隼樹「あっ、ドクター殴るの忘れてた。まっ、いいか。メンドくせー」
戦いの前に、作戦会議とか必要だよね
今回は、隼樹がスカリエッティ達とある会議をします
第十話:たまには悪が勝ってもいいじゃない
これは酷すぎるだろう、と塚本隼樹は思うのだった。
場所は、スカリエッティの研究室。
スカリエッティとウーノに頼んで、機動六課の戦闘映像を見せて貰っている。ナンバーズと一緒に戦いに参加する事は無いだろうが、彼女達が戦う相手がどんなものなのか知っておいて損は無いと考えたのだ。
珍しく真剣な表情で、機動六課の戦闘映像を見ている。しかし、戦闘映像を見続けていると、真剣な表情をしていた隼樹の顔が、段々険しい表情に変わっていった。
何だ、この機動六課って部隊のメンバーは? メチャクチャ強い。いや、強すぎる。反則的に強すぎる。いや、強いを通り越して異常だ。つーか、コレ魔法じゃねぇだろ。科学だろ。メッチャ機械使ってんじゃん! これが隼樹の抱いた感想だ。
その後も戦闘映像を見続けて、隼樹の中で機動六課に対する怒りと対抗心が混ざったような感情が込み上げてきた。
やっぱコレ強すぎだろ。なんかイライラしてきた。
素人ながら、隼樹はナンバーズの強さをそれなりに解ってるつもりだ。それなりに。それで機動六課とナンバーズの戦闘を、頭の中でシュミレーションしてみた。
結果──ナンバーズの敗北。
何度シュミレーションしても、結果は変わらなかった。
確かにナンバーズは強い。しかし、先ほども述べた通り、機動六課は強いを通り越して異常だった。
で、そこが隼樹には気に入らない。
確かに強いのはいい。だが、異常に強すぎるのは納得いかない。ついでに、連中が使ってるのが魔法というのも納得いかない。
隼樹は考える。これをもし漫画やアニメにしたら、間違いなく機動六課は“正義”で、ナンバーズは“悪”だ。そうなると“正義”の機動六課は強くて当たり前みたいで腹が立つ。とにかく隼樹は、強すぎる機動六課が気に入らないのだ。
隼樹は、全身から不機嫌なオーラを放ちながら、戦闘映像を睨むように見つめる。
機動六課の戦闘映像を見終わって、隼樹は眉間にシワを寄せて、腕を組んでシンキングタイムに入る。普通の人間で弱い自分は、戦闘には参加できない。なら、ナンバーズを強くする案を考えるんだ。
機動六課が嫌いという事もあるが、やはりナンバーズの力になりたいという想いの方が強い。好きな人達の力になりたい。
隼樹が考え込んでいると、後ろからウーノが近寄ってきた。
「いかがでしたか、隼樹さん?」
「ウーノさん」
声をかけられ、振り返ってウーノを見る。
隼樹は、機動六課の戦闘映像を見た感想をウーノに言うか逡巡したが、正直に言う事にした。
「あの〜、ウーノさん」
「何ですか?」
「その……こんな事言ったら、ナンバーズの事を信用してないと思われるかもしれないけど……」
弱々しい声で隼樹が言った。
「言ってください」
真剣な表情で、ウーノが先を促す。
隼樹は、意を決して言う事にした。
「このままじゃ、ナンバーズは勝てないと思います!」
ウーノは僅かに眉を動かした。
「ナンバーズは確かに強いです。だけど機動六課は、それ以上に強い。同じ人間とは思えない、まさに化物じみた強さですよ。いや、化物通り越して悪魔だよ」
「隼樹さん。何気に酷い事言いますね」
だが実際に、なのはは『白い悪魔』と呼ばれ、フェイトも『金色夜叉』と呼ばれているので、隼樹の言ってる事は、あながち間違いではない。
「ここは確実に勝ちにいく為に、ナンバーズを強化した方がいいと思います!」
ウーノから目をそらさず、隼樹は自分の考えを言い放つ。
珍しく真剣な表情で意見を言ってくる隼樹に、ウーノは内心驚いていた。隼樹は戦闘機人でなければ、魔導師でもない。だからナンバーズと一緒に、戦闘に参加する事はできない。
彼なりに、私達の力になりたいとしてるのですね。ウーノはそう思った。
「わかりました。ドクターに話してみます」
「ありがとうございます!」
隼樹は頭を下げて、礼を言った。
ウーノは隼樹に微笑むと、踵を返してスカリエッティの元へ向かう。後ろから声をかけると、スカリエッティは作業を止め、振り返ってウーノを見る。ウーノは、隼樹の意見をスカリエッティに話した。話し終えると、スカリエッティは席を立って、ウーノと一緒に隼樹の元へ歩いてきた。
「隼樹。私にナンバーズの強化をして欲しいそうだね?」
「はい」
「ふむ。強化する事自体は、私は構わないが、具体的にどう強化するか案はあるのかい?」
スカリエッティに問われると、隼樹は口元を吊り上げて、“よくぞ聞いてくれた”というような笑みを浮かべた。
「一応、幾つか考えてあります」
*
スカリエッティの研究室の扉に、『重大会議中』と書かれた紙が張られている。
研究室の中には、隼樹、スカリエッティ、ウーノ、トーレ、クアットロ、チンク、セイン、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディが椅子に座っていた。とにかく全員が、研究室に集まっていた。
「それでは、『ナンバーズ強化緊急会議』を始めます」
隼樹が切り出した。ナンバーズをどう強化するか、今からそれを話し合うのである。
「まず、戦闘で一番必要なモノは何だと思いますか?」
「はいは〜い」
セインが挙手して言う。
「力」
「アバウトだな」
と隼樹。
「これは俺の持論だけど、戦闘で一番必要なモノは……“速さ”だと思ってる」
「速さ?」
ナンバーズが声を上げた。
「どんな攻撃も避けられる速さ。相手の防御が間に合わないくらいの攻撃の速さ。速さを制する者は勝負を制する! 俺はそう考えてる!」
いつもより強気な口調で、隼樹は自分の考えをみんなの前で話す。
「スカリエッティ。ナンバーズ全員のスピード強化を、お願いします」
「ちょっと待って〜」
クアットロが隼樹の意見に、待ったをかけた。
「それなら、トーレ姉様は既に高速移動のISを持って──」
「甘いっ!!」
クアットロの言葉を遮って、隼樹が大声を出した。
突然、隼樹が大声を上げて、クアットロだけでなく全員がビックリして小さく体を震わせた。
「いいか、クアットロ? 機動六課には、フェイト・T・ハラオウンという高速移動をする隊長がいる。もしも、ハラオウンがトーレ以上のスピードを有していたら? そしたら今の速さでは力不足だ。早急にスピードアップする必要がある」
言って隼樹は、眼鏡を2ミリだけ上げた。今の隼樹には、普段にはない気迫が感じられる。
隼樹はスカリエッティに顔を向けた。
「という事で、スカリエッティ。スピードアップの件、お願いします」
「あ、ああ。わかったよ」
いつもと違う隼樹に戸惑いながら、スカリエッティは承諾した。
「それから、ナンバーズには足りないモノがある」
「足りないモノ?」
ナンバーズが首を傾げる。
すると、今度はウェンディが挙手した。
「スピードっスか?」
「それ、さっき俺が言ったよね?」
「じゃあ何だよ?」
ノーヴェが聞いた。
隼樹は目を鋭くして言う。
「必殺技だ」
「必殺技?」
ナンバーズがざわつく。
「機動六課の連中は、ディバインバスターやら紫電一閃やらプラズマスマッシャーやら、沢山の派手な技を持って、一撃必殺とも呼べる技も持っている。なのに! アンタらは必殺技とかないやん! ぶっちゃけ地味!!」
隼樹が厳しい指摘をする。
ここから隼樹の、ナンバーズへのダメ出しタイムが始まった。
「トーレ! 貴女、ただ手足に付いてる刃、振り回してるだけでしょ! そんなんじゃダメ! 何かしらの技を身につけなきゃダメ!!」
「ぬ……!」
トーレは渋面になる。
「次にドゥーエさん! 貴女……あっ、ドゥーエさんいねぇ!!」
ドゥーエがいない事を忘れていた。
「じゃあ飛ばしてクアットロ! 貴女、非戦闘員だからって自分は被害を受けないとか考えてるでしょ? 甘いですよ! そうやって余裕こいてる人に限って、酷いやられ方するから!!」
「ええ〜!? そんなの嫌よ〜!!」
クアットロは両手を頬に添えて、いやんいやんと首を左右に振る。
「はい次、チンク! 接近戦に対する能力が低い! 懐に潜り込まれた時の事も考えなさい!!」
「ぐ……!」
言い返せず、チンクは顔を俯く。
「次、セイン!」
自分の番が回ってきて、セインは体を震わせた。一体どんなダメ出しをされるのか、ビクビクしている。
「セインは、あの……アレだ……単純に戦闘能力が低い!」
「酷っ!!」
ストレートすぎる隼樹の意見に、セインは思わず涙目になる。
ちなみに隼樹は、涙目のセインを見て、可愛いなぁ、と思っていたりする。
「次、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディ!」
三人の名前が呼ばれた。
ノーヴェ達は、険しい表情でゴクリと唾を飲み込んだ。場に緊張感が漂う。
そして、隼樹が口を開いた。
「三人は……特に悪い所はないや」
「えええええっ!!?」
ノーヴェ達は一斉に叫んだ。
「えっ!? 何もないんスか!?」
「うん。何もない。あっ、ディエチはあるかな。重狙撃砲という重い武器を持ってるから、いざという時に動きが遅い。以上」
「……わかった」
ディエチは素直に頷いた。
「はい。とまぁ、この辺でナンバーズへのダメ出しを終了して、次にナンバーズの能力アップ、武装強化を発表したいと思います」
ダメ出しをされて少し落ち込んでるナンバーズの前で、隼樹が言った。
「そういえば、幾つか考えがあるそうだね?」
「はい」
隼樹は不気味に眼鏡を光らせて、不敵な笑みを浮かべる。
今日の隼樹は、いつもと違う。それがスカリエッティとナンバーズが抱いた感想だ。機動六課に対して、並々ならぬ対抗意識を燃やしてるように感じる。そんなに機動六課が気に入らないのだろうか?
そんないつもと違う隼樹が、一体どんな案を発表するのか、ナンバーズも少しながら興味を持っていた。
軽く咳払いをして、隼樹は案を発表する。
「まず、トーレのパワーアップ案。トーレの固有武装の『インパルスブレード』を巨大化。更に極限まで刃を薄くして、切れ味を増させる。しかも、刃を振るうと鋭いエネルギー刃を飛ばす。それと高速機動のIS『ライドインパルス』の強化を行い、更なるスピードアップを図る」
隼樹の案を聞いて、トーレは腕を組んで発言する。
「接近戦闘の強化と、遠距離への対応を入れたか」
「はい。距離を離された時の対応として」
トーレに答えて、隼樹は次の案を発表する。
「次にクアットロ。固有武装の『シルバーケープ』を改造して、磁力の反発する力のように魔法攻撃を弾く防御能力を備える」
「ソレ、なかなかいいアイディアねぇ〜」
隼樹の案を気に入るクアットロ。
「次にチンクなんだけど……。実は、まだ案が思いついてないんだ。ゴメン」
「そうか。いや、気にするな」
「ホントにゴメン。“接近戦に対応できる能力”って考えてはいるんだけど、具体的に決まらなくて……」
頭をぐしゃぐしゃと掻きむしって、申し訳なさそうに隼樹は言った。
「だから気にするな。その気持ちだけ、受け取っておこう」
優しくチンクが言った。
「ありがとう。それじゃあ次にセイン」
チンクに礼を言って、次に進む。
「セインは、無機物に潜行するIS『ディープダイバー』があるよね? 無機物の中を潜行中でも、地上にいる敵に攻撃する事ができれば、相手はこちらの動きを把握する事ができなくなり、勝率が上がると思うんだ。あとは、両手の人差し指についてる固有武装の『ペリスコープ・アイ』からビームとか出たらいいよね」
「へぇ〜。色々考えてるんだな〜」
隼樹の案に、セインは感心する。
「つ〜ぎ〜は……ノーヴェか」
そう言って隼樹は、ノーヴェと目が合う。ノーヴェは、変な案だったらブッ殺すぞ、という目をしている。
「ノーヴェの固有武装『ガンナックル』を巨大化させて、後ろに噴射口が付き、エネルギー噴射で勢いをつけて敵を押し潰し、粉砕する。んでもってガンナックルをキャノン砲にも変形可にして、強力なエネルギー波を放つ。威力は、ディエチが使ってるイノーメスカノンぐらいあるといいかな」
「……なんか凄い事になってねーか?」
ノーヴェは困惑の表情を浮かべた。
強化の案を出してくれるのは嬉しいが、他の案と比べて物凄い事になってる気がする。
「さっきも言っただろ? ナンバーズには、必殺技級の力が足りないって。これくらいでちょうどいいんだよ」
ノーヴェに答えると、隼樹は更に続けた。
「次は、ディエチ。イノーメスカノンの火力をアップさせるのは当然として、砲撃を拡散型にも撃てるようにすること」
「拡散型か……」
案を聞いて、ディエチがポツリと呟いた。
「最後はウェンディか」
「あたしは、どんな感じに強化するんスか?」
興味津々にウェンディが聞いた。
「ウェンディは、敵が複数いても瞬時に全てのターゲットをロックオンする能力を付けて、固有武装の『ライディングボード』から大量の自動追跡のスフィアを一斉に放ち、確実に相手を仕留める。ちなみにスフィアは、煙幕で敵を見失わないように、爆発しない貫通力の高いモノで」
「おお〜! 何か凄いっス!!」
ウェンディは興奮した声を出す。
「機動六課の中には、幻術使いがいるからな。ウェンディの索敵能力は、対幻術使い用って所かな。幻影の中に本物が混じってたら、幻影ごと仕留めればいい」
「そこまで考えてたんスか!?」
「そうだよ」
「おお〜!」
隼樹の案にナンバーズは、感嘆の声を漏らした。正直、隼樹がそこまで考えていたとは思ってなかったのだ。
「あっ! あと、もう一つ!」
隼樹が挙手をした。
「スカリエッティ。確か、あの……魔法を無効化するバリアみたいなヤツありましたよね? アレ、何でしたっけ?」
「アンチマギリンクフィールド。通称・AMFだよ」
「そう! ソレ!」
隼樹は両手を強く、パンッと叩いた。
「攻撃の際に、AMFを膜状に覆うんですよ! 例えばスフィアで攻撃するなら、スフィアを膜状AMFで覆って相手に放つ! こうすれば、相手の攻撃魔法と相殺する事は無いし、相手の防御魔法を突破する確率も上がる!!」
「おおっ! 確かにそうだ!!」
スカリエッティが興奮した様子で、席を立った。
隼樹も同じく興奮していて、顔が少し赤くなっている。
「どうすか!? コレ結構いい案だと思うんだけど!?」
「いや素晴らしいよ、隼樹!」
「マジで? やったァァァァ!!」
隼樹は両手を上げて、大喜びする。
「ちょっと、ちょっと!これナンバーズの勝ち決まったんじゃね? 勝利の前祝いに飲み行っちゃう?」
「飲みに行くか、隼樹!!」
「行っちゃおうよ、ドクター!!」
隼樹とスカリエッティのテンションは、最高に高まっていた。
ウーノを含むナンバーズは、呆然となってハイテンションな二人の様子を見ている。
「あっ、そうだ。ナンバーズのみんなに、一言」
隼樹は、ナンバーズに向き直る。
まだ何か案があるのだろうか、とナンバーズが思っていると、いきなり隼樹は頭を下げた。
「色々ナマ言って、すいませんでしたァァァァァ!!」
「謝ったァァァァァ!!?」
*
ミッドチルダの首都クラナガンにある、小さな居酒屋。中では仕事を終えたサラリーマン達が、酒を飲みながら騒いでいる。
そんな居酒屋の一席に、隼樹、スカリエッティ、ウーノ、クアットロの四人の姿があった。テーブルの上には、キンキンに冷えたビールと美味しそうな焼き鳥が並べられている。
「じゃあナンバーズ勝利の前祝い、カンパーイ!!」
隼樹とスカリエッティが、互いに持ってるビール瓶を当てて、カキンッと音を鳴らす。
乾杯をしてすぐに、二人はビールを口の中に流し込む。ゴクッゴクッ、と音を鳴らしてビールを飲んでいく。
「あー、旨い! この苦みがいいねぇ〜!」
隼樹は口の周りにビールの泡をつけて、白い髭を作った。
スカリエッティは、出来立ての焼き鳥を美味しそうに食べている。
ウーノは、酒を飲んで焼き鳥を美味しく食べてる二人の姿を呆然となって見ている。隣に座ってるクアットロは、オレンジジュースを飲んでいた。ちなみに他のナンバーズは、アジトで訓練中。
酒を飲んで、テンションを高くしている二人に、ウーノは声をかけた。
「あの……こんな所で飲んで大丈夫なんですか? というか、ドクターお酒飲めたんですか?」
「大丈夫ですよ〜、ウーノさん。管理局はねぇ、指名手配犯よりも今、事件を起こしてる犯人逮捕を優先してる……ハズですから!」
「何でこういう時は、ポジティブ思考なんですか? お酒飲んでるからですか?」
ウーノは目を細めて、少し呆れた感じで隼樹を見る。
すると、スカリエッティが口を開いた。
「心配いらないよ、ウーノ。私だってビールくらい飲めるさ!」
「……そうですか」
ウーノは目を閉じて、指で眉間を押さえる。
「すいませーん! ビールおかわりー!」
隼樹がビールのおかわりを頼んだ。従業員がやってきて、空のビール瓶を持って行く。
「……でも……できれば、ウーノさんやドゥーエさん、チンクの案も出したかったけど……なかなかいい案が出てこなくて……」
隼樹は、頭をくしゃくしゃと掻く。
「なに、充分過ぎる程、キミは案を出してくれたよ。思いついたら、また言えばいい」
そう言ってスカリエッティは、口の中にビールを流し込んだ。
そこへ従業員がやってきた。
「お待たせしました。ビールのおかわりです」
「ありがとうございます」
隼樹はビール瓶を受け取ると、早速ビールを飲み始める。
クアットロは、隼樹
の飲みっぷりを見て言った。
「隼ちゃん、飲むわね〜」
「飲む機会が少ないから、沢山飲んどかないと」
「うふふ。それにしても、今日は驚いたわぁ〜。隼ちゃんが私達の強化を提案したり、みんなの前であ〜んなに強気な発言したりして」
「あ〜、みんなの前で話した時、ものすっごい緊張したなぁ」
ビールを飲んで、隼樹が答える。
そんな隼樹を見て、クアットロはクスクスと笑う。
「隼ちゃんは小心者だものねぇ〜」
「そういうクアットロは、腹黒いじゃん」
目を細めて、隼樹が言った。
「俺がトーレとノーヴェからの訓練を受ける事が決まった時、クアットロ腹黒い笑みしてたじゃん。それに俺、気付いてるからね? 俺がノーヴェにボッコボコにされてる時、クアットロ楽しそうに笑って見てたでしょ? アンタ“S”でしょ?」
そう言って、おかわりのビールを飲み干す。んで、またおかわり。
クアットロは、前線に出て戦闘をするタイプではないので、訓練場にいる意味はほんとんどない。では何故、訓練場にいるのか? 答は一つ。
隼樹がボコボコにされる所が見たいから。
「だってぇ〜、隼ちゃんがノーヴェちゃんに傷つけられたり、必死に逃げようともがいてる姿を眺めるのって、すっごく楽しいんですものぉ〜♪」
クアットロは、普段とは違う笑みを浮かべる。妖艶な感じが混ざった黒い笑みだ。
その笑みに、隼樹は見惚れる。
「綺麗だ……」
「え?」
「普段のクアットロも、もちろん可愛いけど、悪女な感じのクアットロも凄く綺麗だ」
ビールを飲んで酔っているのか、普段なら緊張してなかなか言えない事を、今は臆する事なく言えている。そして少しずつ、クアットロとの距離を縮める。
「クアットロ!」
「きゃっ!!」
突然クアットロは、隼樹に抱き付かれてしまう。
隼樹の中のリミッターが、また解除されたようだ。
「いや〜ん。隼ちゃんに襲われちゃったわ〜♪」
周りの客からの視線も気にせず、今の状況を楽しむクアットロ。隼樹は、クアットロの胸の谷間に顔を埋めて離れない。
「すみません! すみません!」
ウーノは、居酒屋の主人に謝っている。
「ハッハッハッ」
三人の様子を見て、スカリエッティは笑う。そりゃあもう、愉快そうに笑っている。
「あん……! 隼ちゃん……ソコは……ダメェ……!」
「クアットロ!」
クアットロと隼樹のイチャイチャは、激しくなっていた。
と、ここでウーノの堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしなさいっ!!」
怒声と共に放たれた回し蹴りが、見事にクアットロと隼樹に決まった。
ウーノのお仕置きを受けて、二人は土下座して謝り、何とか飲み会は再開された。
「よーし、二軒目、行くぞ〜!!」
「今夜は、私のおごりだ〜!!」
*
翌日。隼樹とスカリエッティが二日酔いになったのは、言うまでもない。
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