ゆりかご戦の後、自首をしたスカリエッティ
拘置所で彼が出会ったのは……?
第二十七話:親友
ゆりかご事件が終結した日の話。
軌道拘置所。
惑星軌道上に浮かぶ拘置所である。宇宙空間に浮かんでいる為、脱走する事は難しい。主に、重犯罪者が収監される施設なのだ。
その軌道拘置所に、スカリエッティが入っている独房があった。
隼樹達の活躍に満足したスカリエッティは、自首をして、この拘置所にやってきたのである。手足を拘束された状態で局員に独房まで連れてこられた。独房に入り、局員が去ってから、スカリエッティは向かいの独房に入っている人物に気付く。
「おや? キミは……」
向かいの独房に入っているのは──。
「ガルマじゃないか?」
「……ム」
名前を呼ばれて、向かいの独房にいる囚人──ガルマはスカリエッティに顔を向けた。
「誰ダ?」
「やぁ、初めまして。私はジェイル・スカリエッティ。ナンバーズの生みの親で、キミを倒した塚本隼樹の親友さ」
笑みを浮かべて、スカリエッティは自己紹介をした。最後の方は隼樹がいたら“いや、親友じゃねーよ!”というツッコミが入りそうである。
隼樹の名前が出て、ガルマはピクリと反応した。
「……ソウカ」
「まぁ、お向かい同士仲良くしようじゃないか」
「……アア」
短く答え、ガルマは口を閉じてしまう。
拘置所内が、沈黙に包まれた。
沈黙に耐えられず、スカリエッティが話題を振ろうとした時、沈黙していたガルマが口を開いた。
「隼樹ハ大シタ奴ダ。私ヲ倒シテ聖王ノユリカゴヲ止メ、世界ヲ救ッタ」
そこで間を取った後、ガルマは続ける。
「ダガ、同時ニ“奴”ニ狙ワレル事ニナッタ」
「奴?」
スカリエッティは片眉を上げた。
「……奴というのは、ひょっとして、キミと一緒に小さな町を襲った黒い編笠の男の事かい?」
以前、ドゥーエが入手した映像に映っていた男を思い出す。
「……ソウカ。奴ノ存在ヲ知ッテイタカ。ソウダ、奴ハ隼樹ヲ狙ッテイルハズダ」
「何故、隼樹を狙うんだい?」
「単純ナ理由ダ。奴ハ強者ヲ求モテイル」
淡々とした口調で、ガルマが言う。
「奴ハ、王座ノ間デノ私ト隼樹ノ戦イノ様子ヲ見テイタハズダ。モチロン、ナンバーズ、機動六課ノ戦イノ様子モナ」
スカリエッティは黙って話を聞いて、ガルマは続ける。
「ソノ中デ、奴ガ一番強ク興味ガアルノハ……私ヲ倒シタ隼樹ダ」
ガルマが話を続けていくと、拘置所内に緊張感が漂ってきた。
最初は笑みを浮かべて、興味深そうに話を聞いていたスカリエッティの顔は、珍しく真剣な表情に変わっている。
ガルマの話は続く。
「コノママダト隼樹ハ……確実ニ殺サレルゾ」
低い声で、ガルマは冷酷に告げた。
「……編笠の男は、何時隼樹を襲うんだい?」
「スグニハ襲ワン。私ヲ倒シタトハイエ、隼樹ノ実力ハマダ未熟ダ。隼樹ガ、モット強クナッテカラ奴ハ動キ出ス」
ガルマの話を聞き、スカリエッティは顎に手を当てて考えた。
「ふむ。それなら、このまま隼樹が強くならなければ、奴は興味をなくして諦めるんじゃないのかい?」
「ナルホド。ソウイウ案モアルカ。ダガ私ハアンマリ、オ勧メ出来ンナ」
言いながらガルマは、ぽりぽりと頭を掻く。
「何故だい?」
「奴ハ自分ノ目的ノ為ニハ、手段ヲ選バン。ドンナ手ヲ使ッテデモ、隼樹ヲ強クサセル」
そこで一旦言葉を止め、天井を仰ぐガルマ。
ややあって顔を戻して、ガルマが口を開く。
「例エバ、隼樹ノ大切ナ人……ナンバーズヲ皆殺シニシテ、隼樹ヲ復讐鬼ニサセルトカナ」
ガルマは表情を変えず、抑揚のない声で言った。
例えるなら、ロボット。決められた言葉を返すようにインプットされた、感情を持たない機械のようだ。
スカリエッティは、初めて表情を険しくさせた。
「……あまり愉快な話ではないね」
「マァナ」
それきり、二人は口を閉じて、拘置所内は静まり返った。
沈黙が続く中、スカリエッティは静かに目を閉じ、一人思い返す。
ある日突然、彼はスカリエッティとナンバーズの前に現れた。スカリエッティは、気まぐれに彼をアジトに迎える。最初は戸惑っていたが、彼は少しずつナンバーズと打ち解けていった。
ある日、彼はナンバーズの強化を提案した。いつもの彼とは様子が違い、スカリエッティもナンバーズも驚く。その後、彼とスカリエッティは、ウーノとクアットロも連れて飲みに行った。彼に出会う前のスカリエッティとナンバーズなら、決して行かなかっただろう。スカリエッティ達は、少しずつ変わっていった。
地上本部襲撃。彼の案で強化されたナンバーズは、管理局を圧倒した。その光景に、スカリエッティは胸を踊らせる。
ある日、スカリエッティは夜中に彼を呼び出して言った。
──娘達を頼む。
自分の作品であり、娘でもあるナンバーズを彼に託した。そして、スカリエッティは自分の夢を持った。刷り込まれたモノではない、自分の夢を──。
スカリエッティは、ゆっくりと目を開けた。
彼──塚本隼樹のお陰で、今の自分がある。
その隼樹を狙い、殺そうとする者が現れた。
スカリエッティは顔を上げて、自分を監視しているカメラを見上げる。
「私を監視している局員。聞こえるかい?」
『何ですか?』
監視カメラに付いているマイクから、女性の声が聞こえてきた。
スカリエッティを監視しているのは、フェイト・T・ハラオウン。
「管理局と取引きをしたい。此処から出してくれるかい?」
『えっ!?』
マイクから、フェイトの驚きの声が聞こえた。
背を向けていたガルマも、後ろを振り向いてスカリエッティを見る。
『……何を企んでいる?』
「別に。何も企んでいないさ」
スカリエッティはカメラを見つめて、不敵に笑う。
それから沈黙が続く。スカリエッティと取引きをするか、フェイトは考えているようだ。
しばらくして、フェイトが口を開いた。
『……わかりました。上に知らせます』
その言葉を聞いて、スカリエッティは満足げに笑みを浮かべる。
必ず管理局の上層部は、食いついてくる。スカリエッティの技術は、管理局も喉から手が出る程欲しいハズだ。
「ココカラ出ルカ?」
ガルマが尋ねた。
スカリエッティは顔を戻して、ガルマを見る。
「ああ」
「……隼樹ヲ護ル為カ?」
拘置所を出る理由を聞くガルマ。
「そうだ」
迷わず、スカリエッティは答えた。
ガルマはその時、彼の眼に強い決意の宿った光のようなモノが、見えた気がした。
「ふふ。他人の為に、他人を護る為に動こうと思ったのは、生まれて初めてだよ」
スカリエッティは、いつもの笑みを浮かべて言う。
「隼樹はね……初めて出来た、私のたった一人の親友なんだよ」
「親友……カ」
ポツリとガルマが呟く。
ガルマは、隼樹との戦いを思い返す。
初めて自分を殴り、傷つけた男。大切なモノを護る為、牙を剥いてきた男。
王座の間で、壮絶な殴り合いを繰り広げた。
ガルマは顔を上げて天井を仰ぎ、口を開く。
「……元々、私ハ奴ニ誘ワレテ、コノ世界ニヤッテキタ」
スカリエッティは、笑みを消してガルマの話を聞いた。
「奴ノ目的ハ、強者ヲ見ツケル事。私ハ、退屈シノギ。奴ニ付キ合エバ、少シハ楽シメルト考エタ。ソシテ管理局ノ存在ヲ知リ、連中ヲ誘キ寄セル為ニ小サナ町ヲ襲ッタ」
ガルマの脳裏に、編笠の男と共に起こした殺戮の光景が蘇る。
「ダガ、思ッタ以上ニ管理局ノ魔導師ハ弱クテ、ツマラナクテナ。ソコデ次ハ、ミッドチルダデ騒ギヲ起コソウト考エタ」
ガルマは続ける。
「ソコデ、私ハ隼樹ト出会ッタ。アノ時ハ、後ニ隼樹ト戦ウ事ニナルナド、思イモシナカッタ」
隼樹の名を出すと、ガルマの声の感じが変わった。
それまで機械のように無機質で、感情がない淡々としていた口調が、今は少し嬉しそうな感じになっている。
ガルマの変化に、スカリエッティは僅かに動揺して片眉を上げた。
「イヤァ……隼樹トノ喧嘩ハ、ナカナカ楽シカッタ」
懐かしむように、ガルマが言った。その顔には、笑みが浮かんでいる。
「隼樹。出来レバ死ナセタクナイモノダナ」
「なら、キミも一緒に来るかい?」
軽い感じで、スカリエッティはガルマを誘う。
ガルマは顔を上げて、ぽりぽりと頭を掻く。
「イヤ、ヤメテオク。私ハ、オ前程器用デハナイ。傲慢ナ人間共ガイル管理局ニ従ウ事ナド出来ン」
「では、キミはどうするんだい?」
「シバラクハ、此処デ大人シクシテイルサ。ソノ気ニナレバ、脱獄ナド何時デモ出来ルカラナ」
自信に満ちた声で、ガルマが言った。
「そうか」
それきり二人の間で話題がなくなり、会話が途切れて場が沈黙する。
しばらくして、通路に足音が響く。足音は近づいてきて、スカリエッティの独房の前で止まった。
やってきたのは、フェイトだ。
「スカリエッティ。上層部が取引きの話をしたいと言ってます」
「そうか」
スカリエッティが答えると、独房の扉が開いた。
立ち上がって、スカリエッティは独房から出る。
フェイトは、まだ納得していないらしく、疑いの視線をスカリエッティに向けていた。
「モウ別レトハ、早イナ」
ガルマが言った。
スカリエッティはガルマに顔を向けると、笑みを浮かべた。
「また会えるといいな」
「ソウダナ」
短い言葉を交わし、フェイトに連れられてスカリエッティは去っていく。
ガルマは、遠くなっていくスカリエッティの背中を見つめた。彼の姿が見えなくなると、ガルマは床に座り込んだ。
一人になり、ガルマは溜め息をつく。
「……退屈ダ」
*
拘置所を出たスカリエッティは、管理局の上層部と取引きをした。重傷の高町なのはの傷を治し、管理局に協力する事を約束した。
そして新部隊『ナンバーズ』の設立を提案。
自由の身となったスカリエッティは、すぐにナンバーズを集めた。編笠の男が隼樹を狙っている事と新部隊の話を聞かせた。だが、隼樹には編笠の男の事はまだ教えないでくれ、とナンバーズに口止めする。
話を聞いたナンバーズは、命に代えても隼樹を護ると固く決意した。
次回は、隼樹の見舞いに行く機動六課の話……の予定!
機動六課の誰が見舞いに来るのかな?
「俺の見舞いの品を食うなァァァァ!!」
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