ナンバーズも揃い、地上本部襲撃の時が迫る
みんなで訓練、訓練!
第十二話:オタクです
訓練場では、今日も朝早くからナンバーズの訓練が行われていた。
時空管理局の地上本部を襲撃する日が迫っているので、みんな今まで以上に気合いを入れて訓練している。
その中に、塚本隼樹の姿もあった。
「く……!」
目の前にいるノーヴェに拳や蹴りを繰り出すが、一発も当たらず、掠りもしない。汗だくになりながらも、必死にノーヴェに挑む。
対するノーヴェは、汗一つかかずに余裕で隼樹の攻撃をかわしている。迫る拳を避けて、カウンターで放った拳が隼樹の腹に命中した。
「ぐあ……!」
腹を押さえて、顔を歪める。だが、隼樹は倒れない。
すぐに顔を起こして、再びノーヴェに拳を振るう。
ノーヴェはソレも難なくかわして、後ろへ下がって距離をとる。
床を蹴って、隼樹はノーヴェを追いかけて、腕を振りかぶった。放たれた突きは軽くかわされてしまうが、隼樹は次々と攻撃を繰り出す。
ノーヴェは隼樹の攻撃を弾き、かわして、またカウンターの拳を放つ。狙いは、隼樹の顔。
だが次の瞬間、隼樹は頭を左に動かし、ノーヴェの拳は空を突いた。
ノーヴェが僅かに目を見開いて驚くと同時に、
──ノーヴェの拳をかわせた!?
避けた本人の隼樹も驚いて、動きを止めてしまう。その隙をノーヴェが見逃すハズもなく、動きが止まった隼樹の頭の左側面に蹴りを入れた。
「があっ!!」
短い悲鳴を上げて、隼樹は蹴られた箇所を押さえて床に倒れた。
「あがががが! 頭割れたァァァ!!」
「割れてねーよ」
ノーヴェは腰に手を当てて、痛みで床をゴロゴロ転がってる隼樹を見下ろす。
「攻撃を一回かわせたぐらいで、動きを止めるんじゃねぇ。隙を作るな」
とはいえ、ノーヴェは内心驚いていた。手加減しているとはいえ、まさか隼樹が自分の攻撃をかわすとは思ってなかったからだ。
「……は……はい」
上体を起こして、隼樹は返事をした。
「よし、朝の訓練はここまでだ!」
トーレが訓練の終わりを告げた。
訓練が終わった途端、隼樹は大の字に倒れてしまう。息を切らせて、汗で服をグッショリと濡らしている。
ノーヴェが隼樹から離れると、トーレとチンクがやってきた。
「ノーヴェ。隼樹の調子はどうだ?」
隼樹の訓練の様子について、トーレが聞いた。
「あたしの一撃を避けた」
「ほお。お前の動きが見えてきたか」
「隼樹も成長しているな。素晴らしい事だ」
トーレも少し驚き、チンクは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「それにアイツ、逃げなくなった。なんか知らないけど最近、気合いの入り方が違うんだよ」
振り返って倒れてる隼樹を見て、ノーヴェが言った。
相当疲れてるらしく、隼樹はなかなか起き上がらない。
すると、ディードとオットーが倒れてる隼樹に近寄る。
「隼樹兄様。大丈夫ですか?」
「あ……あんまり大丈夫じゃない……かな?」
そう言って隼樹は、力無く笑った。
*
食堂。
珍しくスカリエッティとウーノも加わり、全員揃っての朝食となった。ドゥーエはいないけど。
朝食のメニューは、目玉焼きとウィンナー、ご飯に味噌汁、そして牛乳。味は、まぁまぁおいしいぐらいだ。軽く雑談をしながら、朝食を食べる。
朝食を食べ終わると、食後のお茶を飲む。
お茶を美味しく飲んでいた時、ふと隼樹はある事を思い出した。
「あっ、そうだ。今の内に、みんなに話しておきたい事が幾つかあるんだ」
お茶を飲んでいた一同が、隼樹に視線を向けた。
「話って何だよ?」
ノーヴェが聞いた。
「まず最初は、チンクのもう一つの戦法について」
「私のか?」
チンクが自分を指差して言った。
「そう。チンクのISは、触れた金属にエネルギーを付与して爆発物に変える、だよね?」
「そうだが」
「それさ、デバイスに使えないかな?」
と隼樹が言った直後、チンクを含めた全員が“は?”というような顔をする。
「デバイスも一応、金属だろ? チンクの固有武装の『シェルコート』で攻撃を防ぎつつ敵に接近して、一瞬でも敵のデバイスに触れる事が出来れば、デバイスを破壊する事ができると思うんだけど」
隼樹の説明に、一同は口を開けてポカンとなってしまう。
黙ってしまった一同を見回して、隼樹は少し不安になる。
「え? あの、何か反応してくんない?」
隼樹が言った後も、スカリエッティを含む一同は黙ったままでいる。
やがてスカリエッティが我に帰り、目を見開いた。
「そうか! その手があったか! 何故今まで気がつかなかったんだ!?」
テーブルを、バンッと強く叩き興奮した声を出した。
するとナンバーズも隼樹の案に、驚きの声を出した。
「チンク姉のISは、デバイス破壊の能力にもなるのか!」
「隼ちゃん、よく気付いたわねぇ〜」
「流石は隼樹兄様。素晴らしい発想です」
ナンバーズの称賛の言葉を受けて、隼樹は嬉しさと照れが混じって頭をくしゃくしゃと掻く。
「私のISは、接近戦でも武器になるのか」
チンクも驚きを隠せないでいた。
「それで、隼樹。他の話は何かね?」
スカリエッティが言うと、一同の視線が再び隼樹に向けられた。
みんな、隼樹がこれからどんな話をするのか、興味津々にしている。
「あ〜、敵の戦力分析……みたいな?」
頭を掻きながら、隼樹は続ける。
「まず、ティアナ・ランスター。アイツ、デバイスに魔力刃を付けて接近戦も出来るみたいだけど、やっぱり主流は銃を使っての中距離攻撃だから、間合いを詰めて接近戦に持ち込めば勝てると思う。あと、ヴィータって赤服の小さい女の子。確か、ハンマーみたいなデバイスを使ってたよな。そのハンマーを大きくさせて攻撃してくる時があるけど、ソコが狙い目でもあるんだよな。デカい超重量の武器ってのは、その大きさと重さ故に攻撃する時どうしてもオーバーアクションになるんだ。その隙が最大のチャンスだから、ソコを攻めれば一気に勝負を決める事が出来る」
隼樹が長々と説明すると、再び一同はポカンとなってしまった。
またも食堂が沈黙に包まれて、隼樹は困惑してしまう。
「いや……だからさ……。そういうのやめようよ。何で、みんな黙っちゃうの?」
隼樹が声をかけるが、一同は呆然と黙ったままだった。まるで信じられないものでも見るかのような目で、隼樹を見つめて黙っている。
やがてウェンディが口を開いた。
「……隼樹、一体何者っスか?」
「え?」
いきなり訳のわからない質問をされて、隼樹は戸惑う。
「チンク姉のスゲー戦法を思いついたり、敵の欠点を見つけたり……。お前、どこの戦略家だよ?」
とノーヴェが言った。
「いやいやいや。俺、戦略家なんて大層なもんじゃないよ。ただの“オタク”だから」
「オタク?」
「そう。アニメオタク。あっ……」
オタクという聞き慣れぬ言葉に、ナンバーズは首を傾げる。
──し、しまったァァァァァ! つ、つい口が滑っちまったァァ!!
隼樹は内心でシャウトした。今までオタクである事を隠していたのに、このタイミングで、こんな形で、みんなにバレるなんて予想外だった。
絶望する隼樹に、ディエチが言った。
「オタクって何?」
「え?」
ディエチに聞かれて、一瞬呆然となったが、すぐにハッとなる。ナンバーズは、オタクというのを知らないのだ。
少し逡巡してから、隼樹は言う事にした。
「オタクっていうのは……アニメや漫画、アイドルとかに没頭してる人の事を言うんだ」
自分がオタクだというのを、みんなに知られたくなかったのだが、こうなっては仕方がない。嘘をつこうとも考えたが、何となくやめた。
「へぇ〜そうなんだ」
「まぁ俺自身は、オタクな自分が嫌いなんだけどね」
「何で?」
セインが聞いた。
「いや……その……キモいからさ」
「キモい?」
「……うん。アニメばっかりに夢中で……何か気持ち悪いから……」
落ち込み気味に、隼樹が語る。
そんな隼樹を見て、セインが声をかけた。
「元気出しなよ、隼樹。全然気持ち悪くないよ」
「……ホント?」
「ホント、ホント」
笑ってセインが答える。
すると、他のナンバーズも隼樹を励ます。
「そうっスよ〜。隼樹のお陰で、あたし達強くなれたんスから」とウェンディ。
「……ああ。バトル漫画読んでたから、ソコで知識がついたのかな」
「私は、隼樹兄様を誇りに思っています」とディード。
「いや、ディード。それは言い過ぎじゃないか?」
ナンバーズの言葉に、隼樹は戸惑う。特にディードの言葉には驚いた。自分には、何の取り柄もないのだから。
「とにかく」
今まで黙っていたトーレが、口を開いた。
「お前がオタクだろうが何だろうが関係ない。お前もいちいち、そんな事を気にするな」
「トーレ……」
ナンバーズの反応が自分が思っていたのと違って、隼樹は驚き、嬉しくなる。
オタクだと知られたら、みんなに引かれると思っていた。だからナンバーズに、オタクな自分を受け入れられた事が嬉しいのだ。
「みんな……ありがとう」
「礼なんていいっスよ〜」
「そうそう」
セインとウェンディが言うと、他のみんなが頷く。
「さて、隼樹。話はこれで終わりかね?」
「あ……もう一つあります」
スカリエッティに言われて、隼樹は思い出したように言った。
「機動六課と戦う時の注意というか、アドバイスというか、忠告みたいなものです」
「忠告?」
ナンバーズは首を傾げた。
「戦いで絶対にやっちゃいけないことは、『相手をキレさせる』事です」
「相手をキレさせる?」
「漫画とかだと、主人公側のキャラはキレると眠っている力が覚醒したり、意味不明なパワーアップをするんだ。だから、相手をキレさせるような事は、絶対にしちゃダメ!」
絶対に、という部分を強調して隼樹は言った。
いろんなバトル漫画を読んできたが、ほとんどの作品に、主人公がキレてパワーアップして逆転勝利する、というような展開がある。隼樹の今の忠告は、それを回避するためのものだ。
「絶対に、相手をキレさせるような事はやらない。いい?」
「わかった」
「は〜い」
「了解っス」
念を押して確認をしてくる隼樹に、ナンバーズは答えた。
これで隼樹の話は終わり、お茶飲みを続けた。
*
あっという間に夜となった。
ナンバーズは既に風呂を済ませ、最後となった隼樹が風呂場へ向かっている。
できれば、セッテとディードの裸を見たかったが、もうのぞきはしないとチンク達と約束したので、のぞき見る事はできない。何とかのぞきではなく、堂々と彼女達の裸を見る方法はないだろうか、なんてしょうもない事を考えていた。
脱衣所の扉を開けると、中にはオットーがいた。今まさに、スーツを脱ごうとしている。
「オットー」
「隼樹……」
互いの目が合う。
オットーはナンバーズ唯一の男性体、と隼樹は思っている。
「オットーも風呂か?」
「はい」
「みんなと一緒に入ったんじゃないの?」
「集団洗浄は苦手なんです」
「そうか」
他のナンバーズは、既に風呂を済ませて、此処にはいない。これは男同士の付き合いを深める、いい機会かもしれない。
「オットー、一緒に入らないか?」
「いえ。隼樹が先に入って下さい。僕は後で入ります」
オットーは脱衣所を出ようとする。
それを隼樹が引き止めた。
「いいじゃんかよ〜。男同士の裸の付き合いだ」
「でも……」
「あっ、もしかしてアレか? チン○が小さいとか? 大丈夫、大丈夫。俺のも小さいから」
言うと隼樹は、オットーのズボンに手をかけた。
オットーは止めようとしたが、間に合わずズボンは引き下げられてしまう。
その瞬間、隼樹は驚愕して目を見開き、口も大きく開いた。隼樹の目に、信じられない光景が入ってきたのだ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
隼樹の高くデカい悲鳴が、脱衣所から通路にまで響き渡る。
直後、脱衣所に二人の人影が入ってきた。
「隼樹兄様!?」
「何がありましたか!?」
入ってきたのは、ディードとセッテ。
二人が脱衣所に入ると、中には隼樹とオットーがいた。オットーは既にズボンを履き直していて、僅かに頬を赤くしている。隼樹は床に座り込んで、驚愕の表情で目の前にいるオットーを見つめている。
「お……おお、オットー……!おま、お前……おお、お……おおお……!」
震える指で、オットーを指差す。
「お前……女!!?」
衝撃の事実に、隼樹は驚きを隠せないでいた。
オットーは、小さく頷いた。
*
実は、オットーも女性体だったという事実に、隼樹は衝撃を受けた。
理由はよくわからないが、クアットロに誰にも教えないように言われたらしい。ホント、あの腹黒眼鏡は何を考えているのか分からない。
「はあ……」
隼樹は溜め息をついた。
彼は今、一人でアジトの外にいる。アジトの出入口の前で、地面に座って夜空を見上げていた。
この世界に来て、初めて見る夜空だ。数多の星が宝石のように輝き、綺麗な夜空を成している。
「……」
もうすぐ地上本部襲撃の日だ。いつやるのかは、全く聞かされてないが、その時、必ず奴が現れるハズだ。
レリックを狙っている異形。地上本部の実行犯がチンクの仲間だと知れば、奴は必ず地上本部にやってくる。奴と遭遇したら、いくらパワーアップしたナンバーズでも、異形に対抗する術はない。
あの異形を倒せるのは──と考えた時だった。
「じゅ〜んき」
「うおおおっ!!?」
突然背後から声をかけられ、隼樹は驚いた。
「あはは。ビックリした?」
「セ……セイン!?」
後ろにいたのは、セインだった。
「こんな所で何してるの?」
「いや、何か眠れなくて」
「ふ〜ん」
素っ気ない返事をすると、セインは隼樹の隣に座り込んだ。
隼樹は一瞬、動揺した。
「なぁ、隼樹」
「ん?」
「何かあたし達に隠し事してない?」
「え?」
聞かれて一瞬ドキッとしたが、決して動揺を顔には出さないように努める。
──まさか、俺が異形に対抗する案を、みんなに隠してる事に気付いたか!?
「いや、別に何も隠してないけど……何で?」
「ん〜、なんとなくかな」
女の勘、というヤツだろうか。恐ろしい。これは油断できんな。
「まぁ何か悩みとかあるなら、相談しなよ? お姉ちゃん達が力になるからさ」
セインはウインクして、隼樹に笑ってみせた。
なんだかんだで、セインもお姉さんだな。まぁ、あまりみんなから慕われてないみたいだけど。
「ありがとう。でも、ホントに大丈夫だから」
「そうか。じゃあ、あたしはもう寝るね」
言ってセインは、立ち上がってアジトの入口に向かう。
「いつまでも外にいると風邪ひくから、隼樹も早く中に戻って寝なよ〜」
「大丈夫だよ。俺、馬鹿だから。馬鹿は風邪ひかないって言うから」
言いながら、中に戻っていくセインに手を振った。
セインがアジトの中に戻って、隼樹は再び一人になる。
また顔を上げて、輝く星が散りばめられた夜空を眺める。
護りたい。
そう思ったのは、生まれて初めてかもしれない。この世界で出来た、大切な人達。こんな自分を受け入れてくれた、優しい人達。
夜空を眺めながら、隼樹は握り拳を固めた。
*
翌朝。
「今日は、いよいよ地上本部を襲撃します」
──って今日かよ!?
目の前にいるウーノの説明を聞きながら、隼樹は内心にシャウトしていた。
えええっ!? いやいや、俺全っ然聞いてないんだけど! 知らないんだけど! 何? 俺だけハブ? これイジメ?
隼樹の横にいるナンバーズは、真剣な表情でウーノの説明を聞いている。
「それでは、みんな協力して事態に当たってくれ」
「了解!」
スカリエッティの言葉に、ナンバーズが応えた。
「あ、あの……」
説明を聞き終えて、隼樹は遠慮がちに手を挙げた。
「俺は? 俺は何をすれば?」
「隼樹さんは、私とドクターと一緒にアジトに残って下さい」
「え?」
隼樹は目を細めた。
隼樹は留守番!?
このままじゃ地上本部に行けない!
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