隼樹「世界中の読者よ、オラに投票をォォォォ!!」
赤夜叉「いや、俺に投票を!!」
隼樹「いや、オメーは作者だろ!」
ようこそ、世界の運命を決める場へ
人間・隼樹 VS 異形・ガルマ
第二十四話:ナンバーズ集結! 隼樹の逆襲!!
世界が滅ぶかもしれないという時でも、空は相変わらず晴天だった。
その澄んだ空を飛んでいる、複数の影が見えた。ゆりかごへ向かって飛行している、隼樹達だ。飛行能力があるトーレとセッテは、そのまま飛行して、空を飛べない隼樹、ウーノ、セイン、ギンガの四人は、航空戦闘機型のガジェットII型に乗って移動している。
いやぁ、ガジェットって便利だな、と隼樹は思った。落ちないように右手でガジェットを掴み、左手で眼鏡が飛ばないように押さえている。
隼樹は思考を切り替えて、ガルマに対抗する術を考え始めた。戦闘の場となるのは、おそらくガルマとヴィヴィオ達がいる王座の間。前の戦闘で経験して解っている。室内はガルマのテリトリー。壁や天井を高速で跳ね回って、軌道が読めない予測不可能の動きで襲い掛かってくるのが、ガルマの真の戦闘方法だ。何かしらの対抗策を考えつかなければ、勝機はない。ガルマに『今度こそお前に勝つ』と宣言し、ウーノにも『必ず勝って生きて帰る』と約束した。絶対に負ける訳にはいかない。
どうすれば勝てる? どうすれば……。
隼樹は考え続ける。
「何とか……奴の動きを止める……いや、奴のテリトリーの死角を見つける事ができれば……」
顔を俯けて、隼樹はブツブツと呟く。
同じくガジェットII型に乗って、隼樹の後ろを飛行してるウーノは、静かに彼の後ろ姿を見守っている。
「あの……」
そんなウーノに、ギンガが声をかけた。
ウーノは顔を横に向けて、ギンガを見る。
「何かしら?」
「どうして、あの人はガルマに宣戦布告をしたんですか?」
疑問に思っていた事を、ギンガはウーノに尋ねた。
戦闘機人でもない普通の人間の隼樹が、ガルマに戦いを挑む理由がギンガには解らなかった。スカリエッティ達と協力して、騒ぎを起こしたのだから、少なくとも“世界を救う為”ではなさそうだ。しかし、そうなると他に理由が思い浮かばない。
ウーノは、短く笑って答える。
「単純な理由です。彼は、私達とヴィヴィオを護る為に戦いに行くんです」
「貴女達とヴィヴィオを護る為に?」
「隼樹さん、私達の事が好きなんですよ」
「……え、えええっ!?」
一瞬反応が遅れて、ギンガは驚く。
「理由はそれだけです。それ以外に、戦いに行く理由なんて彼にはありません」
隼樹が戦いに行く理由を語ったウーノは、少し嬉しそうに笑っていた。
最初は驚いたギンガだったが、分かる気がした。ギンガにも、妹のスバルと父親のゲンヤ・ナカジマ等の大切な人がいる。だから、自分の大切な人達の為に戦おうとする隼樹の気持ちが、ギンガにも分かった。
ギンガは、隼樹の背中を見る。それにしても、戦闘機人を好きになるなんて変わってるな、とギンガは思った。
「変わった人ですね」
「ただのスケベな臆病者だよ」
とセインがギンガに言った。
すると隼樹が振返り、セインに向かって叫んだ。
「ちょっとセイン! ナカジマさんに、変なこと言うのやめてくんない?」
真実を言われて、隼樹は少し顔が赤くなっている。
そんな隼樹を見て、ギンガは思わず笑ってしまった。
「ふふふ。あっ、そうだ。私の事は“ギンガ”でいいですよ」
「え?」
隼樹は少し驚いた。
「あ……じゃあ、今度からそう呼びます」
少し照れた感じで、隼樹は頭を掻く。
ウーノとセインは、そんな隼樹をジト目で見つめている。
「お前達、お喋りは終わりだ!」
先頭を飛行してるトーレが、全員に聞こえるように大声で言った。
トーレの声で、隼樹達は前を向く。前方に巨大な戦艦──ゆりかごが見えてきた。
「もうすぐだ。気を引き締めて行くぞ」
トーレが振り返ると、全員が頷いた。
その時、ここにきて緊張と不安が一気に襲ってきて、隼樹は身震いをする。額から嫌な汗もかいてきて、震えが止まらない。
「隼樹」
すると、隣から声をかけられた。
顔を隣に向けると、そこにはセッテがいた。
「大丈夫ですか?」
「あ……情けない話……あんまり大丈夫じゃない、かな……」
ハハハ、と情けない笑いを出して、隼樹は頭を掻く。
「私達が一緒にいます。安心して下さい」
言って、セッテは微笑んだ。
セッテの微笑みを見て、隼樹は驚いて目を見開いた。セッテは、他のナンバーズと比べて感情の起伏というものが少なく、故に彼女が笑った所を隼樹は見たことが無かった。
そのセッテが、今、隼樹に微笑んでいる。隼樹は、初めてセッテの笑った顔を見た。セッテの笑顔は、綺麗だった。
「あ、ありがとう」
セッテに礼を言った後、自分の震えが止まっている事に気付く。
隼樹は拳を固く握ると、前方に見えるゆりかごを見据えた。
「しまっていこう」
*
ゆりかご周囲では、管理局の魔導師隊と異形の怪物軍団が空中戦を繰り広げていた。
だが、それは戦いと呼ぶには、あまりにも一方的な戦況だった。異形と同種の障壁を張れる怪物には、魔法による攻撃は全く通用せず、逆に怪物による爪や牙による噛み付きや切り裂き等の攻撃で魔導師達は次々と落ちていく。
劣勢に追い込まれ、もはやこれまでかと魔導師隊は諦めの表情を浮かべる。
その時だった。
「ライドインパルス!!」
目にも止まらぬ速さで紫色の閃光が現れ、怪物達を次々と切り裂いていった。
「えっ!?」
魔導師達は、動きを止めて目を丸くした。
「IS『スローターアームズ』!」
魔導師隊が驚いていると、今度は別方向から二本のブーメランが飛んできて、怪物達を横真っ二つに切り裂く。
ブーメランは回転しながら軌道を変えて、放った人物の手に戻った。紫色の閃光が、その人物の隣に移動する。
「あ、アレは……!?」
閃光とブーメランの使い手の正体を見て、魔導師達が驚く。
「戦闘機人だ!!」
二人を指差して、魔導師が叫んだ。
紫色の閃光の正体、トーレは溜め息をつき、ブーメランブレードの使い手、セッテはいつもの無表情をしていた。
二人は魔導師隊を無視して、怪物達に目を向ける。
「やはり、魔法攻撃よりも我々の攻撃の方が有効のようだな」
「はい。あの障壁が吸収する力は、魔力のみ。私達の攻撃で、敵の防御力を上げる事はありません」
トーレとセッテは、あっという間に分析を済ませた。
「トーレ、セッテ! 二人とも速いよ!!」
少し遅れて、ガジェットII型に乗った隼樹達も到着した。
隼樹と新たなナンバーズがやってきて、魔導師隊は更に混乱する。
「皆さん、私は時空管理局陸士108部隊のギンガ・ナカジマ陸曹です! 今は彼女達は味方です! ガルマが共通の敵になって、ゆりかごを止める為にやってきました!!」
ギンガが大声で、魔導師達に説明した。
説明を聞いた魔導師達は、にわかには信じられない表情をしている。
「ギンガ……無事やったんか?」
一人の魔導師が、フラフラになりながらギンガに聞いた。
「八神部隊長!」
ギンガが、魔導師の名を叫んだ。
魔導師は、ガルマにやられて気絶していた八神はやて。治療の魔法を受けて顔の傷は治ったが、まだダメージは残っていて少しフラフラしている。
「私は無事です。八神部隊長は?」
「私も平気や。それよりギンガが無事で、ホンマによかった。スバルも心配してたしな」
「八神部隊長! スバルは無事なんですか?」
ここに来る途中、ウーノからスバル達がノーヴェ達に倒されたと聞かされた。それからギンガは、ずっとスバルの心配をしているのだ。
「さっき救護班が廃棄都市に向かって、気絶してるスバル達を見つけた。重傷やったみたいやけど、命には別状ないみたいや」
「そうですか……」
妹のスバルの無事を確認できて、ギンガは安堵の溜め息をつく。
近くにいる隼樹は、目の前にいる怪物軍団を見て、驚いて目を見開いていた。
「う……う〜わ〜。何この数? 何十……いや、何百体いるんだ?」
顔を引きつらせる隼樹の背後に、一体の怪物が忍び寄る。
怪物は顔がデカく、真ん中に大きな一つ目を持っていた。口を大きく開けて、ギザギザの鋭い牙を見せて、ダラダラと大量の涎を垂らす。
「隼樹さん、後ろ!!」
怪物に気付いたウーノが、隼樹の後ろを指差して叫んだ。
「えっ!?」
隼樹が後ろを振り返ると、今まさに怪物が彼に噛み付こうとしていた。
「うわあっ!!」
悲鳴を上げて、隼樹はガジェットII型の上で尻餅をつく。
直後、ドスッという突き刺さる音がした。
隼樹は目を見開いて、目の前にいる怪物を疑視する。怪物の大きな一つ目から、三本の銀色の刃物が突き出ていた。
「隼樹さんの背後を襲っていいのは、私だけよ」
怪物の後ろから女性の声が聞こえ、怪物から刃物が引き抜かれた。
一つ目に空いた刺傷から血が出て、怪物は落下する。
怪物がいなくなり、隼樹の前に一人の女性が現れた。目の前にいる女性は、隼樹達と同じくガジェットII型に乗っている。
女性は妖艶な笑みを浮かべると、怪物を刺したであろう右手のカギ爪に付着してる緑色の血を舐めた。
「っ! 怪物の血はマズイわね」
不快感を露にした顔で、舐めた血をペッと吐き出す。
長い金髪に蠱惑的な顔、見間違えるハズもなく、その女性はナンバーズのドゥーエだった。
ドゥーエを見て、隼樹は驚きの声を出す。
「ドゥーエさん!!」
「ふふ、お久しぶりです。大丈夫ですか、隼樹さん?」
「は、はい。大丈夫です。ありがとうございます」
「どういたしまして」
隼樹と再会できて、ドゥーエは嬉しそうに微笑む。以前の怒りは、どこへ行ったのやら。
二人がそんなやり取りをしていると、他のナンバーズも続々とやってきた。
「着いたな」
「うわ〜、沢山いるっスね〜」
「フンッ。何匹いようが、全部ブッ潰せばいいだけだ!」
「隼樹兄様や、ウーノ姉様達も既にいるようですね」
「そうだね」
チンク、ウェンディ、ノーヴェ、ディード、オットーも到着。空を飛べない者は、ガジェットII型に乗っている。
「おおっ! チンク達も来たのか!」
チンク達を見て、隼樹はテンションを上げる。
「ぬんっ!!」
別の所で、男の声が聞こえた。
そちらに顔を向けると、槍を振り下ろして怪物を一刀両断にしているゼストの姿があった。
「誰っ!?」
隼樹は目を見開いて、ゼストを疑視する。
「騎士ゼスト。ドクターに人造魔導師として蘇生させられた、ベルカ式魔導師よ」
ドゥーエが教えてくれた。
何か恐そうなオッサンだなぁ、というのが隼樹が抱いた感想。
その時、ゼストの中からアギトが出てきた。
「隼樹! 大丈夫か?」
「アギト!? おおっ、久しぶりだな! ああ、大丈夫大丈夫!」
アギトと再会して、隼樹は手を振って応える。
再会を喜んでいると、また別の所で怪物を倒してる者を見つけた。炎を纏った剣を操り、怪物達を斬るシグナムの姿があった。
「シグナム!」
シグナムを見て、はやてが叫んだ。
「主はやて! 大丈夫ですか!?」
シグナムは、リインフォース・ツヴァイとのユニゾンを解いて、はやてに近寄る。
「シグナムって……確かあの人も機動六課の……」
と言った所で、隼樹は視線をシグナムの“ある部分”に向けた。彼が見つめているのは、シグナムの大きな胸だ。
映像でも見て思ったが、シグナムの胸はデカい。生で見ると、映像で見た時とは迫力が違う。
ヤベッ、超揉みたい。なんていやらしい事を考えていると、隼樹の喉にドゥーエのピアッシングネイルが突き付けられた。
「ふふふ。隼樹さん、どこを見て、何を考えているんですか?」
背後からピアッシングネイルを隼樹の喉に突き付け、ドゥーエは黒く妖しい笑みを浮かべる。
ピアッシングネイルを突き付けられた瞬間、隼樹の顔は真っ青になった。
「い……いや、あの……すいません。殺さないで、ドゥーエさん。本当にすいません」
背中にドゥーエの胸の感触を感じ、喉に冷たいカギ爪を突き付けられて、興奮と恐怖が混じってパニック状態になる。
「ドゥーエ。その辺にしておきなさい」
「……そうね。今は、こんな事をしてる場合じゃなかったわね」
ウーノに言われて、ドゥーエは喉からピアッシングネイルを離した。
解放された隼樹は、ホッと溜め息をついて安堵する。
ウーノは、ナンバーズが集まり、意外な援軍が来た事を確認して指示を出す。
「空中戦が出来る者は、ゆりかご周囲にいる怪物の撃破! それ以外の者は隼樹さんと一緒にゆりかご内部へ入り、王座の間を目指します!」
全員が大きく頷き、それぞれ行動を開始した。
ゆりかご周囲の怪物軍団の撃破をするのはトーレ、セッテ、オットー、ディード、ゼスト、アギト、シグナム、リインフォース・ツヴァイの飛行可能組。
そして、ゆりかご内部に入り、王座の間を目指すのは隼樹、ウーノ、ドゥーエ、チンク、セイン、ノーヴェ、ウェンディ、ギンガ。
隼樹達は、ゆりかご内部に入る為の入口に向かう。
すると、怪物の群れが隼樹達を襲おうとする。が、突然怪物の群れの前に、トーレ達が現れて行く手を阻まれた。
「貴様らの相手は我々だ」
射抜くような鋭い目で、トーレは怪物の群れを睨む。
怪物達はトーレの睨みを受けて、ビクッと体を震わせた。その間に、隼樹達は外壁に空いてる穴を見つけた。
「ここから中に入るわよ!」
「了解!」
ナンバーズは、次々と穴から内部に突入する。
隼樹は穴に入る前に、トーレ達の方に振り向く。
「みんな無事で!」
もっと気の利いた言葉をかけたかったが、考える時間もないし、これが精一杯だった。
言葉をかけた後、隼樹も穴に入り、突入組は全員ゆりかご内部に入った。
隼樹の言葉を背中で受けたトーレは、笑みを浮かべる。
「何度も言わせるな。お前が我々の心配など百年早い」
眼前の敵を見据えて、トーレは構える。
セッテ達も固有武装を構え、ゼスト達もデバイスを構えた。
すると、ゼストはアギトに顔を向ける。
「アギト」
「……ああ、わかってるよ」
アギトは答えると、シグナムに目を向けた。シグナムもアギトを見ている。
同じ炎熱能力を使い、魔力光も同じのシグナムがアギトに適合したロードだと、ここに来る途中にゼストは伝えた。
アギトは最初は受け入れなかったが、ゼストの想いを考え、シグナムと共に行く事にした。
「いくぞ、シグナム!」
「ああ!」
アギトは、シグナムの前に移動する。
「ユニゾン・イン!!」
叫んだ直後、二人の姿が強い光に包まれた。やがて光は収まり、ユニゾンを完了したシグナムの姿が現れた。
髪の色が薄くなり、紅い炎の翼を背に生やしている。アギトとのユニゾンが、バッチリ決まったようだ。
「ユニゾン・イン!!」
シグナムの隣では、ゼストとリインフォース・ツヴァイがユニゾンをしていた。
ユニゾンの光が収まると、髪が銀色に変色したゼストが現れた。
全員の戦闘準備が整った。
「いくぞ!!」
「おう!!」
気合いを入れて、トーレ達は怪物の群れの中に突っ込んだ。
*
ゆりかご内部。
「邪魔だァァァァ!!」
ノーヴェが、エネルギー噴射で加速したガンナックルで、怪物の顔を殴る。殴り抜けると、怪物の頭は粉々に粉砕した。
先頭を走るのはノーヴェ。その後ろを、隼樹達が走っている。
通路を走り続けていると、前後から怪物達が現れ、襲い掛かってきた。
チンクとウェンディが後ろを振返り、怪物達に向けてスティンガーとスフィアを放つ。スフィアは障壁ごと怪物の体を貫通して、その後ろにいる怪物まで倒す。スティンガーは怪物の体に刺さると、爆発して近くにいる怪物も巻き込んで倒した。
「おらァァァァ!!」
先頭にいるノーヴェは、また怪物の顔面にガンナックルを叩き込む。
「ナックルバンカー!!」
ギンガは硬質フィールドを纏ったリボルバーナックルを、怪物に向けて放つ。
だが、怪物は障壁を張って拳を防いだ。
「はあああああああ!!」
カートリッジロードで、ギンガは威力を高める。すると障壁にヒビが入り、最後は粉々に砕け散った。ギンガの拳は怪物の顔面に届き、通路の先へ殴り飛ばした。
怪物を倒すと、ギンガは溜め息をつく。
「さすがにAMFが充満してる、ゆりかご内部の戦闘はキツいわね」
「ああ、そういえば此処AMFが充満してたんだっけ」
セインが思い出したように言った。
「いや、今頃かよ! もっと早く思い出せよ!」
隣を走る隼樹が叫んだ。
ふと隼樹は、ノーヴェに目を向けた。最初に見た時はビックリしたが、ノーヴェの体は他のメンバーよりも傷ついている。
心配になって、隼樹は声をかけてみた。
「ノーヴェ」
「何だよ?」
ノーヴェは振り返って、隼樹を見る。
「体の傷、大丈夫なの? 無理しなくていいんだぞ?」
「フンッ。これくらい何ともないし、無理なんかしてねーよ」
ノーヴェらしい返事に、隼樹は思わず笑ってしまう。
「な……何笑ってんだよ!?」
顔を赤くして、ノーヴェが隼樹に怒鳴る。
「いや、いつものノーヴェだなって思って」
「……フンッ」
ノーヴェは顔を赤くしたまま、ソッポを向いてしまう。
「みんな、扉が見えたわよ」
ウーノに言われて前方を見ると、王座の間の扉が見えた。
「突入しますよ。覚悟はいいですね、隼樹さん?」
扉を見据えたまま、ドゥーエが隼樹に尋ねた。
「……はい!」
ゴクリ、と唾を飲み込んで、緊張しながらも隼樹は答えた。
そして、扉が開かれた。
*
王座の間の真ん中で、ガルマは扉の方を向いて、腕を組んで立っていた。
扉を開けて入ってきた隼樹達を見て、組んでいた腕を解く。
「来タカ」
隼樹達の登場にガルマは全く動じず、不気味な雰囲気を漂わせている。
隼樹も臆さず、ガルマを睨む。
その時、
「隼樹お兄さん! ウーノお姉さん!」
隼樹達に気付いたヴィヴィオが、泣きながら叫んだ。
「ヴィヴィオ!!」
ウーノは、走ってヴィヴィオを助けに行きたい気持ちを必死に抑える。
ドゥーエは視線を移して、ヴィヴィオの近くで倒れているクアットロとディエチの姿を見つけた。
「三人ヲ助ケタケレバ、私ヲ倒ス事ダ」
ウーノ達の感情を読み取って、ガルマが言った。
ウーノとドゥーエ、他のメンバーも歯を食いしばってガルマを睨む。
緊迫した空気の中、意を決して隼樹は一歩前に出る。
「ヴィヴィオ」
泣き続けるヴィヴィオに、隼樹が声をかけた。
「すぐに助ける。もう少しだけ待っててくれ」
「……うん」
ヴィヴィオが小さく頷いたのを見て、隼樹はガルマに向かって歩き出した。
「隼樹さん、貴方なら勝てるわ!」
「負けたら許しませんからね!」
「お前は一人ではない。姉達がついている!」
「速攻で勝てよ!」
「頑張るっスよ! 絶対勝つっスよ、隼樹!」
「隼樹さん、頑張って!」
ウーノ達からの声援を受けて、隼樹はガルマと対峙する。
ガルマは隼樹を見据えたまま、パチンと指を鳴らした。
すると、再び世界中にモニターが出現した。もちろん、外で戦っているトーレ達の所にも。
モニターに映っているのは、王座の間の様子だった。恐怖に駆られ、逃げ惑っていた人々は、再び現れたモニターに目を向けた。
「世界ヲ巻キ込ンダ喧嘩ダ。ドウセナラ、世界中ノ人間達ニモ見セテヤロウ」
こうして、戦いの準備が整った。
「フフ。コノ時ヲ待ッテイタ」
短く笑うと、ガルマは黒い威圧感を放つ。
以前この黒い威圧感に、隼樹は怯え、飲み込まれてしまった。
だが、今回は違った。
ガルマから威圧感が放たれると、隼樹は大きく息を吸い込み、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
天井を仰ぎながら、大声と共に気迫を放った。
「ヌオッ!?」
隼樹の気迫に、ガルマが一瞬たじろいだ。
王座の間の入口で見守っているウーノ達も、ビクッと体を大きく震わせた。
やがて隼樹の叫びが終わり、王座の間は静まり返る。天井を仰いでいた顔を下ろし、隼樹は眼鏡を床に捨てた。
そして以前とは違う、強い何かを秘めた鋭い目で、隼樹はガルマを見据える。
「お前に勝つ」
隼樹の目を見て、ガルマは思わず笑みを浮かべた。
──ホウ。私ノ威圧感ヲ気迫デ押シ返シタカ……面白イ。
以前の隼樹とは違う事を確信し、ガルマは早くも戦闘態勢に入る。両手足を床に着けて、四つん這いの体勢になった。
「イクゾ!」
次の瞬間、ガルマは四肢に力を込めて飛び跳ねた。
高速で天井に着くと同時に、手足で天井を蹴ってまた移動する。ガルマは壁、床、天井を使い、部屋を縦横無尽に跳ね回る。
「な……何だよコレ!?」
跳ね回るガルマを見て、ノーヴェが驚く。
「マズイっスよ! あんな動き、隼樹には捉らえられないっスよ!」
ウェンディも焦りの声を出す。
「いや、隼樹には何か考えがあるハズだ!」
チンクは、隼樹には何か策がある事を信じる。
その隼樹は、部屋の中心から動かず、ジッとしていた。
ドゥーエとウーノ、ギンガは黙って隼樹の姿を見守っている。
「オ前ヲ追イ詰メ、倒シタコノ動キ。果タシテ、オ前ニ攻略デキルカ?」
部屋を跳ね回りながら、ガルマが言った。
その時、隼樹が動き出した。
部屋を跳ね回るガルマを無視して、全速力で走り出す。
その瞬間、チンク、ノーヴェ、ウェンディは目を見開いて叫んだ。
「逃げたァァァァァ!!?」
ウーノ達も驚きを隠せないで、唖然とした顔になる。
逃げる隼樹の姿を見て、ガルマの中で苛立つような感情が込み上げてきた。
「逃ゲルノカ? オ前ガ以前トハ違ウト思ッタノハ、私ノ勘違イカ?」
苛立ちながら、ガルマは部屋を跳ね回って隼樹を追う。
すると、隼樹はある場所で走るのをやめて立ち止まる。立ち止まった場所は、逃げ場のない部屋の隅。壁を背にして、隼樹は部屋を見渡す。
自分を逃げられない状況に追い込んだ隼樹の行動が理解できず、ガルマは怪訝な顔をした。ナンバーズも同じような顔をして、隼樹を見ている。
「……私ニ勝ツト言ッテオキナガラ、戦ウ事ヲ諦メタカ」
興が冷めたように言って、ガルマは跳ね回りながら隼樹に迫る。
「ドウヤラ、私ノ買イ被リダッタヨウダ。一気ニ終ワリニシヨウ」
天井を跳ねて、ガルマは隼樹に襲い掛かった。
その時だった。迫り来るガルマを見て、隼樹がニヤリと笑みを浮かべたのだ。
その瞬間、ガルマはハッとなって気付いた。
自分は『前方から真っ直ぐ』に隼樹に迫っている。部屋の隅にいて、壁を背にしている隼樹には、前方から襲い掛かるしかない。
──シマッタ! 誘イ込マレタ!!
だが、ガルマが気付いた時には、もう遅かった。
「うおおおおおお!!」
隼樹は雄叫びと共に右腕を振りかぶり、迫り来るガルマに向かって拳を放つ。
スピードなら、ナンバーズ最速のトーレの動きを訓練で見ているし、今のガルマは動きが直線的で捉らえられないものではない。
隼樹の拳は見事にガルマの頭に当たり、殴り抜いて床に叩きつけた。
ウーノ達は、驚愕して目を見開く。
隼樹は殴って痛む右拳を振りながら、急いで倒れたガルマの右足を掴んだ。そして右足を離さないように両手で強く握り、膝に蹴りを叩き込む。
「グオッ!」
ガルマが悲鳴を上げ、体が揺れた。
構わず隼樹は、何回もガルマの右膝を踏み付けるように蹴り続ける。
次の瞬間、ボキッと骨が折れる音が王座の間に響いた。
「グオオオオオ!!」
ガルマは口を大きく開けて、絶叫した。
隼樹は額から汗を流して、折れた右膝を押さえるガルマを見下ろす。
「これで、もう部屋の中を跳ね回れない」
ウーノ達は、驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。
「今度こそ俺は逃げずに、戦って勝つんだ!!!」
「勝ちなさい、隼樹!!」
次回『第二十五話:勝利への執念と姉妹と世界』
ガルマの戦法を破った隼樹!
次回、喧嘩決着!!
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