〜主人公の愚痴〜
隼樹「んだよ、チクショー。ナンバーズの皆ばっかり活躍してさぁ……。いや、ナンバーズが活躍するのは別にいいんだけどさ……やっぱ俺も何かしたいんだよ。活躍したいんだよ! 殆ど活躍してない俺は、本当に主人公? グレるぞ、コノヤロォォォォ!!」
ナンバーズVS機動六課!
最終決戦第二幕!
第二十一話:それぞれの戦い
トーレとフェイトの対決に決着がついた頃、下の階ではセインとシャッハの戦闘が続いていた。
シャッハは、トンファーのような双剣型デバイス『ヴィンデルシャフト』を振り回す。
対するセインは、手で受け流したり、体をそらして紙一重で避けている。
一見するとシャッハが攻め続けて、セインが防戦一方となって苦戦しているようにしか見えない。だが攻めているシャッハの表情は、苦い表情をしていた。
確かにシャッハが一方的に攻めているが、その実、彼女の攻撃は一回も決まっていないのだ。セインの体を掠る時もあるが、決定打にはならない。シャッハの中で、徐々に焦りが大きくなっていった。
一方、セインはシャッハの攻撃を見切っている自分自身に驚いていた。セインは重りを付けた特訓で、トーレやノーヴェ等の近接格闘タイプの戦闘を経験している。中でもナンバーズ最速を誇るトーレとの組手によって、セインにも自然と攻撃を見切る能力が身についたのだ。しかし、避けてばかりでは、いつまで経っても戦いには勝てない。こちらからも反撃しないと、とセインはタイミングを図る。
シャッハが、カートリッジロードを行い、ヴィンデルシャフトを大きく振りかぶる。
「烈風一迅!!」
魔力を乗せたヴィンデルシャフトを、セインに向けて振るう。
ソレをセインは、ディープダイバーで素早く床の中に沈んで避けた。
「くっ!」
ヴィンデルシャフトは空を斬り、シャッハはセインが沈んだ地点の床を睨む。
直後、床から青い光線が発射され、シャッハの右足を貫通した。
「ぐあっ!」
右足を貫かれ、シャッハは一瞬バランスを崩す。
すかさず、また床から光線が放たれ、今度はシャッハの左足を貫いた。
両足から血を流し、ガクッとその場に崩れるシャッハ。襲ってくる方向が分からなければ、対処できない。だがセインは、シャッハが立っている位置は記憶してあるのだ。
シャッハはヴィンデルシャフトを構えると、床を注意深く警戒する。次に光線が発射されたら、かわして発射地点を烈風一迅で叩く。シャッハは、そう決意した。
だが、シャッハの思惑は外れる事になる。
シャッハの真上に位置する天井に、波紋が生じた。その中から出てきたのは、セイン。床から壁を潜行して、天井に移動していたのだ。床に注意がいっているシャッハは、天井にいるセインに気付いていない。
物音を立てないように、セインは静かに天井から全身を出す。そのまま落下して、シャッハの頭に踵落としを決める。
「がっ!!」
落下の勢いを上乗せした踵落としを受けて、シャッハは右手で頭を押さえて床に左手を着く。
着地したセインは、シャッハの左手にあるヴィンデルシャフトを蹴った。
痛みに顔を歪めながら、シャッハがセインに向かってヴィンデルシャフトを振るう。が、体にダメージを負っていて、先ほどよりも技のキレが悪い。
セインは軽く避けると、蹴りでヴィンデルシャフトを叩き落とす。
デバイスを失って、拳でセインに挑もうとした時、シャッハの左頬を青い光線が掠めた。
放たれたのは、セインの人差し指の先についているペリスコープ・アイから発射される青い光線。
「はい、終了。降参する事を勧めるけど、どうする?」
ペリスコープ・アイをシャッハに向けて、セインが言った。
シャッハは、歯を食いしばる。両足を潰された上、デバイスまで奪われては戦いようがない。シャッハは、無念そうに頭を下げた。
*
「あ〜よかった。セインも勝ったよ」
モニターでセインとシャッハの戦いの様子を見守っていた隼樹は、安堵の溜め息をついた。
「はい。それでは、ドクターに報告を」
ウーノはパネルを操作して、スカリエッティとの通信を繋げる。
「ドクター。セインも侵入者の捕獲しました」
「そうか、わかった。報告ありがとう、ウーノ」
「はい」
報告を終えて、ウーノは通信を切った。
これでアジトに潜入した局員は、全員捕獲した。ゆりかごにいるクアットロから、機動六課の隊長と副隊長の二名を捕獲したという連絡も受けた。これで、機動六課の主戦力を殆ど倒した事になる。
「これ……マジでうちら勝てるんじゃね?」
笑みを浮かべて、ぽつりと隼樹が呟いた。
*
地上本部付近の空。
黄色い閃光と紫色の閃光が、空中でぶつかり合っていた。黄色い閃光は、ゼスト。紫色の閃光はシグナム。互いに一歩も譲らず、槍と剣が激しく火花を散らせる。
何度目かになる激突を経て、両者は離れて距離を取った。
「レヴァンティン!」
シグナムの左手に、鞘が出現。
『シュランゲフォルム』
レヴァンティンを鞘に収め、カートリッジロードをする。
『炎熱加速!』
リインフォース・ツヴァイが、炎のサポートをした。
シグナムがレヴァンティンを鞘から勢いよく抜き、紫色の炎を纏った連結刃『シュランゲフォルム』が姿を現す。
ソレを見て、ゼストは更に表情を険しくさせた。
シグナムは、炎を纏った連結刃を振り上げる。
「飛竜一閃!!」
炎を纏った連結刃を飛ばす。
燃え盛る炎を纏った連結刃は、竜の如く猛然とした勢いでゼストに迫る。
迫る連結刃を見据え、ゼストもカートリッジロードをする。
「はああああああ!!」
色が薄い炎を刃に纏い、槍を大きく振りかぶる。
『炎熱召喚!衝撃加速!』
アギトも炎でサポートして、ゼストは槍を振り下ろして炎の衝撃波を連結刃に向かって飛ばす。
空中で連結刃と衝撃波が激突。炎の衝撃波は消滅し、連結刃も炎を掻き消されて弾かれた。
「っ!!」
飛竜一閃を破られて、シグナムとリインフォース・ツヴァイは驚く。
「ぬおおおおおお!!」
二人が驚いている隙に、ゼストは猛スピードで距離を縮め、槍を振り下ろす。
シグナムは、振り下ろさせる槍を咄嗟に鞘で受けた。だが、槍を受け止めた鞘にヒビが入り、徐々に広がっていく。
次の瞬間、鞘は耐えられなくなり、真っ二つに斬られた。
「うああああああ!」
鞘を破壊され、シグナムは衝撃で街に落下する。地面に激突する寸前で、魔法を使って着地した。
シグナムは空を見上げて、地上本部へ向かっていくゼストの姿を見る。
「くっ、しまった!」
『ロストはしてません。追い掛けるです!』
「ああ」
すぐにシグナムは、ゼストの後を追い始めた。
*
廃棄された都市。
廃ビルの屋上で、チンクとキャロの戦闘が行われていた。
キャロに向けて、チンクは数本のスティンガーを放つ。キャロはプロテクションを張って、スティンガーを弾く。直後、弾かれたスティンガーが、キャロの周囲で爆発した。キャロがいた位置は、黒い煙に包まれる。
チンクが煙を見据えたまま新たなスティンガーを構えると、戦いを見守っていたキャロの使役竜フリードが動き出した。
フリードはチンクに狙いを定めて、口から火炎を吐き出す。チンクは後ろへ跳んで、難なく火炎を避ける。同時に、スティンガーを左右に投げて、近くにある廃ビルの壁に突き刺した。
フリードはスピードを上げて、チンクに向かって突進する。が、チンクの目の前で、フリードの動きが止まった。スティンガーに繋がれている金属製の糸に、引っ掛かってしまったのだ。
キャロは煙の中から姿を現して、糸に捕まって身動きがとれないフリードを見る。
「フリード!」
「IS発動、ランブルデトネイター!」
キャロの叫びも虚しく、チンクはISを発動。
金属製の糸が爆発して、フリードを吹き飛ばす。フリードは甲高い悲鳴を上げながら、隣の廃ビルにぶつかった。壁を粉々に砕き、廃ビルの中に突っ込んで倒れる。
「フリード!」
キャロは使役竜の名を叫んだが、すぐにチンクに顔を向けた。
「どうして……どうして、こんな事……!」
「話す事は、何もない」
チンクはスティンガーを構え、キャロに狙いを定める。
すると、キャロもケリュケイオンを装着してる右手をチンクにかざす。
「シューティング・レイ!!」
ケリュケイオンから、複数のピンク色の光線が放たれた。
チンクは、迷うことなく走り出す。光線の軌道は直線的で避けやすく、一気にキャロとの距離を縮める。
チンクが数本のスティンガーを、キャロに向けて一斉に放つ。キャロは、またプロテクションを張る。しかし、スティンガーが弾かれる事はなかった。放たれたスティンガーは、プロテクションの手前の床に突き刺さったのだ。チンクは次々とスティンガーを放って、プロテクションの手前の床に突き刺していく。
あっという間に、大量のスティンガーはキャロを囲んだ。キャロがうろたえていると、チンクはISを発動させて全てのスティンガーを爆発させた。爆発はプロテクションを破り、凄まじい爆風がキャロを襲う。
「きゃあああああ!!」
爆風を受けて、キャロは悲鳴を上げた。
屋上に煙が立ち込める。チンクは煙の中に入っていくと、爆風を受けてボロボロになったキャロの姿を見つけた。
「う……」
まだ意識はあるらしく、必死に立ち上がろうとしている。
チンクはキャロに近寄り、屈んで彼女のデバイスであるケリュケイオンに触れた。
「IS発動、ランブルデトネイター」
チンクが呟いた直後、ケリュケイオンは爆発した。
「きゃあああああ!!」
手に激痛を受けて、キャロは目に涙を浮かべて悲鳴を上げた。
爆発でボロボロになったケリュケイオンは、待機形態になった。ブレスレットのような形になったケリュケイオンを、チンクが拾う。
「戦いが終わるまで、これは私が預かっておく」
チンクはキャロに勝利した。
*
別の廃ビルの屋上では、ディードとエリオの戦闘が行われていた。
双剣と槍が、火花を散らせて激突する。
ディードは双剣を巧みに操り、小回りの効いた素早い剣技を繰り出す。
対するエリオは、両手で槍を豪快に振回し、重い一撃を叩き込む。
何度も打ち合っているが、互いに決定打が決まらない。
エリオは、バラバラになった他のメンバーが気になり、勝負を早くつける事を決意する。ディードから離れて、距離をとった。
「ストラーダ!!」
『デューゼルフォルム』
ストラーダの槍の側面部に噴射口が4機加わり、合計7機の噴射口が備わった形態になった。
噴射口からエネルギーを噴射して、最大出力でディードに向かって高速で突撃する。
だが、ドスッという刃物が突き刺さる音と共に、ストラーダの噴射が収まり、エリオの動きも止まった。
「う……ぐ……!」
ディードのツインブレイズのエネルギー刃が伸びて、エリオの右肩に突き刺さっていた。
「動きが直線的です」
言ってディードは、エリオを突き刺しているツインブレイズを持つ腕に力を込めて、彼を空中へ持ち上げる。
「はっ!」
そのまま勢いよくツインブレイズを振り下ろし、エリオを屋上の床に叩き落とした。
「がはっ!」
背中から思いっきり叩き落とされ、頭も打ってエリオは傷つき血を流す。
すかさずディードは、倒れたエリオの真上に移動して、ツインブレイズを振り下ろして追撃する。先ほど突き刺した右肩の傷口と、腹にそれぞれツインブレイズを叩き込んだ。
「ぐああああああ!!」
ディードの追撃を受けて、エリオは目を見開いて悲鳴を上げた。
エリオの悲鳴をやかましく思い、ディードは顔を顰める。一本のツインブレイズを振り上げると、エリオの顔面に叩きつける。
「がっ……!!」
短い悲鳴を上げ、エリオは気絶した。
エリオが気絶したのを確認して、ディードはストラーダを取り上げた。
「目標撃破。デバイスを回収」
ディードはエリオに勝利した。
*
また別の廃ビル。
その廃ビルだけには、結界が張られていた。廃ビルの中には、ウェンディとティアナがいる。幻術使いのティアナが、外に出て他の者と連携をとったら少々厄介になるかもしれないので、結界を張って閉じ込めているのだ。
結界を張っているのは、近くの廃ビルの屋上にいるオットー。パネルを操作して、地上本部周辺のガジェットの制御も行っている。
作業をしていると、突然床に空いてる穴から緑色の糸が何本も出て、オットーの体を縛った。
「なっ!?」
オットーが驚いていると、二人の局員が彼の前に現れた。
局員は、シャマルとザフィーラだった。
「貴方が地上戦の司令塔で、各地の結界担当」
オットーを見据えて、シャマルが続ける。
「上手く隠れてたけど、クラールヴィントのセンサーからは逃げられない」
「大規模騒乱罪及び、先日の機動六課襲撃の容疑で……」
ザフィーラの話の途中で、オットーは緑色の糸を破った。
「オオオオオオオ!!」
ザフィーラが雄叫びを上げた。
すると、床から何本もの白い柱のような物が出現して、檻のようにオットーを閉じ込めた。更に、またシャマルが、クラールヴィントの緑色の糸でオットーを縛る。
「逮捕します」
閉じ込めたオットーに、シャマルが言った。
一方、柱に囲まれて閉じ込められたオットーは、再び糸を破る。
「IS『レイストーム』!」
オットーの手の平の上に、緑色のエネルギー球体が出現する。次の瞬間、球体は細長い形に変わり、鋭利な刃物状になって生き物のように動いて柱を切り裂いていった。
柱はバラバラに切り裂かれ、中からオットーが姿を現す。
「なっ!?」
完全に閉じ込めたと思っていたシャマルとザフィーラは、檻を破られて驚愕した。
オットーはレイストームを操り、二本の緑色の刃を二人の腹に突き刺す。
「うっ!」
「ぐわあっ!!」
負傷した二人は、腹を押さえてその場に崩れた。
「急所は外してあるから、死にはしない」
オットーはレイストームで、二人を拘束して、シャマルから指輪型のデバイスを奪い取る。
「隼樹の案で強化されてなかったら、危なかったかも……」
強化の案をしてくれた隼樹に、心の中でひそかに感謝しながら、オットーは結界維持とガジェット制御に戻った。
*
オットーの結界に閉じ込められている、廃ビルの中。
ウェンディとティアナが、激しい銃撃戦を繰り広げていた。と言っても、状況は殆どティアナの防戦一方。幻影を作り、クロスミラージュで魔力弾を放ちながら応戦しているが、ウェンディはすぐに本体も交ぜて幻影全てをロックオンして、スフィアを放っている。しかもスフィアは膜状のAMFで覆われ、貫通力も高いので、ティアナの魔力弾は掻き消されてしまう。
「悪あがきしたって、無駄っスよ!!」
「くっ!」
ティアナは歯を食いしばり、苦戦しながら打開策を考える。
このまま撃ち合い続けても埒が開かない。いや、むしろ追い詰められていくだけだ。
一旦物影に隠れて、ティアナは考える。
一か八か、幻影を使って同時にクロスファイヤーシュートを撃って、クロスミラージュをダガーモードにして『オプティックハイド』という光学スクリーンで透明になる魔法で姿を消して、自分も突っ込んで敵を倒そうと思いついた。
「お願い、クロスミラージュ!」
決意したティアナは、魔力弾の威力を上げる為に、カートリッジロードを四回行った。自分の周囲に四十程の魔力弾を生成し、意を決して物影から飛び出す。同時に自分の姿を消して、幻影を十体程作り出した。
「そこっスか!」
ウェンディがティアナに気付いて、ライディングボードを構える。
「クロスファイヤーシュート!!」
幻影も同じ動きをして、大量の魔力弾が一斉にウェンディに襲い掛かった。
しかし、ウェンディの余裕の表情は崩れない。
「沢山作ったっスね。でも、負けねぇっスよ!」
瞬時に全ての幻影、魔力弾をロックオンして、ライディングボードの銃口から大量のスフィアを一斉発射する。
スフィアは幻影を撃ち抜き、本物の魔力弾と相殺していく。銃弾が飛び交う中、姿を消した状態のティアナがウェンディに接近する。かなり無理をしたので、オプティックハイドを保つのも限界が近い。だが、このまま気付かれずに懐に潜り込めれば、勝てる。
ティアナがそう思い、ウェンディとの距離が縮まった時だった。
突然、後頭部に衝撃が走った。
「あっ……!?」
強い衝撃を受けて、ティアナの意識が薄れていく。オプティックハイドが解けて、姿を現して、ウェンディの前にドサッと力無く倒れた。
ティアナを倒したのは、もちろんウェンディが放ったスフィア。
ライディングボードを下ろして、ウェンディは倒れたティアナを見下ろす。
「あたしをナメてもらっちゃ、困るっスねぇ。地上本部襲撃の時の戦闘で、アンタがあたし等戦闘機人の仕組みを知ってる事に気付いて、こっちはドクターに頼んでセンサーを調整したんスよ」
つまり、ティアナのオプティックハイドは、ウェンディに見破られていたのだ。
「あたし等だって、ちゃんと学習してるんスよ」
ティアナの反応は無い。どうやら、今の一撃で気絶したようだ。
ウェンディは構わず、気絶してるティアナからクロスミラージュを取り上げた。
「オットー、もう結界解いていいっスよ」
言った後、廃ビルを包んでいた結界が消えた。
ウェンディはティアナに勝利した。
*
廃棄都市の道路。
他のメンバーは戦闘を終えていたが、道路上では、ノーヴェとスバルの戦闘が続いていた。
なかなか倒れないスバルにイラつきながら、ノーヴェは右腕を振りかぶる。
「しつっけーんだよ!!」
噴射口からエネルギーを噴射して、加速した右拳をスバルに放つ。
すかさずスバルは、プロテクションを張る。が、AMFの効果のある加速した拳を受けて、プロテクションは軽々と破られてしまう。そして拳の勢いは弱まらず、スバルの左頬を直撃する。
「があっ!!」
スバルは勢いよく、後ろにある壁に激突した。
殴ったノーヴェは、スバルを見据えて舌打ちをする。
「チッ。咄嗟に後方に跳んで、衝撃を和らげたか。しぶとい奴だな」
スバルは、口元の血を手で拭い取った。
「いい加減倒れやがれ!!」
ノーヴェは怒鳴ると、エアライナーを出して、その上をジェットエッジで走る。
スバルも『ウィングロード』という魔力で作った青い道を出して、その上をマッハキャリバーで走り出す。
黄色と青色の道が天に昇り、二人はその上を駆け回る。
駆け回ってる間、スバルは左手に青い魔法陣を展開して魔力を溜め、青い光球を生成した。
ノーヴェもスバルの行為に気付いて、ガンナックルをキャノン砲に変形させた。
スバルは右手を振りかぶり、互いの射程距離に入った瞬間、
「ディバインバスター!!」
「イノーメスカノン!!」
スバルは右拳を光球に叩き込んで青い閃光を放ち、ノーヴェはキャノン砲から赤い閃光を放った。
同時に放たれた二つの閃光は、次の瞬間、衝突して激しい衝撃を周囲に広げ、大爆発を起こした。
スバルは顔の前で、両手を交差させて凄まじい爆風に耐える。その時、信じられない光景がスバルの目に飛び込んだ。
「うおおおおおおお!!」
なんと、ノーヴェが雄叫びを上げて、強力な砲撃の衝突で生じた爆発に突っ込んで、スバルに迫ってきたのだ。
無茶苦茶なノーヴェの行動に、スバルは驚愕して動きが止まってしまう。
ノーヴェはガンナックルを四メートル程の巨大な拳に変形させて、更にエネルギー噴射で勢いを加速させた。
「ギガントナックルゥゥゥゥゥ!!!」
ノーヴェの巨大拳はスバルを叩き、そのまま垂直落下して道路上に激突した。
轟音が空に響き、衝撃が道を揺らした。落下で起こった煙が晴れていき、ノーヴェの姿が見えてきた。ノーヴェはガンナックルを元に戻し、少し後ろに下がる。彼女の目の前には、亀裂が走ってヘコんだ地面に気絶して倒れているスバルの姿があった。頭から血を流し、右腕と左足が骨折してバチバチと放電している。スバルもタイプゼロ・セカンドという、戦闘機人なのだ。
「手間かけさせんじゃねーよ……」
ノーヴェの体も、爆発の中に突っ込んだせいでボロボロになっていた。頬は煤で汚れ、固有武装にも小さなヒビがあり、スーツも所々破けて、体にも火傷を負っている。
頬についてる煤を、手で拭い取った。
「ノーヴェ!」
戦闘を終えた他のメンバーが、ノーヴェの元に集まってきた。
チンクがノーヴェに尋ねた。
「ノーヴェ、大丈夫か?」
「ああ。これくらい何ともねーよ」
「いやいや、結構ボロボロっスよ。無茶したんじゃないっスか?」
ウェンディが言うと、ノーヴェはバツの悪い顔になる。
チンクが溜め息をついた。
「あまり無茶をするなよ、ノーヴェ。私達の帰りを待っている者がいるんだからな」
「……ああ」
隼樹や他のメンバーの事を思い出し、ノーヴェは短く答えた。
ノーヴェの返事を聞いて、みんな満足そうに笑みを浮かべる。
ディードが気を失っているスバルから、デバイスを回収して、全員が地上本部に目を向けた。
「行くぞ。次は地上本部だ!」
地上本部がある方角を見据え、チンクが言い放った。
*
地上本部。
本部の一室に、三人の局員がいた。
デスクに座っているのは、レジアス・ゲイズ中将。顎髭を生やし、厳つい顔をしている男。地上本部の実権を事実上握っている、重鎮である。実はこの男、ミッドチルダ地上の安定と平和の為に、戦闘機人を求めてスカリエッティと裏取引をしていたのだ。
レジアスの前には、少々目付きが悪い女性局員が立っている。オーリス・ゲイズ。レジアスの副官で娘でもある。
そして部屋の隅に、女性局員が一人。
「オーリス。お前はもう下がれ」レジアスが口を開いた。
「それは、貴方もです」
オーリスは、一歩も退こうとはしない。
女性局員は、二人のやり取りを静かに見守っている。
「貴方には、もう指揮権限はありません。此処にいる意味はないハズです」
「……儂は、此処におらねばならんのだよ」
そう言うレジアスの顔は、何かを思いつめたような複雑で深刻な顔をしていた。
その時、大きな音と共に部屋が揺れた。
オーリスは振り返って、部屋の入口の方を見る。煙の中に人影を見つけて、オーリスはレジアスを庇うように前に立つ。
「手荒い来訪ですまんな。レジアス」
煙の中から出てきたのは、ゼストだった。シグナムを振り切って、此処へやってきたのだ。
レジアスは動揺せず、落ち着いた様子でゼストを迎える。
「構わんよ、ゼスト」
「っ!」
ゼストの姿を見て、オーリス驚く。
「ゼスト……さん!?」
オーリスが驚くのも無理はない。
ゼストは、八年前に既に死亡しているハズの人物なのだ。
*
ゆりかご周囲。
ガジェットの群れと管理局の交戦は、まだ続いていた。ゆりかごから次々とガジェットが出てきて、キリがないのだ。
はやては、ゆりかご内に突入したなのは達の事を心配しながら、ガジェットを迎撃していく。
その時、一人の魔導師が声を上げた。
「な……何だアレは!?」
魔導師の声を聞いて、はやてや他の魔導師隊が彼を見る。
声を上げた魔導師は、ゆりかごとは反対の方向を見て、顔を強張らせていた。
はやて達は、彼の視線を追う。その先には、空を飛行して、こちらに近づいてくる“何か”の群れがあった。最初は鳥かと思ったが、それにしては大きすぎる。
次第にその姿がハッキリと見えてきて、はやてや魔導師隊は驚愕して目を見開いた。
群れの正体は怪物。背中に羽根を生やした、おびただしい数の怪物が接近くるのだ。
「な……何だあの怪物の群れは!?」
「一体何がどうなってるんだ!?」
怪物の群れを見て、魔導師隊は混乱し、怯えた声を出す。
そんな中、はやては見た。怪物の群れの中に居る、奴を──。
一体の巨大な怪物の背中に乗って、腕を組んでゆりかごを見据えている異形の姿を捉らえた。
異形は沈黙を守って、ジッとゆりかごを見つめていた。
最悪の事態発生!!
異形が聖王のゆりかごを奪い取る!?
次回『第二十二話:ゆりかご強奪!』
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。