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スカリエッティやナンバーズと一緒に生活する事になった隼樹

はてさて、どうなることやら
第二話:ギャフン
ベッドに横になった隼樹は睡魔に襲われて、いつの間にか眠っていた。
しばらく眠っていると、チンクが部屋にやってきて起こされた。夕食の準備が出来たようだ。
チンクに起こされ、頭をぽりぽりと掻きながら隼樹は立ち上がった。寝起きでフラつく足取りで、チンクの後を歩いていく。ボーッとしていた頭が覚めていき、隼樹はある事を思い出した。自分は元の世界で、朝食を食べたばかりなのだ。
しかし、今更食事を断る訳にもいかないので、夕食を食べる事にした。
まぁ、食事の量を少し減らしてもらえばいいか。
欠伸をしながら、隼樹はそう思った。


*


二人は食堂へとやってきた。既に他のメンバーは、席に着いている。ただ、その中にスカリエッティとウーノの姿はなかった。どうやら研究室にいるようだ。
二人がテーブルに近づくと、全員の視線が一斉に隼樹に向けられる。全員の視線を受けて、隼樹はビクッと体を震わせた。

「どうした?早く座れ」

チンクに言われて、ぎこちない動作で隼樹は席に座った。
企業の面接の時以上の緊張感とプレッシャーを感じて、隼樹の体がかすかに震える。かきたくもないのに、嫌な汗をかいてしまう。
何なんだよぉ?何なの、この今までに感じた事がない、圧倒的な緊張感とプレッシャーは!?超帰りてェェ!!

「それじゃ、紹介するぞ」

チンクによる、ナンバーズの紹介が始まる。

「No.3のトーレとNo.4のクアットロ」

紫色のショートヘアで、鋭い目をしてる女性が、トーレ。何かリーダー的な感じがする。
栗色の髪を両脇で結び、眼鏡をかけてる女性が、クアットロ。あっ、俺と眼鏡キャラ被ってるじゃん!まっ、いいか。
トーレは無愛想な顔をして、クアットロはニコニコ笑っている。

「No.6のセインに、No.9のノーヴェとNo.10のディエチ。最後にNo.11のウェンディだ」

薄緑色の髪の女の子が、セイン。あっ、出口の前で俺を捕まえた女の子だ。
赤髪の女の子が、ノーヴェ。気の強そうな女の子だ。あれ?何か苛立ち気味じゃね?俺、何か悪いことした?
茶色のロングヘアーを、黄色いリボンで後ろで縛っている女の子が、ディエチ。何かおとなしそうな感じだな。
濃いピンク色の髪を後ろでまとめている女の子が、ウェンディ。この娘も可愛いなぁ。

「つ、塚本隼樹です。よろしくお願いひ……」

噛んだ。
最後に隼樹が自己紹介をして締めようとしたら、噛んだ。
食堂が、シーンと静まる。
隼樹は恥ずかしさと混乱で、顔が真っ赤になり、顔を俯いた。
か……噛んじまったァァ!最悪だァァ!スッゲー恥ずかしい!これ何の罰ゲームだよ?穴があったら入りたい。

「ぷっ。ははははは!じゅ、隼樹。お前、今噛んだのか?」

チンクが腹を抱えて笑う。

「あははははは!よ、よっぽど緊張してたんだね!」

セインも大笑いしてる。

「ダメッスよ、セイン。そんなに笑ったら、隼樹が可哀相っスよ!くくく!」
「そう言うウェンディちゃんだって、うふふふふふふ!」

ウェンディも、手で口を塞ぎながらも笑い、クアットロも笑っている。
トーレ、ノーヴェ、ディエチの三人は、必死に笑いを堪えている。
ナンバーズの笑っている姿を見て、隼樹はトマト並に顔が真っ赤になった。
ああ、確かに俺が悪いさ。噛んだのは、俺の失敗さ。だけどさぁ、そんなに笑わなくてもよくね?そんなに噛んだ俺は面白かったですか?これイジメじゃね?ああ……もう死にたい。いっそ殺してください。

「……すいません。死んでいいですか?」
「わ、悪かった。そう落ち込むな。くくく」

まだ笑うか!
ちくしょう!お前ら覚えてろよ。いつかギャフンと言わせてやるからな!あれ?前が霞んで見えない。
隼樹の目から、一筋の涙が流れた。


*


結果的に、隼樹が言葉を噛んだ事で、場の雰囲気は和らいだ。
計画通り!そう。これは計画通りなんだ、と無理矢理ポジティブに考える隼樹。
挨拶も済んだところで、食事が始まった……のだが──。

「え?何ですかコレ?」

テーブルの上に用意されている夕食を見て、隼樹は首を傾げた。

「何って、夕食だが?」

とチンクが答えた。
いやいやいや、コレおかしいよ。
だってコレ──。

「クッキーじゃね?」

四角いクッキー的な物が三枚、皿の上にあるのだ。皿の隣には、水が入ってるコップが置いてある。
ホワッツ?何故、夕食にクッキーが出るんだ?

「あの……ご飯、白米は?」
「ないぞ」
「味噌汁は?」
「味噌汁?何だそれは?」

チンクの答に、隼樹は目を丸くする。

「我々にとって、食事はただの栄養補給に過ぎん」

と言って、クッキー的な物を食べるトーレ。
他のメンバーも、普通に食べている。
て事はアレですか?このクッキーみたいな物は、キャロリーメイト的な物ですか?エネルギー補給できるなら、何でもいいのか?むぅ……これはちと問題だな。つーか、ノーヴェのキャロリーメイトの量がハンパないんだけど。
隼樹が悩みながらコップに口をつけると、クアットロが声をかけてきた。

「あらぁ?『隼ちゃん』は食べないのかしらぁ?」
「ぶーっ!!?」

吹いた。
クアットロに声をかけられた直後、隼樹は口の中にある水を盛大に吹いた。しかも吹いた水は、前にいるノーヴェにかかってしまった。次の瞬間、ノーヴェは額に青筋を立てて怒り出す。

「てんめぇ、隼樹!何しやがる!!」
「すいません!すいません!本当にすいません!!」

隼樹は高速で頭を下げて、ノーヴェに心から謝罪した。
近くにいるセインとウェンディが、ノーヴェをたしなめる。
ノーヴェに謝った後、隼樹はクアットロに顔を向けた。

「クアットロさん!何ですか、さっきの呼び方!?」
「あら〜、隼樹って呼ぶより、こっちの方が可愛いでしょ?隼ちゃん」
「嫌だァァァ!恥ずかしい!お願いですから、その呼び方はやめて下さい!!」

隼樹は顔を赤くして、頭を抱えて悶える。
そんな隼樹に、クアットロの追撃。

「隼ちゃん♪」
「嫌ァァァァァァ!!殺せェェ!俺を殺せェェェェ!俺が死ねば全て解決だろォォォォ!!」

恥ずかしさに耐えきれず、隼樹はテーブルに突っ伏して顔を隠した。

「隼樹、落ち着け!」
「クアットロ。からかうのもそれ位にしておけ」

すっかり落ち込む隼樹を励ます役になったチンク。トーレもクアットロを注意する。
その後、何とか隼樹は立ち直って、夕食を再開した。


*


夕食を食べ終わり、雑用の隼樹が皿とコップを洗う。一応、台所はあるが、誰も料理を作れないらしく、食器洗い以外に使われる事はないらしい。
食器を洗い終わって、隼樹は台所を出た。通路に出て、隼樹は気付いた。
道がわからない。
此処の通路は迷路みたいで、来たばかりの隼樹には道がわからない。

「隼樹」

どうしようか迷っていると、ウェンディがやってきた。

「ドクターが呼んでるから、一緒に来てほしいっス」
「あ、はい」

俺はウェンディの後をついていった。
歩いていると、ウェンディが声をかけてきた。

「どうっスか?ちょっとは慣れたっスか?」
「い、いえ。まだ……」
「そんな硬くならなくていいっスよ」
「は……はい」

はいと返事をするものの、隼樹はどこか緊張した様子をしている。
女性に対する免疫が少ない彼にとって、大勢の女性に囲まれたり、女性と二人っきりになるのは苦手なのだ。
それでも隼樹は、勇気を出して声をかける。

「あの……ウェンディさん」
「ああ、あたし達の事は呼び捨てでいいっスよ。さん付けされると何か落ち着かないっスから。あと、敬語もいらないっスよ」
「わ、わかりまし……わかった」

少し戸惑いながら、隼樹は答えた。

「それで、何か聞きたい事があったんじゃないっスか?」
「ああ、そうだった。その……ウェンディ達って、いっつもその服装なの?」
「そうっスよ」

ウェンディ達は、体にピッタリとフィットしたボディースーツを着ている。始めて会った時も、この恰好だった。

「普段着とかは?」
「ないっスよ。これしか着る物ないっスから」
「マジで?」
「マジっス」

ウェンディの答を聞いて、隼樹は悩む。

「何か問題あるっスか?」

ウェンディは首を傾げる。

「うん……まぁ……」

大アリだ。
ただでさえ女性に免疫がないのに、そんな恰好をずっと見る事になるなんて……。正直、落ち着かない。何か対策を考えねば──。
会話をしている内に、スカリエッティの研究室の前に着いた。

「それじゃあ、あたしは用事があるから」
「ああ、ありがとう」

隼樹の礼に手を振って返して、ウェンディは去っていった。
一人になった隼樹は、若干緊張しながら研究室の扉を開けた。

「やぁ、待っていたよ」

デスクの椅子に座っているスカリエッティが、体をこちらに向けた。

「何か用ですか?」
「キミの携帯電話の改造が終わったから、返そうと思ってね」
「え?改造!?」

スカリエッティは白衣のポケットから、隼樹の携帯電話を取り出した。

「キミの携帯電話を改造して、通信機にした。これで私やナンバーズ達と連絡がとれるし、モニターを出す事も出来る」
「モニター?」
「試してみるかい?ウーノ。彼に使い方を教えてあげなさい」
「はい」

スカリエッティの指示で、ウーノは隼樹に通信機の使い方を教える。美人のお姉さんに教えられて、隼樹はドキドキする。
通信機の操作は、思っていたよりも簡単だった。ウーノに教えられた通りに操作すると、通信機の上にモニターが現れた。

「おおっ!」

モニターを見て、隼樹は感動の声を出した。

「操作の仕方は覚えましたか?」
「はい。ありがとうございます」

ウーノに礼を言って、モニターを消した。
最初は“何勝手に改造しとんじゃァァァ!”と内心怒っていたが、ハイテク機能が付いて上機嫌となる。

「ドクター。ありがとうございます」
「なに、礼には及ばないよ」

いやいや、これは凄いよ。元の世界にいる、俺の友達に自慢してやりたいよ。
ドクター。さっきは嫌な奴とか思ったりして、すいませんでした。

「用はそれだけだよ」
「はい。失礼します」

通信機となった携帯電話をポケットにしまい、隼樹は部屋を出ようとする。そこで、スカリエッティから声をかけられた。

「隼樹」
「はい?」

隼樹は足を止めて、振り返った。

「キミの携帯電話の中は、実にエロスで一杯だね」

スカリエッティは、グッと親指を立てる。
ぐわぁぁぁぁぁぁ!!コイツやっぱり、画像見てやがったァァァァ!!
スカリエッティの隣にいるウーノは、うっすら頬を赤くしている。
ウーノさんも見たんか!?
俺は恥ずかしさに耐えきれず、ダッシュで部屋を出て、扉を勢いよく閉めた。
ちくしょう!アイツやっぱり嫌な奴だ!敵だ!いつかギャフンと言わせてやる!
荒れた気持ちのまま、隼樹は歩き出した。だが、すぐにその足は止まった。
道がわからない事を思い出す。適当に歩いても迷うだけだ。
通信機を使って、ナンバーズの誰かに助けを求めるか考えた。
その時、どこからか音が聞こえてきた。

「ん?」

不審に思いながら、隼樹は音がする方へ歩いていく。
扉が開けっ放しの部屋を見つけて、入口から室内を覗き込む。
「……!?」
室内を覗き込んで、隼樹は驚いて目を見開いた。
室内では、ナンバーズの戦闘訓練が行われていた。トーレ、チンク、ノーヴェの三人が組手をしている。チンクは、黒いナイフのような物を手に持っている。二人に向けて放つと、ナイフが爆発した。トーレは紫色の刃のような物を出して、目にも止まらぬスピードで動く。ノーヴェも力強い攻撃をはなっている。
少し離れた所で、ウェンディとディエチ、セインも訓練をしている。
ウェンディは、サーフィンボードのような物を構えて、照準を合わせて濃いピンク色の弾を放つ。セインは、硬い床に潜って弾を避ける。ディエチは、何やら重量感のありそうな大きな重狙撃砲を構えて、エネルギー弾のようなモノを発射した。
ナンバーズの激しい戦闘訓練の様子を見て、隼樹は思った。
──ああ、彼女達は俺の手に負える人達じゃないんだ、と。
ナンバーズをギャフンと言わせるのは、無理だと悟った。
そんな事を思っていると、チンクの放ったナイフが一本、隼樹の方へ飛んできた。
そして次の瞬間、ナイフは爆発した。

「ぶべしゃ!!」
「えっ!?」

訓練に集中していたナンバーズは、悲鳴を聞いて初めて隼樹の存在に気付いた。
爆発を受けた隼樹は、黒焦げになり、仰向けに倒れた。

「隼樹!!」

慌ててナンバーズが駆け寄る。

「隼樹!しっかりしろ!」
「大丈夫っスか!?」
「お〜い。生きてるか〜?」

ナンバーズが声をかける。
隼樹はうっすらと目を開けて、自分に声をかけているナンバーズを見る。
そして隼樹は、最後の力を振り絞って言った。

「……ギャフン」

そこで意識は途切れて、暗闇に包まれた。


*


意識が戻って、目が覚める。顔に痛みを覚えながら、今の自分の状況を確認する。どうやら自分は、ベッドに寝かされているようだ。

「気がついたか?」

横から声をかけられ、そちらに顔を向ける。
そこには、椅子に座って隼樹を見ているチンクがいた。

「チンク」

上体を起こそうとして、痛みが走って動きを止める。隼樹の顔や体には、包帯が巻かれていた。

「無理をするな。寝ていろ」
「……はい」

チンクに言われて、隼樹は横になった。

「全く。扉を開けっ放しにしていた私達にも落ち度はあるが、お前も勝手に訓練場には入るな」
「……すいません」

隼樹は素直に謝った。今回は、完全に自分の不注意だ。隼樹はそう思った。

「……だがまぁ……大した怪我じゃなくてよかった。威力を弱めていたのが、不幸中の幸いだな」

安心した顔で、チンクが言った。

「他の姉妹も心配していたぞ」

その言葉を聞いて、隼樹はチンクを見た。みんなが自分の心配をしていたと知って、少し嬉しくなった。
同時に、チンク達の事が知りたくなった。

「……チンク」
「何だ?」
「チンク達は、何者なんだ?」

隼樹の質問を聞いて、チンクは真剣な表情になる。
数秒の沈黙の後、チンクが重い口を開いた。

「身体能力を強化させる為に、人体に機械部品をインプラントした存在。戦う為に造られた存在。それが私達『戦闘機人』だ」

チンクが、自分達の正体を話した。
話を聞いた隼樹は、特に驚かず納得した顔をする。

「漫画とかに出てくる、人造人間みたいなモノか……」
「漫画?」
「俺の世界にある、絵と文字が一緒になってる本です」
「そんな物があるのか……。というか隼樹。私達の事を知って、怖がらないのか?言わば私達は、人を殺す為の兵器なんだぞ?」

怪訝な表情で、チンクが尋ねた。

「確かに訓練の様子を見た時は、ビックリしたよ。開いた口も塞がらなかったし。でも怖くはない」
「どうしてだ?」
「どうしてって……」

途端に隼樹は、顔を赤くして黙ってしまう。
何故黙ってしまうのか理由がわからず、チンクは首を傾げる。
いつまでも黙っている訳にはいかないと考え、意を決して隼樹が口を開いた。

「……チンク達が、可愛いから」
「は?」

隼樹の答えに、チンクはポカンとなる。
赤くなっている隼樹の顔を見て、チンクは呆れたように溜め息をついた。

「やれやれ。お前の事が、大体わかってきたよ」

チンクは席を立って、部屋の出入口に向かう。
扉の前で止まる。

「……まぁ一応、礼を言っておく」

振り返って隼樹を見る。

「ありがとう」

チンクは優しく、そして少し嬉しそうに微笑んだ。
次回、隼樹はある改革を実行する!

その改革とは?


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