隼樹「『ナンバーズ〜魔法が使えない男リベンジ!〜』最終回、始まります」
エピローグ
色々あって、俺は牢獄の隅っこに蹲っていた。
いや、マジで酷ぇ話だぜ。
俺はただ、ナンバーズが逮捕されて離れ離れになる未来を変えたかっただけなのに、結果こうしてブタ箱入りだ。意味が分かんない。そりゃあ、一時のテンションに身を任せた俺自身にも責任はあるけどさ、マジでブタ箱にぶち込まなくてもよくね? だってさ、事件の黒幕暴いてやったのよ? 理由はどうあれ、結果的に管理局の膿を見つけてやったんだぜ? 寧ろ、俺に感謝すべきだろう。それなのに、こんなトコにぶち込みやがって腐れ税金泥棒共が。
「いっそ管理局なんて、滅んじゃえばいいんだ」
「もう滅びかけてるだろう、お前の行為で……」
俺の独り言に言葉を返したのは、一也だ。
まあ、そうなんだけどさ。俺が管理局のトップの実態を世間に明かした事で、組織への信用はスッカリ落ちてしまった。マスコミにも激しく叩かれて、組織は対応に困ったり、組織内で不信感が募ったり、色々揉めたりもして組織としての機能が充分に動いてないらしい。
ハッ、ざまあみろだ。善良な市民をブタ箱にぶち込んだ罰だ。せいぜい苦しむがいい。
「ああ、それにしても……退屈だ」
出れないもんはしょうがないとしても、ココの環境は問題だ。
だって、牢獄って何も無いんだぜ? テレビは勿論、雑誌やトランプなんかも無いのだ。生活に必要な最低限の物だけで、娑婆っ気のありそうな物は何一つ無い厳しい環境である。
辛い。
何も出来ない事が、これ程までに辛いなんて初めて知った。一部屋に二人だけど、相手が一也だから気まずくて殆ど何も話せない。
死ぬ。
精神的に死んじまう。
ちくしょう。珍しく頑張ってみたのに、何でこんな目に遭わなきゃならんのだ? 割に合わない、なんてレベルの話じゃねーぞ。くそっ、最後の最後でこの仕打ちはあんまりだぜ。
こうなったらアレだ、脱獄だ。
いや、無理か。まず、ココの鉄格子を何とかしなきゃいけないし、壁も分厚いから破壊は不可能。仮に牢屋を出れたとしても、出口までの道のりが全然分かんないしな。やっぱ、素人に脱獄は無理か。IQ高くて建築技術に詳しくないと、脱獄なんて夢のまた夢か。
ああ、なんて哀し過ぎるんだ俺の人生。泣いていい?
俺が自分の人生を哀れんでた時だった。突如、地震のような揺れが起こった。しかも、爆発音らしき音まで聞こえてくる。
「おわっ!? ビックリしたぁ……! 何何? 何事!?」
揺れと音に驚いた俺は、牢屋の中であたふたして首を左右に振る。まあ、そんな事しても牢屋から出れないんだから、様子をうかがう事すら出来ないんだけどね。
小心者の俺と違って、一也は冷静だ。床に腰を落としたまま、爆発音がした方を見つめている。
俺も視線を辿って、同じ方向を見る。
すると、視線の先にある壁にヒビが走り、亀裂となって広がっていった。
「え? えっ!?」
異常事態に、俺は完全にビビって頭の中はパニックだった。
一也の顔にも緊張が走る。
次の瞬間、亀裂が広がった壁はガラガラと崩れた。煙の中から、壁に出来た大きな穴が見えてきた。穴の先は暗くて、よく見えない。
その穴の中から、ひょっこりと何かが出て来た。
「隼樹、姉達が迎えに来たぞ」
「はっ!?」
咄嗟に身構えた俺達の前に現れたのは、意外な人物だった。
「チンク!? おま……何でこんな所に!?」
穴から出て来たのは、片目を黒い眼帯で隠した銀髪少女、ナンバーズのチンクだった。
「傷が癒えたのでな。全員でお前を助けにきたんだ」
「全員って……え? ナンバーズ全員ですか!?」
「そうだ。おっと、あまり長く時間をかける訳にもいかない。早く出るぞ」
「あ、ああ」
チンクに促されて、床を立って隣を向いた。
隣に居る一也は、チンクが空けた穴を見つめている。
少し逡巡してから、俺は口を開いた。
「一緒に来ますか……?」
「……」
返事は無い。
けど、外に出たいって気持ちは伝わってきた。
まあ、いいや。俺はチンクと一緒に出よう。一也は一也で、好きにすればいい。
俺はチンクと一緒に、穴を通って牢屋を出た。久しぶりにチンクの顔が見れて、嬉しかったのは内緒だ。
*
「隼樹! 無事で良かったっス!」
「久しぶり。元気だった?」
拘置所の外に出ると、ナンバーズとサードが勢揃いして俺を迎えてくれた。
「お、おお」
動揺しながらも、俺は返事をした。
「隼樹!」
「おおっ!?」
ウーノに抱きつかれた。
「隼樹……! 無事で良かったわ……!」
「ウ、ウーノさん……!」
いや、ウーノさん。泣く程心配してくれるのは嬉しいけど、その、他の人が見てる前で抱きつかれるのは、ちょっと……かなり恥ずかしい。それに良い匂いもするし、胸も当たってて俺の興奮ゲージも急上昇なんですけど。
「ちょっとウーノ! 時と場所を考えなさい!」
「ドゥーエさん……!」
「それに抱くのが長いわよ! 早く私と代わりなさい!」
「あれぇ!? 何か違くね!?」
いや、まあ、ドゥーエに抱きつかれるのも良いけど、今はそんな場合じゃないから。
だから、抱き付きはまた次の機会で。
「そうよ! アンタ達じゃなくて、私と代わりなさいよ!」とサード。
「いや、そうじゃなくて……アンタ等、マジで何やってんですか!? 助けてくれた事は嬉しいですけど……こんな事したら、折角無罪になったのに、また犯罪者に逆戻りっすよ!?」
ホントさ、俺の苦労が水の泡って感じだよね。誰の為に、ブタ箱ぶち込まれるまで頑張ったと思ってるんだ? 元々ぶち込まれる事なんて、考えてなかったけどさ。
しかし、疑問に思う俺とは対照的に、ナンバーズの面々は当然と言わんばかりに答えた。
「隼樹は、あたし達の為に頑張ってくれたから……今度は、あたし達が助ける番だって思って」と微笑むディエチ。
「そうよ~。それに、隼ちゃんが居ないと退屈なのよねぇ~」いつものニコニコ笑顔なクアットロ。
「私達姉妹が皆無事に一緒に居られるのは、貴方のお蔭です。だから、その貴方を助ける為なら、喜んで犯罪者にでも何にでも戻るわ」
うおおおおおおおおおおおお! ヤバい! 泣きそうだ! 皆、そんなに俺の事想ってくれてたのか。今まで生きてて、ここまで他人に想われて、これ程嬉しい事はねぇ。
「あらあら、嬉し泣きかしら?」
ウーノに優しく撫でられる。
おおおおおおおおおおおい! 既に泣いてんじゃねーかよ、俺! おかしいな? 俺、こんなに涙もろかったっけ? 何にしても恥ずかしい~! 牢獄の中とは別の精神的苦痛で、死ぬゥゥゥゥゥ!
「随分とベタベタしてるな、隼樹」
俺が羞恥心に悶えていると、後ろから声が聞こえた。
ソコには、俺達が通ってきた穴から出て来た一也が居た。
「藤堂……!」
ウーノから離れ、振り返って一也と向き合う。
一也は目を鋭くさせ、口を開いた。
「隼樹……今回は俺の負けだ……。だが、次はこうはいかない……! 必ず……次は必ず俺が勝つっ……!」
それだけ言って、一也は一人場を去っていった。
おいおい、漫画とかでよくある再戦フラグか? まあ、またなんやかんやで返り討ちにしてやるぜ。
「我々も、そろそろこの場を離れるぞ。局員に見つかると面倒だからな」
トーレの意見に頷き、この場を離れる事にした。
「ん?」
ふと俺達は、視界に人影を捉えて足を止めた。
「ギンガさん!?」
俺達の前に現れたのは、管理局のギンガだった。
ヤッベー、こんな早く局員と遭遇かよ。こんな所で足止め食ったら、局員が着ちまう。ったく、俺ってどこまでツイてないんだ。
表情を険しくさせる俺だったが、ギンガの口から予想外の言葉が出た。
「行って下さい」
「え……?」
あれ? 行ってって……行っていいの? マジで?
ギンガの思惑、真意が解らん。
「あの……いいんですか……?」
「ええ。貴方のお蔭で、事件が本当の解決を迎える事が出来ましたし……それに、お母さんの事も解りました」
ああ、そういやギンガのお母さんは、過去の戦闘機人事件で命落としたんだったな。詳しくは知らんけど、やっぱ背後に最高評議会がいたんだっけ。ついでに、レジアスとか言うオッサンも絡んでたとか無いとか。
まあ、いいや。俺には関係ねぇし。
「ですから、今回だけは目をつぶります」
ギンガは、横に動いて道を開けてくれた。
「あ、ありがとうございます」
礼を言って、俺達は道を走った。
「お元気で」
ギンガに見送られて、俺達は拘置所を後にした。
*
「やあ、親友よ! 無事で何よりだよ!」
「アンタも脱獄してたんかい……」
拘置所から離れた場所に着けば、俺と同じ囚人服を着たスカリエッティが、例の如く笑いながら迎えた。ホント、コイツはいつでもどこでも元気だな。
「つーか……お前等……」
俺は、スカリエッティの後ろに居る連中を見た。
アイツ等が──十数機のガジェットが居た。あの闘いで生き残ったガジェット達だ。
ガジェット達は、『おかえり』と書かれた旗を掲げて俺を迎えていた。
「うおお……うおおおおおおおお!」
ちくしょう! 感動で涙が止まらないぜ! お前等やっぱ、皆良い奴等だァァァァァァァ!
こんな良い奴等と、これからも一緒に居られる。
俺の人生も捨てたもんじゃねーな、と思った。
どうも、作者の赤夜叉です。
前作から読んでる方、今回初めて読んでくれた方、今までありがとうございました!
『魔法が使えない男』の『もしも』の最終回。前作は湿っぽい終わりでしたが、今回は比較的明るい感じにしました。
本作品はコレで終わりですが、これからもよろしくお願いします。
では。
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