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隼樹「愛なんて……いらねぇよ……」

赤夜叉「じゃあ、ハーレムは無しという事で──」

隼樹「愛欲しいィィィィィ!!!」
第五話:好きなんです
 午前5時。
 男の耳元で、携帯電話のアラームが鳴る。重い瞼を開いて睨むと、手を動かして携帯電話を掴み、ボタンを押してアラームを止めた。モゾモゾと動き、男は掛け布団の中から出てきた。
 ボサボサの寝癖、ナンバーズにボコボコにされて腫れている顔、頭とパジャマの下に包帯を巻いている男は、塚本隼樹。ナンバーズ入浴中の風呂場をのぞき、バレてナンバーズにボッコボコにされたのだ。
 体を動かすと、全身に痛みが走る。しかし、どんなに痛くても、彼は起きなければならない。朝食を作るために──。痛みに顔を歪めながら、着替えて部屋を出た。
 重い足取りで通路を歩き、台所へ向かう隼樹。もうすぐ台所に着くというところで、隼樹は顔色を変えて、通路の途中で足を止めた。

「み……みんな……!」

 うろたえた声を出す隼樹の視線の先にいたのは、ナンバーズだった。
 昨夜の、のぞき事件の事をまだ怒っているのか、腕を組んで少し恐い顔をしている。ちなみに全員、ウーノが買ってきたパジャマ姿である。
 隼樹は額から冷汗を流して、青ざめた顔でナンバーズを見ていた。通路の空気が重くなり、緊張感が漂う。
 次の瞬間、隼樹は素早く頭を下げた。

「みんな、ゴメン!!」

 目を硬く閉じて、隼樹は謝る。

「昨日の夜、のぞきなんかして本当にゴメン!!」

 隼樹の謝罪の言葉が、通路に響いた。場が静まり返る。
 嫌われただろうなぁ、と隼樹は思った。許してくれないだろうが、やはりここは謝るべきだ。嫌われたくないのに、嫌われるような事をやって……俺って馬鹿だなぁ……。
 隼樹がそんな事を思っていると、前から声をかけられた。

「顔を上げろ、隼樹」

 声はチンクのものだった。
 言われて隼樹は一瞬、小さく体を震わせて、恐る恐る顔を上げる。
 顔を上げると、目の前にチンクがいて目が合った。チンクのすぐ後ろには、他のナンバーズもいる。

「あの……本当にゴメン」

 チンク達を見ながら、隼樹はもう一度謝った。
 すると、チンクが溜め息混じりの笑みを浮かべた。

「もういい。気にするな」

 優しい声だった。

「チンク……」
「まぁ薄々分かってはいたが、これで隼樹が“スケベな男”だという事がハッキリした」

 微笑みを浮かべて、チンクが言った。

「え?」

 隼樹は頬を引きつらせる。

「いっつも隼ちゃんから、いやらしい視線を感じてたものねぇ〜」
「ホ〜ント、隼樹はスケベだよね〜」
「少しは自重しろ」
「いや〜裸を見られた時は、ビックリしたっス」
「……次のぞいたら、ぶっ殺すからな」
「……隼樹のエッチ」

 クアットロ、セイン、トーレ、ウェンディ、ノーヴェの順に言い、最後にディエチがボソッと呟いた。何人か、頬を赤くしている。
 ナンバーズのみんなから散々言われ、隼樹は心にダメージを受ける。顔を俯いて、ガクッと肩を落とす。
 ──でも、嫌われてはいない……のかな?
 そう思うと、隼樹は少しホッとした。

「さて、それでは台所に行くぞ」

 チンクがそう言うと、ナンバーズは踵を返して台所に向かおうとする。

「え?何で、みんなが台所に?」

 隼樹が聞くと、ナンバーズは足を止めて振り返った。

「その体で料理を作るのは、少しキツいだろう?」

 隼樹のボロボロの体を見て、チンクが言った。

「それに、たまにはあたし達も料理を作ってみたいっス」
「何作ろうか?」

 と楽しそうに会話をしながら、ナンバーズは通路を歩いていく。
 隼樹は、少し呆然となってナンバーズの背中を見つめた。

「隼樹、ボーッとするな。お前も早く来い」
「あっ、は、はい!」

 トーレに呼ばれて、隼樹は慌てて駆け出した。
 台所に着くと、みんなエプロンを身につけて調理を開始した。隼樹にとって、初めてのナンバーズとの共同作業だった。
 調理の作業はグダグダだったが、隼樹はこの時間が楽しいと思った。


*


 朝食を済ませて、隼樹は食堂の掃除をしていた。ナンバーズのみんなと作った料理は、なかなか美味しかった。
 掃除をしていると、ポケットの中にしまってある、携帯電話が鳴り出した。取り出して見てみると、相手はスカリエッティだった。

「もしもし?」
「やぁ、おはよう隼樹。元気かい?」
「まぁ、元気と言えば元気ですかね」
「それはよかった」
「それで、何か用ですか?」
「実は、キミにちょっと頼みがあってね。私の部屋まで来てくれるかい?」
「わかりました」

 携帯電話を切って、ポケットにしまう。
 俺に頼み事?はて、何だろう?
 考えても仕方ないので、隼樹は掃除を中断してスカリエッティの研究室に向かった。


*


「弁当?」

 隼樹は眉根を寄せた。

「外で諜報活動をしているナンバーズが一人いてね。チンク達は今、任務に向かっているから、キミが彼女にお弁当を渡してきてくれ。彼女と挨拶をする、いい機会でもある」
「えっ!?ナンバーズって、此処にいるので全員じゃないの!?」
「ああ。まだ未完成の機体もいるからね」

 マジでか?ということは、これからナンバーズの数が増えるって事か。

「それで、その弁当はどこに?」
「決まってるじゃないか。キミが作るんだよ」
「はあ!?」

 あの微妙な味の料理を弁当に……。

「あの……俺の微妙料理なんかで、大丈夫ですかね?」
「大丈夫だろう。チンク達には結構好評じゃないか」
「好評……なんですかね?」

 隼樹は僅かに首を傾げる。
 確かに隼樹の料理の評判は悪くない。というか、スカリエッティの言うように実はチンク達の間では好評だったりする。チンク達は最初は戸惑っていたが、普通とは違う、あの微妙な味が気に入ったようだ。更に毎回、味が微妙に変わっているので、それも楽しみの一つでもある。
 まぁ作っている本人の隼樹は、微妙な味に納得していないが。

「……本当に俺の料理で、いいんですか?」
「ああ。頼むよ」

 言われて隼樹は少し考えた。

「……わかりました。引き受けます」
「ありがとう」

 やれやれと頭を掻きながら、隼樹は部屋を出ようとする。
 すると、扉が開いてウーノが入ってきた。

「あっ!」
「あら、隼樹さん」

 ウーノと顔を合わせて、隼樹は動揺した。
 まだウーノには、昨夜の風呂場のぞき事件の事を謝っていなかった。

「あの……昨夜は本当にすいませんでした!」

 チンク達の時と同じように、頭を下げて謝った。

「大丈夫ですよ、隼樹さん」

 頭を下げている隼樹に、ウーノが優しい声をかける。
 隼樹は頭を上げる。ウーノは、優しく微笑んでいた。

「私も、もう気にしてませんから。それに妹達とも仲直りできたみたいですし」
「ウーノさん……!」

 やっぱりウーノさんは優しいな、と隼樹は思った。
 抱き付きたい衝動を必死に抑え、隼樹は研究室を出た。


*


 天気は晴天だった。
 抜けるよう青空の下に、隼樹はいた。場所は時空管理局地上本部というデカい建物の近くにある、小さな公園。ベンチに座って、隼樹は外で活動してるというナンバーズを待っている。膝の上には、作ってきた弁当が置いてある。
 公園には隼樹以外にも何人かの子供達がいて、滑り台や砂場で遊んでいる。そんな中、隼樹は少し緊張した顔をしていた。ナンバーズはみんな美人だから、これから会うナンバーズの人も美人かと思うと緊張してきたのだ。腕時計を見て、時間を確認する。そろそろ昼時だ。
 その時、公園に一人の女性がやってきた。綺麗な緑色の長い髪で、青い制服を着た美女。
 隼樹は目を見開いて、その美女に見惚れる。
 ──綺麗だ。
 心の中で、彼はそう思った。
 美女は隼樹に気付くと、ニッコリ笑って近づいてきた。

「塚本隼樹さん、ですか?」
「え?は、はい!」

 声をかけられ、隼樹は立ち上がった。心臓が高鳴り、顔も段々と赤くなっていく。

「初めまして。No.2のドゥーエです」
「は、初めまして。塚本隼樹です」

 ドゥーエは名前を知っていたが、一応隼樹も自己紹介をした。

「ふふ。そんなに硬くならないでください。隣に座ってもいいですか?」
「ど、どうぞ」

 二人はベンチに座った。

「あの……コレ……」

 隼樹は弁当箱をドゥーエに差し出す。

「ありがとうございます」

 笑顔でドゥーエは、弁当箱を受け取った。蓋を開けて、中身を見る。卵焼きにウィンナー、きんぴらごぼう等、オカズはベタだが、隼樹が一生懸命作ったものだ。

「これは、一人で作ったんですか?」
「はい」

 隼樹は頷いて答えた。

「それじゃあ、いただきます」

 そう言った後、箸を持ってオカズに伸ばす。
 その時、隼樹の頭にふと疑問が浮かんだ。ドゥーエは食べる前に、『いただきます』と言った。ナンバーズのみんなは、食べる前に『いただきます』と言う習慣はなかったはずなのに、ドゥーエは『いただきます』を言った。少し気になったが、まぁいいか、と考えるのをやめた。
 隣にいるドゥーエは、弁当のオカズを食べている。

「ドクターやウーノの言った通り、微妙な味ですね」
「えっ!?」

 ドゥーエの言葉に、隼樹は思わず大きな声を出した。

「え?あの……俺の料理の味が微妙って……知ってたんですか?」
「はい。ドクターとウーノから聞いてましたから」

 ニッコリ笑ってウーノは答えた。
 それで合点がいった。通信で隼樹の料理の味の事を教えて、食べる前に『いただきます』と言う事も、二人がドゥーエに教えたのだろう。

「そ、そうですか……」
「はい。大変変わった味ですが、嫌いじゃありませんよ」

 ドゥーエの感想を聞いて、とりあえず安心した。
 それから隼樹は、隣で弁当を食べているドゥーエを見つめた。
 ウーノとは違った大人の魅力のようなモノを持っていて、制服姿もよく似合っている。見惚れていると、ドゥーエが隼樹の視線に気付いて顔を向けた。

「どうかしましたか?」
「あっ!いえ、その……」

 顔を真っ赤にして隼樹が言う。

「……き……綺麗だなって思って……」
「え?」

 ドゥーエは首を傾げたが、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべた。

「ふふ。ありがとうございます」

 礼を言って、ドゥーエは昼食を再開した。


*


 しばらくすると、遊んでいた子供達は公園を出て、家に帰って行った。

「ごちそうさまでした」

 弁当を食べ終えて、ドゥーエは弁当箱の蓋を閉じて隼樹に渡した。

「おそまつさまでした」

 弁当箱を受け取る隼樹。
 ドゥーエは公園の時計を見て、時間を確認する。どうやら、そろそろ仕事に戻る時間のようだ。

「では隼樹さん。私はそろそろ戻りますね」
「あ、はい」
「今日は会えてよかったです。お弁当ありがとうございました」

 ドゥーエが笑顔で礼を言った。

「俺もドゥーエさんに会えて、よかったです」
「はい。それじゃあ、妹達によろしく言ってください」

 そう言ってドゥーエはベンチから腰を上げて、公園の出口へ向かって歩き出す。
 去っていくドゥーエの背中を見つめて、隼樹の胸がざわつく。
 隼樹の胸の中には、ドゥーエに対する“ある想い”があった。
 ドゥーエは、潜入・諜報活動が主なので単独行動が多く、会える機会が少ない。今回は、たまたま時間が空いたから会えたが、次はいつになるか分からない。
 ウーノや他のナンバーズに対しても、同じ想いを抱いてるが、ドゥーエに想いを伝えられるのは、今しかない。

「あ、あの……!」

 隼樹は、ドゥーエの背中に声をかけた。
 ドゥーエは足を止めて、振り返って隼樹を見た。

「えっと……その……」

 ドゥーエと目が合って耳まで真っ赤になり、緊張して言いたい事が言えない。
 恐い──。
 想いを伝えて、断られるのが恐い。傷つくのが恐い。
 隼樹は、こんな臆病で、顔もカッコよくなく、何の取り柄もない自分が嫌いだった。自分に自信が持てない。
 ──やっぱり、無理だ……。
 弱気になり、隼樹が想いを伝える事を諦めた時だった。

「隼樹さん」

 ドゥーエから声をかけられた。
 優しい笑みを浮かべて、ドゥーエは隼樹に歩み寄る。目の前で止まり、綺麗な瞳が真っ直ぐに隼樹を見つめる。

「言ってください」

 待っている。ドゥーエは、隼樹が言うのを待っているのだ。
 それで隼樹は、覚悟を決めた。後悔するにしても、想いを伝えないで後悔するより、伝えて後悔する方がいい。

「あ、あの……!」

 ドゥーエを真っ直ぐに見つめ返し、口を開いた。

「好きです!!!」

 真っ赤な顔で、大声で想いを伝えた。
 すると、ドゥーエの頬がうっすらと赤くなる。

「……それは……私の事が好き、という事ですか?」
「は……はい!」
「私は人間ではなく、戦闘機人ですよ?」
「そんなの関係ありません!!」

 また大声を出す隼樹。
 隼樹は目をそらさず、ドゥーエを見つめて返事を待つ。自分の中にある勇気を絞り出して、ドゥーエに想いを伝えた。どんな結果だろうが、後はドゥーエからの返事を待つのみだ。
 まだ1分も経っていないが、隼樹には5分以上経っているように感じた。
 そしてドゥーエが口を開いた。

「……本気なんですか?」

 ドゥーエが喋った瞬間、隼樹は背筋を伸ばした。

「本気です!」

 緊張してるせいか、隼樹の声は少し上擦っている。
 隼樹の返事を聞くと、ドゥーエは口に手を当てて小さく笑みを浮かべた。
 戦闘機人の私を怖がる所か、好きになるなんて──。この分だと、ウーノや妹達にも好意を抱いてる可能性がありますね。

「ふふふ。変わった人ですね、貴方は」
「え……?」
「そうですねぇ。もう少し男を磨いたら、お付き合いしてあげます」

 人差し指を立てて、ドゥーエが条件を言った。

「男を磨く……?」

 隼樹は首を傾げる。
 “男を磨く”とは、具体的にどういう事だろうか?外見を変えるとかだったら、絶望的だ。整形手術を行えるだけの、お金などない。
 そんな隼樹の考えを見透かしたかのように、ドゥーエが口を開いた。

「顔など外見を磨く、という事ではありませんよ?磨くのは中身の方です」
「中身……ですか?」

 言われて隼樹は、顔を俯いて考え込む。
 ふとドゥーエは、隼樹がウーノや妹達にも好意を抱いているのか気になり、確かめたくなった。

「それじゃあ、ウーノや妹達の方も頑張ってくださいね」
「えっ!?何で……!!」

 ドゥーエの言葉に動揺しまくる隼樹。
 図星ですね。隼樹さんったら、解りやすい人。
 微笑みを浮かべて、ドゥーエは隼樹に背を向けて歩き出した。顔を上げて、青空を眺める。

「ふふ。面白い人が加わりましたね」

 ドゥーエは、上機嫌で道を歩いて行った。


*


 隼樹とナンバーズは、騒がしくも楽しく、幸せな日々を過ごしていた。だが、隼樹もナンバーズもスカリエッティも、誰も気付かない。恐ろしい危機が、ゆっくりと着実に近づいている事に、誰も気付かない。
隼樹「え?恐ろしい危険って何?オリジナルの敵キャラとか出るの?それとも機動六課?どっちにしても俺、大丈夫なの?」


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