ついに異形が本格的に動き出す!
世界崩壊の危機が迫る!
第二十二話:ゆりかご強奪!
ゼストとレジアスは、地上の平和を護るという同じ夢を抱き、理想に燃えていた。レジアスは地上本部改革の為に、局での地位を上げていった。だが、後に最高評議会の手駒となり、戦闘機人を求めてスカリエッティとの繋がりを持ってしまう。レジアスは、戦闘機人事件を捜査している親友のゼストに危害が及ばぬように、別件を命じて手を引かせようとした。しかし、レジアスに別件を命じられる前に、ゼストと彼の部下は戦闘機人事件の突入捜査を実行してしまう。その結果、ゼスト隊は全滅。隊の中には、ルーテシアの母親であるメガーヌと、スバルとギンガの母親であるクイント・ナカジマもいた。ゼストはナンバーズのチンクに殺害され、クイントも死亡し、メガーヌもガジェットの犠牲となった。その後、ゼストは人造魔導師の素体に利用されて復活させられ、メガーヌも生体ポッドの中で眠らされていた。
地上本部の一室。
緊迫した空気が漂う一室で、レジアスとゼストが見据え合っていた。
オーリスはレジアスの前に立ち、女性局員は隅に座り込んでいる。
ゼストが口を開いた。
「オーリスは、お前の副官か」
「頭が切れる分、我が儘でな。子供の頃から変わらん」
ゼストは懐に手を入れて、何かを掴む。
「聞きたいことは、一つだけだ」
懐から二枚の写真を取り出して、レジアスの机に投げる。
「八年前、俺と俺の部下達を殺させたのは、お前の指示で間違いないか?」
写真に写っているのは、ゼストと彼の部下達。
「共に語り合った、俺とお前の正義は、今はどうなっている……?」
八年前の真相を確かめようと、ゼストはレジアスを問い詰める。
レジアスは、視線を下げて写真を見る。もう一枚の写真には、理想に燃えていた昔のレジアスとゼストの姿が写っていた。
*
ゆりかご周囲。
怪物の大群を従え、異形は聖王のゆりかごを見上げていた。
「聖王ノユリカゴ。近クデ見ルト迫力ガ違ウナ」
圧倒的な巨体を誇るゆりかごを見上げて、異形が呟いた。
それから周囲を見回す。大量のガジェットが飛び交い、管理局の魔導師隊がガジェットと交戦している。魔導師隊の中には、異形を警戒して杖を向けている者もいた。
ぽりぽりと頭を掻き、異形は視線をゆりかごに戻した。
「オモチャヤ管理局ニ構ッテル暇ハナイ」
異形にとって、聖王のゆりかごは手に入れたい興味深い対象だ。が、ガジェットや魔導師隊は、特にどうでもいい存在だった。
「サテ、ユリカゴ内部ニ入ル為ノ入口ヲ探スカ」
異形は、怪物に命じて前に進もうとした。
その時、魔導師隊が動いた。
「待て! 貴様の好きにはさせんぞ!」
魔導師隊は、異形に向けて杖を構える。
異形は、メンドくさそうに頭を掻いた。
「言ッタダロ? オ前達ニ構ッテル暇ハナイ」
異形が言った直後、奴の周囲を飛んでいる怪物達が、一斉に魔導師隊に襲い掛かった。
「う、撃てェェェェ!!」
魔導師隊は、怪物に向けて杖から閃光を放つ。
何体かの怪物は閃光を受けて落ちたが、中には障壁を展開して閃光を防ぐ怪物もいた。怪物は口を大きく開けると、鋭い牙で魔導師の体に噛み付く。他にも、刃のような鋭利な爪で魔導師に斬りかかる怪物もいた。青空に、魔導師の悲鳴が響き、血の雨が降る。
その様子を、巨体の怪物の背中に乗っている異形が見ていた。
「言イ忘レテイタ。全テデハナイガ、私ノ障壁ト同種ノ障壁ヲ張レル者モイル。強度ハ低イガナ」
魔法が通用しない事で、魔導師隊に焦りが生まれた。
異形の障壁は、魔力を吸収して強度を高めていく。魔法攻撃を受ければ受ける程、防御力が高まる障壁は、魔導師にとって最悪な防御能力だ。そんな能力を持った怪物が、目の前に沢山いる。
異形と怪物軍団の乱入により、魔導師隊は怯えだし弱腰になって退き気味になっていく。
そんな魔導師隊を無視して、異形はゆりかご内部に入る入口を探し始める。
その時、
「魔導師隊! 異形と怪物の群れから離れて!!」
女性の声が、空に響いた。
異形は声がした方へ、顔を向けた。視界に捉らえたのは、巨大な白い魔法陣と、ソレを目の前で展開しているはやての姿だった。
魔導師隊は、言われた通りにその場から離れた。
異形は全く動じず、ジッとはやてを見据えている。
「フレースヴェルグ!!」
はやての前に展開されてる魔法陣から、巨大な白い閃光が放たれた。
沢山の怪物達は、白い閃光を受けて消滅していき、異形も閃光の中に飲み込まれた。
今の一撃で、怪物の群れは少し減った。だが、巨大な魔砲を受けて無傷の者が、一人いた。
異形である。
閃光が当たる直前に、自分と乗っている怪物を包むように障壁を展開して防いだのだ。
砲撃を放ったはやてや、周りにいる魔導師隊は驚愕して目を見開いている。中には、恐怖に駆られて体がガタガタ震えてる者も何人かいた。
異形を乗せた怪物は、猛スピードではやてに向かっていく。
ハッと我に帰って、はやては障壁を張ろうとしたが、異形の方が早く、左手で首を掴まれてしまう。
首を締められ、はやては苦悶の表情を浮かべる。
「う……ぐ……!」
「今、何カシタカ?」
言って異形は、右腕を振りかぶり、はやての顔面に拳を叩き込んだ。
一発だけでなく、続けて何発も拳を顔面に叩き込む。異形の右拳は、真っ赤な血で染まっていた。
魔導師隊は、助けにいく事ができなかった。かつてない恐ろしい存在に恐怖して、動く事ができないのだ。
やがて異形は、殴るのをやめた。
はやての顔は所々腫れて痣が出来て、鼻も折れて鼻血を流している。何回も顔を殴られ、気絶して力無くダランとしていた。
異形が魔導師隊に顔を向けると、彼等は青ざめた顔でビクリと体を震わせた。
「管理局ノ魔導師。受ケ止メナケレバ、コノ女ハ“潰レタトマト”ニナルゾ」
言って異形は、はやての首を掴んでいた右手を、パッと離した。
気絶してるはやては、地面に向かって落下していく。
慌てて数人の魔導師が、全速力ではやての元へ向かう。落下の途中で、魔導師ははやての体を受け止めた。
異形は、再び怪物の群れを従えてゆりかごの入口を探す。
今度はガジェットが襲ってきたが、怪物が迎え撃つ。
やがて異形は、なのは達が使った入口を見つけた。
「ココカラ入ルカ」
*
「これは……かなりマズイ事になっちゃったわねぇ〜」
モニターで異形の姿を捉らえて、クアットロは珍しく表情を険しくさせた。
異形は既に、怪物の群れを引き連れて、ゆりかご内部に侵入している。
クアットロの隣にいるディエチも、深刻な表情をしていた。
「ガジェットIV型を迎撃に向かわせてるけど……正直、始末するのは無理ね」
「クアットロお姉さん。ディエチお姉さん」
王座に座っているヴィヴィオが、二人を呼んだ。
クアットロとディエチは、モニターから目を離してヴィヴィオに顔を向けた。
「ソレ、何? ヴィヴィオ、どうなっちゃうの?」
ヴィヴィオは不安な表情を浮かべて、今にも泣きそうな顔をしている。
ディエチは、ヴィヴィオに近寄って頭に手を乗せた。
「大丈夫。あたし達が、ヴィヴィオを護るから」
言ってディエチは、ヴィヴィオに微笑む。
手を離してヴィヴィオから離れると、ディエチはイノーメスカノンを担ぐ。
「通路で迎え撃つ」
「ちょっと、ディエチちゃん本気?」
クアットロが、少し驚いた顔をする。
「此処でジッとしてても、何も解決しない。それに……」
ディエチは一旦言葉を切り、チラッとヴィヴィオを見た。
「ヴィヴィオを、アイツに渡す訳にはいかない」
決意を口にして、ディエチは王座の間を出ていった。
ディエチが出ていった後、クアットロは溜め息をつく。
「……おバカなディエチちゃん。勝てるハズなんて、ないのに……」
呆れたように呟いて、クアットロはパネルを操作する。
モニターには、ガジェットIV型を次々と破壊して通路を進んでいく異形と怪物の群れの姿が映っている。
異形を止める事はできない。今からアジトに連絡して、応援を呼んでも間に合わない。異形は迷わず、この王座の間を目指して進んでいる。これでは、逃げるのも無理だ。
パネルを操作しながら、クアットロはチラッとヴィヴィオを一瞥する。
迫り来る異形の恐怖を感じ取っているのか、目に涙を浮かべて体が小刻みに震えている。
自分以外のモノに対して怯えてるヴィヴィオの姿を見て、クアットロはつまらなそうに溜め息をついた。
「……しょうがないわねぇ〜」
パネルを消して、クアットロはヴィヴィオに近寄った。
「ヴィヴィオちゃん。お姉さんもディエチちゃんの所に行ってくるわね」
「え? ヤダ! 一人にしないで!!」
ヴィヴィオが泣きながら言った。
「大丈夫ですよ〜。すぐに戻ってきますから〜」
ニッコリ笑って、クアットロはヴィヴィオに背を向ける。
「それじゃあ、行きますか」
王座の間の出入口に向かい、扉を開けて通路に出た。
王座の間の扉の前には、イノーメスカノンを構えたディエチがいた。扉が開く音を聞いて、ディエチは後ろを振り返る。
「はぁ〜い、ディエチちゃん♪」
そこには、手をヒラヒラ振って笑みを浮かべてるクアットロがいた。
「クアットロ!?」
クアットロを見て、ディエチは驚く。自ら戦いの場へ来るなど、クアットロらしからぬ行動だからだ。
「どうして、クアットロまで?」
「ディエチちゃん一人じゃ、心配だからよ〜」
ディエチは、また驚いた。
心配? あの姉妹の中で腹黒いクアットロが、他人の心配?
ディエチには、今のクアットロが別人に見えた。
「クアットロ、何か悪い物でも食べた? それとも頭をぶつけた?」
「あらぁ〜? ディエチちゃん、妹思いの優しいお姉さんの言う事が、信じられませんかぁ〜?」
いや、一度も妹思いなところ見たこと無いんだけど、とディエチは心中で呟く。
「と、に、か、く、あの異形をブッチ殺しますわよぉ〜」
黒い笑みを浮かべて、クアットロは殺気を放つ。
クアットロの黒い笑みを見て、ディエチは顔を引きつらせた。
その時、通路の奥から気配を感じた。二人はすぐに気を引き締めて、通路の奥を見据える。
すると、通路の奥から異形と怪物の群れが姿を現した。
異形も、王座の間の扉の前にいるディエチとクアットロの姿を見つけた。
「戦闘機人……ナンバーズ、カ……」
呟いて、異形は歩を進めた。
ディエチはイノーメスカノンを異形に向けて構えて、狙いを定めてエネルギーを溜める。
「発射!!」
最大出力のエネルギー弾が発射され、真っ直ぐに異形に迫る。
異形は慌てた様子もなく、自身に迫るエネルギー弾を見つめて、ぽりぽりと頭を掻いていた。
エネルギー弾は、異形と怪物達を飲み込んで大爆発を起こした。
*
スカリエッティのアジト。
研究室にいる隼樹達は、チンク達から機動六課フォワード隊の四人を倒したとの連絡を受けて、喜んでいた。
「あれ? これもうナンバーズの勝ちじゃね? だって機動六課以外ぶっちゃけザコでしょ?」
結果を聞いた塚本隼樹は、悦に入っていた。
「そうですね。機動六課さえ倒せば、私達の勝ちは決まったも同然ですから」
隣にいるウーノも上機嫌だ。
スカリエッティとトーレ、セッテとセインも同じく研究室にいた。セッテはフェイトから受けた傷を治す為、スカリエッティから治療を受けている。
勝利ムードが漂う中、ふと隼樹は頭に引っ掛かる感じがした。
あれ……?
引っ掛かりは、不安へと変わり、徐々に隼樹の中に広がっていく。
何かを忘れている……。機動六課の事ではない、別の重大な“何か”を……。
そして、ハッとなって気付く。
「ああああああ!!」
忘れていた“何か”を思い出し、隼樹は大声を上げた。
突然、隼樹が大声を出して、スカリエッティ達は驚く。
「じゅ、隼樹……どうしたんだ?」
セインが隼樹に尋ねた。
「機動六課との戦闘に夢中になって、異形の事をスッカリ忘れてた!!」
俺の馬鹿! と自分を罵って、隼樹は携帯電話を操作してモニターを展開する。焦った表情で、映像を切り替えて異形の姿を探す。
ウーノもパネルを操作して、複数のモニターを展開して同じく異形を探した。
探索をしていると、二人が出したのとは別のモニターが現れる。
全員が、現れたモニターに視線を向けた。
その瞬間、隼樹とウーノの手が止まり、その場にいる全員が驚愕した。
*
地上本部の執務室では、ゼストとレジアスの話が続いていた。
「お前に問いたかった」
真っ直ぐにレジアスを見据えたまま、ゼストは続ける。
「俺はいい。お前の正義の為になら、殉じる覚悟があった。だが……俺の部下達は、何の為に死んでいった?」
レジアスは何も答えず、ゼストを見据えたまま沈黙を守っている。
「どうして、こんな事になってしまった? 俺達が護りたかった世界は、俺達の欲しかった力は、俺とお前が夢見た正義は……いつの間にこんな姿になってしまった……?」
ゼストの話を聞いている内に、レジアスの顔は辛い表情に変わっていった。
レジアスは、ゼストと共に抱いた正義の為に頑張っていた昔の事を思い出し、現在の有様を見つめる。果たして、これが自分が望んだ力なのか。これが自分の夢見た正義なのか。
「儂は……」
苦悩の表情を浮かべ、レジアスが喋ろうとすると、部屋の隅にいた女性局員が動いた。
右手を背中に隠して、カギ爪を装着する。
そして女性局員が、レジアスの背後に移動し、カギ爪を突き刺そうとした時、
「コレデ、世界中ニ映像ガ流レタナ」
突然、部屋の中心にモニターが出現した。
レジアスとオーリス、ゼストも振り返ってモニターを見る。
女性局員もカギ爪を装着した手を止めて、モニターに目を向けた。
執務室に現れたモニターに映っているのは、異形だった。
「私ノ名ハ“ガルマ”。ミッドチルダ──イヤ、世界中ノ人間達ニ告グ。聖王ノユリカゴハ私ガ乗ッ取ッタ」
「何っ!?」
その場にいる全員が、目を見開いて驚愕した。
そして、異形・ガルマの口から更に衝撃の言葉が続いた。
「聖王ノユリカゴガ衛生軌道上ニ辿リ着キ次第、地上ヘノ攻撃ヲ開始スル」
ガルマが放った衝撃的な言葉に、ゼスト達は表情を凍りつかせた。
「俺が戦う……今度こそお前に勝つ!」
次回『第二十三話:これは喧嘩だ』
聖王のゆりかごを我が物にした異形・ガルマ!
そして隼樹は……!?
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