隼樹「俺なんか、在なくてもいいんじゃないかって思ってた頃があった。そんな考えをしてたら、トーレに叱られて模擬戦までやらされて、ボロボロにされた。けど、その時にトーレに認められた気がして、嬉しかった。だから、こんな俺でも何か出来るんじゃないか、なんて思った。だから、こんな柄でもない事してるのかもしれない。『ナンバーズ〜魔法が使えない男リベンジ!〜』始まります」
No.19 決着
世の中には、誤算ってヤツがある。
どんなに綿密に計画を立てても、計算外の出来事がどうしても起きる時があるんだ。しかし、ソレが必ずしも悪い方とは限らない。
そして、俺の身に起こったのは嬉しい誤算だった。
一也の切り札の怪物に追い詰められ、絶体絶命の窮地に立たされた俺を助けてくれたのは、ココに居ないハズのドゥーエだった。
「ドゥーエさん!」
目に涙を一杯に溜めて、俺はドゥーエに抱き付いた。驚きよりも助かった安心感が大きくて、涙が止まらねぇ。
そんな俺を抱いて、頭を撫でるドゥーエはまるで姉のようだった。
「ば、馬鹿なっ……! な、何故お前がココに居る!? お前は地上本部で死ぬハズだっ!」
突然乱入してきたドゥーエを見て、俺と同じかソレ以上に動揺してるのは一也だった。まるで幽霊でも見るように、蒼ざめた顔をしてワナワナと震えている。
まあ、未来を知ってる奴なら当然の反応だよな。
ドゥーエは一也に顔を向け、不敵な笑みで言った。
「確かに、私は地上本部でゼストに殺されるハズだったわ……けど、その時、一機のガジェットが助けに入って命拾いしたのよ。当然、その後ゼストは始末したわ。殺しにかかってきたのだから、逆に殺されても文句は言えないものね?」
「な、何ぃ!?」
「マジっすか!?」
ドゥーエの語る真相に、一也と俺はほぼ同時に驚きの声を上げた。
──いや、殺っちゃったんすか、ドゥーエ!? しまったァァァァァァ! 人殺しは無しって方向の旨が、ドゥーエにまで伝わってなかったァァァァァ! 完全にミスったァァァァァ! でも、ちょっとスッキリした黒い俺が心の中に在る!
内心にもシャウトした俺は、複雑な心境を抱いた。
光学迷彩で姿を消したガジェットⅣ型を地上本部に向かわせ、ドゥーエを救出させる。作戦は上手くいってドゥーエは助かったが、まさかゼストを返り討ちで殺すとは……こいつはちと予想外だった。てっきり、そのまま逃げるものとばかり思ってたからな。
ただでは引かない、ソレがドゥーエか。恐い。そんな恐い女に抱き付いてんだよな、俺。
「ぐうっ……!」
一也の顔色が悪くなっていき、表情が歪んで歯を食いしばる。
ドゥーエの生存は、一也にとって完全に誤算だった。あともう少しで俺を仕留められたのに、思わぬ邪魔が入って奴の計画がどんどん狂っていく。
ん? 待てよ。さっきドゥーエは、一也の部下の女に変身してたよな? まさか……殺ってないよね?
正直、確認するのが恐いけど、気になる。
「ドゥ……ドゥーエさん?」
「何かしら、隼樹?」
「その……ドゥーエさんが変身してた元になった女の人なんですけど……その人はどうしたんですか?」
「ああ、彼女なら廊下で眠ってるわ」
そこで俺は唾を飲み込み、自然と声を潜めた。
「……殺しっすか?」
「気絶よ」
心外とばかりに、ドゥーエは顔を顰めた。
いやだって、ゼスト殺しが発覚した後じゃ嫌でも殺しの可能性を考えちゃいますよ。でも、まあ、結果手にあの女は殺してないみたいだから、良しとしとくか。ゼストはご愁傷様だけど……。
「くっ……! ガルマっ!」
一也の声で、俺はハッと気付く。
そうだった。ドゥーエ生存に喜んで忘れてたけど、まだ状況は変わって無かった。あの化け物がいるんだ。
「隼樹。下がってなさい」
ドゥーエの顔からも笑みが消え、真剣な表情でガルマと対峙する。
ガルマは、ドゥーエにさされた腹の傷を右手で押さえて、無言で突っ立っていた。傷を負っても悲鳴一つ上げないところが、何か不気味だ。
「ソイツ等を殺せっ!」
一也の命令を受けたガルマは、走り出した。
猪のような突進で距離を詰め、空いてる左手を振り上げ、鋭い爪で切り裂こうと振り下ろす。しかし、ドゥーエが後ろに避けた事で空振りとなった。
ドゥーエの奇襲で受けた傷が響いてるのか、動きが明らかに鈍っていた。
これならイケるか? と思った。
相手の一撃を避けたドゥーエが、鉤爪のような固有武装の突きを繰り出す。だが、彼女の攻撃も決まらなかった。鉤爪の切っ先がガルマの体に届く寸前で、障壁に阻まれたのだ。
「くっ……!」
攻撃を防がれ、ドゥーエの顔が険しくなる。
くそっ、やっぱ状況は好転してねーな。ドゥーエは戦闘機人だけど、主に潜入任務に特化してるから戦闘能力は、そんなに高く無い。そりゃ、並の魔導師とかなら退けるだろうけど、相手は並も大盛りも超えた化け物だからな。魔導師や戦闘機人とも一線を画してるあの化け物と、正面から闘り合って勝つのは難しい。
ドゥーエの一撃で動きが鈍ったとは言え、厄介な相手である事に変わり無い。
どうすればいいんだ? と俺が悩んでる時だった。
「はあっ!」
突如別方向から声が上がり、直後に硬い物同士がぶつかり合う音が鳴った。
見ると、さっきダウンさせられたセッテが、ガルマの障壁に拳をぶつけていた。
「やあっ!」
続いて、ギンガも体を回転させ、魔力と勢いを乗せた回し蹴りを繰り出す。ガツンッと大きな音を響かせ、蹴りは障壁に当たった。
しかし、ガルマの障壁の硬度は高く、二人の攻撃を受けて傷どころかヒビ一つ出来てない。
「くっ! 厄介な障壁ね……!」
ガルマの障壁の硬さに、ギンガが顔を顰めた時だった。
急にガルマが振り返り、大きな口を開いた。何なのか一瞬解らなかったが、口の中で生成されていく光の塊を見て理解した。
「セッテ、離れて!」
危険を察知したギンガは、近くに居るセッテに訴え、自分も急いで横に跳んだ。
直後、閃光が走った。ガルマの口から放たれた紫色の光線が、二人の間を通過して壁に当たる。光線は軽々と鋼鉄の壁を突き抜け、大きな穴を作った。
「全く……! 一体幾つの能力を備えてるのよ!?」
ガルマの戦闘能力を目にして、ドゥーエは舌打ちした。
闘って、初めてガルマの強さを知る。
ヤベーな。このままじゃ、勝ち目ねーぞ。ガルマが弱ってても、こっちの攻撃が通らなきゃ意味が無い。
って言うか、俺さっきから観てばっかで何もしてねーじゃねーか。何か、凄く情けねぇな。でもなぁ、だからと言って俺に何が出来るの? って話だよ。仮に俺が闘いに参加しても、すぐに返り討ちに遭うのがオチだ。そりゃそうさ。だって人間だもの。弱っちい人間なんだから、確実にドゥーエ達の足引っ張るぜ。だったら、下手に闘いには参加しない方がいい。
でも、このまま何もしないってのは嫌だな。
何か、俺に出来る事は無いのかよ?
その時、ふと思った。
──つーか、俺が一也倒しちゃえばいいんじゃね?
そういやそうだ、と俺は頭を抱えた。
そうだよ! だって、あのガルマって化け物、一也の命令で動いてんだから! 命令送る奴が居なくなる……いや、止まるよう命令を送れば、機能停止みたいになるんじゃね? 待機モードみたいな。だって、半生物兵器って事は機械も含まれてるじゃん! 半分ロボットみたいなもんじゃん! ヤベッ! 何か勝機見えてきたら、テンション上がってきた!
よーし! そうと決まれば実行あるのみだ!
ガルマをドゥーエ達に任せて、俺は一也に向かって駆け出した。あの野郎をタコ殴りにして、意地でも停止命令を出させてやる。そう意気込んで、闘いの成り行きを見守ってる一也の顔目掛けて、拳を振り抜く。
「なっ……!? がぶっ!」
闘いに気を取られてた一也は、俺に気付くのが遅れて拳を左頬に受けた。
倒れる一也の体に跨り、マウントポジションを確保して再び殴る。
「藤堂っ! ガルマを止めろ! お前が停止の命令を出すまで、殴り続けるぞ!」
「ぐっ……!」
一也は、両腕を顔の前で交差させて、ガードしている。なかなか拳が一也の顔に届かない。
だぁ~、くっそ~! 喧嘩なんかほっとんどした事無いから、上手い攻め方がいまいち分からねぇ!
とにかく、無我夢中で拳を振るい続けた。
だが、俺の攻勢も長く続かなかった。
「調子に乗るな!」
単調な俺の殴りの隙を縫って、一也の拳が顔に飛んできた。
鼻にガツッと思いっ切り拳を受けて、俺はたまらず顔を手で覆って怯んだ。マジで殴られたのも、コレが初めてだった。ぐわァァァ! マジ痛ぇ! 潰れてね!?
その隙に一也は立ち上がって、痛みに悶える俺を蹴り倒した。完全に形勢が逆転しちまった。ヤバい。非常にヤバい。
「お前みたいなクソガキが、俺に勝てる訳ねーだろうが! ああ!?」
怒りの形相で、一也が倒れた俺を蹴ってくる。
頭、腹、腕、足、とにかくメチャクチャに蹴ってきやがる。俺は頭と下半身にある急所を守るので精一杯だった。甲羅に籠った亀の気分だ。ああ、ちくしょう! 一也の蹴りも容赦無いぜ! 体中が痛ぇよ!
「鬱陶しいんだよ、お前は……! さっさと消えろ! 死ねっ! カス! ゴミ! クズが!」
物凄く腹の立つ罵声を浴びせてくる一也。
ああ、そうさ。お前の言う通り、俺は自他共に認めるクズさ。努力なんてしないで、色んな事から逃げてきた駄目野郎さ。けどな、そんな俺だけど、コレだけは逃げる訳にはいかねーんだよ。柄じゃないけど、勝ちたいんだよ。勝って、皆ともっと一緒に居たいんだよ。
けど、手も足も出ない状況だから、悔しい事に反撃出来ない。
ああ、弱い自分が憎い。
そう思った時だった。
「そこまでよ……!」
「あ!?」
突然割り込んできた声が聞こえたと同時に、一也の蹴りが止まった。
ボロボロになった顔をゆっくり上げると、一也の足を止めてるサードが居た。壊れたハズのアームが伸びて、一也の足を掴んで動きを止めてる。
「サード!」
「き、貴様……!」
一也は、足を掴んでるアームを外そうと必死になるが、外れる気配は無い。ガッチリと掴まれていて、人間の腕力じゃビクともしない。
立場の悪さに動揺する一也に、サードは素晴らしく素敵な笑顔を向けて言った。
「アンタが死ねっ!」
固く握られたサードの拳が、一也の顔面にクリティカルヒットした。
「ぶべっ!」
下品な悲鳴を上げ、一也は吹っ飛んで壁に叩きつけられた。
一つ溜め息をついてから、サードが体を起こしてくれた。
「大丈夫、隼樹?」
「あ、ああ。ありがとう。って、サードの方こそ大丈夫なの?」
「ええ。壊れた脚は、他のガジェットの残骸を取り込んで、修復したから」
「スゲェ!」
そんな機能まで付いてるのかよ。サードも、他のガジェットと一線を画してるな。
「そうだ、藤堂は!?」
目的を思い出して、俺は慌てて吹っ飛んだ一也に顔を向けた。
さっき思いっ切りサードに殴り飛ばされたからな。死んでなきゃいいけど、大丈夫だよな?
「ぐっ……がはっ……!」
おっ、生きてる生きてる。
良かった~! マジホッとしたぜ。コレで死んでたら、色んな意味で洒落にならないからな。サードは人殺しになっちゃうし、最悪ガルマも止められないかもしれないからな。
俺はサードに肩を借りて、まだ意識がある一也に近付いた。
「藤堂……! ガルマを停止させる命令を出すんだ」
「くっ……誰が、出すか……!」
倒れてる一也は、傷と汚れのある顔を上げ、睨みと共に言った。
まあ、そう簡単に言わねーわな。コイツは俺が来るよりも前に、この世界に来て準備してきたみたいだし、自分の計画を簡単に諦める訳ねーか。
だけど、状況が状況だから、利口な判断をした方がいいぞ。
隣のサードが屈み、手を伸ばして一也の首を掴んだ。ギョッとする一也に、キレ気味にサードが言う。
「アンタ、状況解ってんの? ガルマに助けを求めても、来る前にアンタを殺す事だって出来るのよ? 死んだら計画も何も無いでしょう? つまり、完全に『詰み』って事よ」
「ぐっ……!」
一也の顔が歪む。
「ぐぐぐぅ……!」
その目には、涙が浮かんでいた。
自分が完全に追い詰められた事を悟り、悔し涙を流したんだ。自身の安全確保の為に、一也は闘いの場から離れた所に居た。ソレが仇になった。
「ほらほら、命が惜しかったらさっさとしなさいよ。こっちだって、ゆっくりしてる暇は無いんだから」
グイグイと一也の首を掴んでる手を動かして、サードが急かす。
おいおい、殺すなよ?
でも、早く停止命令を出してもらわないと困る。あまり時間をかけたくないし、ドゥーエ達もいつまでも持ちこたえられないだろうしな。
ややあって、一也は観念したように項垂れた。
そして、
「と……止まれ、ガルマ!」
遂に一也が停止命令を出した。
ソレを合図に、ガルマの動きはピタリと止まった。ゼンマイが止まった人形のように、ピクリとも動かない。
完全に停止したガルマを見て、俺は一安心して胸を撫で下ろした。ガルマが、命令にだけ動く奴で助かった。もしも、ある程度の自己判断能力があったら、ドゥーエ達との戦闘を中断して、すぐに一也護衛に動いてたらどうなってた事か。多分、俺等負けてたな。
一也の命令で動きが止まったガルマを、ドゥーエ、セッテ、ギンガの三人の一斉攻撃で倒した。一也の野望は、ガルマの肉体と共に粉々に砕け散った。
奥の手を潰され、一也は完全に覇気を失った。茫然自失になって、死人のように項垂れている。
一歩違えば、俺がああなってたんだな。
まあ、何はともあれ勝った。一也に勝った。
だけど、まだ終わりじゃない。
最後の仕事が残ってる。
さあ、この闘いの決着をつけよう。
ドゥーエとセッテに通路を任せて、俺はサードとギンガを連れて奥に進んだ。
*
「キモっ……!」
ソレが最初の言葉だった。
俺達がやってきたのは、今回の事件の黒幕である最高評議会が居る部屋だ。いや、部屋と言うより空間って表現の方がいいのか? 広くて薄暗くて、何か鉄板のような物が何枚も宙に浮いてる。
『き、貴様等、何者だ!? どうやってココまでやってきた!?』
空間に、動揺する老人の声が響いた。
声の主は、あまり直視したくねーんだけど、目の前にある三つの生体ポッドの中身だ。
聞いて驚け、中身は何と人間の脳髄だ。うぅ、マジで気持ち悪い。ギンガなんか、自分の組織のトップの予想外にショッキングな正体目の当たりにして、目を見開いてフリーズしちゃってるよ。傍に居るサードが、正気に戻すよう頑張って呼びかけてる。
俺も込み上げてくる吐き気を必死に抑えて、連中と向き合う。それにしても、もっとマシな延命の方法は無かったのか?
『ん? 待てよ……貴様、映像に出ていた若造か?』
『何と……!? では、この小僧はジェイルの使いか何かか? ジェイルの奴め、一体何を考えているのだ!?』
何かゴチャゴチャ言ってるな。このまま放っておくと、いつまでも喋ってそうだから、そろそろ切り出すか。
緊張を吐くように溜め息をついて、改めて連中に目を向ける。
「えっと……あの、アレです。俺は、ココに居る管理局の捜査官のギンガさんにアンタ等の逮捕、並びに今回の事件の黒幕がアンタ等である事を世間に公表しに来ました」
『な、何だと!?』
俺のちょいグダグダな台詞を聞いて、最高評議会の顔色……いや、声色が変わった。ポッド内も泡がブクブク立って、相当動揺してるな。やっぱ、連中のような隠れる黒幕程小心者なんだな。
『き、貴様……そんな事をすれば、どうなるか分かっているのか?』
「まあ、混乱するでしょうね。それに、管理局への信頼信用も落ちるでしょうし。でも、まあ、しょうがないでしょう? それだけの事したんですから」
『馬鹿な真似は止せ……!』
『そうだ。それに我等は決して、私利私欲で生命操作技術やゆりかごを使おうとしていた訳ではない……! 全ては、我等が管理している次元世界の平和の為なのだ……!』
ああ、駄目だ。
コイツ等の言い訳を聞いてると、物凄くイライラする。
世界の為だ何だ言ってるけど、結局はソレも全部自分の為なんだよね。突き詰めれば、『自分の望むモノを形にしたい』と言う私利私欲だ。まあ、んな事連中に言っても意味ないだろうし、口論してもしょうがない。
だって、絶対、平行線辿るのがオチだもん。
もう面倒だから、サクッと行きますか。一也との勝負だけで、もうヘトヘトだよ。正直、連中の相手をするのもダルい。
「サード。準備はいい?」
「いつでもいいわよ。ああ、それから、ギンガも復活したから」
「ど、どうもすみませんでした……」
冷静さを失った自分を恥じてるのか、ギンガは頭を下げてきた。
まあ、しょうがないよな。自分の上司が、実は脳味噌トリオでした、なんて明かされた日にゃあショック死しそうだもんな。
まっ、ギンガも正気に戻ったんだし、良しとしよう。
「んじゃサード、お願い」
「はいはい」
ナンバーズのように、モニターとコンソールを出したサードは、少し操作してから他に複数のモニターを展開させた。
映ってるのは、他の戦場や避難してるミッド住民等々である。何かって? 生中継ってヤツですよ。
「あーあー。本日は晴天なり、本日は晴天なり」
本番前のチェックは大切だからな。
しかし、何故だろう? 緊張のせいか、妙に恥ずかしい。
ええい、気にするな俺! これから、ナンバーズを助ける為の大事な生放送するんだぞ!
気を取り直して、俺は目の前にある複数のモニターに向かって喋り始めた。
「ええ、どうも。先ほど、ちょこっと出た塚本隼樹です。実は、皆さんに重大なお知らせがあり、えー、このように全国生放送をさせていただきました」
『止せっ! 止めろ!』
「ちょっ……うるさい! 脳味噌のクセに喋るな!」
余計な声を挟んできた脳髄を怒鳴って、俺はモニターに向き直る。
「えー失礼しました。えっと……そうそう、大事なお知らせがあるので、戦闘中の人達は一旦中断して耳を傾けて下さい。お願いします。
えーっとですね……まあ、小難しい説明とか苦手なので、簡単に、単刀直入に言います。今回の大規模な犯罪の黒幕は、変態ドクターことジェイル・スカリエッティ──ではなく、先ほど声を挟んできた、俺の後ろにおります時空管理局のトップ、最高評議会の皆さんです!」
言いながら俺は、後ろを示して最高評議会の正体を生中継で世間に晒した。
モニターに映ってるミッドの住民や局員は、衝撃の光景にざわついている。中には子供が泣いてる姿も、ちらほらと見える。もうちょいの辛抱だから、我慢してくれ。俺だって吐き気我慢してんだから。
「連中が黒幕だって事は、スカリエッティが洗いざらい喋ったり、調べれば分かる事です。
そういう事ですので、管理局の皆さん。ちゃんと最高評議会を逮捕してくださいね? 俺に言いましたよね? この事件の元凶を捕まえるって……まさか、全国ネットで公言した言葉を破棄するなんてしませんよね?」
管理局員──特に機動六課の面々は動揺の度合いが大きかった。
そう、コレさ。あの時のやり取りは、この為の布石。こうなれば、組織の威厳云々なんて言ってられない。最高評議会や事件の真相を、闇に葬られる事は無い。こうして、逮捕宣言をしたり、最高評議会の姿を晒しちまったんだから。連中の正体だけでも、ミッド住民にとっては信じ難いショッキングな事だ。それに、俺がこんな事を言えば、マスコミが黙って無い。嘘か本当かは置いといて、必ず興味を抱いて調べる。そうなりゃ、隠し事なんか出来なくなるし、色んな事が世間に晒される事になる。
計画通りだ……! 気分は某死神ノートを持った偽神のようだぜ。
さて、それじゃあ最後の仕上げといきますか。
……ホント、柄じゃないんだけどな。
「さっき言った通り、事件の黒幕は最高評議会です。連中は、私利私欲の為にスカリエッティを生み出し、違法研究をさせて、その技術を自分達のモノにしようと企んでました。
と言う事はですよ? スカリエッティやナンバーズは、最高評議会に利用されてきた、言わば被害者みたいなモノなんです。まあ、こんな事言っても皆さんすぐには理解出来ないと思います。でも、言わせて下さい。
ナンバーズは、皆悪い奴じゃないんです。優しい長女、かなり恐いけど綺麗な二女、デカくて厳しくて優しい三女、腹黒いけど……まあ、ソレも味な四女、小さいけど俺なんかより頼りになって、しっかり者で姉妹想いの五女、明るくて元気な六女、短い付き合いだけど俺を助けてくれた七女、無口だけど妹と仲が良い八女、ツンデレ疑惑のある九女、おとなしそうで力持ちの十女、いつも笑顔の十一女、こんな俺を兄と呼んで慕ってくれる十二女……皆、個性があって良い人達なんです。そりゃ、中には狂暴な奴が居ますけど、ソレは街中で見かける若い同年代の女の子のはしゃぎ様と同じですよ。
え? 戦闘機人だから人じゃない? いや、残念ですけど、戦闘機人って“人”って字がありますから人です。
とにかく、アイツ等は悪い奴じゃないんです。どうしても納得いかないんだったら、代わりに俺を逮捕してくれて結構です。喜んでアイツ等の罪を背負いますよ。ブタ箱にでも何処にでもブチ込んでみろってんですよ!」
一時のテンションに身を任せ、熱く語った後で俺は思った。
やっぱ柄じゃねぇ。
*
世間を揺るがした大事件『JS事件』が終結して、数日後。
──マ……マジでブタ箱ぶち込まれたァァァァァァァァ!
自分が置かれた現状に、俺は内心にシャウトした。
あの後、逮捕やら裁判やらゴタゴタと慌ただしく行われて、気が付いたら俺は牢獄の中に入れられてしまった。
しかも、
「アンタと一緒ですか……」
「フンッ」
一也と同室だった。
世の中、そう甘くは無かった。ナンバーズの罪は消えたが、その分の罪がマジで俺に圧し掛かってきやがったのだ。陰謀暴かれて同じくブタ箱行きの最高評議会の怨念か、残ってる根回しか、とにかく俺まで囚人になっちまった。スカリエッティも、多分牢獄行きだろう。だって、アイツの事は庇って無いもん。ソレがいけなかったのか?
何にしても、犯罪者は野郎ばかり捕まってめでたしめでたし。
「ってめでたくねェェェェェ! あの、すいませーん! ココから出してくださァァァァい! アレです! 違うんです! あの時はですね、一時のテンションに身を任せて、何か、どうかしてたんです! 僕、何にも悪い事してません! つーか、ホントにブチ込みます!? 普通、こう、なんやかんやで全員無罪でハッピーエンド、みたいなフワッとした感じで終わりません!? ねぇ? すいませーん! 誰かァァァァァァ! 出してくださァァァァァァい!」
他人の為に何かするなんて、やっぱり柄じゃない事するんじゃなかった。
次回、『魔法が使えない男リベンジ!』最終回!
拘置所に収容された隼樹の運命は?
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