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病院で隼樹とノーヴェがマジバトル!?

っていうか、病院でまで騒ぐなよ!
第二十八話:なんだかんだ言って
 ゆりかご事件が終結して、一週間後の話。
 聖王病院にある大部屋の病室。並んだベッドの上で横になってるのは、スバル、ティアナ、エリオ、キャロの機動六課フォワード四人だ。
 フェイトとはやて、シグナムとリインフォース・ツヴァイが見舞いにきていた。

「心配おかけして、すみません」

 ティアナが、見舞いにきたフェイト達に言った。

「ううん。みんな、大分良くなったみたいで安心したよ」

 フェイトが優しく微笑む。

「そうや。みんなが無事で何よりや」
「主はやても、こう言っている。今はゆっくり休んで、傷を癒せ」
「そうです〜」

 はやて達にそう言われ、スバル達は嬉しそうに笑う。
 それから少し話をしてから、フェイト達は病室を出ていった。
 廊下を歩きながら、はやてが口を開く。

「スバル達も元気そうで良かったわ」
「うん、そうだね」

 フェイトが頷いて答えた。
 発見された時、スバル達は酷い傷を負っていた。スバルに限っては、手足が折れていたが、四人とも命に別状はなかった。
 四人が順調に回復に向かってる事に、フェイト達は安堵する。
 そんな話をしながら、フェイト達はある病室を目指していた。今回のゆりかご事件を起こしたスカリエッティの仲間であり、ゆりかご事件を終結させた男がいる病室。
 二階に上がり、廊下を歩いて目的の病室の前に到着した。
 別に争いに来た訳ではないが、一週間前まで敵同士だったので若干緊張してきた。

「それじゃあ、いくで?」

 はやてが聞くと、フェイト達は頷いた。
 引き戸に手をかけて、ガラリと開ける。
 その瞬間、

「テッメ、ふざけんなよコノヤロー!」

 病室から、男の怒鳴り声が聞こえてきた。
 フェイト達は、目を丸くして病室を見る。

「ウーノさんが持ってきてくれた見舞いの品、勝手に食ってんじゃねーよ! クゾガキィ!!」

 右手に点滴スタンド、左手に枕を持って構えて怒鳴るのは、塚本隼樹。
 隼樹と対峙してるのは、ノーヴェだ。

「うるせーな! ちょっとくらい食ったっていいじゃねーか!!」
「いや、ちょっとじゃねーよ! 半分以上食ってんじゃねーか! シバくぞコラッ!!」
「やってみろよ!」

 互いに戦闘態勢に入り、睨み合う。
 すると、様子を見ていたディエチが止めに入る。

「お、落ち着いて隼樹! 暴れちゃダメだよ! ノーヴェも、構え解いて!」
「止めるなディエチ! この戦いだけはやめる訳には、負ける訳にはいかないんだ! そう! 絶対に負けられない戦いが、ここにある!!」

 カッと目を見開くと、隼樹は床を蹴ってノーヴェに向かっていく。
 同時に、ノーヴェも動き出す。
 隼樹は右手の点滴スタンドを、刀のように振り回してノーヴェに襲い掛かる。ノーヴェは点滴スタンドを素手で捌くと、隼樹の顔に向かって突きを繰り出す。
 隼樹は、左手の枕でノーヴェの突きを見事に防ぐ。点滴スタンドと枕で、攻防を使い分けてノーヴェと激しい戦闘を繰り広げる。
 しかし、並の人間、しかも病人である隼樹が戦闘機人であるノーヴェに勝てるハズもなく──。

「ちょっ……待っ……! ごめんなさい! 俺が悪かった!」

 点滴スタンドと枕という武器を弾かれ、装備なしの状態となった隼樹は、ノーヴェの鉄拳を受けている。

「ノーヴェ! ストップ、ストップ!!」
「これ以上やったら、隼樹兄様が死んじゃいます!!」

 ディエチとディードが、ノーヴェを止めた。
 離れた所に、オットーとヴィヴィオがいる。悲惨な現場を見せないように、オットーはヴィヴィオの目を手で塞いでいた。
 ディエチとディードが力を合わせて、ようやくノーヴェを隼樹から引き離せた。
 すると、様子を見守っていたセッテが、倒れてる隼樹を起こす。

「隼樹、大丈夫ですか?」
「セ……セッテ……俺……生きてる?」
「はい。ボロボロですが、ちゃんと生きてます」

 冷静にセッテが答える。

「とりあえず、ナースコール押した方がいいっスね」

 ウェンディは、ナースコールを押した。

「ん?」

 ナースコールを押して、何気なく引き戸の方を見ると、唖然とした顔をしているフェイト達がいた。

「あっ、機動六課」
「え?」

 ウェンディの一言で、病室にいる全員の視線が、入口の所にいるフェイト達に向く。

「こ……こんにちは……」

 唖然とした顔で、はやてが挨拶した。


*


 ナースコールを受けて、看護婦が一人やってきた。
 隼樹をベッドに寝かせて、殴られた箇所を手当てする。
 今回の喧嘩、ウーノやトーレが居たなら起こらなかったであろうが、今、彼女達は病室にいない。病室にいるのは、セッテ、オットー、ディエチ、ノーヴェ、ウェンディ、ディード、ヴィヴィオ。他のナンバーズは、新部隊設立の件やら何やらでスカリエッティに付き添っているのだ。
 ちなみに、スカリエッティの事や新部隊の事は、隼樹には内緒にしている。

「塚本さん。もう暴れたらダメですよ」

 手当てを終えて、看護婦は優しく注意した。

「はい。すいませんでした」

 頭を下げて、隼樹は素直に謝る。

「騒ぎを起こしてしまい、申し訳ありません」
「すまないっス」
「……悪かったよ」

 セッテ達も頭を下げ、ノーヴェも渋々謝った。

「今度から気をつけてくださいね。それじゃあ、お大事に」

 そう言って、看護婦は病室を出ていった。
 看護婦の背中を見つめていた隼樹が、ポツリと呟く。

「……やっぱり、ナースっていいな」
「え?」

 ナンバーズが、隼樹に顔を向けた。

「これは男の幻想だけど、ナースって清らかで癒されるイメージがあるんだよね。けど、ナース服を着ると魅力が上がるのは、紛れもない事実なんだよね」

 顎に手を当てて、隼樹はナースの魅力を語る。
 するとディードが、どこからか手帳とボールペンを取り出して、メモを始めた。

「隼樹兄様は、ナースが好き」
「ディード。何メモしてるの?」

 ディードの隣にいるオットーが、首を傾げる。

「ノーヴェ。これからは、見舞いの品を食べるのは控えるっスよ」
「わかったよ」
「いや、食べるの控えろっていうか、食べるな。俺の果物だから」

 目を細めて、ジロリとノーヴェを睨む隼樹。

「あ……あの〜」

 控えめな声が聞こえてきた。

「ん?」

 隼樹達が、そちらに顔を向けるとフェイト達がいた。

「あっ、すまないっス。すっかり忘れてたっス」

 忘れ去られていたフェイト達が、ようやく隼樹達に気付いてもらえた。

「それで、機動六課が何の用ですか?」

 セッテが目を鋭くして、敵意の視線を向ける。
 管理局と取引きしたとはいえ、この前まで敵同士だったのだ。そう簡単には、わだかまりは消えない。
 他のメンバーも、セッテ程ではないが、敵意を放っている。ヴィヴィオは、フェイト達と再会して、少し複雑そうな顔になった。

「え? 何この穏やかじゃない空気」

 ピリピリした空気を察して、隼樹は顔を引きつらせる。

「塚本隼樹のお見舞いに来ました」

 臆する事なく、フェイトが言った。

「これは、お見舞いの品だ」

 そう言って、シグナムは隼樹に果物が入った籠を差し出した。

「ど、どうも……」

 隼樹は、籠を受け取る。
 だが、その視線は籠の中にある果物ではなく、シグナムの大きな果物に向けられていた。要するに、大きな胸に釘付けになっているのだ。

「デカい」

 間近で巨乳を見て、隼樹は思わず感想を口に出してしまう。
 すると、シグナムが隼樹の言葉に反応した。

「何……?」
「え?」

 隼樹は顔を上げた。
 額に青筋を立てたシグナムが、隼樹を睨んでいる。

「今どこを見て、デカいと言った?」
「いえ、あの……!」

 シグナムから凄まじい殺気が放たれ、隼樹は青ざめて冷汗を流す。

「胸か?」
「え……!?」
「胸を見て言ったのかァァァァァ!!」

 怒りが爆発したシグナムは、顔を真っ赤にさせてレヴァンティンを出して、隼樹に襲い掛かる。

「ぎゃああああああああ!!」

 病室に、隼樹の悲鳴が響いた。


*


「シ……シグナム! 落ち着いたか?」
「は……はい……」

 シグナムの怒りが静まった。
 はやて達は、ホッと一安心する。
 一方、隼樹は黒焦げになっていた。

「ねぇ、何で誰も助けてくれなかったの?」
「今のは隼樹が悪い」

 ディエチがキッパリと言った。

「自己紹介が遅れました。私は八神はやて。機動六課の部隊長や」
「フェイト・T・ハラオウン執務官です」
「シグナム副隊長だ」
「リインフォース・ツヴァイです」

 はやて達が、隼樹に自己紹介した。
 先ほどの騒ぎで、気まずい雰囲気はいくらか払拭していた。

「可愛い」

 リインフォース・ツヴァイを見て、また隼樹は思わず感想を口にする。

「え?」

 リインフォース・ツヴァイが、首を傾げた。

「あ、いや、オホンッ。俺は塚本隼樹」

 隼樹は咳払いをし、自己紹介をしてごまかす。
 ナンバーズは、ジト目で隼樹を見ている。
 ヴィヴィオは、フェイトと目が合う。

「ヴィヴィオ。元気そうだね」
「うん」

 フェイトが優しく微笑み、ヴィヴィオは頷いた。

「ところで、塚本さん。幾つか聞きたい事があるんやけど、いいかな?」
「いいですよ」

 隼樹は上体を起こして、はやてに答える。

「塚本さんは、どうやってこの世界に来たんですか?」
「あ〜、時空移動型のロストロギアってヤツを道で拾って、ソレの力でこの世界に来ました」

 棒読みな感じで、隼樹は質問に答えた。

「それでこの世界に……スカリエッティのアジトに着いたんですね?」
「そうです」

 隼樹が頷く。ウーノが持ってきてくれた見舞いの果物に手を伸ばし、バナナを掴み取る。皮を剥いて、中身をパクりと食べた。
 はやては、顎に手を当てて少し考える。

「ふむ。塚本さん。私、貴方の事で一つ解らない事があるんです」
「何ですか?」

 クッチャクッチャとバナナを食べながら、隼樹が聞いた。

「どうして塚本さんは、スカリエッティに協力してたんですか? 私達と敵対してた理由も“私達の事が嫌い”やったし」

 はやてが言い終わると、隼樹はバナナを食べ終えた。

「そのまんまですよ。貴方達が嫌いだから、敵対してたんです」
「せやから、その私達を嫌ってる理由が知りたいんです」
「嫌いな理由……」

 隼樹は天井を仰いで、シンキングタイムに入る。
 しばらくして、隼樹は顔を戻して言った。

「何か……上手く言えないけど、気に入らないんです」
「そんな理由で、スカリエッティに協力してたんですか?」

 言ったのははやてではなく、フェイトだ。
 ヤベッ、怒らせちゃった、と思いながら隼樹は頭を掻く。

「スカリエッティは、犯罪者なんですよ」
「そ、そうですね」

 フェイトの威圧感に押されて、隼樹は弱々しく答える。

「あの男は、命を弄ぶ研究をしていた、最悪の重犯罪者なんです!」

 拳を握って、フェイトが声を荒げる。彼女の声には、怒りの感情が混ざっていた。

「自分勝手な考えで、自分の欲望の為に犯罪を繰り返して……! 貴方は、そんな男の協力をしてたんですよ!」

 語気を荒げて、フェイトが言った。
 周りにいるはやて達は、フェイトの様子に驚いている。
 一方でディエチ達は、生みの親であるスカリエッティの事を悪く言われて、敵意を剥きだしにした。ただならぬフェイトの雰囲気に、ヴィヴィオは怯えている。
 フェイトの話を聞いた隼樹は、不快そうに眉を顰めた。

「あのさ……」

 クシャクシャと頭を掻きながら、隼樹が口を開く。
 全員の注目が、隼樹に集まった。
 頭を掻く手を止めて、隼樹が言う。

「確かに、スカリエッティは犯罪者だよ。けどさ、アンタがアイツの何を知ってんの? どうせ捜査資料に書かれてる表面的な事というか、薄っぺらい事しか知らないんだろ?」

 フェイトを真っ直ぐに見据えて、苛立ちの混じった声で、隼樹が続ける。

「そんなモンで、アイツの事を知った気になるなよ。ロクにアイツの事知らない癖に、アイツの事悪く言われるとムカッ腹が立つ」

 言って隼樹は、二ミリだけ眼鏡を上げた。眼鏡の奥の目は、鋭くフェイトを見つめている。
 隼樹の目に、フェイトは僅かに動揺する。病室に、張り詰めた空気が漂い始めた。
 はやて達とナンバーズは、緊張しながら唾を飲み込んだ。

「それにさ、スカリエッティは犯罪者だって言ってるけど、じゃあアイツを犯罪者にさせたのは誰だ? 最高評議会っていう、管理局の上層部だろ? 管理局にも非がありますよね? そこ無視するなよ」

 鋭い指摘をしてくる隼樹。

「何が世界を護る管理局だよ。その管理局が悪さしてたなんて、笑えねぇ話だよ」

 侮蔑の感情を込めて、隼樹は大きく溜め息をついた。
 フェイト達は、何も言い返せない。否、言い返す言葉が見つからないのだ。管理局の上層部が原因だったのは、紛れもない事実。そこを指摘されては、反論の言葉はない。
 フェイトが表情を険しくさせて、立ち尽くしていると、隼樹は横になる。

「悪いけど、帰ってもらえます? あと、もう見舞いに来なくていいですから」

 フェイト達の方を見ないで、隼樹は冷たく言い放つ。
 何も言葉を発せないまま、フェイト達は病室を去っていった。
 フェイト達がいなくなったのを確認して、セッテが引き戸を閉める。
 その時、

「あ〜、緊張したぁ〜。魔導師相手には、反論も命懸けだよ〜!」

 隼樹は、緊張の糸が切れてグッタリした。

「隼樹お兄さん、大丈夫?」

 ヴィヴィオが心配そうな顔で、隼樹の傍に寄る。

「うん。大丈夫だよ」

 上体を起こして、ヴィヴィオの頭を撫でた。

「いや〜、それにしても、ちょっと意外だったっス」
「ん? 何が?」

 ヴィヴィオの頭に手を乗せたまま、隼樹はウェンディに顔を向けた。

「隼樹がドクターの為に、あそこまで怒るなんて、正直驚きっス」

 ウェンディが言うと、他のメンバーもうんうんと頷く。

「ああ。実は……俺自身も、驚いてるんだよね」

 ヴィヴィオの頭から手を離して、隼樹は頭をクシャクシャと掻いた。

「何か分かんないけど……段々腹が立ってきて、あんな事言ってた。何で、あんな事言ったんだろ?」

 スカリエッティの事を悪く言われた時、隼樹の中で怒りや苛立ちが込み上げてきた。何で、そんな感情が込み上げてきたのか、隼樹は悩む。
 すると、ウェンディがクスクスと笑った。

「なんだかんだ言って隼樹、ドクターの事気に入ってるんじゃないっスか? 友達として」
「と……友達?」

 言われて、隼樹は顔を顰めた。

「友達……いや、スカリエッティとは友達になりたくない。何か嫌だ」

 かぶりを振って、隼樹はスカリエッティと友達になる事を拒絶する。

「結構お似合いだと思うぞ」
「ちょっ……やめてくれない、ノーヴェ!」

 ノーヴェの言葉で、更に顔を顰める隼樹。
 そんな隼樹を見て、他のメンバーもヴィヴィオも笑い出す。

「あーもう! うるさいな! もう、かーえーれーやー!」

 恥ずかしくなって、隼樹は顔を赤くする。
 その時、

「あのー……」

 病室の入口から、また声が聞こえてきた。
 全員が顔を引き戸の方へ向けると、ソコにはギンガがいた。

「ギンガ」
「こんにちは」

 ギンガは、頭を下げて隼樹達に挨拶する。
 隼樹達も、軽く頭を下げた。
 ギンガは頭を上げると、遠慮がちに隼樹に声をかけた。

「あの……隼樹さん。少し、いいですか?」
「はい?」

 隼樹は、僅かに首を傾げた。


*


 病院の屋上。
 隼樹とギンガは、二人っきりで屋上にやってきた。

「実は……隼樹さんに話たい事があるんです」
「俺に?」

 隼樹は片眉を上げた。
 ギンガは、振り返って隼樹を見る。
 そしてギンガは、意を決したように口を開く

「私の母さん……クイント・ナカジマは、八年前の戦闘機人事件で命を落としたんです」
「え……?」

 衝撃の事実を聞かされて、隼樹は呆然となる。一瞬、言葉の意味が解らなかった。

「今回の事件に、戦闘機人が関わってると知って、私は母さんを殺した犯人を捕まえると誓ったんです」

 そして見つけた母親の仇が、スカリエッティなのだ。
 隼樹は、ギンガにかける言葉が見つからず、悩んでいた。
 ギンガは続ける。

「けど、やっと母さんの仇を見つけたのに……スカリエッティは自首してしまいました」

 複雑な笑みを浮かべて、ギンガは少し顔を俯いた。
 隼樹は、ますますどんな言葉をかければいいのか、迷ってしまう。
 しばらくして、ギンガは顔を上げた。

「ごめんなさい。こんな話して……。ただ私、悔しくて。自分の手で捕まえる事が、出来なくて……」
「……」

 隼樹は、黙ってギンガの話を聞いていた。励ましの言葉一つ思い浮かばなくて、そんな自分にイライラする。
 すると、ギンガが言った。

「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「え? ああ……どうぞ」

 せめて、聞かれた質問には答えよう。隼樹は、そう決めた。
 ギンガが質問する。

「隼樹さんにとって、スカリエッティはどういう存在ですか?」
「俺にとって?」

 予想外の質問に、隼樹は一瞬戸惑った。

「う〜ん。なかなか難しい質問をしますね……」

 腕を組んで、隼樹は悩む。
 以前、機動六課の誰かに似たような質問をされた。その時も、何と答えればいいのか迷った。
 スカリエッティは、自分にとってどんな存在か。一緒に飲みに行ったり、笑ったり、騒いだり、喜んだり……あれ? これじゃまるで──。
 隼樹は口を開く。

「……友達……なのかな。よくわからない。よくわからないけど──」

 隼樹は、グシャグシャと頭を掻いた。

「スカリエッティもナンバーズと同じ……その……俺の大事な人……かな」

 悩んだ末、隼樹は答えを出した。

「大事な人……ですか」

 ギンガは小さく呟いて、数日前にスカリエッティと会った時の事を思い出す。
 新部隊『ナンバーズ』と黒い編笠の男の件で呼ばれたのだが、その時にスカリエッティも隼樹の事を親友と言っていた。
 隼樹の答えを聞いて、ギンガは微笑んだ。

「分かりました。質問に答えてくれて、ありがとうございます」
「いえ」

 隼樹の言葉を聞いて、ギンガは歩き出す。
 ふとギンガは、ある事を思い出して足を止め、振り返って隼樹を見た。

「そういえば、ウーノさんから聞いたんですけど。私がスカリエッティに洗脳されるのを、貴方が止めてくれたんですよね?」
「え? ああ……まぁ、はい。一応……」

 隼樹は顔を赤くして、照れながら頭を掻く。

「まだ、その時のお礼を言ってませんでしたね。ありがとうございます」

 ギンガが笑顔で礼を言った。
 彼女の笑顔を見て、隼樹はドキドキしてしまう。

「い、いえ」

 その時、突然声が差し込まれた。

「隼樹ィィィ!!」

 声と共に現れたのは、セッテ、オットー、ディエチ、ノーヴェ、ウェンディ、ディード、ヴィヴィオだ。ちなみに声を上げたのは、ノーヴェ。

「お……お前等……! いつの間に? 盗み聞きしてたのか?」

 突然現れたナンバーズに、隼樹はビックリする。
 隼樹の問いに答えず、ノーヴェが言う。

「うるせェェ! この浮気野郎!!」
「う……浮気?」

 訳が分からず、隼樹は首を傾げた。

「ギンガと二人っきりで、こう、何かいい雰囲気になってたじゃねーか!」とノーヴェが怒鳴る。
「セインが言ってた通り、ギンガと浮気してたっスね!」とウェンディ。
「隼樹兄様。隼樹兄様は、私だけの兄様です!」

 ディードは、何やら危険な雰囲気を漂わせている。

「あたし、素手でも結構強いんだよ」と指の骨を鳴らすディエチ。
「隼樹。覚悟してください」と一人、ブーメランブレードを構えるセッテ。
「隼樹お兄さん!」ヴィヴィオは聖王モードになっている。
「……御愁傷様」と静かにオットーが言った。

 全員が、ものっそい殺気を放ちながら近づいてくる。
 隼樹は、顔を真っ青にして、うろたえながら後ずさっていく。

「ええええ!? ちょっ……待っ……! コレ浮気なの? コレが浮気なの!? 俺何にもしてないよ! ギンガ、助け……ぎゃああああああああああああ!!」

 ギンガに助けを求めようとして、隼樹はナンバーズと聖王・ヴィヴィオに襲われた。
 暴力の爆心地から、隼樹の悲鳴が聞こえてくる。悲鳴は、綺麗な青空に響いた。
 隼樹がボコボコにされてる光景を見て、ギンガは苦笑する。
 すると、ギンガはある決意をして、モニターを展開させた。映っているのはギンガの父親、ゲンヤ・ナカジマだ。

「父さん」
「ん? どうした、ギンガ?」

 ゲンヤが尋ねると、ギンガは意を決して言う。

「父さん……私、『ナンバーズ』に異動したいです」

 ゲンヤは、驚いて目を見開く。

「……本気で言ってんのか?」
「うん」
「あのスカリエッティがいる部隊だぞ?」
「わかってる」

 ギンガ達にとって、スカリエッティはクイントの仇。だけど、スカリエッティが犯罪者になった元凶は、管理局の最高評議会。ギンガは、隼樹とフェイト達の病院での会話を廊下で聞いていたのだ。
 それに、今はスカリエッティを友として大切にしてる人が目の前にいる。隼樹がいれば、スカリエッティはもう間違いを犯さない。
 そして、大切な人を失う悲しみを、もう誰にも味わわせたくない。
 ナンバーズと隼樹が騒いでる光景を見て、ギンガはそう決意したのだ。
 ゲンヤは、目を閉じて渋面になって考える。
 ギンガは、父親のゲンヤの答えを待つ。
 ややあって、ゲンヤが溜め息をついて言った。

「わかった。お前が、そう決めたんなら止めはしねぇ」
「ありがとう、父さん」

 ギンガは、ゲンヤに礼を言った。

「頑張れよ、ギンガ」

 笑みを浮かべてゲンヤが娘を励まし、モニターが消えた。
 父の励ましを受けて、ギンガは力強い笑みを浮かべた。

「っていうか、ホント誰か助けてェェェェ!!」

 屋上の中心で、隼樹は助けを求めて叫んだ。
隼樹「あ〜あ。スカリエッティの友達宣言みたいな事、言っちゃったな〜」

スカリエッティ「ハッハッハッ! これからも仲良くやっていこうじゃないか、隼樹!」

隼樹「……嫌だ」


次回からは、新部隊『ナンバーズ』が発足する日を書く予定です


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