ドゥーエがサボりをするような人には思えない。
別の用事でいないのかな、と結論を出して、隼樹もヴィヴィオと一緒に訓練を見学しようとした。
すると、トーレが隼樹に言った。
「隼樹。お前も訓練を受けてもらうぞ」
「は?」
意味が解らず、隼樹はポカンとなる。
「え……? いや、俺? 俺も訓練するの?」
「そうだ」
「一緒に?」
「そうだ」
腕を組んで、トーレが隼樹の問いに答えた。
「えええええ!!? いやいやいや、意味が解らない! 何で俺も訓練受けなきゃいけないの!?」
「歓迎会だ」
「いや、んなハードな歓迎会、聞いた事ねーよ!!」
声を振り絞って、隼樹が叫んだ。
「ちなみに訓練の相手は、ノーヴェとギンガだ」
トーレが後ろを振り返ると、ノーヴェとギンガが立っていた。
「えっ!? 二人!? 二対一!!?」
隼樹は驚いて目を見開く。
「安心しろ。二人には、手足に重りを付けて模擬戦をさせる」
「いや、ハンデになってない!! 相手、近接格闘のスペシャリストだぞ! 俺、素人! 魔法もISも使えない凡人!!」
ノーヴェ一人でもキツいのに、ギンガまで加わったら一体どれだけハードな訓練になるのか。想像しただけで、身震いしてきた。
「隼樹」
その時、声と共に後ろから肩をポンポン叩かれた。
振り返ると、いつの間にいたのか、後ろにセインが立っていた。セインは、同情するような顔で隼樹を見ている。
「諦めて訓練受けな」
言いながらセインは、また隼樹の肩を軽くポンポンと叩く。
だが、隼樹は諦めない。誰か味方はいないのか。そう思いながら、隼樹は周りを見回した。
そして見つけた。
「う……ウーノ! 助けて!!」
隼樹はウーノに助けを求めた。
そうさ。ナンバーズの中で一番優しいウーノなら、助けてくれるハズだ……と思ったら、
「隼樹。訓練を受けなさい」
笑顔でウーノが言った。
ウーノォォォォォォ! 何故だ? 何故そんな素敵な笑顔で、そんな冷酷な言葉が言えるんだ!
頭を抱えて、混乱する隼樹。
「パパ、頑張って!」
ヴィヴィオが笑顔で励ますが、
「無理! 頑張れない!」
隼樹は、頭を抱えて叫ぶ。よく見ると、目に涙が浮かんでいた。
ふふふ。分かったよ。よーく、分かったよ。この世には、神も仏もいねぇ。結局世の中、最後まで信じられるのは他人ではなく自分だけ。上等だよ。やってやるよ。
ただし、やるのは訓練ではない。
やるのは、隼樹の得意技──。
「逃げる!!」
思いっきり地面を蹴って、隼樹は猛スピードで走り出した。
我ながら素晴らしいスピードだ、と自画自賛しながら走り続ける。
だが、世の中そう甘くはなかった。
「逃がしませんよ」
耳元で、聞き覚えのある声がした。同時に、背中に柔い感触がする。
振り返ろうとした時、隼樹は後ろからガシッと力強く体を掴まれた。隼樹はバランスを崩して、そのまま地面に倒れてしまう。
「ふふふ。捕まえましたよ」
また耳元で声が聞こえた。
隼樹は今度こそ振り返って、声の主を見た。
「ドゥーエ!」
声の主は──ドゥーエだった。倒れてる隼樹を離さぬよう、両腕でガッシリと捕まえている。
「さっきまで居なかったのに、一体どうやって……。ハッ! ISか! シャドウクイーンを使ったな!?」
「正解です」
ドゥーエは、ニッコリ笑って答えた。
「いつの間に俺の影に? いつから俺の影の中に潜伏してたの? まさか、最初から? 最初からか!? あれ? でも、その最初からは何時だ? 何時が最初から? 最初が何時? あれ? 何か訳わかんなくなってきた!」
逃亡を図った隼樹は、こうして呆気なく捕獲された。
捕まった隼樹は、ドゥーエに連れられて皆の所に戻された。
ノーヴェが腕を組んで、呆れて溜め息をつく。
「たくっ。さっさと始めるぞ!」
「頑張りましょう! 隼樹さん!!」
ギンガは、やる気満々に構えた。
「……はぁ。しょうがないな」
諦めて、隼樹は訓練を受ける事にした。
*
結果から言うと、隼樹は二人にボロ負けした。
ただの人間の隼樹が、ギンガとノーヴェに勝てるハズがないのだから、当然の結果である。
だが、それでも隼樹は頑張った。拳を避けたり、防いだりして、防戦一方になりながらも頑張ったのだ。
ボロボロになった隼樹は、大の字になって地面に倒れている。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
心配になって、ギンガが声をかける。
「大丈夫だよ。コイツ打たれ強いから」
とノーヴェが言った。
「……いや……もう、限界だから……」
息も絶え絶えの隼樹が、声を絞り出した。
「よし、午前の訓練はこれまでだ!」
トーレが訓練の終わりを告げると、ナンバーズは倒れてる隼樹に駆け寄った。
「隼樹兄様! 大丈夫ですか?」
「……ディード……今の俺、大丈夫そうに見える……?」
隼樹は僅かに顔を動かして、ディードを見る。
「よく頑張ったな。立てるか?」
と言ったのは、灰色のコートを羽織ったチンク。
「無理……立てない……」
ダメージと疲労が大きくて、隼樹は指一本動かすことも出来なかった。
その時、ナンバーズの目がキラリと光る。
「仕方ないな。お姉ちゃんが背負ってやるか」
やれやれと首を振りながら、セインが言った。
「いいえ。隼樹兄様は私が運びます」と言ったのはディード。
「あたしが運ぶっス!」
ウェンディが、手を挙げて言った。
「いえ、私が医務室まで運びます」
静かに、しかし力強く言ったのはセッテ。
自分が隼樹を運ぶと言い出して、ナンバーズが言い争いを始める。
「す……凄いですね……」
隼樹を巡る争いをしてるナンバーズを見て、ギンガは苦笑した。
妹達の言い争いを見て、トーレは溜め息をつく。
「仕方ない」
言って、トーレは隼樹を背中に背負った。
「トーレ……」
トーレの意外な行動に驚く隼樹。
思えば、トーレにこんな風に優しくされるのは初めてだった。
少し恥ずかしがりながらも、隼樹はトーレの背中に身を預ける。トーレの背中は、とても広く、温かかった。
目を閉じて、隼樹はトーレの温もりを感じる。
「トーレの背中……温かいな……」
「なっ……!? 何を言っている?」
珍しくトーレは動揺して、僅かに頬を赤くした。
「おおっ……!」
普段見ないトーレの姿に、チンクとノーヴェ、それにギンガも驚きと感嘆の混ざった声を出す。
「トーレも照れる時があるんだ。可愛いね」
ニヤニヤ笑いながら、隼樹がトーレを弄り始めた。普段、トーレを弄る機会が滅多にない上、隼樹は臆病者だから面と向かって彼女を弄れない。
だが、今は状況が違う。隼樹は怪我人。トーレからの反撃がこないのをいい事に、隼樹は彼女を弄る。
「ええい! 黙っていろ!!」
それに対して、トーレは動揺が収まらないまま、隊舎に向かっていく。
「パパー!」
ヴィヴィオとウーノが駆け寄ってきて、一緒に隊舎に向かう。
ちなみに、トーレ達が去った後も、セイン達は争っていた。
*
昼食の時間。
全員が食堂に集まって、食事をしていた。
その中に、顔を包帯でグルグル巻きにした男の姿があった。隼樹である。
「いやー、まさかミイラ男になれるとは思わなかったよ。鏡見てビックリしたよー」
若干の苛立ちのこもった声で、隼樹が言った。
隼樹の近くの席に、陸士部隊制服に着替えたギンガが座っている。
「ご、ごめんなさい。少し、やり過ぎました」
ペコリと頭を下げて、ギンガが謝った。
謝るギンガも可愛いな、なんて事を隼樹は思っていた。
「いや、まあ……大丈夫だから。うん。あんま気にしないで」
隼樹が言うと、ギンガは頭を上げてくれた。
「別に謝る必要なんてねーのによ」
と言って、ノーヴェは口の中にオカズを運ぶ。
「人をボコボコにしといて……ギンガを見習え、ゴリラ女。あっ、ごめん! 暴力は振るわないで、ノーヴェ! いや、ノーヴェ様!」
拳を握るノーヴェに、顔を青ざめて怯える隼樹。
そんな二人のやり取りを見て、ギンガが苦笑する。
その時、近くのテーブルで食事をしているスカリエッティが、思い出したように言った。
「そうだ。ドゥーエ」
「何ですか、ドクター?」
「キミの中にある、私のコピーを取り除くのをスッカリ忘れていた。食事を終えたら、私の研究室に来てくれ」
ナンバーズには、スカリエッティのコピーが埋め込まれていた。
ウーノ達の中にあるコピーは、ゆりかご戦が始まる前に除去したが、ドゥーエはアジトにいなかったので除去手術を受けていない。
それを思い出したスカリエッティが、ドゥーエにコピー除去の事を伝えたのだが、今伝えたのはミスだった。
その話を聞いて“ある男”が、ピクリと反応したのだ。この中で、スカリエッティ以外の男と言ったら一人しかいない。
「……お前、今何て言った?」
低い声でスカリエッティに聞いたのは、隼樹だった。
「いや、ドゥーエの中にある私のコピーを……あっ」
そこまで言って、スカリエッティはハッとなる。
しまった、というような顔になって口を手で押さえたが、既に手遅れだった。
「コピーって何? アンタのコピー? アレか? クローンか? アンタのクローンか?」
包帯が巻かれて外からでは分からないが、隼樹はイライラと眉をひくつかせている。
凄まじい怒気を放ちながら、隼樹は席を立ち上がって臨戦態勢に入った。彼の周りにいるナンバーズとヴィヴィオ、ギンガは顔を青ざめて席を離れていく。数々の修羅場をくぐり抜けてきたトーレやチンクも、隼樹の怒気に気圧されていた。
「いや……それは……」
スカリエッティも恐怖で顔を青ざめて、ジリジリと後ずさる。額から嫌な汗が流れてきた。
怒気のオーラを纏って、隼樹がスカリエッティに近づく。
「……お前ちょっと便所来いや」
「ま……待ちたまえ、隼樹! 冷静に話し合おうじゃないか! 争いからは、何も生まれないぞ!!」
「管理局に戦い仕掛けた、オメーが言うかァァァ!!」
隼樹は怒鳴ると、スカリエッティの白衣を掴んで引っ張る。
「オラ来いやァァァ! ボッコボコにしてやるからな! 半殺しだよコラァァァァァ!!」
塚本隼樹、暴走モードに突入。
スカリエッティを連れて、隼樹は食堂を出ていった。途中でスカリエッティが、ナンバーズに助けを求めていたが、誰も助けに行こうとはせず、我関せずと目をそらした。
──ドクター、どうかご無事で。多分、死にはしないハズです。
二人の姿が見えなくなってから、ナンバーズはスカリエッティの無事を祈った。
この時は、ギンガもスカリエッティに同情した。
しばらくして、廊下からスカリエッティの悲鳴が聞こえてきた。
スカリエッティは生きて帰ってくるのか!?
次回もよろしく!
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