赤夜叉「人気投票! 締切りは明日!!」
隼樹「まだの人は急ぐべし!!」
戦いを終えた隼樹達は……!?
ゆりかご篇 終幕!
第二十六話:みんながいるから幸せです
ガルマとの激しい喧嘩の後、聖王姿のヴィヴィオを見て隼樹は混乱し、気絶して倒れてしまった。倒れた隼樹をトーレが背負って、ギンガの指示で急いで聖王病院まで運んだ。聖王病院とは、聖王教会と呼ばれる所の付属の医療施設である。病院に運ばれて、すぐに手術が行われた。ナンバーズと元に戻ったヴィヴィオとギンガは手術室の前に集まり、隼樹の手術の成功を祈って待っていた。かなり危険な状態だったが、手術は無事に成功。隼樹は一命を取り留め、ナンバーズとギンガは安堵してホッと胸を撫で下ろした。
ガルマは、戦いの場に居合わせていたシグナムに逮捕される。特に抵抗する動きを見せず、おとなしく連行されていった。
なのは達も救出した後、無人となった聖王のゆりかごは、管理局の戦艦数隻による一斉砲撃で、跡形もなく吹き飛んだ。
事件後、スカリエッティはフェイト達を解放して、管理局に自首をしたそうだ。その時、隼樹達が活躍した事が嬉しいのか、彼はとても爽やかな笑顔をしていた。スカリエッティを追っていたフェイトは、彼の爽やかな笑顔を見て思わず、『誰?』と呟いてしまう。
隼樹とナンバーズは、管理局に保護される事になった。逮捕ではなく、保護である。隼樹達は世界を救った英雄だと人々に認識されていて、世界の反感を買う事を恐れた管理局は、逮捕を断念。ぶっちゃけ、今は管理局より隼樹達の方が人気があった。
メガーヌは、隼樹と同じく聖王病院で入院する事になり、ルーテシアは彼女に付き添っている。
スカリエッティと裏取引をしていたレジアスは、上層部から降格と謹慎処分を受けた。だがレジアスは落ち込まず、自らの正義を見つめ直し、一からやり直そうと心に固く誓う。ゼストと再会し、隼樹の戦いを見て何かを感じたのか、レジアスの目に濁りがなくなり、生き生きとした光が宿っていた。娘であり部下のオーリスは、そんなレジアスを最後まで支えると決意する。
騎士ゼストは、管理局に身柄を保護され、レジアスと再会できる日を待つ。
アギトも管理局に保護され、ゼストの気持ちを汲んで、これからはシグナムと共に行く事を決めた。
世界を震撼させた大規模な事件となったが、最高評議会のこと等、管理局は真実を表沙汰にはせず、闇に葬る事にした。
*
ガルマとの戦いから一ヶ月。
傷も完治して、体調も回復した隼樹が退院する日がやってきた。
「どうもありがとうございました」
軽く頭を下げて、医者に礼を言った。
それから二、三、言葉を交わして、隼樹は踵を返して出入口に向かって歩き出す。自動ドアが開いて、病院の外に出た。その瞬間、彼の目に入ってきたのは、倒れている報道局記者達だった。退院して出てくる隼樹を、待ち伏せしていたようだ。
倒れてる記者達の後ろに、彼等を倒した犯人がいた。
ナンバーズとヴィヴィオとギンガ、それにルーテシアと目覚めたメガーヌが立っていた。ちなみに、みんな私服姿だ。
「隼樹、退院おめでとう!!」
みんなが声を揃えて、隼樹を迎えた。
隼樹は照れて、くしゃくしゃと頭を掻く。
「みんな、ありがとう」
少し恥ずかしがりながら、みんなに礼を言った。
隼樹達は、倒れてる記者達を放っておいて、病院をあとにする。
「一応、聞いとくけど、あの記者達、気絶してるだけだよね?」
「当たり前だ」
隼樹の問いに、トーレが答えた。
ですよね〜、と呟いて隼樹は安心する。
「隼樹さん」
安心していると、メガーヌから声をかけられた。
「貴方には、本当にお世話になりました。何と礼を言ったらいいのか」
優しく微笑むメガーヌ。
ルーテシアの母親と分かっていても、隼樹はメガーヌの微笑みにドキッとする。
「い、いえいえ。俺は別に何にもしてませんから。頑張ったのは、ルーテシアですから。娘さんに礼を言ってください」
少し頬を赤くして、隼樹は謙虚な態度になった。
「ありがとう、隼樹」
メガーヌの隣にいるルーテシアが笑顔で、隼樹にお礼を言った。
いい娘だよ。この娘物凄くいい娘だよ。これからは親子一緒に、幸せな日々を過ごしてください。ルーテシアから礼を言われた隼樹は、心からそう願った。
「ふふふ。隼樹はすっかり人気者ですね」
ドゥーエが、口に手を当てて微笑んだ。
「何気に隼樹は、沢山の人を救いましたからね」
そう言ったのはウーノ。
二人の話を聞いて、隼樹は振り返って言う。
「そういえばウーノさんとドゥーエさん。いつの間にか俺の事、呼び捨てにしてますよね?」
「ふふふ。いいじゃないですか」
「ええ」
ウーノとドゥーエは、ニコニコ笑って答えた。
まぁ、ぶっちゃけ嬉しいけどさ。頭を掻きながら、隼樹は恥ずかしがる。
「隼樹も、私達の事を呼び捨てにしていいんですよ?」
「えっ?」
ドゥーエの言葉に、隼樹は驚く。
まぁ、ぶっちゃけ二人の事、呼び捨てで呼びたい。呼び捨てで呼び合うのって、何かいいやん。素敵やん。
なんて事を考えて、隼樹は軽く咳払いをした。
「じゃ……じゃあ……ドゥーエ……」
「はい、隼樹」
恥ずかしがりながら呼ぶ隼樹に、笑顔でドゥーエは答えた。
ドゥーエを呼んだ後、隼樹はウーノを見る。
「……ウーノ……」
「ふふ。隼樹」
ウーノも微笑んで答えた。
呼び捨てで名前を呼んで、呼ばれただけで隼樹は顔が赤くなる。
「わ〜。隼樹、顔が真っ赤だ」
「いつもエッチな事ばかり考えてるのに、初と言うか、何と言うか」
セインは面白がり、ディエチは少し呆れた。
「あ〜ん、ダメよ隼ちゃん。そんな顔しちゃ、虐めたくなっちゃうわ〜」
言いながら、クアットロは隼樹の赤くなった頬を指でつつく。
「クアットロ〜!」
勘弁してくれといった顔をして、クアットロを見る。
「やれやれ。少しは成長したかと思ったが、全くしていないようだな」
「まぁ、隼樹だから仕方ないとも言えるが」
さりげなく酷い事を言う、チンクとトーレ。
「二人共〜、俺泣いていい?」
落ち込む隼樹に、セッテとディードが近寄る。
「隼樹、元気を出してください」
「隼樹兄様は、今回立派に戦いました」
二人は優しく隼樹を励ます。
「だぁ〜もう! ウジウジすんなって言ってんだろーが!」
「わああ! 落ち着くっスよ、ノーヴェ!」
隼樹の胸倉を掴んで怒鳴るノーヴェと、止めようとするウェンディ。
そんな騒がしい光景を見て、オットーは静かに溜め息をついた。
「あの〜、いつもこんな感じなんですか?」
隣にいるギンガが、オットーに尋ねた。管理局の人間で、ナンバーズと友好的に付き合っているのは、今のところギンガだけである。
「まぁ……大体こんな感じかな」
チラッと隼樹達を見て、オットーが静かに答えた。
隼樹達は、まだ騒いでいる。が、この騒ぎを収める意外な人物が現れる。
「やあ、隼樹! 退院おめでとう!」
騒ぐ隼樹達の前に現れたのは、スカリエッティだった。
彼が現れた瞬間、騒ぎはピタリと静まる。隼樹は目を大きく見開いて、驚いた顔でスカリエッティを疑視した。他のみんなは、特に驚いた様子はない。
「おや? 私には“ありがとう”はないのかい? 再会を喜ぶ言葉は──」
「スカリエッティィィィィィ!!」
言葉が言い終わらない内に、隼樹はスカリエッティの顔面に渾身のドロップキックを食らわした。
「ごはっ!」
直撃を受けたスカリエッティは、鼻血を流して道に倒れる。
「ドクター!?」
「何でアンタがここにいんだよ!? 腹が立つような爽やかな笑顔で自首したじゃねーか! 拘置所にいろよ!」
倒れてるスカリエッティを指差して、隼樹は怒鳴った。
「ま……まぁ、落ち着きたまえ。説明するよ」
スカリエッティは鼻栓を詰めて、ゆっくりと立ち上がる。
「実はね、私は管理局の技術局員になったのだよ」
「は……?」
ポカンとなる隼樹。
言っている意味が解らなかった。数秒の沈黙の後、隼樹が大声を上げる。
「はァァァァ!!? な……嘘言うなァァァァ!!」
「嘘じゃないさ」
言ってスカリエッティは、懐からIDカードを取り出して見せた。管理局のIDで、スカリエッティの顔写真がある。
「マジで!!?」
隼樹は、驚愕して目を剥く。
何でこの犯罪者が管理局に? 意味が解らない。
その時、隼樹はハッとなる。ある可能性が、頭に思い浮かんだ。
「……管理局と取引きしたんですか?」
「ああ。拘置所内は、思った以上に退屈そうだったんでね。それなら管理局に協力して、キミ達と一緒にいる方が面白いと考えたのさ」
マジかよ。しかし、犯罪者にまで人材を求めるなんて……管理局って組織には誇りも何もないのか。落ちたモノだな。
内心で管理局を侮蔑するが、ギンガの手前、決して口には出さない。
ちなみに取引きの条件は、重傷の高町なのはの治療と管理局に協力する事。なのはは手足の筋が綺麗に切れていたが、スカリエッティの技術で、なんやかんやで治った。その時、なのはは複雑な顔をしていた。
話を聞いて、ふと隼樹は、ある事を思った。
「つーか、この事みんなは知ってたの?」
後ろを振り返って、ナンバーズとギンガを見る。
すると、みんな隼樹から目をそらした。
ああ、みんな知ってたんだ。多分スカリエッティに、黙ってるように言われたんだろう。
「ああ、それからね」
思い出した風に、スカリエッティが言う。
「実は、管理局で新たな部隊が設立する事が決まってね」
聞いた直後、何故だか隼樹は嫌な予感がした。この世界に来てから、嫌な予感が外れた事は一度もない。
「特殊部隊『ナンバーズ』。私の娘達で構成された新部隊だ」
「えええええええ!!?」
隼樹は目を見開いて、近所迷惑レベルの大声を出す。
「ま……マジで!? マジでウーノ達が管理局の新部隊に!?」
「ああ、マジだよ」
動揺しまくる隼樹に、さらりと答えるスカリエッティ。
「えええっ!? ナンバーズ……正義側になっちゃったのォォォォ!!? これも管理局との取引き? つーか、これも俺初耳なんですけどォォォ!! 何で俺だけハブられてんだよ!?」
頭を抱えて叫ぶ隼樹に、スカリエッティが言う。
「もちろん、私もキミも部隊の一員だから、よろしく」
「おいィィィィ! 何勝手に決めてんだ、テメェェェ!!」
嫌な予感的中。
「っ……!」
文句を言って取り消してもらおうと思ったが、すぐに無駄だと悟った。スカリエッティは基本、一度決めた事は変更しないし取り消さない。
受け入れるしかない。認めるしかない。スカリエッティといるとロクな事がないが、ナンバーズとは一緒にいたい。
「あ、あの〜」
やんわりとギンガが、隼樹に声をかけた。
「何ですか?」
隼樹が聞くと、ギンガは衝撃の事実を口にする。
「実は、私もその部隊に異動する予定なんです」
「ええっ!!?」
本日何度目かの衝撃を受けて、隼樹は驚いた。
「ぎ……ギンガもナンバーズに入るの?」
「はい」
頷いてギンガは答えた。
アンタら、何回驚かせれば気が済むんだ。これはドッキリ企画ですか? と思いたくなる程の驚きの連続だ。というか、隼樹だけ知らされてない時点で、既にドッキリ確定である。
しかも、ギンガまでグルになっていた。
「ギンガ……貴女だけは味方だと思ってたのに……」
「ご、ごめんなさい。スカリエッティとナンバーズに、隼樹さんには絶対に言うな、と口止めされていて……」
軽く落ち込む隼樹に、ギンガが謝る。
「な、何だか大変そうですね」
苦笑を浮かべて、メガーヌが言った。
「隼樹。実は、もう一つ大事な話があるのよ」
ニコニコ笑いながら、ウーノが言った。
「ウーノ。大事な話って……何ですか?」
また驚かせようとしてんだな、と考えて隼樹は油断なく聞く。
そして、ウーノから衝撃の言葉が出た。
「私、ヴィヴィオのママになったの」
ヴィヴィオを抱き上げて、微笑みを浮かべるウーノ。抱かれてるヴィヴィオも、嬉しそうに笑っている。
「えええええええ!!?」
今日一番の大声を上げて、隼樹は驚愕して目を剥く。
「ま、ままま……ままままま……ママっ!?」
「はい」
「母親!?」
「はい」
「ヴィヴィオの!?」
「はい」
マジでェェェェ! と内心でもシャウトする隼樹。
「えっ? でもヴィヴィオには、高町なのはがいるんじゃ……?」
「彼女はヴィヴィオの保護責任者で、本当の母親ではありません。彼女と後見人であるフェイト・テスタロッサ、それからヴィヴィオ本人と話をして、手続きを行い、ヴィヴィオを正式に私の養女に迎えたんです」
王座の間でヴィヴィオに、『ウーノお姉さん達ともっと一緒にいたい』と言われたウーノは、戦いが終わった後、ヴィヴィオを養女にして引き取ろうと考えていたのだ。管理局の新部隊『ナンバーズ』の件を引き受けたのも、ヴィヴィオの母親としてやっていく為でもある。
「こ……個人的に、今のが一番のサプライズです……!」
まさか本当にヴィヴィオの母親になってしまうとは、驚き以外の何物でもない。
「……あれ? けど、そうなると父親は誰に?」
ふと疑問に思って、隼樹は考える。もしスカリエッティにする予定なら、ソレは全力で阻止しなければならない。あんな男が父親になったら、ロクな大人にならない。
隼樹が考えていると、ウーノが衝撃発言をした。
「何を言ってるの? 貴方が“パパ”よ、隼樹」
「はあ!!?」
即座に思考を中断させて、隼樹は目を見開く。
「おお、俺がヴィヴィオの……ぱぱぱぱ、ぱ、パパ!!?」
震える指で、自分を指差す隼樹。
「ウーノママ、隼樹パパ」
ヴィヴィオが嬉しそうに、二人を呼んだ。
「いやいやいや、無理無理無理! 俺がパパなんて無理ィィィ!」
かぶりを振って、隼樹はパパを拒絶する。
すると、
「パパ……」
ヴィヴィオが、うるうるとした瞳で、更に上目使いで隼樹を見つめた。
「う……! や、やめてくれ! そ、そんな瞳で、俺を見ないでくれェェェェ!!」
ヴィヴィオのうるうる視線に耐えられなくなり、隼樹は叫びながら走り出して逃げた。
「あっ、逃げた!」
去っていく隼樹を見て、セインが言った。
「待ちなさい、隼樹!」
「病み上がりなんだから、走っちゃダメっスよ!」
ナンバーズも、走って隼樹を追い掛けた。
しかし、その中にドゥーエの姿が無かった。
*
「お……思わず逃げてしまった……」
誰もいない小さな公園に、隼樹の姿があった。
病み上がりとは思えないスピードで、とにかくメチャクチャに走り、この公園にやってきたのだ。
「まさか、俺がヴィヴィオのぱ……パパになるなんて……。つーか、何で俺?」
近くのベンチに座って、隼樹は悩む。
いきなり“今日から貴方はパパよ”なんて言われて、納得できるものではない。しかし、いつまでも現実逃避をしてる訳にもいかない。
「隼樹。貴方は病み上がりなんですから、激しい動きをしてはいけませんよ」
「うん、ありが、とおおおおおおお!!?」
後ろから声をかけられ、普通に返事をしそうになって、隼樹は驚いて振り返った。
そこにいたのは──。
「ドゥーエ!?」
「何度も大声を出すのも、よくないですね」
慌てふためく隼樹の背後に、彼の反応を見て楽しそうに微笑んでいるドゥーエがいた。
「い、いつの間に? さっきまで誰もいなかったハズなのに……!」
「ふふふ。隼樹、自分で考えた私の新しいISをお忘れですか?」
言った後、ドゥーエは自分の影の上に手を置く。
すると、影に波紋が生じて、ドゥーエの手は影の中に入っていった。
ソレを見て、隼樹は思い出す。
「あっ!」
「IS『シャドウクイーン』。影から影へ移る等、影を操る能力。貴方が考えた能力ですよ」
ドゥーエは影から手を出して、ニッコリと笑う。
「そうだ、すっかり忘れてた。俺が走り出した時に、自分の影を通じて俺の影に移動したの?」
「はい」
自分の考えた能力で見つかる、なんてアホな展開に隼樹は軽く落ち込む。
「隼樹。みんなも心配してますから、戻りましょう」
ドゥーエはみんなの所に戻ろうとするが、隼樹はベンチから立とうとしない。
少し心配になって、ドゥーエは隼樹の顔を覗き込む。
「隼樹? どうしたんですか?」
「……ドゥーエ。あのさ……」
少し戸惑った後、ドゥーエと顔を合わせて言う。
「前に、ドゥーエ言ってたよね? 男を磨いたら付き合ってくれるって」
初めて公園でドゥーエと出会って、言われた事を思い出しながら隼樹は続ける。
「俺……臆病で、弱いままで全然、男を磨けてないけど……けど好きなんだ!」
隼樹は臆病なまま、以前と何も変わっていないが、それでもドゥーエの事を諦める事が出来ない。
「俺と付き合ってください!」
ドゥーエを真っ直ぐに見つめ、顔を真っ赤にさせて隼樹は、再び彼女に告白した。
二度目の告白を受けて、ドゥーエは目を丸くする。
隼樹の告白が終わり、公園が静まり返った。
ドゥーエは、頬を少し赤くしながら嬉しそうに微笑む。
「はい。私も隼樹が好きです」
「えっ!? 本当ですか!?」
驚きのあまり、思わず隼樹は聞いてしまう。
「はい。弱くて、臆病で頼りないですが、私達の事を想っている貴方が好きです」
弱くて臆病で頼りない、という所で胸がズキッとしたが、ドゥーエの想いを知って、隼樹は喜ぶ。
これで、ナンバーズ全員と付き合う事が出来る。あまりの嬉しさに、喜びと興奮が収まらない。
ナンバーズと、あんな事やこんな事をするぞ、と隼樹の頭の中は早くもエロで一杯になった。
興奮している隼樹を見て、ドゥーエは少しずつ身を寄せていく。
「今なら、誰もいませんね」
周りに人がいないのを確認して、ドゥーエは小さく呟いた。
そしてドゥーエは、隼樹の赤くなった頬に両手を添えて、ゆっくりと顔を近づけていく。
一方、隼樹は顔を近づけてくるドゥーエに戸惑っていた。どんどん顔が近づいてきて、隼樹は緊張して心臓が破れんばかりにドキドキしていく。体温も、どんどん上昇していった。
次の瞬間、ドゥーエの唇と隼樹の唇が重なった。
「……!!?」
隼樹は、目を見開いて硬直した。
一方のドゥーエは、両手を隼樹の背中に回して、彼を離さないように抱き付く。
「んっ……んん……」
いやらしい声を出しながら、ドゥーエは隼樹とのキスを続ける。
初めてのキスに、隼樹は頭がどうにかなりそうになって、ドゥーエを抱いた。彼女を離さぬよう、力強く抱く。
やがて長く熱いキスを終えて、ドゥーエは唇を離した。
「ふふふ。私のファーストキスです」
唇に指を当てて、妖艶な笑みを浮かべるドゥーエ。
実は、10年前に司祭をたぶらかして聖王教会から聖骸布を盗ませた謎の女性の正体は、ライアーズ・マスクで変装したドゥーエなのだ。司祭をたぶらかす為に、ドゥーエは彼とキスもした。しかし、その時は、こう、透明なシールみたいな物を唇に貼って保護していた。だから、ドゥーエのファーストキスは、隼樹とキスをするまで、誰にも奪われていないのだ。
「ドゥ……ドゥーエの、ファーストキス……!」
隼樹は興奮して、耳まで真っ赤になっていた。
彼にとっても、ファーストキスだった。ドゥーエとの接吻は、甘く柔らかい感触がした。
「さぁ、みんなが待っています。行きましょう、隼樹」
ドゥーエはベンチから立ち上がると、隼樹の手を引く。
そのまま隼樹も立ち上がり、彼女に引っ張られて公園を出ていった。
──ふふふ。隼樹は私のモノですよ。
ドゥーエは唇をペロリと舐めて、隼樹に見えないように黒い笑みを浮かべた。
*
隼樹は、ドゥーエに連れられてウーノ達の所に戻るまで、ボーッとしていた。それほど彼にとって、ドゥーエとのファーストキスは衝撃的だったのだ。
「探しましたよ、隼樹」
「すいません。ちょっと取り乱して、逃げてしまいました」
正気に戻った隼樹は、ウーノや他のみんなに謝った。
「まぁ、逃げ出した気持ちは、わからなくはないけどね〜」
頭の後ろで手を組んで、セインが言った。
すると、ウーノの前にいるヴィヴィオが、隼樹を見上げて言う。
「隼樹お兄さん。パパって呼んじゃダメ?」
その時、隼樹は冷静になって考えた。一旦逃げ出した事で、隼樹は冷静さを取り戻していた。
隼樹は、恐る恐るウーノに言う。
「あの……正式にヴィヴィオの父親になる訳じゃ……」
「当たり前です。貴方に黙って、勝手にヴィヴィオの父親にするような事はしません」
ウーノの言葉を聞いて、隼樹はホッと胸を撫で下ろす。
つまり、男性陣の中でヴィヴィオに好かれ、ヴィヴィオに優しくしていた隼樹の事を、ヴィヴィオはパパと呼びたかった。こういう事である。
「ん〜。まぁ、そういう事なら……」
「パパって呼んでいい?」
「……ん〜」
再びヴィヴィオに迫られて、隼樹は悩む。
やっぱり、パパと呼ばれるのは照れる。が、ヴィヴィオにそう呼ばれるのは、悪い気はしない。
隼樹は決意した。
「わかった。こんな俺でいいなら」
「パパって呼んでいいの?」
「いいよ」
「パパ!」
ヴィヴィオは嬉しくて、隼樹に抱き付こうと走り出す。
その時、ヴィヴィオの体が光に包まれて、隼樹達は目を閉じてしまう。
光が収まって目を開けると、ヴィヴィオはまた聖王姿になっていた。
美人な大人になったヴィヴィオを見て、隼樹は驚愕して目を見開く。
「また大人になったァァァァ!!」
「パパ!」
大人ヴィヴィオは、力いっぱい隼樹を抱きしめた。
大人になり、大きくなったヴィヴィオの胸が隼樹に当たる。
「ちょっ……これは……たまらん……!」
顔を真っ赤にさせて、隼樹は動揺しまくる。
「あらあら」
二人の様子を、ウーノは微笑んで眺めている。
セイン達も、隼樹の慌ててる姿を見て楽しんでいた。
「ハッハッハッ! よかったじゃないか、隼樹!」
スカリエッティは、相変わらず愉快そうに笑っている。
隼樹は、スカリエッティをジロリと睨んだ。
「世界の平和の為に、アンタを殺して俺も死ぬか?」
ようやくヴィヴィオが離れ、少し気分が落ち着いてきて、隼樹は溜め息をつく。
美人な恋人が沢山いて、可愛い娘がいて、ついでにアホな科学者がいて、ギンガとも知り合い、アルピーノ親子とも仲良くなり、何というか、凄い事になっている。
けど、沢山の人に囲まれているというのは、とても幸せな事だ。
隼樹は、空を見上げた。
空は、雲一つない、綺麗な青空だった。
ゆりかご篇 完
次回からは、日常篇的な物を少し書こうかな〜、と考えてます。
新章は、その後で。
+注意+
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