アジトで待機するよう言われてしまった隼樹
どうやって地上本部に向かう?
第十三話:襲撃開始と異形との遭遇
アジトで待機。
目の前にいるウーノに言われて、隼樹は内心焦った。
だが考えてみれば、これは当然の通告だ。非戦闘員とも呼べる隼樹が、地上本部襲撃なんて大それた作戦に参加できる訳がない。
その事に頭が回らなかったことに悔やむが、今はウーノの説得が優先だ。
「あの……俺も地上本部に……」
「ダメです」
キッパリとウーノが断る。
だが、隼樹も引く気はない。必ず、あの異形は地上本部に現れる。レリックを所有している者達が現れるチャンスを、あの異形が見逃すわけがないからだ。
「でも俺……!」
「隼樹さん!!」
何とか説得しようとする隼樹の言葉を、ウーノの声が遮った。
普段は優しいウーノが、今は目を鋭くした厳しい顔で隼樹を見据えている。いつもと違うウーノの迫力に、隼樹だけでなく、周りにいるナンバーズも少し驚いていた。ウーノの隣にいるスカリエッティは、黙って事の成り行きを見守っている。
「隼樹さんには、ナンバーズの強化や助言をして頂いて感謝はしています。ですが、この作戦に貴方を同行させる訳にはいきません」
「いや、でも……」
尚も隼樹は引こうとしない。
そんな隼樹を見て、ウーノは溜め息をついた。
「でしたら、ハッキリ言わせて頂きます。隼樹さん、貴方は弱いのですから、アジトでおとなしく待機していて下さい!」
「っ!!」
弱い。
その一言は、隼樹の脆い心にグサリと突き刺さった。
これ以上ない正当な理由を言われ、隼樹は打ち負け、うなだれてしまう。
「……わかりました。すいません」
「解って下されば、それでいいんです。それと、私の方もキツい事を言って、すみませんでした」
結局、隼樹はアジトに残る事になった。
まぁ当然っちゃあ当然の事である。いくらノーヴェに鍛えられているとはいえ、魔導師と戦える程の力は身についていないのだから。
「まぁ元気出しなよ、隼樹。あたし達なら大丈夫だからさ」
「お前が我等の心配をするなど、百年早い」
「ちゃんと、いい子で待ってるのよ〜?」
落ち込んでしまった隼樹に、ナンバーズが声をかけた。
くよくよしててもしょうがないよな、と思って隼樹は頷く。
「うん。じゃあ、みんな気をつけて」
一呼吸置いて、
「いってらっしゃい」
「いってきます」
挨拶を交わして、ナンバーズは出発した。
*
待機命令を受けた隼樹は、自室のベッドの上で横になってゲームをやっていた。
だが、決して地上本部に行く事を諦めた訳ではない。ボタンを操作して、画面を眺めながら地上本部に行く方法を考えている。
どうしても地上本部に行きたいのだ。どうしてもっ!
機動六課との戦闘では、確かに隼樹は足手まといになるだろう。
だけど、どうしても地上本部に行きたいのだ。だから隼樹は、地上本部に行く方法を考える。
アジトを出るのは、さほど難しい事ではない。問題は、その後。アジトからミッドチルダまでは、かなりの距離がある。徒歩で行くのは、かなりキツいし、なによりミッドチルダのある方角が解らない。そうなると、徒歩以外の移動手段を考えなければならない。
ナンバーズの誰かに相談しようか、と考えたがすぐに却下した。相談したら、ウーノに報告される可能性大だから。
画面から目を離して、時計を見る。現在時刻は午前十一時半。作戦開始が何時かは知らないが、おそらく夕方か夜だろうと予想する。明るいうちから、襲撃はしないだろう。
そう考えると時間はまだあるが、時間は待ってはくれない。いい方法が思い浮かばず、焦りばかりが増し、時間が過ぎていく。
「俺に瞬間移動の力があればなぁ……」
画面を眺めながら、ポツリと呟いた。
その直後、何かが頭に引っ掛かった。何か忘れている。瞬間移動のようなものを、以前体験している。
画面の中の自分の札が揃ったと同時に、隼樹は思い出した。
「あ……!」
紫色の少女の姿が、隼樹の脳裏に浮かんだ。
隼樹はゲーム機をベッドに置くと、すぐに携帯電話を取り出してボタンをプッシュする。
すると、携帯電話の上にモニターが展開された。
映っているのは、ルーテシア。
「こんにちは」
「……ごきげんよう」
とりあえず挨拶してみると、ルーテシアも返事をしてくれた。
「えっと……俺の事、覚えてる?」
「塚本隼樹」
どうやら、覚えてくれていたようだ。一回しか会ってないのに。
「ルーテシアも、地上本部襲撃に参加するの?」
「うん」
これには、隼樹も少し驚いた。そもそも何で、この娘はスカリエッティに協力しているのだろう?
まぁ、ルーテシアがスカリエッティに協力する理由は置いといて、早速本題に入ろう。
「実は、ちょっと頼みがあるんだけど」
「何?」
「ルーテシア、転送魔法使えたよね?」
「うん」
「ソレで俺を、地上本部近くに転送してくれない? スカリエッティ達には内緒で」
「いいよ」
──早っ! しかもいいのかよ!?
まさか、即答で了承してくれるとは思ってなかった。
いい娘だよ。この娘、絶対いい娘だよ。
「それで、何時転送すればいいの?」
「あ……そうだな……。じゃあ作戦が始まる10分前くらいにお願い。地上本部付近で、できれば地下道の入口辺りに」
「わかった」
「急にこんなお願いして、ごめんね」
「ううん。じゃあ、また後で」
「うん。また後で」
そこでモニターを閉じて、通信を切った。
移動手段を確保して、とりあえず一安心する。
時計を見ると、そろそろ昼時だ。昼飯の用意をしようと、隼樹は部屋を出て食堂へ向かった。
ふと隼樹は思った。
──ナンバーズ、昼飯どうするんだろう?
*
夜に近づき、外は暗くなり始めていた。
隼樹は自室のベッドに座って、そわそわと落ち着かない様子で時計を見ている。
「もうそろそろだと思うんだけどな……」
そう呟いた時だった。
隼樹の足元に、以前見た紫色の魔法陣が出現した。
「来た!」
魔法陣を目にした瞬間、隼樹は思わず立ち上がった。
魔法陣が放つ輝きに包まれて、隼樹は部屋から姿を消した。
*
地上本部付近。
紫色の魔法陣が出現して、その上に隼樹の姿が現れた。
辺りを見回して、隼樹は場所を確認する。近くに地上本部があり、目の前には地下道に繋がる入口があった。
確認を済ませて、隼樹は携帯電話を取り出してモニターを展開し、ルーテシアと通信を繋げる。
「ありがとう、ルーテシア。助かったよ」
「うん。気をつけてね」
「ルーテシアもね」
通信を切って、携帯電話をポケットにしまう。
目の前にある、地下道へ繋がる入口を見据えた。
異形は一度街中に出て、騒ぎを起こしてる。人の目につかずに地上本部に辿り着くには、地下道を通って行くのが一番だ。なら、奴はこの地下道を使う可能性が高い。
「ナンバーズのみんなよりも先に、奴を見つけないとな……」
言って隼樹は、自分の足が小さく震えてる事に気付いた。
苦笑して、手で足をパンッパンッと叩く。
そして目の前の地下道への入口を見据える。
「よし。行くか」
決意を固めて、隼樹は地下道の入口に足を踏み入れた。
*
隼樹が地下道に入ってから、約10分後。
ナンバーズは配置につき、地上本部襲撃の準備が整っていた。
「お嬢とゼスト殿も所定の位置に着かれた」
「攻撃準備も全て万全。後はゴーサインを待つだけです〜」
現場にいるトーレとクアットロが、アジトにいるウーノとスカリエッティに報告した。
「ええ」
パネルを操作しながら、ウーノが短く答えた。
すると、ウーノの後ろから笑い声が聞こえてきた。笑い声の主は、スカリエッティだ。椅子に座って顔を伏せて、小さな笑い声を漏らしている。
「楽しそうですね」
「ああ。楽しいさ」
言ってスカリエッティは、伏せている顔を上げた。その顔は、本当に楽しそうな笑みをしている。
「この手で世界の歴史を変える瞬間だ。研究者として……技術者として……心が沸き立つじゃないか。そうだろ? ウーノ」
スカリエッティは、椅子から立ち上がる。
「我々のスポンサー氏に、とくと見せてやろう。我等の想いと、研究と開発の成果を。そして、隼樹のアイディアで強化したキミ達の力を」
スカリエッティが目を、カッと見開く。狂喜に満ちた笑みを浮かべて、作戦開始の号令を下す。
「さぁ! 始めよう!!」
「はい」
いよいよ、地上本部襲撃が始まった。
「ミッションスタート!」
号令を受けて、クアットロの周囲にパネルとモニターが現れた。
「アスクレピオス。限定解除」
ルーテシアのグローブ型デバイス『アスクレピオス』が紫色に輝き、足元にも紫色の魔法陣が展開された。
ルーテシアと同じく地上本部付近の空中に佇むクアットロは、IS『シルバーカーテン』発動させて地上本部のシステムに侵入。指揮通信系統をダウンさせ、建物の基幹システムを活動不能に追い込む。
その直後、地上本部の地下に潜入していたチンクが、スティンガーを放ち、ISを発動させて爆発を起こして内部施設を破壊した。
外にいるクアットロが、内部施設の破壊を確認する。
「防壁出力減少。ルーお嬢様ぁ〜、お願いしますぅ〜」
「遠隔召喚……開始」
ルーテシアが呟くと、地上本部周辺に大量のガジェットが召喚される。突然現れたガジェットに、警備局員は驚き慌てた。
別の建物の屋上に待機していたディエチは、長い砲身を持つ重狙撃砲である固有武装『イノーメスカノン』を地上本部に向けて構えていた。
「IS発動。『ヘヴィバレル』」
ISで自身のエネルギーをイノーメスカノンのエネルギー弾に変換させ、地上本部に照準を合わせる。
「バレットイメージ・エアゾルシェル。発射」
イノーメスカノンから、エネルギー弾が発射された。
放たれたエネルギー弾は、見事地上本部に命中し、爆発と共に建物の中にガスを拡散させる。中にいる局員はガスを吸って麻痺し、次々と無力化して倒れていく。
直後、ルーテシアに召喚された大量のガジェットが地上本部の外壁に取りついて、AMFを全開させて機能を停止させ、中にいる局員達を閉じ込める。
すると、外にいる沢山の武装局員が地上本部に向かってくる
ソレを空中で佇むトーレとセッテが見据えていた。
「セッテ。お前は初戦闘だが」
「心配ご無用。伊達に遅く生まれてません」
セッテは眼前の敵を見据えて、手にしてるブーメランブレードを構えた。
「IS発動。『スローターアームズ』!」
「『ライドインパルス』!」
トーレもISを発動させて、戦闘態勢に入る。
「アクション!!」
二人は同時に動いて、武装局員の群れの中に飛び込んでいった。直後、半数近くの武装局員が落ちた。
*
辺りはすっかりと暗くなり、夜となった空を飛ぶ人影が二つ。二つとも、地上本部を目指して真っ直ぐに飛んでいる。
影の一つは、以前隼樹がルーテシアと一緒に出会った、アギトという赤髪の融合騎。
もう一つの影は、寡黙そうな大柄な男。ルーテシアとアギトと行動を共にしている謎の男だ。手には、槍型デバイスを持っている。
飛行していると、管理局側から警告が入る。ソレを無視して飛行を続けると、下から複数の赤い玉が襲ってきた。赤い玉を避けて、アギトが火炎を放つ。赤い玉と火炎がぶつかり合って爆発を起こし、空中に煙が立ち込める。直後、煙の中から鉄球が出てきて、二人に迫る。男が手を前に出して、障壁を張って鉄球を防ぐ。
直後、二人の背後から巨大なハンマーを頭上に構えた白いドレスの少女が現れた。
「ギガントハンマー!!」
気合いと共に巨大ハンマーが振り下ろされ、辺りに衝撃が広がった。
だが、不意打ちの一撃も男には通用しなかった。アギトと『ユニゾン』をして、障壁で防御したのだ。
「すまんな、アギト。助かった」
『なんのなんの』
男の『中』にいるアギトが返事をした。アギトは融合騎の名の通り、他者と融合して能力を上げる事が出来るのだ。ユニゾンによって、男の髪が黄色く変色している。
白いドレスの少女は、巨大ハンマーを構えて名乗る。
「管理局機動六課、スターズ分隊副隊長ヴィータだ!」
「……ゼスト」
槍を構えて、男──ゼスト・グランガイツは静かに名乗った。
*
地上本部の地下通路。
通路を走る四人の人影があった。
機動六課のスバル、ティアナ、エリオ、キャロ。
地上本部の中で警備をしている、なのは達にデバイスを届ける為に地下道を走っている。地上本部の中にデバイスの持込は禁止になっていて、なのは達は自分達のデバイスをスバル達に預けたのだ。
「マッハキャリバー!」
『プロテクション』
何かに気付いて、スバルはプロテクションを張った。
直後、プロテクションに弾丸のような物が当たった。敵からの攻撃と判断した四人は、すぐにデバイスを構える。
その時、スバルの前にノーヴェが現れた。ノーヴェの姿を見て、スバルは驚く。
驚いているスバルに、ノーヴェは蹴りを放つ。
スバルは咄嗟に腕を交差させて防御体勢をとるが、ガードの上から吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。
「スバル!」
ティアナが振り返って叫ぶ。
同時に、自分達を囲む大量の濃いピンク色のスフィアが目に入った。
「ノーヴェ。作業内容忘れてないっスか?」
ライディングボードを持ったウェンディが姿を現す。
「うるせーよ。忘れてねー」
ぶっきらぼうにノーヴェが答える。
「捕獲対象三名。全部生かしたまま、持って帰るんスよ?」
「旧式とはいえ、『タイプ・ゼロ』がこれくらいで潰れるかよ」
ノーヴェの蹴りを受けたスバルが、複雑そうな顔で立ち上がった。
「戦闘……機人……」
ノーヴェとウェンディを見て、ティアナ達は表情を険しくさせ、同時にノーヴェとスバルがそっくりな事に驚く。
*
空中で待機してるルーテシアは、通信でウーノと話している。
「こっちは、もういいね? 次にいくよ」
「はい。お嬢様。未確認のレリックと『聖王の器』が保管されている場所」
「機動六課……」
無表情な顔で、ルーテシアは呟いた。
同じ頃、オットーとディードがガジェットの大群を率いて機動六課に向かっていた。
*
地上本部の地下道。
片手に懐中電灯、片手にコンパスを持って隼樹が歩いていた。
「道に迷ってなけりゃあ、地上本部の地下道に入ってんだけどなぁ……」
歩いていると、上から爆発音が聞こえてくる。
既に戦闘が行われてるようだ。
「派手にやってるみたいだな。ナンバーズのみんな大丈夫だよな」
それにしても、と隼樹は地下道を見回す。地下なら警備も手薄だろうと考えていたが、手薄どころか警備局員が一人もいない。
「いくらなんでも、これはイカンだろう。警備体制がなってないな」
いかんなー、と呟きながら隼樹は先を進む。
「まぁ……俺もいけないんだけどね。命令違反しちゃってるから」
隼樹は今の自分を、命令を無視してカッコつけたがってる生意気な漫画の主人公みたいだよな、と思うのだった。
──別にカッコつけたいつもりは、無いんだけど……勝手な行動してる事には変わりないか。
隼樹が、また溜め息をついた時だった。
「ホウ。コンナ所デ会ウトハ、奇遇ダナ」
聞き覚えのある声が、後ろから聞こえた。
隼樹は、すぐに振り返って後ろを見た。
そこにいたのは紛れもなく、隼樹達を襲ったあの異形だった。
場の空気が変わり、張り詰めた緊張感に包まれる。
異形を目にして、隼樹は僅かに震えた声で言った。
「……見つけた!」
ついに始まった地上本部襲撃!
そして隼樹も異形と遭遇!
どうなる次回!?
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