どうも。不器用なくせに、二本の作品を書いている赤夜叉です。
主人公は魔法も使えない、ただの一般人です。最強ではなく、むしろ作中最弱です。まぁ、ちょこちょこっと強くなると思います。でも魔法は覚えません。
第一話:ナンバーズの皆さん、こんにちは
隼樹は、呆然となって突っ立っていた。
さっきまで確かに駅前に居たハズなのに、何故か今は見知らぬ通路に居る。一体全体、何がどうなっているのか、訳がわからず頭の中が混乱でいっぱいになる。
落ち着け、落ち着け。
心の中で自分に言い聞かせながら、隼樹は深呼吸をして気持ちを落ち着かせようとする。息を吸って吐いてを何回か繰り返し、少しは落ち着いてきた。
落ち着いたところで、隼樹は何が起こったかを思い出す。駅前で赤い玉を拾って、ソレが突然、光出して思わず目を閉じた。そして光が収まって、目を開けたらこの通路に立っていた。
「……全然わかんねぇ」
手に持っている赤い玉を見て、隼樹は呟いた。
見知らぬ通路にいるのは、この赤い玉が原因かもしれないが、どういう原理で此処に移動したのかが全く解らない。
隼樹は溜め息をつきながら、赤い玉をポケットにしまった。とりあえず、連絡をとろうと考え、鞄の中から携帯電話を取り出す。畳んである携帯電話を開き、画面を見て隼樹は顔を顰めた。
「け……圏外!?」
画面の左上の方に『圏外』と表示が出ている。
「マジで?電波ないの!?」
携帯電話を片手に、右へ左へ歩き回るが、表示は『圏外』のままである。
諦めて、携帯電話を鞄の中に戻した時だった。突然、警報のような音が鳴り響いた。
「えっ!?何?何!?」
警報の音に驚いた隼樹は、慌てて首を左右に振る。
「も、もしかして俺か……?俺のせいなのか?俺が原因?」
自分を指差して、隼樹は言った。
警報の音が鳴り響く中、隼樹の中にあった不安がどんどん大きくなっていく。
どうする?もし、この俺が原因で警報が鳴っているとしたら、間違いなくマズイ。
どう行動すべきか悩んでいたが、すぐに隼樹は結論を出した。
──俺がやるべき事など、最初から決まっている。誰でも出来る、実にシンプルな行動だ。
「逃げる!!」
思いっきり床を蹴って、隼樹は走り出した。
此処はどこで、帰る方法などを考えるのは後回しだ。どこをどう進めば出口に辿り着けるのかなんて、考えてる余裕はない。とにかく走る。ネクタイを緩めて、ワイシャツの一番上のボタンを外す。
出鱈目に走っていると、通路の先に一筋の光を見つけた。
「よしっ!出口だ!!」
出口を見つけた安心感と嬉しさのあまり、隼樹は思わず大きな声を出してしまった。
出口と思われる光に向かって、一直線に走る。
もう少しで外に出られる、と思った時、信じられない事が起こった。
突然、右側の壁から一人の女の子が現れたのだ。
「おおおっ!!?」
堅い壁から、人間がすり抜けるように現れたという信じられない現象を目の当たりにして、隼樹は思わず足を止めた。
「つっかま〜えた」
可愛らしい声と共に、女の子は隼樹を捕まえた。
「わっ、わっ、わっ……!!」
女の子と体が密着して、隼樹は顔を真っ赤にして興奮と混乱がごっちゃになる。
「セイン!捕まえたっスか?」
すると、走ってきた方から別の女の子がやってきた。
「捕まえたよ〜」
隼樹を捕まえた女の子──セインが後からやってきた女の子に答えた。
「な……何なんだ……?」
訳がわからないと言った顔で、隼樹は呟いた。
*
「あの……ホントに、すす、すいませんでした」
出口を目前にして捕まった隼樹は、セイン達にある一室に連れて来られた。
床に正座してる隼樹を中心に、七人の女性が取り囲んでいる。その中には、あのセインという女の子の姿もあった。女性はみんな、青と紫を基調としたボディースーツを着ている。
「俺──いや、私もしたくて侵入した訳ではなくて……何か事故みたいな感じで……気がついたら此処にいて…………本当にスイマセンでした!!」
彼女達から降り懸かる無言のプレッシャーに耐えられず、隼樹は頭を下げて謝罪した。
ヤバイ!この状況は、どう考えてもヤバ過ぎる!何かみんな、どっかの悪の組織の戦闘員みたいなスーツ着てるし、此処は何か悪の組織の秘密基地みたいだし、俺、捕まっちゃったしぃ!
この時、隼樹は、これは夢ではないかと疑った。
だが、疑った時点で、これは夢ではないとわかった。当然、彼も夢を見るが、夢の中で『これは夢だ』と自覚した事は一度もない。もちろん、疑った事もない。
つまり今“これは夢か?”と疑ったという事は、これは夢でない可能性が高い。
よく夢か現実か判断するために、指で頬を抓ったりするが、アレはあまり意味のない行為だと彼は思っている。確か夢の中でも、痛みを感じたハズだからだ。
とにかく今は、彼女達を刺激しないようにしなければ、と隼樹は考えていた。
「やぁ、待たせたね」
そこへ、白衣を着た紫色の髪の男がやってきた。男の隣には、薄い紫色の長髪の女性が立っている。
「自己紹介が、まだだったね。私はジェイル・スカリエッティ。隣にいるのは、私の秘書をしてもらっているウーノだ」
白衣の男──スカリエッティが、自分と隣にいる女性──ウーノの紹介をした。
「つ、塚本隼樹です」
隼樹も少し頭を下げて、自己紹介した。
「キミが拾った赤い玉を調べたよ。どうやら、コレは時空移動型のロストロギアのようだ」
隼樹から受け取った赤い玉を見て、スカリエッティが言った。
時空移動型?ロストロギア?
聞き覚えのない単語を耳にして、隼樹は首を傾げる。
「次元空間の中には、幾つもの世界が存在する。ロストロギアとは、簡単に言えば他の世界よりも進化しすぎた世界の危険な技術の遺産。種類にもよるが、中には次元空間を滅ぼす程の力を持った物もある」
スカリエッティの説明を聞いて、ポカンとなる。
おいおい、まるで漫画みたいな代物だな──というのが隼樹が抱いた感想だった。
「このロストロギアとキミの所持品などを調べた結果、キミは別の世界からきた『次元漂流者』であると判断した。管理局の人間と疑って、すまなかったね」
その言葉を聞いて、隼樹はホッと一安心した。
部屋に連れて来られた時から『貴様!管理局のスパイか!?』と散々問い詰められた。管理局という組織がどういうモノか解らない隼樹は、とにかく自分は管理局の人間ではないと主張し続けた。
別世界へやってきたなんて未だに信じられないが、此処へやってきた原因が解り、誤解も解けた。これでやっと解放される。元の世界へ帰れる。
そう思って隼樹は、口を開いた。
「それじゃあ、その赤い玉をもう一度使えば、元の世界に帰れるんですね?」
「……非常に言い難いのだが……」
非常に言い難い、と言いながらスカリエッティは全く困った様子をしていない。むしろ少し笑っていた。
「このロストロギアは、魔力が空になっている。どうやら、一度限りの使い捨てのようだ」
「え?って事は…………」
「キミは、元の世界には帰れない」
さらりとスカリエッティが言った。
それに対する俺の反応はというと──。
「はぁ……そうですか」
特に落ち込んだ様子もなく、素っ気ない返事をした。
俺の反応が思っていたのと違ったのか、スカリエッティは片眉を上げた。俺を囲んでいる女性達も、意外そうな表情をしている。
「……感想は、それだけかね?」
「はい」
「ショックではないのかね?」
「全くないと言えば嘘になりますが、あんまりショックはないですね。元の世界に未練はないですから」
俺の答えを聞くと、スカリエッティは、むぅと顔を顰めた。
どうやら、元の世界に帰れない事にショックを受けて落ち込む俺の姿を楽しみにしていたようだ。ふふん。残念だったな。俺は元の世界には、何の未練もない。むしろ最高じゃないか。これで、面倒な就活ともオサラバできるのだから。あっ、未練あった。漫画とかゲームとかアニメとか。もっと友達とモ○ハンしたかったなぁ……。
俺がそんな事を思っていると、スカリエッティは何か思いついたらしく、ニヤリと笑みを浮かべた。
「では隼樹。此処に住まないかい?」
「は?」
スカリエッティの突然で意外な提案に、隼樹は間抜けな声を出した。
ウーノや周りにいる女性達も、驚いた顔をしている。
「ドクター!本気ですか?」
隼樹を取り囲んでいる女性の一人が、スカリエッティに聞いた。
「もちろんさ」
即答するスカリエッティ。
呆然としてい隼樹は、ハッと我に帰る。
「いや、無理無理無理!無理です!っていうか、何で俺が一緒に住まなくちゃいけないんですか!?」
「この場所を、他の者に知られる訳にはいかないからだよ」
「いや、だったら俺の記憶の中から、此処に関する記憶を消して、外に出せばいいじゃないですか!」
俺がそう言うと、スカリエッティは口元を吊り上げて笑みを作った。
「ふむ。私はそれでも構わないが、キミはいいのかい?」
「え……?」
何となく嫌な予感がして、隼樹は思わず少し後ずさった。
「外に出て、この世界に来たばかりのキミに衣食住のアテはあるのかい?」
「………………」
言われて隼樹は、顔を少し俯ける。
確かに、此処を出たら他にアテはない。一応お金は持っているが、世界が違うから多分使えない。
「それとキミは、先ほど記憶の消去を提案したが、下手をしたら全ての記憶を失う事になるかもしれないぞ?いや、それどころか私はキミの記憶をいじくったり、他にも様々な実験を試みたりするかもしれないよ?」
「……っ!!」
スカリエッティの言葉に、隼樹はバッと顔を上げた。
つまり、自分という存在をスカリエッティに思うように弄ばれるという事だ。
スカリエッティは、実に楽しそうな笑みで隼樹を見ている。
何ですか、その顔は?そんなに人を追い詰めて楽しいですか?
隼樹は、恨めしげにスカリエッティを睨む。
選択肢は二つ。スカリエッティに従って此処に住まうか、スカリエッティの実験体になるか。
「……此処に住むって言えば、俺に危害は加えないんですね?」
「ああ。その代わり、キミには雑用をやってもらうがね」
とスカリエッティが答えた。
正直、此処に住む事にも不安はあるが、実験体になるよりはマシだよな。
そう考えて、隼樹は結論を出した。
「此処に泊まらせて下さい」
隼樹が頭を下げた。
「ようこそ、塚本隼樹」
スカリエッティは、両手を広げて隼樹を迎えた。
周りにいる女性達の何人かは、まだ納得していない感じである。
「それじゃあ……チンク。キミが、彼を部屋まで案内してくれたまえ」
「はい」
歳は十歳ちょい過ぎくらいで、背が低く、銀色のロングヘアで、右目に黒い眼帯をつけている少女、チンクが答えた。
「隼樹さん。鞄をお返しします」
「あ、どうも」
隼樹は、ウーノから鞄を返してもらった。
「では行くぞ」
「あっ、はい」
呼ばれて隼樹は、チンクの後ろに駆け寄った。
するとスカリエッティが、隼樹に声をかけた。
「そうだ、隼樹。キミの携帯電話、私が預からせてもらうよ」
「はあ!?」
顔を上げてスカリエッティを見る。
彼の右手に、隼樹の携帯電話が握られていた。
「ちょっ……何で!?返してください!」
動揺しながら、隼樹はスカリエッティから携帯電話を取り返そうとする。
「チンク。早く彼を部屋へ案内してあげたまえ」
「はい。行くぞ、隼樹」
隼樹の腕を引っ張って、引きずるように連れて行く。
「ちょっと待ってェェェ!あの携帯電話の中には、恥ずかしい画像が……!!」
引きずられながらも、隼樹は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ハッハッハッ。安心したまえ。中身は見ないよ」
笑顔でスカリエッティが言った。
隼樹は絶望した。
あの笑顔……絶対見る気だ。
「返せェェェ!プライバシーの侵害だァァァァァ!!訴えてやるゥゥゥゥゥゥ!!」
隼樹の叫び声が、空しく部屋に響いた。
*
スカリエッティの研究室を出て、チンクは隼樹を連れて通路を歩いていた。
「隼樹。まぁ、なんだ……元気を出せ」
通路を歩きながら、チンクが隣で落ち込んでる隼樹を励ます。
スカリエッティに携帯電話を奪われてから、隼樹は顔を俯いて落ち込んでいる。通路を歩く足取りも重い。
もう嫌だ。よりにもよってスカリエッティとかいう、人をイジめるのが大好きそうな奴に携帯電話を奪われるなんて……。
絶対アイツ、携帯電話の中にある恥ずかしい画像見て、それをネタに弄ってくるよ。最悪だよ。
「着いたぞ」
二人は、隼樹が使う部屋の前に着いた。
扉を開けて、部屋の中に入る。ベッドと机だけという、余計な物がないスッキリとした部屋だった。
「私の部屋はすぐ近くだから、何かあったら呼べ」
「は……はい」
隼樹は、元気なく返事をする。まだ携帯電話の事を引きずっているようだ。
まだ落ち込んでる隼樹を見て、チンクは溜め息をついた。
「いつまでも落ち込むな。男だろう?」
そう言って、チンクは微笑んだ。
チンクの微笑みを見て、隼樹は顔を赤くする。
「あ、はい……すいません」
「ん?顔が赤いが、大丈夫か?」
チンクが隼樹の顔を覗き込む。
チンクの顔が近づいて、隼樹の顔は更に赤くなり、動揺する。
「だ、大丈夫です!よく赤くなるんです!ホントに大丈夫です!」
「そうか」
そう言って、チンクは隼樹から離れた。
「ああ。自己紹介がまだだったな。私はNo.5のチンクだ」
「No.5?」
チンクの自己紹介に、隼樹は首を傾げた。
「私達は『ナンバーズ』という、ドクターに造られた『戦闘機人』だ」
「ナンバーズ?戦闘機人?」
またも、聞き慣れない単語が出てきた。
「まぁ、そこら辺は後で説明しよう。もうすぐ夕食だから、部屋で休んでおけ」
そう言って、チンクは部屋を出ていった。
部屋に一人残った隼樹は、ベッドの上に座った。そして、溜め息をつきながら横になり、今までの出来事を思い出す。
駅前で、ロストロギアと呼ばれる赤い玉を拾って、この世界にきた。ナンバーズと呼ばれる女性達と出会った。もう元の世界に帰れない。他に行くアテはなく、彼女達と一緒に住む事になった。
「俺……此処でやっていけるかな……?」
胸に不安を抱いて、隼樹は小さな声で言った。
ふと、さっきのチンクと呼ばれる少女の姿が思い浮かんだ。
ドクターの指示とは言え、初対面で得体の知れない俺に接してくれて、優しく微笑んでくれたチンク。
「可愛かったなぁ……」
ぽつりと隼樹は呟いた。
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