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ウーノ「私達は、闘う為に生み出された戦闘機人。サードも、同じ目的で作られたガジェット。隼樹さんは、私達と違って普通の人間。出来る事なら、彼を巻き込みたくありませんでした。戦闘機人と普通の人間と違いはあれど、大切な家族ですから。『ナンバーズ〜魔法が使えない男リベンジ!〜』始まります」
No.16 逆転への一手
 最終決戦当日の早朝。
 俺──塚本隼樹は、とんでもない物を目撃してしまった。
 緊張のせいか、いつもよりも早い時間に目が覚めた俺は、サードを起こさないよう静かに部屋を出て、アジトの中を歩き回る事にした。一瞬、ロボットって寝るものなのか? と疑問が浮かんだが、朝っぱらから考えるのも面倒なので破棄した。プラプラと歩き回り、偶然足を踏み入れた場所に、ソイツ等は居た。
 一人は、前に出会ったルーテシアって紫髪の女の子だ。ソコはいい。その子は、全く問題ない。
 問題は、ルーテシアの背後に立ってる謎の物体だ。
 ソイツは、全身が真っ黒に近い状態で、何か鎧のような物を身に纏ってるようにも見えた。一応人型なんだが、よく見ると何となく昆虫を彷彿させる姿なのだ。虫のような顔で、目が四つもあって不気味だ。
 ──何コレ!? 怖っ!
 運が悪い事に、ソイツと目が合ってしまい、俺はビビって金縛りにあったように動けなくなった。
 いや、マジで怖いんだって。見た目を例えるなら、バイオハザードのクリーチャー。あの4に出てきた、サラザールの側近的な虫クリーチャーだよ。マジで、見た目あんな感じなんだって。もう見た目怖くて、全然動けねーよ。喰われる、殺される、って思ったもん。
 すると、ルーテシアが気付いて俺に振り向いた。俺を見たルーテシアは、何やら虫クリーチャーに話しかけてる。そしたら、虫クリーチャーは俺から視線を外してくれた。緊張の糸が切れて、俺は安堵の溜め息をついた。声が小さくて話の内容は、よく聞き取れなかったけど、俺が敵でない事を伝えてくれたようだ。
 虫クリーチャーの視線から解放された俺は、この後どうするか考えた。スカリエッティやナンバーズが実際に行動を起こすのは、まだだろうし、ぶっちゃけ暇だ。
 しばし考えた俺は、ある事に気付いた。
 ──待てよ……。よくよく考えたら俺、アソコ(・・・)に行く為の移動手段用意してねーじゃん。うわ〜、グタグダ。
 自身の作戦の穴を見つけた俺は、穴を埋める為にルーテシアと話をする事にした。確か、ルーテシアって集団転移が得意っつーか、とにかく出来るハズなんだ。交渉して、転移をしてくれるよう頼んでみる事にした。
 ただ、やっぱルーテシアの背後に控えてる虫クリーチャーが、おっかない。襲ってきたりしない、よな?
 不安を抱きながらも俺は、勇敢にルーテシアに接近した。最初から、もう足震えてるけどね。
 何とか接近する事が出来た。背後に居る虫クリーチャーは、反応を見せない。よし、これならイケそうだ。

「お、おはよう、ルーテシア」
「ごきげんよう」

 おおっ! 返事が来た!
 無表情で冷たそうな感じだけど、ちゃんと挨拶は返してくれた。
 さて、どうしようかな。いきなり本題に入るのもアレだし、まずはちょいと質問でもしてみるか。

「えっと……ルーテシア、だよね? こんな所で何してるの?」
「お母さん」
「は?」
「お母さん、見てるの」

 ルーテシアは顔を上げて、一つの生体カプセルを見つめてる。
 生体カプセルの中に入ってるのは、濃い紫色をした長髪の女性で、見た目はルーテシアを大人にした感じだ。うん、クリソツだから親子だな。つーか、やっぱり裸なんだな。
 俺は一瞬見ただけで、ルーテシアの母親から目を逸らした。だってさ、他人の母親の素っ裸見るなんて超気まずいじゃん。娘の前でよ? 超気まずいわぁ。
 軽く咳払いして、俺は気を取り直した。

「き、綺麗なお母さんだね」
「うん」
「いや〜羨ましいな。俺のお母さんは、美人じゃないから」
「そう」

 いや、会話続かねーよ!
 こっちが何か言っても、「うん」「そう」しか返してこないもん! 凄くやりづらいわ〜。

「えっと……何で、お母さんはこんな所に入ってるの?」
「解らない。でも、11番のレリックがあれば、目を覚ますってドクターが言ってた」

 なるほろ。
 今の話を聞いて、どうしてルーテシアが協力してるのか解った。要するに、目覚めない母親の為に頑張ってるんだ。まだ小さいのに、健気で良い娘じゃないか。ヴィヴィオといい、ルーテシアといい、この世界の女の子は良い娘ばかりなのか? ま、別にいいけどさ。
 まあ、ルーテシアの母親の件は置いといて、そろそろ本題に入りますか。

「ルーテシア。ちょ~っと頼みたい事があるんだけど、いいかな?」
「何?」

 俺は、転移魔法である場所に送って欲しい事をルーテシアに話した。
 するとルーテシアは、二つ返事でアッサリと承諾してくれた。いや、ホント助かったわ。ココで断られたら、破綻とまではいかないけど、計画成功が困難になるトコだった。だが、問題解決だ。
 後は、時間になるのを待つだけだ。


     *


 俺は今、朝飯を食べる為に食堂に来たのだが、ちょいと困った事になった。

「びえええええええええん!」
「……え~? 何コレ?」

 ヴィヴィオが、盛大に泣いてます。
 しかも、俺の足にしがみついてます。
 何かよく解らんが、俺を見た途端に泣き出して、走って足にしがみついてきた。正直、うるさくてウザい。いくら良い娘でも、五月蠅いものは五月蠅い。

「ちょ……何? 何なのコレ? 何で泣いてるの?」
「いや、実はさ……」

 俺が疑問を口にすると、セインが説明してくれた。
 スカリエッティの計画には、過去の聖王のクローンであるヴィヴィオが必要不可欠らしい。それで昨夜、ヴィヴィオの眠ってる(ちから)を引き出す為に、レリックの移植作業をしたそうだ。その時の事が、ヴィヴィオにとってトラウマ並の恐怖だったらしくて、移植作業をしたスカリエッティや立ち合ったウーノ、クアットロ、ディエチに対して恐怖心を抱いてしまったのだ。更に、クアットロ達と同じ格好をしてるナンバーズも怖がってて、ビクビクしてるところに俺がやってきて、泣き付いてきたんだと。
 他のナンバーズを見ると、皆お手上げの様子をしている。
 まあ、話は解ったけど、ソレって完璧にスカリエッティ達が悪いんじゃね? どんな手術か知らないけど、相手は子供なんだから手加減っつーか、お手柔らかにしてやれよ。

「ああ、そうかそうか。怖かったね。もう大丈夫だから」

 屈んで目線を合わせて、泣き喚くヴィヴィオの頭を撫でてやる。頼むから、コレで泣き止んでくれ。
 頭を撫でてやると、ヴィヴィオは少し落ち着いた。まだ涙は流れてるが、大声は止まった。うむ、どうやら俺には心許してくれてるみたいだな。まあ、そうじゃなきゃ俺にしがみついたりしないか。
 しかし、今にも決壊しそうな感じで、油断出来ない状態だ。ナンバーズには任せられないし……ああ、面倒くせー。

「ヴィヴィオ」

 まいってる俺の後ろから、女の声が上がった。
 振り返ると、起きてきたサードが立ってた。両手を広げて、ヴィヴィオに笑顔を向ける。

「ほらっ、高い高いしてあげるから、こっちに来なさい」
「うん……」

 小さく頷いて、ヴィヴィオはサードに駆け寄った。
 サードは、寄ってきたヴィヴィオを両手で抱え、高く持ち上げた。上げては下ろし、上げては下ろしを繰り返していると、ヴィヴィオの顔に笑顔が戻ってきた。怯えの様子は消え去り、楽しそうに声を出して笑ってる。
 そういや、真ん丸ボディの時にもヴィヴィオに高い高いしてたっけな。その頃から、結構この二人仲良いし。髪の色も似た感じだし、こうして見ると少し年の離れた姉妹みたいだな。サードはロボットだけど。

「なーんか、あの二人姉妹みたいだよな」

 お、セインも同じ意見っすか。見てて、何か微笑ましい光景だよね。
 さて、ヴィヴィオも機嫌を良くして泣き止んだところで、朝食にしますか。決戦前ってのもあるし、今の内に腹に入れとかねーとな。腹が減っては戦は出来ぬって言うじゃない。


     *


 朝食を終えた後、俺はナンバーズと一緒に研究室に居た。
 ココで、今日の作戦の最終確認をしてるのだ。まず、ナンバーズは管理局の質量兵器である『アインヘリアル』っつー兵器を潰しに行く。その後に『聖王のゆりかご』と言う古代の巨大戦艦を起動させ、本格的に地上制圧に動き出す。ナンバーズは別れて、それぞれの配置に着く。チンクの復帰は間に合わなかったが、計画に変更は無しのようだ。
 ちなみに、俺とサードはアジトで待機と言う事になってる。一部の者には俺の作戦は話してあるが、他の皆には秘密にしてる。余計な心配をさせて、迷惑をかける訳にはいかないからな。
 作戦内容を確認した後、スカリエッティが指示を出した。

「さて、それでは作戦を始めようか。まずはアインヘリアルの破壊だ」
「了解!」

 ナンバーズは、声を揃えて答えた。
 準備も整い、皆が動き出す。部屋を出て行こうとするナンバーズの背中に、俺は声をかけた。

「皆……!」
「ん?」

 出撃しようとしてた皆が、俺の声で足を止めて振り返った。
 ナンバーズの視線を受けて、俺は少し緊張する。正直なところ、気の利いた台詞なんか思い付かない。だから、シンプルに言おう。
 俺も俺なりに精一杯頑張るから、皆も──。

「頑張って」

 負けると決まってる歴史かもしれないけど、こんなもんしか俺には言えない。
 後は、皆の無事を祈るだけだ。

「フンッ。お前が我々の心配など百年早い」とクールにトーレ。
「速攻で制圧して、戻ってくるからな!」力強く答えてくれたノーヴェ。
「隼樹兄様、行ってきます」礼儀正しくお辞儀をしてくるディード。
「全部終わったら、また遊ぶっスよ!」いつも通り明るいウェンディ。

 挨拶を交わして、ナンバーズは出撃した。
 皆を見送った俺は、気合いを入れるように一つ息を吐いた。
 それじゃあ、俺も自分に出来る事をやるか。と言っても、俺が動くのはもうちょい後なんだけどね。
 う~ん、いまいち締まらねーな。
 まあ、いいや。それが俺だ。


     *


 アインヘリアルの襲撃は、護りの魔導師部隊も全滅させて全機破壊して成功した。
 ああ、一応言っとくと殺しはやってないからな。俺が言うまでもなく、元から出来る限りの殺生は控えるつもりだったらしい。俺の計画では、ナンバーズ側はそれなりに悪役を演じてもらわないといけないんだけど、殺しは流石にマズイから安心したよ。
 最初のミッションを終えたナンバーズは、予定通りの配置に着く為に動き出した。
 同時に、アジト付近の地中に埋まってた巨大戦艦が姿を表す。研究室で、スカリエッティやウーノと一緒に俺は大型モニターで浮上する戦艦を見る。究極のロストロギアと称されるだけあって、かなり巨大だ。その大きさだけで、他の存在を圧倒してる。でも、ぶっちゃけ動きが鈍い大きな戦艦って、恰好の的以外の何物でもないよね。まあ、ちっぽけな人間の蚊みたいな攻撃じゃ、アレを落とすのは無理かな。
 それよりも、アレはどうにかならないのかな? ゆりかごが浮上してから、ずーっと興奮しっぱなしの変態医者が笑ってんだよ。いや、普通に笑ってんなら俺も気にしないんだけど、アイツの笑顔ぶっちゃけ気持ち悪いんだよな。イケメンじゃない俺に思われる位だから、相当ヤバいぞ。テンション高くなる気持ちも解るけど、ちょっとは自覚自重してくれ。マジで引くわ。うん、アイツは捕まってもいいかもしれない。
 夢の始まりに興奮する狂気の変態医者を放置して、俺は傍に居るウーノに声をかけた。

「ウーノさん。モニター通信の準備いいですか?」
「ええ。いつでも大丈夫ですよ」

 よーし、やるか。ヤベ、ちょっと、いや、かなり緊張してきたな。深呼吸でもして、落ち着かないとな。
 ウーノに頼んだのは、全国ネットのモニター通信だ。コレで、機動六課や管理局は勿論、ミッドチルダ全域に映像を流す事が出来る。何か、選挙の演説するみたいで、緊張と恥ずかしさが混ざってきたな。演説なんてやった事ないけど。
 それじゃ、ボチボチ始めるか。

「じゃあ、繋げて下さい」
「はい」

 答えたウーノは、パネルを操作して作業を開始する。
 すると、沢山の大小のモニターが部屋に現れた。通信が繋がったんだ。

「ん、んんっ! あー。あー」

 俺は通信が繋がってから、発声確認をした。緊張してるせいで、行動が逆になっちまって恥ずかしい。

「えー、皆さんこんにちは。これより私達は、聖王のゆりかごを使って地上を制圧します」

 丁寧に、地上制圧を宣言しました。いや、だってスカリエッティみたいに馬鹿笑いしたり、漫画の悪役みたいに高圧的に宣言するなんて、俺の柄じゃないんだもん。コレが俺の限界です。
 俺の宣言に、機動六課の人間が反応した。大型のモニターに映ってるのは、なのはとフェイトだ。

『貴方達の行為は、大規模騒乱罪になります! 今すぐ騒乱の停止と武装を解除して、投降して下さい!』

 ──きたっ……!
 予定通り、機動六課が食いついてきた。

「悪いけど、ソレは出来ません」
『貴方は……!』

 モニター越しに声を荒げてきたのは、フェイトだ。

『貴方は、さっきの映像を観ていないんですか!? 何の罪も無い女の子を苦しめて、利用して……何とも思わないんですか!?』

 フェイトの言葉が、胸にチクチクと刺さる。
 何とも思わない訳ないだろう。俺だって一応人間だし、良心も少しはある。ヴィヴィオがどんな酷い目に遭ってるかも、知ってる。俺の中の僅かな良心が痛んだよ。
 けど、だからってココで止める訳にはいかない。ヴィヴィオには本当に悪いが、最後まで付き合ってもらう。

「別に、何とも思いません」

 胸がモヤモヤするのを感じながら、俺は冷たい言葉を放った。
 モニターに映るフェイトの表情が、更に険しくなった。

『……そうですか。取調室で、譲れないものがあると聞いた時、貴方なりに護りたいモノがあると思いました……。けど、貴方にはそんなモノ無い! スカリエッティと同じで、人の命を弄ぶ事を何とも思わない犯罪者です!』

 言いたい放題言ってくれるな、フェイトさん。まあ、そう言われても仕方ない返答をしたから、当然か。
 しかし、フェイトってクールそうに見えて結構熱くなるタイプだな。まあ、その方が俺には好都合だけどな。

『貴方は、必ず捕まえます!』

 射抜くような鋭い目で、フェイトが言い放った。
 ──待ってたぜ、その言葉!
 そう、俺はその言葉を待ってたんだ。

「捕まえる? 俺達をですか?」
『そうです!』
「この事件の元凶を?」
『そうです!』

 フェイトの言葉を聞いた俺は、内心ほくそ笑んだ。
 ──おっしゃあ! 言わせたぞ、その言葉……! 俺が欲しかった言質を、皆の前で……!
 俺は横目でウーノを見て、視線で合図を送る。ウーノは頷き、パネルを操作して通信を切った。
 ──決まったぞ、最初の一手……! 勝利への一歩を……!
 振り返り、研究室の出口に向かって力強く一歩踏み出す。
 後は、突っ走るだけだ。ここからが、本当の闘いだ。

「隼樹さん」
「ん?」

 声をかけられたから、俺は足を止めて振り向いた。
 何故か、ウーノが妙に暗い顔と言うか、悲しそうな顔をしてる。

「どうしたんですか?」
「隼樹さん。アレで良かったのですか?」
「え?」
「何も、貴方まで悪役を演じる必要は無いと思うのですが……。それでしたら、私やドクターが代わりにやっても構いませんのに……いえ、寧ろその方が自然です」

 ああ、なるほろ。
 さっきフェイトにキツい言葉を浴びせられた俺を見て、気を遣ってくれてるのか。ホント、ウーノは俺の事心配してくれるよな。その気持ちは、マジで嬉しいよ。

「いいんですよ、アレで」
「ですが……」
「そうよ! あの女、隼樹の気持ちも知らないで好き勝手言って、ムカつくしさ!」

 ウーノに続いて、サードまで俺の為に怒ってくれてる。
 やっぱ、皆良い奴等だよ。けど、スカリエッティは除外な。ウーノとサードの優しさに、ちょっと照れてる俺を見て笑ってるから。後で殺す。

「サードもありがとう。まあ、多少堪えたけど、大丈夫だから。寧ろ、悪人上等! 正義の為と言いながら、やってる事は犯罪の偽善者なんかより、いっそスカリエッティのような悪人の方がよっぽどマシ! なりたいもんだ、悪人に!」
──あのクソ餓鬼! 別発想、別視点……機動六課に勝つ事を早々に諦めて、別狙いにきやがった……!

──さあ、始めよう! アンタと俺の最初で最後の勝負を……!


次回『勝負の幕開け』


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