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赤夜叉「今回は、ちっと短いです」


夜中にスカリエッティに呼ばれた隼樹

二人は何を話す?
第十七話:たまにはゆっくり話でもしようか
 夜の十一時。
 塚本隼樹は、スカリエッティの研究室に向かっていた。話がしたいから研究室まで来てくれ、と突然呼ばれたのだ。特に断る理由もなく、今夜は眠れそうになかったので暇つぶしに行く事にした。
 ナンバーズは、既に自室で眠っている。明日はいよいよ、聖王のゆりかごを動かす。アインヘリアルとかいう質量兵器の破壊とか色々やる事があるようで、今夜は早めに寝ているのだ。
 隼樹はナンバーズの部屋を通り過ぎて、静かに通路を歩いていく。
 スカリエッティの研究室に着き、隼樹は扉を開けた。

「やあ、待っていたよ」

 部屋の中にいるスカリエッティが、隼樹に顔を向けた。
 スカリエッティは椅子に座って、白い湯気が立つカップを手に持っている。
 部屋には、珍しくウーノの姿がなかった。

「どうも」

 軽く返事をして、隼樹は部屋に入る。
 するとスカリエッティは、持っているのとは別の新しいカップを取り出して、熱いコーヒーをカップに注いだ。

「キミもコーヒー派だったね」

 言ってスカリエッティは、コーヒーを入れたカップを隼樹に差し出す。
 隼樹はカップを受け取ると、近くの椅子に座った。
 コーヒーを口にして、

「あつっ!」

 熱くて、ちょっと涙目になる。舌がヒリヒリする。

「大丈夫かい?」
「あ、ああ。コーヒーは好きなんだけど俺、猫舌なんだよな」

 もう少し冷まさないと飲めないと判断して、隼樹はカップを机の上に置いた。
 目の前にいるスカリエッティは、普通に熱いコーヒーを飲んでいる。猫舌じゃない人が羨ましい、と隼樹は思った。

「それで、俺に話って何?」
「ああ、実はね──」

 コーヒーを一口飲んで、スカリエッティは言う。

「明日の戦いで管理局……いや、機動六課に勝ったら私はゆりかごを破棄して、自首しようと思っている」
「はぁ!?」

 スカリエッティの突然で意外な告白に、隼樹は驚いた。

「いやいや、何言ってんのアンタ? アンタの目的はゆりかご使って、世界を創り替える事じゃなかったの?」
「ああ、前まではそうだったんだが、最近になって考えが変わってね」

 言ってスカリエッティは、カップの中のコーヒーを見つめる。

「私はね、アルハザードと呼ばれる失われた地の技術で生み出された、人造生命体なんだよ。開発コードネームは『アンリミテッドデザイア(無限の欲望)』だ」
「え……?」

 いきなり衝撃の事実を知らされて、隼樹は呆然となる。
 そんな隼樹に構わず、スカリエッティは話を続けた。

「私のスポンサーをしている、管理局の最高評議会が私を生み出した。自分達の目的の為に、培養槽で生まれた私にある夢を刷り込ませた。それが生命操作技術の完成とその空間作り」
「……」
「最初は、私の夢が刷り込まれたモノである事を、特に気にしていなかったんだが……最近になって考えが変わってね」

 短く笑って、スカリエッティはコーヒーを一口飲んだ。

「キミの案で強くなった娘達が管理局を圧倒する様を見て、私の心は今までにないくらい踊ったよ。それから私の夢は、目的は変わった。私が作り上げ、キミの協力で強くなったナンバーズで管理局に、機動六課に勝つ。これが私の今の目的だよ。他人に刷り込まれたモノではない、『私自身』の夢だ」

 スカリエッティが饒舌に、自分の夢を語った。今まで一緒に暮らしてきたが、彼がこれほど長々と語ったところを隼樹は初めて見る。

「え……でも……スカリエッティの夢はわかったけど、いいんですか? 勝手な事をしたら、その最高なんとかってトコから何か言われるんじゃ……」
「大丈夫だよ。ちゃんと手は考えてある」

 言ってスカリエッティは、カップの中のコーヒーを飲み干した。

「それで隼樹、キミに頼みがあるんだ」
「頼み?」
「私が自首をした後、ナンバーズを頼むよ」

 頼みを聞いた瞬間、ドキッとして隼樹は目を見開いた。

「え? ええっ!?」
「引き受けてくれるかい?」
「いや、何で俺!?」

 動揺が収まらず、隼樹はあたふたとする。
 そんな隼樹に、スカリエッティは笑みを浮かべて言った。

「キミは、ナンバーズの事が好きなんだろ?」
「っ!! な、何でその事……!?」

 隼樹の顔が真っ赤になる。心臓の鼓動も高鳴り、更に激しく動揺した。

「ウーノから聞いたのさ」

 ウーノさぁぁぁぁん! 何でよりによって、この男に話したんですかァァァァァ!?
 隼樹は頭を抱えて、天井を仰ぐ。

「娘達を想っている、キミにしか頼めないんだ。引き受けてくれるね?」

 スカリエッティが言うと、隼樹は顔を下げた。
 ナンバーズを生み出したスカリエッティは、彼女達の親みたいなものだ。その人に、娘達を頼むと言われた。
 こういう時、惚れた男として二つ返事でオーケーする所かもしれない。
 しかし、隼樹はスカリエッテから目をそらした。

「……でも、俺……」

 力の無い声で、隼樹が言う。

「俺……顔もカッコよくないし……馬鹿で……臆病で……こんな俺なんかじゃ……」

 ダメなんじゃないだろうか、と隼樹は続けようとした。
 いまだに隼樹は、自分に自信を持てていない。ナンバーズを護ると決意しながら、異形に負けてしまい、セインの前で泣いてしまった。ドゥーエに男を磨いて下さい、と言われた後も、弱い自分は変わっていない。そんな情けない自分が、ナンバーズの傍にいていいのだろうか、とマイナスな方向に考えてしまう。

「それじゃあ、ナンバーズが好きというキミの気持ちは、嘘なのかい?」
「っ!!」

 言われて隼樹は、ハッとなる。
 スカリエッティの言う通りだ。今ここで動かなければ、自分の気持ちが嘘になってしまう。
 離れたくない。もっとずっと一緒にいたい。彼女達への想いを、嘘にしたくない。

「俺……」

 言うんだ。自分の口で、自分の想いを──。

「俺、ナンバーズのみんなが好きです」

 顔を真っ赤にしながらも、さっきまでとは違う、力強い声で隼樹は答えた。
 答えを聞くと、スカリエッティは満足そうに笑った。

「だそうだよ、キミ達」

 言ってスカリエッティは、壁のある一点に目を向けた。

「え?」

 隼樹はスカリエッティの視線を追う。
 すると、さっきまで誰もいなかった壁の前に、突然ナンバーズの姿が現れた。

「えええええっ!!?」

 ナンバーズの姿を見て、隼樹は目玉が飛び出しそうな勢いで驚く。

「ちょっ……なな、何でみんながいるんだ!? さっきまで居なかったのに! それに部屋で寝てたんじゃ!?」

 激しく動揺しまくりながら、隼樹は叫んだ。

「クアットロのIS『シルバーカーテン』は、姿を隠す光学迷彩を起こす事ができるんだよ」
「光学迷彩!? そんな能力があるなんて聞いてないぞ!」
「それはそうさ。教えてないんだからね。ハッハッハッ!」
「ハッハッハッじゃねーよ! ぶっ飛ばすよ!?」

 スカリエッティに怒鳴る隼樹。
 すると、

「隼樹さん」
「ハッ!!」

 ウーノに声をかけられ、隼樹は彼女達に顔を向けた。
 ナンバーズは、何人か頬を赤くしている。
 最初にトーレが口を開いた。

「恋愛というモノはよく解らんが、我々全員を好きになるとは、いい度胸をしているな」
「あ、いや……あの……」

 隼樹は顔を引きつらせて、少し後ずさった。

「うふふ。私は〜隼ちゃんなら弄り甲斐があるから、別に構わないわよぉ〜」と笑みを浮かべるクアットロ。
「全員を好きになるとは、隼樹は欲張りだな」

 少し呆れた口調で言ったチンクだが、その顔は笑っている。

「好きって想われるのも……悪くない、かな」とディエチも微笑む。
「いや〜、何か恥ずかしいっスね〜」

 ウェンディは頬を赤くして、恥ずかしそうに頭を掻いてる。

「私は、隼樹兄様のどんな想いも受け取ります」とディードが言った。
「人から好かれるなんて初めてだからな〜。ちょっと照れちゃうな〜」

 あはは、と笑うセイン。

「……」オットーは無言。
「好意を寄せて頂き、ありがとうございます」と礼を言うセッテ。
「ま、まぁ……別にお前の事……嫌いじゃねーけどな」

 ノーヴェは、隼樹と目を合わせようとしない。よく見ると、うっすら頬が赤くなっている。

「あ……あはは……」

 ナンバーズの言葉を聞いて、隼樹は力無く笑った。
 ハ……ハメられたァァァァァ!!
 心の中でシャウトして、隼樹は穴があったら入りたい気持ちになる。

「隼樹さん」

 ウーノが近寄ってきた。

「好きになる事を、恥じる必要はありませんよ」

 いつもの優しい声を隼樹にかけるウーノ。

「ウーノさん」

 隼樹はウーノに顔を向けた。目が合うだけで、緊張して体温が上がってくる。

「隼樹」

 スカリエッティが隼樹を呼んだ。
 隼樹が振り返ると、スカリエッティは席を立っていた。

「娘達を頼んだよ」

 スカリエッティは普段と変わらない表情をしているが、声は今までとは違う感がした。

「は……はい」

 頼りなく、若干緊張した返事をする隼樹。
 スカリエッティは、満足そうに頷いた。

「さて、話はこれで終わりだ。みんな部屋に戻って、ゆっくり休んでくれたまえ」

 はーい、了解っス、おやすみなさい、ナンバーズのみんなは挨拶をしてから次々と部屋を出ていった。
 部屋に残ったのは、隼樹とスカリエッティ。隼樹は、机に置きっぱなしにしていたカップを手に取る。コーヒーは冷めていた。一気に飲み干して、カップを机の上に戻した。

「ああ、そうだ」

 思い出したように、スカリエッティが声を上げた。

「隼樹。キミはルーテシアの母親を知っているかい?」
「ああ、知ってますよ。確か生体ポッドの中にいる人ですよね?」
「では、適合するレリックを移植しないと目が覚めない、というのは?」
「それもルーテシアから聞きました」

 ルーテシアは母親を目覚めさせる為に、11番のレリックを探している。
 するとスカリエッティが、本日二度目の衝撃事実を暴露した。

「実はね、ルーテシアの母親、メガーヌ・アルピーノはレリック無しで目覚めるんだよ」
「……は?」

 何を言っているのか解らず、隼樹は間抜けな声を出す。

「ルーテシアは、なかなか素晴らしい力を持っているからね。利用する為に、彼女に嘘を吹き込んだんだよ」
「……マジで?」
「マジだよ」
「……アンタ最低だな」

 隼樹は目を細めて、スカリエッティを睨む。

「いやぁ、それほどでも」
「褒めてねーよ。いっぺん死ぬか? 俺、今なら()れる気がするから」

 言って隼樹は、指の骨をゴキゴキと鳴らす。

「遠慮しておこう」

 さすがのスカリエッティも危険を感じて、少し顔が青ざめている。

「真実を話して、メガーヌをルーテシアに返すよ。もうルーテシアの協力は必要ないからね」
「是非そうしてください」

 隼樹は、研究室を出ていった。
 一人になったスカリエッティは、溜め息をつくと、白衣のポケットに手を入れて何かを取り出した。彼の手には、小さなカプセルがあった。
 実はこのカプセル、ナンバーズの体内に埋め込まれていたスカリエッティのコピーなのだ。万が一自分が捕まった時の為に、ナンバーズ全員の体内に仕込んでおいた物なのだが、隼樹を研究室に呼ぶ前にナンバーズの体内から摘出した。
 スカリエッティは、ふっ、と短く笑って、カプセルを握り潰した。
次回、いよいよゆりかごが起動!

決戦の幕開けだ!


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